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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 IFRS財団市中協議文書「IFRSサステナビリティ基準を設定する国際サステナビリティ基準審議会を設立するためのIFRS財団定款の的を絞った修正案」に対する意見

2021年7月21
経団連金融・資本市場委員会
ESG情報開示国際戦略タスクフォース

IFRS財団 御中

経団連は、市中協議文書「IFRSサステナビリティ基準を設定する国際サステナビリティ基準審議会を設立するためのIFRS財団定款の的を絞った修正案」(以下「IFRS財団定款変更案」という)に対するコメントの機会を歓迎する。

(基本的な考え方)

経団連は、IFRS財団発足以来、その活動を常に支持し、人的・資金的支援、国際会計基準審議会(IASB)への意見発信等を通じて、単一で高品質な国際基準(a single set of high-quality global standards)の実現に向けた国際会計基準(IFRS)の開発と、日本における普及に貢献してきた。

経団連は、昨年のIFRS財団 市中協議文書「サステナビリティ報告」に対する意見Comments on the Consultation Paper on Sustainability Reporting by the IFRS Foundation (2020-12-18))で表明した通り、IFRS財団がグローバルなサステナビリティ報告基準の開発を行うことに敬意を払うとともに、その活動を支持する。公正で透明なプロセスを経てISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が新設され、サステナビリティ基準の開発に取り組むこととなった暁には、経団連としては、様々な形で貢献する用意がある。

IFRS財団が提示した戦略的方向性は、経団連が、市中協議文書「サステナビリティ報告」に対する意見で示した内容に適っており、賛同する。特に、ISSBの基準開発において、投資家の判断に重要な情報に焦点を当てること(シングル・マテリアリティ)、気候関連情報に関する報告基準の開発を優先すること、TCFD等の既存の枠組み・作業等をベースとして基準開発を行うとの判断は妥当と考えている。

IFRS財団定款変更案は、戦略的方向性で示された内容が反映されたものであり、その内容は概ね妥当である。一方、ISSBによるサステナビリティ基準の開発は、現在のIASBの活動と同様に、政治的、商業的な圧力からの中立性を維持して、公的活動として行われるべきである。そのため、ISSBにおける、①メンバー選定、②基準開発、③資金調達は、公正で透明な基準・プロセスのもとで行われることが極めて重要である。ISSBの基準開発の始動を急ぐあまり、定款等の既存のルールに背くことやプロセスの公正性・透明性を損なうことになれば、今後のISSBにおける基準開発の信頼性のみならず、これまで蓄積されてきたIFRS財団・IASBの信用を傷つけることになりかねないことを銘記すべきである。

こうした観点を踏まえ、以下のとおり、(具体的要望事項)を述べる。

(具体的要望事項)

1.ISSBメンバー

  • ISSBが公益に資する基準開発を行うためには、特定の国・地域、ステークホルダーの利害に偏ることなく、多様な国・地域からのバランスの取れた意見を反映することが極めて重要である。

  • この点、IFRS財団定款変更案では、At large枠の人数がIASBと比べて増加する一方で、各地域のメンバー構成を1名ずつ減らしている。多様な国・地域からのバランスの取れた意見を基準開発に反映させるためには、At large枠を含め、メンバー全体の地理的バランスをIASBと同等とすべきであると考える。仮に、現在のIFRS財団定款変更案の地理的バランスを維持する場合でも、At large枠の4名が特定の地域に偏らないよう配慮すべきであり、その旨を定款に記載することを求める。

  • また、「ISSBの運営は、どのような場合でも、定員が充足されていないからといって無効とされることはない」(定款変更案第43条)とあるが、基準開発プロセスの重要性を鑑みると、14名の定員が確保されていることを原則とし、少なくとも地理的バランスの取れた一定以上の人員が充足される必要があると考える。

  • IFRS財団定款変更案では、「非常勤」の枠を「少数」としている。高品質なサステナビリティ基準開発のために多様で優秀なメンバーを確保するためには、「非常勤」の枠を限定しすぎるべきではないと考える。例えば、「非常勤」委員に一定の独立性を求めることとしつつ、公募の際には、その人数をごく少数に限定するのではなく、応募者のニーズを踏まえて柔軟に対応できるよう配慮すべきである

  • その上で、ISSBの信頼性を確保するために、ISSBのメンバー選定においては、プロセスの公正性・透明性を確保することを求めたい。

2.基準開発に関するデュー・プロセス

  • ISSBが多くのステークホルダーから信頼される基準開発を行うためには、公正で透明な基準開発プロセスの構築・運用が極めて重要である。

  • IFRS財団定款変更では、ISSBの議決要件を、「単純過半数」の承認としている。一方、IASBは、「公開草案又は基準の公表には8名(総員13名以下の場合)乃至は9名(総員14名の場合)」の承認を要し、厳格な要件を設けている。基準開発の信頼性を確保するためには、ISSBメンバーの相当数の賛同を得ることが必須であり、ISSBの議決要件はIASBと同様に設定すべきである

  • 定款変更案第54条に、ISSBの設立過程において、作業計画案は議長及び副議長の承認で公表できるとされているが、議決は地理的バランスの取れたボードによって行わることを原則とすべきであり、あくまで例外的、抑制的に行われるべきである。

3.資金調達

  • ISSBが、政治的、商業的な圧力からの中立性を維持して、公益に資する基準開発を行うためには、資金調達の公正性・透明性の確保が欠かせない。

  • この点、資金調達を特定の国・機関からの拠出に過度に依拠するといった、独立性に影響のある乃至は独立性に疑念を持たれるような運用は厳に慎むべきである。よって、現在のIFRS財団における資金調達と同様に、GDP割といった資金拠出における客観的な基準を設けて、その基準に基づいて各国に要請すべきである

  • 加えて、IFRS財団は、IASB及びISSBの活動を両立させるため、IASBの資金とISSBの資金を別々に管理すべきである。とりわけ、執行においては、IASBとISSBの資金を区分管理し、別々のセグメントに基づき資金使途を明確に会計報告すべきである

4.その他

  • IASBの基準開発への助言を行うために、各国基準設定主体の意見聴取の場としてASAF(会計基準アドバイザリーフォーラム)が設置されており、各国の実情を踏まえたIFRSの開発を行うために有効に機能している。サステナビリティ基準についても、各国・各法域の実情を踏まえた開発が望まれることから、各国・各地域の代表者が参加するASAFと同様の諮問機関を設けることを検討されたい。

我々のコメントがIFRS財団での審議に貢献することを期待している。公正で透明な基準・プロセスの下で、定款変更、人選・ファンディングを決定したうえで、ISSBが高品質なサステナビリティ基準開発に着手することを強く期待する。

以上

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