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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 IFRS財団 市中協議文書「サステナビリティ報告」に対する意見

2020年12月18日

IFRS財団 御中

経団連 金融・資本市場委員会
ESG情報開示国際戦略タスクフォース

参考資料「ESG情報開示に関するアンケート結果の概要」

経団連は、IFRS財団が公表した市中協議文書「サステナビリティ報告」(以下「市中協議文書」という)に対するコメントの機会を歓迎する。

(総論)

経団連は、日本の代表的な企業1400社以上から構成される、日本最大の総合経済団体である。構成企業は、製造業、金融業、サービス業、流通業、建設業、運輸業など、あらゆる分野にわたり、その多くが内外の市場において資金調達及び運用を行っている。

経団連は、IFRS財団発足以来、その活動を常に支持し、人的・資金的支援、国際会計基準審議会(IASB)への意見発信等を通じて、国際会計基準(IFRS)の策定と日本における普及に貢献してきた。こうしたなか、IFRS財団がこれまでの市場関係者とのネットワークを活用し、グローバルなサステナビリティ報告基準の開発という時宜を得た取組みを行うことに敬意を払うとともに、その活動を支持する。IFRS財団が、サステナビリティ報告基準の開発に取り組むこととなった暁には、経団連としては、これまでのIFRSの開発と並行して、サステナビリティ報告基準の開発に積極的に貢献する用意がある。

現在、サステナビリティ情報の開示に対する投資家を含めた資本市場の要請は高まる一方であり、かかる投資家・資本市場関係者の声に応えるべく、日本においてもサステナビリティ情報を積極的に開示しようとする企業が増えている#1。経団連は、かねてより、多様なステークホルダーを重視した経営を通じて、持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図ることを会員企業に対する行動指針として定め、順守を求めてきた。また、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、イノベーションの創出やサステナブル・ファイナンスの推進に取り組んでいる。IFRS財団によるサステナビリティ報告基準の開発は、我々の活動と軌を一とするものであり、歓迎する。なお、わが国では多くの企業がIFRSを適用しており、IFRS財団がサステナビリティ報告基準の開発を行う場合であっても、IFRSの高品質化に向けたIASBの取組みに悪影響を及ぼさないことを求めたい。

本市中協議文書の提案についての経団連の意見のポイントは、以下の通りである。(具体的なコメントは、各論において、質問への回答で展開している。)

  1. IFRS財団が、これまで得たネットワーク・知見を踏まえて、投資家・資本市場向けに高品質で単一の国際的なサステナビリティ報告基準の開発に取り組むこと、IFRS財団のガバナンスの下に新たにSSBを設置することを支持する。【質問1・2】

  2. SSBメンバーは、多様な国・地域から、様々なバックグラウンドを有した有為な人材を登用する必要がある。IFRS財団には、最低限IASBと同程度の数のSSBメンバーを確保するとともに、IASBのメンバー構成を参考に多様な国・地域・バックグラウンドから選出することを求めたい。【質問3】

  3. IFRS財団が、各国にSSBの基準開発に対する資金拠出の協力を求めるのであれば、IFRS財団において、資金面の負担軽減の努力を行うことが前提となる。SSBメンバーの数をIASBと同程度の数確保しつつ、資金面の負担軽減を行うためにSSBメンバーの多くを非常勤とすることや、ボード会議等をオンラインで行うといった合理的対応を検討すべきである。【質問3】

  4. 企業ごと、業種ごと、また地域ごとに、サステナビリティ報告におけるマテリアリティが異なるなかで、各企業の開示の柔軟性を高めるため、SSBがサステナビリティ報告基準を開発する際には、細則主義ベースは避け、IFRSと同様、原則主義ベースに基づくべきである。【質問5】

  5. 気候変動に最も高いプライオリティを置いて国際的に調和された基準開発を進めるべきである。気候変動以外の非財務要素については、投資家・資本市場関係者にとって何が共通に重要かを特定したうえで、重要性が認められる項目に限定して基準開発を検討すべきである。【質問7・8】

  6. IASBはこれまで投資家・資本市場関係者向けに国際会計基準を開発してきたことから、SSBはその知見・関係者とのネットワークを生かし、投資家・資本市場関係者向けのサステナビリティ報告基準の開発を行うべきと考える。こうした観点から、IFRS財団は、まずは、投資家にとって重要な情報である「非財務要素が企業の価値創造に与える影響」についての開示(シングル・マテリアリティ)に注力することが相当である。【質問9】

  7. 開示されたサステナビリティ情報を監査の対象とするかは、各国規制当局の判断に委ねられるべきものであり、基準設定主体が定めるものではない。サステナビリティ情報についての監査・保証の必要性や手続きも、国際的にコンセンサスが得られているとは言えないことから、導入に向けた議論を拙速に行うべきではない。【質問10】

(各論)

質問1
国際的に認知されたサステナビリティ報告基準の国際的なセットの必要性はあるか。
  1. (a) あるとした場合、IFRS財団はこれらの基準の設定において役割を果たし、基準設定活動をこの領域に拡大すべきか。
  2. (b) ないとした場合、どのようなアプローチを採用すべきか

(コメント)

国際的なセットの必要性

金融・資本市場におけるサステナビリティ情報の重要性が高まるなか、現在、多くのサステナビリティ報告基準が開発されてきている。報告企業、投資家側の双方において、各基準を理解し、対応するのに、相当の労力を要しているとともに、サステナビリティに対する企業の活動や戦略が、適切に市場機能に反映されていない可能性がある。サステナビリティ報告基準が国際的に収斂・統一されることで、開示内容の一貫性及び比較可能性の向上、コストの低減、市場機能の適切な発揮が期待されることから、高品質で単一の国際的なサステナビリティ報告基準のセットを開発する意義は大きいと考える。

IFRS財団の役割

これまでIFRS財団は、企業、投資家を含む資本市場の関係者、規制当局等の幅広い支持を得て、IFRSを策定してきた歴史・経験がある。IFRS財団が、これまで得たネットワーク・知見を踏まえて、投資家・資本市場関係者向けに高品質で単一の国際的なサステナビリティ報告基準の開発に取り組むことを支持する

その一方、既に多くのサステナビリティ報告基準が存在していることから、多くの国・市場関係者・既存のサステナビリティ報告基準設定主体等の理解を得ながら、慎重に基準開発を進める必要がある。基準開発にあたっては、特定の国・地域、ステークホルダーの利害に偏ることなく、透明性、中立性、効率性を維持し、多様な国・地域からのバランスの取れた意見を反映することができるような体制を構築することを強く求めたい

質問2
IFRS財団の既存のガバナンス構造の下で運営されるSSBの設置は、サステナビリティ報告における一層の一貫性と国際的な比較可能性を達成するための適切なアプローチであるか。

(コメント)

IFRS財団のガバナンス構造のもとに、IASBとは別に新たにSSBを設置する提案に同意する。SSBにおける基準開発の透明性、中立性、効率性を確保するために、SSBを現在のIFRS財団が持つガバナンス構造に組み込むことは適切である。とりわけ、SSBによる基準開発は、現在のIFRS開発と同様に、政治的、商業的な圧力からの中立性を維持して、公的活動として行われるべきである。また、SSBの基準開発に当たっては、ESGの財務への影響や企業価値との関係も整理することが期待されることから、IASBと緊密に連携して対応すべきである。

質問3
第31項に列挙した成功のための要件についてコメント又は追加提案はあるか(十分なレベルの資金調達の達成及び適切なレベルの技術的専門性の達成についての要件を含む)。

(コメント)

第31項に列挙された「成功のための要件」はいずれも重要であり、その内容に同意する。そのうえで、「成功のための要件」に、「① SSBメンバーの多様性の確保」を付加することを提案する。また、第31項(e)に記載の資金調達の達成に向け、「② 効率的な基準開発」を行うことを求めたい。詳細は以下の通り。

  1. ① SSBメンバーの多様性の確保
    SSBが広く国際的に使われるサステナビリティ報告基準の開発を担うのであれば、多くの国の市場関係者(投資家・企業等)の理解を得て基準開発を進めることが必須である。このため、SSBメンバーは、多様な国・地域から、様々なバックグラウンドを有した有為な人材を登用する必要がある。特定の国・地域、バックグラウンドに偏重したメンバーの選定を行えば、SSBによるグローバルな基準開発の正当性が失われてしまう。したがって、IFRS財団には、最低限IASBと同程度の数のSSBメンバーを確保するとともに、IASBのメンバー構成を参考に多様な国・地域・バックグラウンドからメンバーを選出することを求めたい

  2. ② 効率的な基準開発
    IFRS財団が、各国にSSBの基準開発に対する資金拠出を求めるのであれば、IFRS財団において、資金面の負担軽減の努力を行うことが前提となる。SSBメンバーをIASBと同程度の数確保しつつ、資金面の負担軽減を行うためにSSBメンバーの多くを非常勤とすること#2や、ボード会議等をオンラインで行うことで基準策定の効率性を向上させるといった対応を検討すべきである

質問4
IFRS財団は、SSB基準の採用及び一貫した適用を国際的に支援するために利害関係者との関係を活用できるか。活用できる場合、どのような条件の下で活用できるか。

(コメント)

IFRS財団は、IASBによるIFRSの開発を通じて、様々なステークホルダーとのネットワークを構築している。日本企業とIFRS財団の間においても、開発、適用後レビューなどに直接参画することで良好な信頼関係が成り立っており、その結果、多くの企業がIFRSを適用している。サステナビリティ報告基準の開発においても、これらの既存の関係者の支持を十分に得て、そのネットワークを生かして、基準開発や適用を進めるべきである。

サステナビリティ報告基準の採用を拡大するためには、これを利用して報告を行う企業の意見を十分に聴取する必要がある。また、投資家側が求める開示内容も多様である。さらに、報告企業の置かれている国・地域・業種等によって、前提条件が異なり、開示すべき重要なサステナビリティ項目も変化する。従って、サステナビリティ報告基準の開発に当たっては、報告者の目指す開示内容、投資家の求める内容、地域特性などについて、多様なネットワークを活用して検討することが重要である。

質問5
IFRS財団は、一層の国際的な一貫性を達成するために、サステナビリティ報告における既存の取組みをどのようにして基礎とし協力するのが最善か。

(コメント)

SSBが、既存の基準設定主体と連携し、それらの取組みをベースにサステナビリティ報告基準の策定を行うことに同意する。TCFD最終提言やSASBスタンダードなど、国際的な支持を受ける既存の基準がある以上、SSBが一から基準を策定することは非効率的であり、多くのサステナビリティ報告基準が開発されている現在の状況をさらに複雑化させるだけである。

一方で、SSBの最終的な目的は、高品質で単一の国際的なサステナビリティ報告基準を策定することとすべきである。

なお、SSBがサステナビリティ報告基準を開発する際には、細則主義ベースは避け、IFRSと同様、原則主義ベースに基づくべきである。これは、企業ごと、業種ごと、また地域ごとに、サステナビリティ報告におけるマテリアリティが異なるなかで、各企業の開示の柔軟性を高める必要があるためである。こうした原則主義的な共通の基準に併せて、基準の円滑な適用のために、企業や投資家のニーズを踏まえ、業種や地域性を加味したESG評価のあり方についての指針を作成することも検討されたい。

質問6
IFRS財団は、一貫したサステナビリティ報告のための国際的な解決策を見出すために、既存の各法域の取組みをどのようにして基礎とし協力することが最善か。

(コメント)

(質問5)への回答に記載のとおり、SSBの開発する基準を国際的に普及させるためには、各法域の取組みや開示のマテリアリティを尊重した、プリンシプルベースの枠組みとすべきである。また、(質問3)への回答に記載のとおり、多様な国・地域からSSBメンバーの選出を行うことを求めたい。

質問7
IFRS財団がSSBを設置するとした場合、その任務をサステナビリティ報告の他の領域に拡大する前に、気候に関連した財務開示を最初に開発すべきか。
質問8
SSBは気候関連リスクに焦点を当てた定義を設けるべきか、それともより幅広い環境要因を考慮すべきか。

(コメント)

サステナビリティ要素のうち気候変動がグローバルに共通した課題であり、既に各法域や民間機関において基準開発や様々な取組みが進んでいることを踏まえると、気候変動に最も高いプライオリティを置いて国際的に調和された基準開発を進めるべきである。気候変動はTCFD提言において基準開発のノウハウが蓄積されており、これを参考に基準開発を進めることで、効果的・効率的な基準開発が可能になると考える。

なお、気候変動以外の非財務要素についても、デジタル技術等のイノベーションを通じた社会課題の解決、公衆衛生・エネルギー等の社会インフラやサプライチェーンの強靭性確保、従業員の健康への配慮、地域社会への貢献など、コロナ禍を通じてその重要性がさらに高まっている。気候変動以外の非財務要素については、投資家・資本市場関係者にとって何が共通に重要かを特定したうえで、重要性が認められる項目に限定して基準開発を検討すべきである

質問9
第50項に示したSSBが採り得る重要性に対するアプローチ案に同意するか。

(コメント)

第50項のアプローチに賛同する。IASBはこれまで投資家・資本市場関係者向けに国際会計基準を開発してきたことから、SSBはその知見・関係者とのネットワークを生かし、投資家・資本市場関係者向けのサステナビリティ報告基準の開発を行うべきと考える。こうした観点から、IFRS財団は、まずは、投資家にとって重要な情報である「非財務要素が企業の価値創造に与える影響」についての開示(シングル・マテリアリティ)に注力することが相当である

なお、「企業が非財務要素に与える影響の開示」についても、マルチステークホルダーへの情報開示の観点から重要性が増していることは間違いない。IFRS財団は、投資家・資本市場関係者に有益な情報の開示を進める観点から、まずはシングル・マテリアリティに注力したうえで、投資家・資本市場関係者から「企業が非財務要素に与える影響」の開示要請が高まれば、そうした分野の開示基準の検討も視野に入れるべきである。

質問10
開示すべきサステナビリティ情報は、監査可能又は外部の保証の対象であるべきか。そうでないとした場合、開示される情報を信頼性があり意思決定に有用なものとするために、どのような異なる種類の保証が受入可能か。

(コメント)

開示されたサステナビリティ情報を監査の対象とするかは、各国規制当局の判断に委ねられるべきものであり、基準設定主体が定めるものではない。サステナビリティ情報についての監査・保証の必要性や手続きも、国際的にコンセンサスが得られているとは言えないことから、導入に向けた議論を拙速に行うべきではない

また、国際的に確立されたサステナビリティ情報の監査基準はなく、開示されたサステナビリティ情報を監査・保証の対象とすることは、今回開発する基準のハードルを必要以上に上げることになる。さらに、サステナビリティ情報を監査・保証の対象とすることで、柔軟性を持った企業の情報開示が阻害されることを懸念している。

質問11
利害関係者が他のコメント又は関連事項を我々の検討のために指摘することを歓迎する。

(コメント)

総論に記載のとおり、今回、IFRS財団がこれまでの市場関係者とのネットワークを活用し、グローバルなサステナビリティ報告基準の開発というチャレンジを行うことに敬意を払うとともに、その活動を支持する。SSBが基準開発を行う暁には、経団連としても積極的に基準開発に参画して参る所存である。

以上

  1. 例えば、気候関連財務情報開示(TCFD)に対して、世界全体では金融機関をはじめとする1,567の企業・機関が賛同を示しているところ、日本では321の企業・機関が賛同を示しており、これは世界一である(2020年11月30日時点)。
  2. 議長など枢要ポストは常勤とすることが考えられる。また、スタッフは基本的に常勤とすべきである。

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