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Policy(提言・報告書)  環境、エネルギー 「産業構造審議会製造産業分科会化学物質政策小委員会制度構築ワーキンググループ、中央環境審議会環境保健部会化学物質対策小委員会(化管法見直し合同会合)取りまとめ(案)」に対する意見 ― パブリックコメント募集に対する意見 ―

2019年6月13日
一般社団法人 日本経済団体連合会
環境安全委員会 環境管理WG
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本年5月に公表された「産業構造審議会製造産業分科会化学物質政策小委員会制度構築ワーキンググループ、中央環境審議会環境保健部会化学物質対策小委員会(化管法見直し合同会合)取りまとめ(案)」に対し、下記のとおり、意見を提出する。

1.総論(事業者による自主的な化学物質管理の促進)

化学物質管理が複数の法律にまたがる現状において、化学物質排出把握管理促進法(化管法)のもとでは、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促すことで、環境保全上の支障を未然に防止することが目的とされる。

今般の見直しにおいては、化学物質管理に関係する各種法令について、各々の趣旨・目的に照らし、制度の重複を避けつつ、リスクベースの評価手法を採用する「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」との統一性の確保等を図るとともに、事業者の自主的な管理の一層の促進に資するよう、対象化学物質の排出量等の把握、届出・報告の主体となる事業者の立場を十分に考慮することが適当である。

実効的かつ効率的に化学物質を管理するには、様々な化学物質を取り扱い、その性状や取扱い方法をよく知る事業者が、事業の実態に即して自ら創意工夫し、柔軟な対応を可能とすることが重要と考える。

2.届出排出量に関する評価(4,14ページ)

取りまとめ(案)の4ページには、「化管法の制定が自主管理の進展による指定化学物質の排出抑制に一定の成果を上げていると考えられるが、ここ数年の排出量は横ばい傾向となっている」との指摘がある。

また、取りまとめ(案)の14ページには、中長期的な課題として、「ここ数年の届出排出量は横ばい状況となってきていること、また、届出移動量は届出が開始された平成13年度からほぼ横ばいであり、環境リスクの観点での進捗確認や移動量の削減に向けた取組の可能性についても検討が必要」と指摘されるとともに、「事業者の努力の見える化や排出量等の減少に係る評価方法については、リスク評価の観点を踏まえた検討が必要」との指摘がなされている。この点、事業者は、例えば、より環境リスクの低い代替化学物質への転換等の努力を行っている。

事業者による自主管理の評価にあたっては、排出量の多寡のみならず、環境リスクの観点を踏まえた、科学的、定量的な解析が必要である点を強調したい。

3.化管法対象物質選定基準(7~9ページ)

取りまとめ(案)では、対象物質の選定にあたり、ばく露の指標として「排出量」データを活用する考えが示されている。PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)に基づくデータの蓄積を踏まえ、「排出量」を指標として採用することは、理にかなった見直しと評価できる#1

届出排出・移動量、届出外排出量が存在しないものについては、化審法の排出係数を活用して推計排出量による選定を行うことが適当であるとされている。取りまとめ(案)では、「化審法の制度のもとでの使用のために設定された係数であることに留意しつつ、本来であれば、化管法としての適切な排出係数を検討することが必要である」とされている。化管法としての排出係数の検討にあたっては、実績と理論に基づく判断が求められる。

4.化管法対象物質見直し(その他の環境保全施策上必要な物質)(11ページ)

取りまとめ(案)では、化管法対象物質として、「国が環境保全上の支障の未然防止を図るための総合的な対策をとるために環境排出量の把握が必要とされている化学物質を指定対象物質とすることが必要である。(中略)具体的には(中略)化審法の優先評価化学物質(中略)等が該当すると考えられる」との指摘がなされている。

優先評価化学物質の中には、リスク評価の結果により、人の健康に係る被害または生活環境、動植物の生息もしくは生育に係る被害のいずれも生じる恐れがないと認められる場合には、優先評価化学物質の指定が取り消され、一般化学物質になるものも含まれていることから、化管法の指定対象物質として選定するにあたっては、十分な精査と明確な選定根拠が必要であると考える。

5.その他制度全般

(1)施行日(11ページ)

取りまとめ(案)では、制度の施行にあたって、事業者の対応の必要性を勘案し、十分な猶予期間を取ることが適当との記述がなされている点を評価する。

事業者の多くが対象物質の情報をシステムで管理していることに鑑み、システム更新等を含む新制度への対応時間を十分に確保する必要がある。制度に基づく対応の開始までに十分な期間を設定するとともに、速やかな周知を求めたい。

(2)届出データの正確性の向上(12~13ページ)

  1. 排出量・移動の変更(12ページ)
    化管法のもとでの対象化学物質の排出量の正確性向上には、大気、水、土壌中への化学物質の排出濃度の測定精度向上や新たな知見に基づく排出係数の見直し等が重要になる。例えば、前者については、事業者は、設備更新等があった場合に、測定ポイントや測定方法を見直すことがあり、従来よりも排出濃度がより正確に把握できるようになる。また、後者については、新たな論文等により、新しい排出係数の考え方が公表された場合、事業者は自主的に排出係数を見直す場合がある。こうしたことにより、修正届出が発生する場合がある。
    このように、事業者による排出量・移動量の修正届出が行われる理由には、排出量等の正確性向上を期した見直しによるものも含まれることから、取りまとめ(案)の12ページ(2)6行目にある「より適切な把握方法への見直し」という記述については、「排出濃度の測定精度向上や、新たな知見に基づく排出係数の見直しをはじめとする、排出量等の把握に関する正確性の向上を期した見直し」に修正すべきである。また、このように、正確性向上に資する修正届出が行われる点につき、取りまとめ(案)に必要性が指摘される、排出量・移動量の変更の要因解析にあたり、十分考慮されるべきである。

  2. PRTR排出量等算出マニュアルについて(13ページ)
    排出量等の算出マニュアルについて、取りまとめ(案)においては、「業種別の算出マニュアルの見直しを促進すべきであり、継続的に自主点検・修正する仕組みを検討する」とされている。
    業種によって、国のマニュアルを参照する場合のほか、業種独自のマニュアルを活用する場合など、その状況は様々である。それぞれの業種の状況を勘案し、自主性を重視した見直しを促進することが望ましい点を強調したい。

(3)企業の努力の可視化(13ページ)

取りまとめ(案)には、企業の努力の見えるようなデータ公表の必要性やその具体的な方法について検討すべきとされている。事業者は、化学物質の適正な管理とともに、排出量等の削減に努めてきており、PRTR制度の施行以来、各種指定化学物質に関する届出データが蓄積されてきている。

届出データの公表主体である国や地方自治体は、こうした経年データを活用し、分かりやすく整理・公表することで、広く一般に、事業者の努力を分かりやすく示す方策を検討すべきである。

その旨を明確にする観点から、13ページ13行目の記述は、「企業の努力の見える化による自主管理の一層の促進のため、国や地方自治体は、過去の事業所ごとの経年変化などの企業努力を示す分析の必要性やその具体的な方法について検討すべきである」のように、下線部を追記すべきである。

(4)災害に対する既存のPRTR情報の活用について(13ページ)

取りまとめ(案)では、「地方公共団体の災害への対応措置を強化する観点から、化管法の位置づけ・趣旨にも配慮しつつ、災害対応を見据えた届出排出・移動量のより一層の活用に向けた検討を引き続き深めるとともに、地方公共団体による届出排出・移動量の有効活用や事業者の自主的な情報共有の取り組みを促進する」と整理されている。

「化管法の位置づけ・趣旨に配慮」との点については、化管法は、あくまで平時における、事業者の自主的な化学物質管理を促すことを目的とする法律であること、他方で、災害時に有害な化学物質が漏洩した際には、行政機関が情報を直ちに入手できる仕組みとして、他の法令(消防法、毒物及び劇物取締法、大気汚染防止法など)が存在することを、十分考慮する必要がある。法制度上、不必要な重複は極力策避けるべきである点を強調したい。

そのうえで、事業者と自治体との間の、自主的なリスクコミュニケーションを一層促進する方策として、取りまとめ(案)にあるように、「平時からの地方公共団体と事業者との情報共有」や、「災害対応時の地方公共団体における既存のPRTR情報の活用」などを推進することが期待される。

(5)移動量(廃棄物)に移行する化学物質の情報提供のあり方(14ページ)

廃棄物の処理委託に際し、廃棄物に含まれる化学物質の情報提供については、廃棄物処理法での対応が前提#2である。

そのうえで、化管法に基づくSDS(安全データシート)の提供については、化学物質を含む廃棄物の性状をよく知る事業者が自ら判断を下すことで、より実効的な対応が可能となると考える。

したがって、14ページ19~20行目の記述については、「廃棄物の処理委託時にSDSの情報を活用して必要な情報を自主的に提供するよう周知することが考えられる」のように、「自主的に」という文言を追記すべきである。

以上

  1. 化管法制定時(2000年)の産構審・中環審合同会合報告において、対象化学物質の要件となる、ばく露可能性の判断基準としては、「相当広範な地域の環境で継続して存在することまたは将来存在する可能性があること」を要件としている以上、「排出量」を指標とすることが適当とされたが、PRTR制度を運用し、化学物質の排出量に関するデータを十分に収集しない限り、わが国における排出量のレベルが分からないという事情があった。そのため、当面の間、判断基準として「排出量」ではなく、「製造輸入量」を指標とすることとされた。現状では、PRTR制度施行から15年以上が経過し、排出量データの蓄積が進んできていることから、ばく露可能性の判断基準として「製造輸入量」から「排出量」への見直しを検討するための環境が整ってきている。
  2. 現在、環境省において、廃棄物処理制度における情報伝達のあり方について、廃棄物処理法に基づくWDS(廃棄物情報データシート)等の活用を含め、別途検討が行われている。

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