一般社団法人 日本経済団体連合会
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日本企業のベトナム進出の拡大に伴い、現地に長期滞在する民間企業関係者の数も年々増加し、2016年には約9,400人#1に達している。
このような中、ベトナムの改正社会保険法#2において、外国人労働者も加入対象とされ、2018年1月1日より社会保険料の納付が義務化されることになった。他方、我が国からベトナムに派遣される駐在員に関しては、本邦の厚生年金保険法上の適用事業所との使用関係が続く場合、厚生年金保険料の支払いを継続することが義務となっていることから、両国間で社会保障協定が締結されていない現状においては、日本企業は保険料の二重払いを余儀なくされる#3。保険料の二重払いは我が国企業に大きな負担となるばかりでなく、激化するグローバル・コンペティションの時代にあって国際競争力を減退させる要因の一つとなる。
このため、昨年来、ベトナムの日本商工会、在ベトナム日本国大使館から文書にてベトナム政府に対して二重払いを回避するよう要望してきた。
また、ベトナム側からも、昨年12月13日、ベトナム首相府幹部と外国大使・各国商工会議所等との対話「行政改革評議会との対話会合」にて、ズン官房長官より、日本との社会保障協定締結を要望する旨の発言があった。
そこで、本年2月6日付けにて、在ベトナムの各日本商工会より、ベトナム政府及び在ベトナム日本国大使館宛に別添の二国間社会保障協定締結を求める要望書が提出された。
上記のような背景・状況に鑑み、今後ベトナムに進出する日本企業を含む我が国企業全体にとり、ベトナムとの社会保障協定の締結は重要な課題である。ベトナムにおける社会保険料の二重払いの回避とともに、現地法人に採用されて働く日本人等の年金受給資格上の期間通算を可能とするためにも、早期の二国間社会保障協定の締結が必要である。
なお、ベトナムに関しては既に外国人に対する社会保険料の納付義務が生じている状況にあるが、我が国政府においては、今後、日本人の企業関係者が特に多い国を中心に、外国人の社会保険加入の義務化の前に社会保障協定を締結することを通じ、保険料の二重払いを回避する事前の策を検討すべきである。
例えば、我が国のビジネス上の競争相手でもあるドイツ、韓国は、外国人労働者の社会保険への強制加入が実施される前に、ベトナムのみならず、中国とも、二国間社会保障協定の締結のための対応を開始している。
先に社会保障協定が締結された国の企業等と比較して、我が国企業が多額の保険料の二重払いを余儀なくされる場合には、我が国企業が国際競争上、劣後する立場に置かれることとならざるを得ない。
ベトナムとの交渉開始に加え、署名に至った中国との社会保障協定については、早期の発効が必要である。また、日本企業の集積が進んでいながら、既に大きな二重払いを余儀なくされているメキシコ#4、一部還付制度はあるものの二重払いが生じており、追加の年金制度において外国人に納付義務が生じる可能性があるタイ#5およびインドネシア#6についても、早期に交渉を開始すべきである#7。
- 外務省「海外在留邦人数調査統計」(平成29年)における「民間企業関係者」の数
- 法律番号58/2014/QH13号
- ベトナムの日本商工会試算(2017年)では年間約31億円
- 日本在外企業協会試算(2018年)では年間約60億円
- タイでは、外国人に加入義務のある既存の基礎年金制度に加え、国民年金基金制度の導入に向けた法制化作業が進んでおり、後者についてタイ日本商工会が外国人の加入免除を求めている。
- インドネシアでは、外国人に加入義務のある既存の老齢保障制度に加え、年金保障制度が導入されているが、後者は現在、外国人の加入は免除されている。
- 過去10年の間に中国、インド、ベトナムで外国人の現地年金制度への加入が免除から義務へと移行しており、タイやインドネシアでも将来的に義務化される可能性が十分想定される。