一般社団法人 日本経済団体連合会
日本の電力は4つの危機に直面しています。国際的に地球温暖化問題への関心が高まる中、東日本大震災以降、①火力発電依存度は8割を超え、その打開策としての②再生可能エネルギーの拡大も、③安全性が確認された原子力発電所の再稼働も難しい状況です。電力自由化は、電気料金の抑制を目的の1つに掲げているものの④国際的にそん色ない電気料金水準の実現には至っていません。一方で、電気事業者は、投資回収の見通しを立てにくくなり、電力インフラへの投資を抑制しています。
こうした危機を放置すれば、化石燃料依存から脱却できないばかりか、電力供給の質の低下や電気料金の高騰につながりかねません。これが地球温暖化対策や産業競争力強化に逆行することは明らかです。経団連は、電力がSociety 5.0実現の重要な基盤と認識し、電力投資を活性化する環境整備を提言します。
まず、投資の回収可能性が見通せるよう、将来像を明確化することが必要です。政府には、次期エネルギー基本計画の策定にあたり、2030年以降の電力システムの将来像を、複線シナリオとして示すことを求めます。
発電分野では、再エネを、電気料金の上昇を抑えつつ最大限導入できるよう、支援制度を抜本的に見直す必要があります。原子力発電については、CO2の大幅削減といった地球温暖化対策の観点からも、安全性確保と国民理解を大前提に、既設発電所の再稼働やリプレース・新増設を真剣に推進しなければなりません。
送配電分野では、老朽化する送配電網を更新・次世代化し、大規模洋上風力発電や屋根置き太陽光、電動車などの導入に対応していく必要があります。送配電費用の回収制度である託送料金制度も、再エネ等の分散電源の拡大が見通される中、積極的な投資を促す改革が不可欠です。
経団連としては、本提言の公表を契機に、こうした日本の電力が置かれた危機的状況が広く共有され、多面的な政策の検討によって日本を支える電力システムが維持・高度化されるよう、関係方面への働きかけを強化してまいります。
【概要】
(PDF形式)
【本文】
(PDF形式/本文の目次は以下のとおり)
提言の公表に寄せて
はじめに
1.総論
- (1) 電力システムを取り巻く動向と政策の方向性
- 3Dに向かう世界の電力システム
- 電力投資の停滞を打開し、Society 5.0へ
- (2) 電力投資の全体像
- (3) 2030年以降の電力システム像の具体化
2.電力需要
- (1) 原単位改善への継続的努力と経済活動量の拡大
- (2) 多様な需要家ニーズへの目配り
3.発電分野
- (1) 卸取引の市場化
- 安定供給の確保
- 発電に係る各価値の適正な取引
- 市場設計全体の運用の検証
- (2) 非化石電源の活用拡大
- 再生可能エネルギーの主力電源化
- 原子力の継続的活用
- 蓄電・蓄エネルギー技術の開発と水素社会の実現
4.送配電分野
- (1) 次世代電力ネットワークの構築
- (2) 社会便益と国民負担を衡量した系統整備
- コスト効率的な次世代化の推進
- 多様な電力供給モデルの検討
- (3) 次世代化投資の確保
- 託送料金制度のあり方
- 託送料金負担のあり方
- FIT賦課金の使途拡大等に対する考え方