経団連 金融・資本市場委員会
ESG情報開示国際戦略タスクフォース
US Securities and Exchange Commission(SEC)御中
経団連は、SECが公表した「気候変動開示に関する意見募集」に対するコメントの機会を歓迎する。
(総論)
経団連は、日本の代表的な企業1,400社以上から構成される、日本最大の総合経済団体である。構成企業は、製造業、金融業、サービス業、流通業、建設業、運輸業など、あらゆる分野にわたり、その多くが国内外の市場において資金調達及び運用を行っている。米国市場に上場してSECに登録(SEC Registrant)する日本企業は現在10社余りであるが、その多くは日本を代表する製造業・金融業を営む企業である。
現在、気候変動問題を中心としたサステナビリティ情報の開示に対する投資家を含めた資本市場の要請は高まる一方である。かかる投資家・資本市場関係者の声に応えるべく、日本でも気候変動問題を中心にサステナビリティ情報を積極的に開示する企業が増えており、気候変動関連財務情報開示(TCFD)に対してわが国では401の企業・機関が賛同を示しており、これは世界一である(2021年5月28日時点)。また、わが国企業は、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、イノベーションの創出やサステナブル・ファイナンスの推進に取り組んでいる。
気候変動問題は地球規模の課題であり、日米を含めた各国の協調が欠かせない。折しも、4月16日の日米首脳会談では、「日米気候パートナーシップ」の立ち上げに合意し、両国が脱炭素化に向けた国際社会の取り組みを主導していく方針が示された。こうしたなか、気候変動に関する情報開示は、日米を含めた世界中の投資家の関心事項であり、世界的企業が多く上場し世界最大の資本市場を擁する米国が、気候変動開示の促進・国際的調和に向けた主導的役割を発揮することを期待する。このような観点を踏まえ、提示された質問に関連して、以下の3点をコメントする。
(各論)
1.国際基準開発への関与(質問9に関連)
金融・資本市場におけるサステナビリティ情報の重要性が高まるなか、気候変動問題を中心に、多くのサステナビリティ基準が開発されている。これにより、報告企業、投資家側の双方において、各基準を理解し、対応するのに、相当の労力を要しているとともに、サステナビリティに対する企業の活動や戦略が、適切に金融・資本市場で評価されていない懸念を持っている。
こうしたことから、我々は、高品質で単一の国際的なサステナビリティ基準(high quality and single set of global sustainability standards)の開発が重要であると考えている。IFRS財団は、TCFD等の既存のサステナビリティ基準を踏まえ、投資家・資本市場関係者向けに高品質で単一の国際的なサステナビリティ基準の開発に取り組む方針であり、経団連を含む日本の市場関係者は、このIFRS財団の取組みを支持している。
この取組みが成功するか否かは、どれだけの世界の市場関係者がこの取組みを支持するかにかかっており、世界最大の資本市場を擁する米国のコミットが欠かせない。SECが、高品質で単一の国際的なサステナビリティ基準の開発に向けて、重要な役割を担うことを希望する。
2.米国市場における気候変動開示のあり方
(1)法定開示のあり方(質問1/3/7に関連)
気候変動開示については、「1.」に記載のとおり国際的な議論の途上であり、各企業が試行錯誤しながら開示の質を向上させる努力を行っている段階であることから、今は、企業の自主的開示の促進に力を注ぐべき段階であると考える。
一方、SECが法定開示(例えば、Form 10-K、Form 20-Fへの開示)を求める場合でも、その範囲は国際的に合意できる必要最低限の内容に限定し、その他の開示は、各業界や各企業の個別的事情を踏まえて、任意開示の枠組みに委ねて柔軟性を持たせることとすべきである。また、法定開示を求める場合には、発行体企業に対し相当の準備期間を設けることが必要である。
(2)開示基準のあり方(質問2/4/5/6に関連)
SECで気候変動に関する独自の開示基準やガイダンスを作ることは、グローバルレベルでの基準のダイバージェンスにつながるため、避けるべきである。SECが開示基準やガイダンスを作る乃至は推奨する場合には、開示内容の一貫性及び比較可能性の向上、開示コストの低減のために、国際的な基準・既存の枠組みと平仄を合わせるべきである。
この点、グローバルレベルで2,100以上の企業や機関がTCFD提言に賛同し、そのガイダンスに沿った開示を行っている。米国市場においても、世界的な評価を得ているTCFDをベースとした開示を進めていくことが重要と考える。IFRS財団は、TCFDの基準を踏まえてサステナビリティ基準を開発する旨を表明しており、米国市場でTCFDをベースとした開示を進めることで、将来的にIFRS財団において開発される基準との整合性を図ることも期待できる。
TCFDは、細則主義ではなく原則主義ベースの基準であり、気候変動への影響度合いを踏まえ、業界や個社の状況に合わせて、創意工夫に基づいた柔軟な開示を進めることが可能となる。また、TCFDは、投資家にとって重要な情報であるシングル・マテリアリティ(非財務要素が企業の価値創造に与える影響)に焦点を当てており、TCFDに基づく開示を進めることは、SECにとって重要な投資家保護に資するものと考える。
よって、SECが開示基準やガイダンスを作る場合には、TCFD提言を参考に、産業横断的かつ統一的な必要最低限の開示内容を示したうえで、産業・セクターごとに任意の開示(推奨)項目を設けることを検討すべきである。また、TCFDレポートを既に開示している企業には、参照先を記載するなどの簡便的な対応を可能とするといった柔軟な対応も検討されたい。
なお、開示項目については、各企業が設定する環境目標(KPI)の開示も必要だが、そればかりが重視されるのは望ましくない。その目標に対する成果や実績、到達度(プロセス)の開示も重要視すべきであると考える。
(3)監査・保証のあり方(質問10に関連)
SECが気候変動開示を法定化する場合であっても、現時点では、それを監査や外部保証の対象とすべきではないと考える。気候変動情報を監査や外部保証の対象とすることで、柔軟性を持った企業の情報開示が阻害されることを懸念している。また、気候変動開示に対する監査や外部保証の手続きについては国際的なコンセンサスが得られておらず、その担い手についてもこれからの議論と考えており、現時点での監査・外部保証の拙速な導入は避けるべきである。
3.気候変動以外のサステナビリティ情報開示(質問15に関連)
サステナビリティ要素のうち気候変動がグローバルに共通した課題であり、既に民間機関において基準開発が進んでいることを踏まえると、米国市場においても、気候変動に最も高い優先度を置いて開示を進めるべきである。
なお、気候変動以外の非財務要素についても、デジタル技術等のイノベーションを通じた社会課題の解決、公衆衛生・エネルギー等の社会インフラやサプライチェーンの強靭性確保、従業員の健康への配慮、地域社会への貢献など、コロナ禍を通じてその重要性が高まっていると認識している。気候変動以外の非財務要素については、投資家・資本市場関係者にとって何が共通に重要かを特定したうえで、開示のあり方を検討すべきである。