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Policy(提言・報告書)  環境、エネルギー 「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)」に対するパブリックコメント

2019年5月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会
環境安全委員会地球環境部会
地球温暖化対策WG・国際環境戦略WG

今回公表された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)」(以下、長期戦略案)は、G20大阪サミット議長国・日本として、「脱炭素社会」という最終到達点に向け、「非連続なイノベーション」を軸に「環境と成長の好循環」を実現するという野心的な「ビジョン」を世界に示す内容であり、評価できる。こうした長期戦略案の基本的骨格は維持すべきである。

また、この野心的な「ビジョン」の実現には、経済界のみならず、国、地方自治体、教育・研究機関、家庭部門といった国民各層が国を挙げて、これまでの延長線上にない様々なチャレンジに取り組んでいく必要がある。

こうした認識のもと、長期戦略の主要論点に関する経済界の基本的考え方を、下記の通り示す。

1.ビジョンに向けた柔軟なアプローチ

長期戦略案8-9頁にも記載の通り、2050年の長期目標は、目指すべき方向性としての「ビジョン」であり、達成すべき「ターゲット」である2030年度の中期目標とは性質が異なる。

現在において2050年の経済・社会・技術等の絵姿を見通すことは極めて困難であり、長期の「ビジョン」をあたかも「ターゲット」のように捉え、直線的・硬直的な進捗管理を行ってしまえば、非連続なイノベーションの芽を摘むことになりかねない。

既にわが国が掲げている「2050年80%削減」という長期目標は、極めて野心的である。こうした中、わが国の長期戦略では、具体的根拠を欠き、実効性に裏打ちされない削減目標の引上げや達成年限の前倒しではなく、「脱炭素社会」という野心的な「ビジョン」に向けた、技術的・経済的に実現可能な選択肢を見出し、そこに重点的な投資を行うことで、さらなる高みを目指していく柔軟なアプローチを採るべきである。こうしたことから、ビジョンに関する現行の記述は維持すべきである。

2.S+3Eを高い次元で確保したエネルギー転換

長期戦略案14頁にも記載の通り、「脱炭素社会」という究極のゴールの実現には、S+3E(安全性[Safety]の確保を大前提としたエネルギー安全保障[Energy Security]・経済性[Economy]・環境適合性[Environment]のバランス)を高い次元で確保したエネルギー転換が不可欠である。そのためには、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の「低コスト化」「安定供給」「持続的事業」の3要件の実現を通じた「主力電源化」をはじめ、安全性確保を大前提とした原子力の継続的活用、火力の高効率化、送配電網の次世代化などが求められる。

(1)非化石電源

再エネについて、「経済的に自立し脱炭素化した主力電源化を目指す」(14頁32行目)としたことを評価する。当該記述は維持すべきである。

一方、日本全体の電力を再エネ100%で賄うことは非現実的である。原子力は、少なくとも現状想定しうる技術水準の範囲においては、わが国、そして世界が将来にわたって安定的にエネルギーを確保し、脱炭素社会を目指していくうえで必要不可欠なエネルギー源である。そこで、安全性の確保された原子力発電所の再稼働を進めるとともに、原子力の長期的な必要性を示し、リプレース・新増設の実現に取り組むことなど、非化石電源である原子力を継続的に活用していくスタンスを、19頁「④原子力」の中でより明確に示していくべきである。

(2)石炭火力

石炭火力発電については、「第5次エネルギー基本計画」(2018年7月閣議決定)にも示されているように、エネルギー転換・脱炭素化が実現するまでの過渡期において、国内外で一定の役割を担うことが見込まれている。地球規模での温暖化対策への貢献の観点から、当面、日本国内で高度な石炭利用技術を培うとともに、経済的に利用可能な最良の技術(BAT: Best Available Technologies)を採用した高効率発電設備については、OECDルールの下、世界に展開していくことも重要となる。

閣議決定から一年足らずで、エネルギー基本計画の方針を転換することは、わが国の政策予見性を著しく損なうことから適切でない。18頁「(c)石炭」および73-74頁「(3)CO2排出削減に貢献するエネルギーインフラの国際展開」では、上記考え方をより丁寧に記述すべきである。

また、長期戦略が「成長戦略」として位置づけられるためには、わが国の電力・エネルギーコストを国際的に競争力のある水準にすることが大前提である。14頁「(2)目指すべきビジョン」35-36行目にある「脱炭素社会の実現に向けて、パリ協定の長期目標と整合的に、火力発電からのCO2排出削減に取り組む。」は、この「電力・エネルギーコストを国際的に競争力のある水準にすること」と整合的に進めていく必要がある。現状最も低廉なベースロード電源である石炭火力の全廃や新設禁止といった記述は、将来の選択肢を狭め、S+3Eを毀損することから、追記すべきではない。

(3)電力システム

経団連提言「日本を支える電力システムを再構築する」(2019年4月)にも示したように、わが国では、エネルギー転換に必要となる電力分野への投資が停滞している。現状を放置すれば、S+3Eを毀損し、地球温暖化対策や産業競争力強化に逆行しかねない危機的な状況にある。

こうした現状認識を14頁「②我が国のエネルギーを取り巻く状況と今後の方向」に記載するとともに、続く「(2)目指すべきビジョン」に、政府として、電力分野への投資活性化を通じたS+3Eの高度化に向けて取り組みを強化していく旨、明記すべきである。

3.グローバル・バリューチェーン(GVC)を通じた削減貢献

温暖化対策は地球規模の課題であり、国内に閉じた取り組みでは、パリ協定の長期目標は達成不可能である。今日、わが国企業はグローバルに事業活動を展開し、バリューチェーンを構築している。経済界は、省エネ・低炭素型の製品・サービス等のライフサイクル全体、すなわちグローバル・バリューチェーン(GVC)を通じた温室効果ガス削減に取り組むことで、新興国等の成長を取り込むなど、「環境と成長の好循環」実現を図り、実効性ある地球規模の温暖化対策に貢献していく。

経済界による地球規模の削減に向けた主体的な挑戦を後押しする観点から、長期戦略案22頁「③グローバル・バリューチェーン(GVC)を通じた削減貢献」において、政府としても、GVCの概念や具体的事例に関する国内外への啓発活動や、わが国企業の海外展開先におけるビジネス環境整備に努める旨、明記すべきである。

4.カーボンプライシングについて

長期戦略案78頁11-12行目に、カーボンプライシングについて、「産業の国際競争力への影響等を踏まえた専門的・技術的な議論が必要」との記述がある。

炭素税や排出権取引制度といった明示的カーボンプライシングの強化は、既に高水準にあるわが国のエネルギーコストのさらなる上昇(S+3Eの毀損)を通じて、経済活動の減退と国際競争力の低下をもたらすばかりか、民間企業の研究開発・投資原資を奪うことから、長期温暖化対策に必要となる民主導のイノベーションを阻害し、「環境と成長の好循環」に逆行するものである。

そのため、経済界は明示的カーボンプライシングの強化には明確に反対である。当該記述については、「産業の国際競争力への影響等を踏まえた専門的・技術的かつ慎重な議論が必要」と加筆すべきである。

以上

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