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Policy(提言・報告書)  経済連携、貿易投資 新たな時代の通商政策の実現を求める ―世界貿易機関(WTO)の改革を中心に―

2019年1月22日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1. 現行のWTOのもとで顕在化する通商摩擦
―各国の課題に応える国際機関として求心力回復に向けたWTO改革が必要

WTOの多角的自由貿易体制は、世界の通商秩序の基盤として、保護主義の抑制、グローバルな経済発展と貧困削減に貢献してきた。他方、米中間で激化する通商摩擦等により、世界経済へのマイナスの影響が懸念されている。

米中摩擦の背景には、国有企業・補助金などによる市場歪曲的措置、データローカライゼーション・強制的技術移転などの貿易制限的措置の増大がある#1

現行のWTOの多角的自由貿易体制は、こうした課題の解決に有効に機能しているとは言いがたい。また、技術革新・デジタル取引の拡大等、大きく変化する経済実態の現状と、WTO設立当初のままのルールとの乖離が著しい。

WTO協定のもとでの紛争解決制度(準司法手続き)については、米国が「上級委員会(二審制の上訴審)がWTO協定で加盟国が合意した権限・手続を逸脱している」として、上級委員の任命を拒否している結果、上級委員会の委員は審理に必要な最低限の3名となり、その機能不全が顕在化している。

米国は、WTO協定では不十分であるとして、米国の国内法に基づく関税賦課等により、二国間のディールを通じ、不公正と考える貿易措置の是正を求めるという手法をとっている#2。その結果、相手国からの対抗措置によって貿易摩擦が激化し、結果的に双方の利益が損なわれる状況が生じている。

こうした中、WTOが加盟各国の課題に応える機関として今後とも有益な存在であり続けるためには、米国を含む様々な加盟国・地域から提起されている課題を解決し、公正で有効な規律を司る国際機関としての求心力を取り戻すことが必要である。とりわけ、市場歪曲的・貿易制限的措置の規律に有効なルールを形成するとともに、デジタル貿易のルール形成の実現や上級委員会の機能の回復を図ることが重要である。

G20ブエノスアイレス・サミットの首脳宣言においても、WTOの機能改善のために必要な改革を支持するとの合意がなされており、改革の機運は高まっている。WTO加盟各国は、ルールに基づく国際経済秩序の基盤としての機能が効果的に発揮されるよう、WTOの改革に向けて、以下に記載する点を含め、誠実かつ建設的に議論に参画すべきである。

同時に、わが国が実現したCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定:TPP11協定)、日EU EPAをはじめ、高いレベルの各種通商協定等を通じ、将来のWTOのもとでの規律につなげることも視野に、望ましいルールを世界に広く展開していくことが重要である。

2. WTOの機能回復に向けた制度改革
―世界を包摂する経済成長に向けて

1995年に発足したWTOの多角的自由貿易体制は、貿易円滑化協定や情報技術協定(ITA)等の自由化・ルール形成の推進、政治問題化を回避した紛争解決と履行、加盟各国の貿易政策の定期的審査等を通じ、保護主義を抑制するとともに、わが国を含む世界の経済発展と、それを通じた持続可能な開発目標(SDGs)の第一の目標である貧困削減などに一定の役割を果たしてきた。

こうした認識のもと、経団連はかねてより一貫して、わが国通商戦略の基軸はWTOであるべきと主張してきたところであり、世界を包摂する経済成長を実現するためには、164の加盟国を擁するWTOのもとでの多角的自由貿易体制が将来にわたり有効に機能することが不可欠である。

経済実態と現行のルールの乖離の拡大に加え、保護主義的措置、一方的措置が拡大し、WTOの紛争解決手続の機能不全が顕在化するなか、WTOが今日の課題と加盟国のニーズに応え、有効に機能しうる機関であり続けるためには、以下の点を含めた改革を進めることが必要である。

(1) 自由化・ルール策定機能の再活性化

  1. 新たな形での自由化・ルール形成の促進

    ⅰ)電子商取引
    WTOドーハ・ラウンドが膠着状態となった現在、新たな形で自由化・ルール形成を進めることは、技術革新・デジタル取引の拡大をはじめ、ビジネスの実態と協定の乖離が拡大する現状に鑑みて喫緊の課題である。
    具体的な取り組みとしては、電子商取引の分野で、2017年12月の第11回WTO閣僚会議(MC11)に際し発出された共同声明に基づき、将来の交渉に向けた探求的作業として、有志国の間で議論が開始されている#3。わが国と豪州、シンガポールを共同調整役として推進されている有志国のこれまでの作業を評価するとともに、これを速やかに実際の交渉開始へとつなげることを求める。
    電子商取引に関し実現すべき内容については、既存のEPA等の規律#4(越境データフローの自由、コンピュータ関連設備の自国内設置要求の禁止、ソース・コード等の開示要求禁止、電子的送信への関税不賦課の恒久化、デジタル・プロダクトの無差別待遇 等)を参考に、可能な限り多くの国・地域の参画による議論を行いつつ、高いレベルの規律を目指すべきである。

    ⅱ)その他の自由化・ルール形成

    サービスの国内規制
    経済におけるサービスの比重の拡大に伴い、サービスの国内規制#5が国境を越えたビジネスの不必要な障壁とならないようにすることの重要性はますます高まっている。MC11に際する複数国による共同声明において、サービスの国内規制に関する交渉の妥結に向け、次回閣僚会議に先立ち、作業を加速するよう全加盟国に対して要請がなされた#6
    サービスの国内規制(資格要件、資格審査手続、技術上の基準・免許要件等)については、客観性・透明性、公平性の向上、規制の実施に伴う負担軽減等を実現することで、サービス貿易・投資の拡大と行政手続の効率化が期待できることから、あらゆる国・主体が恩恵を受けることが可能となる。具体的規律としては、ウェブサイトへの関係法令等の公表や事前教示、異議申立手続、法令実施前の意見提出機会の付与、審査/処理期限の設定、電子化・ワンストップサービス等が含まれることが重要である。交渉方法については、全加盟国での成果が望ましいが、全加盟国による交渉が難しい場合には複数国で交渉を開始し、速やかに成果を実現すべきである。

    ITA、政府調達協定、EGA、貿易救済措置の交渉継続
    その他、ドーハ・ラウンドの交渉内容を含め、各種の自由化・ルール交渉を引き続き追求すべきである。ITAの物品リストの更新・加盟国の拡大、政府調達協定(GPA)の加盟国の拡大、環境物品協定(EGA)交渉の再開を追求すべきである。貿易救済措置に関する規律強化も依然として重要であり、交渉の推進に向けた努力を求める。

    TiSAの交渉再開
    多角的なサービス貿易の自由化の促進に引き続き取り組むべきである。複数国で行われていた新たなサービス貿易に関する協定(TiSA)交渉は、WTO協定の追加・改定を行うものではないが、将来的にWTOの規律の改定へとつながることが目指されており、2016年には妥結への期待も高まっていた。各国との間でのサービス貿易の高いレベルの自由化・ルール形成の拡大に向けて、TiSAの交渉再開の可能性を探るべきである。

  2. 公平な競争の促進に向けた規律強化
    公平な競争条件の確保に向けては、市場歪曲的な産業補助金や国有企業の規律を強化することが不可欠である。
    現在の日米EUの三極における議論#7や鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム#8などを引き続き活用するとともに、バイでの議論などを積極的に進め、補助金ならびに国有企業に関する規律につき、交渉の速やかな開始に向けて道筋をつけるべきである。
    強制的な技術移転等、貿易制限的措置の是正に関しては、現行のWTOルールでは不十分#9であり、先進的な規律(TPP協定や既存の投資協定等)を参考に、WTOのもとでのルール化に向けた議論に取り組むべきである。その際、次の 3. のような手法も検討に値する。

  3. EPA/FTAの規律のWTOへの昇華
    交渉機能を回復する方策のひとつとして、各国が類似の義務を引き受けるEPA/FTA等の各種協定を統合し、WTO協定のもとでの規律とする方法を真剣に検討すべきである。
    具体的には、WTO協定として、当該国間で義務を負うことを約束するとともに、WTO加盟国が将来参加することに開かれたものとすることが考えられる。その端緒として、WTO事務局において各種EPA/FTA等の規律の比較・分析を進めるとともに、関係の委員会において、可能な条文案の研究等が行われることを期待する。

  4. プルリ交渉(複数国間・分野別の交渉手法)の積極的推進
    経団連がこれまでも提言してきた通り#10、志を同じくする複数国間で、分野を限定した交渉を推進することは、ビジネスのニーズに即した高いレベルの協定を速やかに実現するうえで有効な手法であり、WTOのもとでも積極的に推進すべきである。
    WTOにおいて、他の加盟国も後の段階で参加できることを前提に、複数国間で新たな交渉を開始できるようにすべきである。現状では、新たなルール形成に参加する意思のない国が他の加盟国の取り組みをブロックする傾向があることが指摘されている。交渉の推進にあたっては、このような現行のコンセンサス原則に基づく課題を克服しなければならない。電子商取引、サービスの国内規制をはじめ、各分野の交渉開始にあたり、賛同しない他の加盟国が交渉開始を妨げることを許容すべきでない。

  5. 途上国の定義、S&D(特別かつ異なる待遇)の明確化
    各国のWTOに対する不公平感の拡大にもつながる問題として、途上国の特別かつ異なる待遇が挙げられる。
    現状では、新興国を含め途上国であるか否かは「自己宣言」であり、明確な基準が設けられていない。各国ごとに引き受ける義務の内容・範囲が異なることが容認されることが、交渉の遅延や困難化の一因となっており、実現した合意の効果も薄れる結果となる。
    これを是正すべく、途上国の定義として経済的に明確な基準#11を採用することを検討すべきである。特別かつ異なる待遇は、例外的な措置と位置づけ、原則として将来的に完全な義務を引き受けることを前提とした期間限定的な措置とすべきである。
    とりわけ経済規模の大きい新興国は、各種協定において、ただちに完全な義務を引き受けるべきである。

  6. 事務局による交渉の促進のための支援の拡大
    議論・交渉を促進する観点から、事務局が、解決案の作成・提案、客観的データの収集・分析等の提供を積極的にできるようにすべきである。その際には、OECDはじめ、他の国際機関との連携も有益と考える。

(2) 履行監視機能の強化

  1. 通報に関する規律の強化(補助金、貿易救済措置)
    日米EUの三極は、補助金等の通報義務を強化し、通報の遅滞の場合にはその理由の説明と提出予定時期の提示等を要求するとともに、一定期間以上の遅滞にはペナルティを賦課することを内容とする提案#12を物品貿易理事会に提出した。
    上記提案を含め、三極の取り組みを評価するとともに、補助金等の各種通報義務の強化が速やかに実現することを期待する。
    併せて、協定の履行監視機能強化の観点から、貿易救済措置の発動に関する各国の情報開示など、通報義務の強化と徹底を図るためのペナルティ導入を含む規律強化の議論を求めたい。

  2. 通常委員会等の積極的活用、活動強化の促進
    WTOにおける各種の機関・会議体は、協定の着実な執行を確認する機能を果たしている。一般理事会のもとに物品貿易理事会、サービス貿易理事会等が設置され、それらの下部に各種分野別の委員会が存在する。
    これらの各種委員会等の活性化も重要な観点である。各加盟国は、それぞれの理事会、委員会において、関連する協定の履行にあたり、関連する課題を積極的に取り上げ、建設的に議論に参画すべきである。
    また日米EU三極においては、通常委員会の活動強化の促進の観点からの共同提案を視野に、委員会間におけるベスト・プラクティスの共有の促進と効率性の向上が議論されている。その早期の具体化を期待する。
    例えば、貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)に関しては、TBT委員会において、個別の議案について議論するセッションが設けられるとともに、協定の実施・運用に関する見直しや物品貿易理事会への協定改正の勧告が可能とされる。
    実効が上がっている他の委員会等の活動を参考に、それぞれの理事会、委員会がその所掌する活動に照らし、履行監視のための活動を見直すことを検討すべきである。

(3) 紛争解決手続の改革
―上級委員会の一刻も早い機能回復に向けて具体的な議論を期待

WTOの紛争解決手続については、パネル・上級委員会の報告書を紛争解決機関が採択しないというコンセンサスが形成されない限り採択されるネガティブコンセンサス方式を採用し、WTOがそのルールの履行を確保する上で有効に機能してきた。

しかしながら、米国は、WTO上級委員会(紛争解決手続の上級審)の現在のあり方について「WTOの紛争解決了解において加盟国により合意された権限・手続を逸脱している」として、任期切れ上級委員の継続関与、90日以内の報告書作成ルールが遵守されていない、紛争解決に必ずしもつながらない点に関する勧告的意見の発出、事実の審理・国内法解釈の実施、上級委員会の判断の先例化等を問題視し#13、上級委員の任命を拒否している状況にある。こうした状況を一刻も早く解消し、WTO上級委員会の機能を回復する必要がある。

WTO上級委員会の欠員状態が長引くほど、継続中の審理の長期化・遅れにつながり、米国の提起する点のひとつである90日以内の報告書作成義務を含め、協定に規律された本来の機能を遂行できない状況が拡大する。委員の欠員を早急に解消するため、米国を含む関係国の真摯な取り組みを期待する。

現在、米国の問題提起を念頭に、EU、インド、中国を含め、各国から改革の提案が出されている#14。しかし、必ずしも米国の問題提起に含まれる上級委員会の権限の範囲のあり方が含まれていない。その点も含め、実質的なルールや制度改革に向けて、具体的な議論を進めるべきである。

改革にあたって、ビジネスの観点から、WTOの協定の確実な履行を担保するうえで必要な機能を損なうべきではなく、ビジネスのスピードを踏まえた早期の解決に資する改善を求めたい。

3. WTOを補完する経済連携等の推進
―経済連携協定(EPA)等を通じた自由化・先進的ルール拡大の継続

WTOのもとでの自由化・ルール形成がビジネスの期待する内容・速度では実現できない中、上記2に記載したWTOの改革を推進するとともに、WTOにおける所掌内容と取組みを超える部分を補完することが不可欠である。そのような観点から、以下の通り、各種の経済連携協定(EPA)等を進めることにより、各国・地域との間で、自由化・先進的ルールの拡大を継続する必要がある。

わが国は通商戦略の柱として、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)#15、日EU EPAといったいわゆるメガFTA(巨大経済連携協定)交渉を推進してきた。わが国はその努力をCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定、いわゆるTPP11)、日EU EPAに結実させ、高いレベルの自由化と先進的なルールを実現している。保護主義的・貿易制限的措置や市場歪曲的措置、一方的措置の拡大が懸念される中にあって、2019年のG20の議長国たるわが国は、これらの成果を梃子に、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の重要性を訴えていく必要がある。

同時に、RCEP及びトルコとのEPAを包括的で質の高い内容で2019年に妥結することや日中韓FTAの早期かつ高いレベルでの実現を目指すとともに、メルコスール(南米南部共同市場)とのEPA#16交渉を早期に開始すべきである。

TPP11については、価値観を共有し、関心を示す国々の参加を促すことにより、参加国拡大を積極的に推進すべきである。近い将来での実現は困難であるかもしれないが、米国がその戦略的・経済的意義に鑑み、この枠組みに復帰することを期待する。

2018年9月の日米首脳会談において交渉開始に合意した通商協議については、日米間の貿易の更なる拡大を実現し、ひいては公正なルールに基づく自由で開かれたインド太平洋地域における経済発展に資するものとなることを期待する。

以上の協定を補完するものとして、グローバルなビジネス環境を整備する観点から、二国間・地域間のEPA、投資協定の締結などにより、対外投資の保護・自由化・円滑化を推進する必要がある#17。とりわけ、投資家対国家の仲裁(ISDS:Investor-State Dispute Settlement)は、投資協定等に基づいて外国投資に対する無差別かつ恣意的でない保護を担保することにより、外国投資受け入れの円滑化、投資ビジネスの予見可能性の向上に資する仕組みである。

このような観点から、ISDSは投資受入国の経済成長と雇用促進にも重要な役割を果たしており、投資協定等に含まれるべき重要な制度である#18。もとより、こうした制度の整備を通じて外国投資に対する保護を提供する前提として、いかなる外国投資を受け入れるかに関しては、国際ルールに基づいて各国において判断すべきものである。

その他、上記に含まれないグローバルビジネスの課題に対処するため、租税条約#19、社会保障協定#20等、これらの協定を補完する取組みを推進することが不可欠である。

4. 日本の役割・経済界の役割
―G20議長国としてわが国の主導力発揮を期待

貿易・投資は経済成長の源泉であり、途上国を含む各国において国民が広くその恩恵を享受する環境を整備しなければならない。そのためには、各国がWTOの多角的貿易体制のもと、ルールに基づく自由で開かれたビジネス環境を維持・強化するとともに、保護主義的・貿易制限的な措置、ルールに基づかない一方的措置を抑止していくことが不可欠である。

2019年のG20議長国である日本として、上述の点を含むWTO改革を推進し、日米EU三極での対話を含め、様々なフォーラムを通じ、リーダーシップを発揮することが重要である。

わが国経済界は、こうした取り組みを積極的に推進すべく、SDGsへの貢献をはじめ、ルールに基づく自由で開かれた多角的国際経済秩序の意義についての発信に努めるべきである。

経団連は、他国の経済界とも協力し、上記の実現を働きかけていく所存である。

以上

  1. 米国は、自国の通商法301条(外国政府によるWTO等の通商協定違反、不当・不合理・差別的な措置等に対する制裁措置の発動手続等を規定)に基づき、中国の知的財産権侵害、強制的な技術移転を不公正貿易慣行として認定し、2018年7月から追加関税を賦課。中国もこれと同時に対抗措置として関税賦課を実施。
  2. 上記通商法301条に基づく措置に加え、米国は、自国の通商拡大法232条(「国防条項」:「国家安全保障を阻害するおそれ」のある輸入品に対し、輸入制限措置の発動手続を規定)に基づき、2018年3月より、鉄鋼(25%)、アルミ(10%)に対する追加関税賦課を開始(国別・製品別に適用除外を実施)。中国はこれに対し、2018年4月より、米国原産の輸入品目に関税を賦課(果物等120品目に15%、豚肉等8品目に25%)。
  3. 電子商取引に関する探求的作業で扱われている要素
    1. 電子商取引の円滑化
      電子署名・認証、貿易に係る文書の電子化、電子決済、電子的送信への関税不賦課 等
    2. 電子商取引の自由化
      デジタル・プロダクトの無差別待遇、データフローの自由化等(データローカライゼーション要求の禁止を含む)、物品及びサービスの市場アクセスに係る約束の改善 等
    3. 電子商取引の信頼性
      オンライン消費者の保護、要求されていない商業上の電子メッセージ、営業上の秘密や個人情報等の重要な情報の保護、知的財産に関する側面 等
    4. 分野横断的な事項
      規制に係る規則及び手続に関する情報の公表・交換、加盟国及び規制当局間での規制の調和及び協力、キャパシティ・ビルディング 等
  4. TPP協定及び日EU EPAにおいては、電子的な送信に対する関税賦課の禁止、ソース・コード開示要求禁止、迷惑メッセージ等について規定。一方、デジタル・プロダクトの無差別待遇、電子的手段による国境を越える情報(個人情報を含む)の移転の自由及びコンピュータ関連設備の設置要求の禁止については、TPP協定内では規定されたものの、日EU EPAには含まれず、データの自由な流通に関する規定の必要性について発効後3年以内に再評価を行うこととされた(日EU EPA 8.81条)。
  5. サービスの国内規制に関しては、WTOのサービス貿易理事会のもとに設置される国内規制に関する作業部会において議論が進展していたが、2017年の第11回閣僚会議(MC11)における成果の実現には至らなかった。
  6. サービスの国内規制に関する共同声明への賛同は32の国・地域(アルバニア、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、中国、コロンビア、コスタリカ、EU、香港、アイスランド、インドネシア、イスラエル、日本、カザフスタン、韓国、リヒテンシュタイン、メキシコ、マケドニア、モルドバ、モンテネグロ、ニュージーランド、ノルウェー、ペルー、ロシア、シンガポール、スイス、台湾、トルコ、ウクライナ、ウルグアイ)
  7. 日米EU三極では、WTO補助金協定に定める救済措置を要請し得る補助金か否かについての挙証責任を転換し一定の外形的基準にあてはまれば禁止補助金であると推定できる規定の作成等を議論。日米EU三極の共同声明(2018年9月25日)においては、より効果的な補助金規律にかかる交渉をその後速やかに開始することに向けた各々の国内の必要な諸手続きを2018年末までに前進させる意思を表明するとともに、有害な強制技術移転政策及び措置を阻止するための効果的手法とルール作りについて議論を深めることのコミットメントを確認。
    WTOの補助金及び相殺措置に関する協定(補助金協定)第6条1項に該当する補助金は、「著しい害」がある補助金(ダークアンバー補助金:①補助金の総額が産品の総額の5%を超える場合、②産業あるいは企業の営業上の損失を補てんする補助金、③債務の直接的な免除)とされている。しかしながら、補助金協定上、救済措置の要請にあたっては、①補助金の存在及び性格についての入手可能な証拠、並びに②国内産業に対する損害、無効化若しくは侵害又は協議を要請する加盟国の利益に対する著しい害について、申立国に証明責任がある(補助金協定第7条)。
  8. 鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラムは、2016年のG7伊勢志摩サミットにおいて首脳レベルで鉄鋼の過剰生産能力が取り上げられたことなどを受けて、G20杭州サミットにおいて設立が決定。同年12月にG20及びOECD加盟国のうち鉄鋼の過剰生産能力問題に関心を有する国からなる33か国・地域により設立。2017年11月に第1回閣僚会合(ベルリン)、2018年9月に第2回閣僚会合(パリ)が開催され、過剰生産能力問題解決に向けた進捗状況が報告された。日本のG20議長就任後、2018年12月に事務レベル会合(東京)を開催し、取組状況のレビューを実施。
  9. 中国サイバーセキュリティ法及び関連法令では、個人情報及び重要データの国内保存義務や、越境移転する際の安全評価義務を課す。内国民待遇(GATS第17条)や国内規制(GATS第6.5条)、強制規格の制定及び適用(TBT協定2.2条、5.1.2条)等に抵触する可能性があり、日米EU等各国から、サービス貿易理事会及びTBT委員会において懸念を表明しているところ。他方、現行のWTO協定は、データローカライゼーションや強制的な技術移転そのものを禁止していない。
  10. 「通商戦略の再構築に関する提言」(2013年4月16日)、「多角的自由貿易体制の再構築を求める」(2015年5月19日)をはじめ、有志国・分野別の交渉推進を提言。後者においては、プルリはシングル・アンダーテイキングの制約を受けず、WTO全加盟国の合意が不要であることから、意思決定の困難さを回避すると指摘し、クリティカル・マス方式:交渉参加国の対象とするモノ・サービス量の世界貿易に占める割合が一定以上(関税の場合は90%が目安)に到達する場合、当該分野の関税・ルールを撤廃・調和し、かつその合意結果を、交渉不参加国を含めWTO加盟国全体に均霑する方式(例:情報技術協定)の採用を提言。
  11. 後発開発途上国(LDCs)については、WTOにおいて、国連の後発開発途上国リストにしたがって区別されており、以下3つの基準を満たした国を認定(当該国の同意が前提)。3年に一度同LDCリストの見直しが行われる。
    1. (1) 一人あたりGNI(直近3年の平均)が基準以下(例:2011年~2013年1,035米ドル以下
    2. (2) HAI(Human Assets Index):人的資源開発の程度を表すために国連開発計画委員会(CDP)が設定した指標。栄養不足人口の割合、5歳以下乳幼児死亡率、中等教育就学率、成人識字率の指標
    3. (3) EVI(Economic Vulnerability Index):外的ショックからの経済的脆弱性の指標
  12. 日米EU三極およびアルゼンチン、コスタリカ、台湾、豪州が提案に賛同。他の加盟国からの遅滞義務違反に関する通報も奨励。行政組織上、通報が制度的に難しい発展途上国は、WTO事務局に支援要請が可能。その場合ペナルティは賦課しない。提案されているペナルティの内容は以下の通り。
    (1) 通報遅滞が1年以上2年未満の場合
    1. WTOの各種機関等の議長へのノミネートの禁止
    2. 貿易政策検討機関において通報遅滞国からの質問への回答必要なし
    3. WTO予算負担の増額
    4. 事務局が当該国の通報状況を物品貿易理事会へ報告
    5. 一般理事会に通報状況に関する報告を義務付け
    (2) 通報遅滞が2年以上3年未満の場合
    1. 当該国をInactive Memberと認定
    2. WTOの各種正式会合における発言は、他の全加盟国の後、オブザーバーの前とする
    3. 上記発言の際は、Inactive Memberである旨を明示される
  13. 米国USTR "2018 Trade Policy Agenda" (2018年2月28日)
  14. WTO一般理事会にて、11月26日付けでEU、中国、インド等がWTO協定の紛争解決手続了解(DSU)を改正する提案を提出。提案国、提案内容は以下の通り。

    WT/GC/W/752:EU、中国、インド、カナダ、ノルウェー、ニュージーランド、スイス、オーストラリア、韓国、アイスランド、シンガポール、メキシコ
    1. 任期切れ委員の継続関与について、委員の任期終了時に口頭審理まで終了している案件に限って継続可能とする
    2. 90日以内に報告書が作成できない場合には、上級委員会は当事国の了解を得る
    3. 上級委員会は、加盟国の国内法がWTO協定の下で有する法的性質についてのみ解釈可能であり、国内法の意味そのものは解釈できない旨を、DSUの注釈に明記
    4. 「上級委は問題の解決に必要な範囲で検討する」と限定する文言を追加
    5. 加盟国と上級委員との定期的会合の設定(加盟国が意見を述べる機会の創設)
    WT/GC/W/753(追加の提案):EU、中国、インド
    1. 上級委員の任期(現行1期4年×最大2期)を、1期6~8年(1期のみ、欠員の場合2年延長可)に変更
    2. 上級委員の定員を現行の7名から9名に増員
    3. 上級委員の雇用条件をパートタイムからフルタイムに変更、兼業を禁止
    4. 事務局の行政・法的機能の拡充(DSU改正不要)
    5. 上級委選定プロセスを欠員が発生次第、自動的に開始
  15. 提言「日中韓FTAならびに東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉に関する要望」(2016年5月17日)を参照
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/036.html
  16. 提言「日本メルコスール経済連携協定へ向けたロードマップ」(2018年7月23日)を参照
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/062.html
  17. 提言「投資協定等の締結加速を求める―21世紀型の国際投資ルールの構築に向けて―」(2015年12月15日)を参照
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/119.html
  18. 同上
  19. 提言「平成31年度税制改正に関する提言」(2018年9月18日)(3.国際課税の諸課題 (3) 租税条約ネットワークの充実)を参照
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/073.html
  20. 提言「ベトナムとの社会保障協定の早期締結を求める」(2018年6月19日)等を参照
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/050.html

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