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Policy(提言・報告書)  環境、エネルギー パリ協定下での実効性と公平性ある地球温暖化対策の実現に向けて

2018年11月13日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.実効性と公平性の確保された実施指針の必要性

2015年12月、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、京都議定書に代わる新たな地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が採択された。同協定は、いわゆる「2度目標」#1と呼ばれる、世界全体での温室効果ガスの大幅な削減を目標に掲げ、先進国・新興国・途上国を含むすべての国が地球温暖化対策に取り組むことを約束したものであり、世界各国は今後の地球温暖化対策に向けた「歴史的な一歩」を踏み出した。

パリ協定及びCOP21決定は、制度の大枠を定めたものの、制度を実行段階に移すためには、詳細な実施指針が必要である。パリ協定の下では、京都議定書とは異なり、各国の削減目標の達成自体には法的拘束力が課されていないことから、協定の実効性と公平性を担保するうえで、各国の取り組みに対する透明性確保が不可欠であり、協定実施指針は透明性を高める上で極めて重要である。

パリ協定の採択から3年後の本年12月、ポーランド・カトヴィツェで開催予定のCOP24において、パリ協定の実施指針の合意が目指されている。これまで、多岐にわたる分野につき交渉が重ねられているが、依然として先進国と途上国を中心とする根深い対立は解消されておらず、合意に向けては道半ばである。

わが国政府には、パリ協定が実効性と公平性の確保された枠組みとなるよう、COP24での交渉における最大限の努力を求める。

2.鍵を握る重要分野での合意

パリ協定の実効性と公平性の確保のためには、主に「全ての国の協定への参加」「各国共通のルール」「プレッジ&レビュー方式による適切なPDCAサイクルの推進」等の要件が充足されることが不可欠である。事業環境の国際的なイコールフッティングの観点からも、これらの実現が強く望まれる。

とりわけ、同協定の実効性と公平性を左右する重要な分野として「透明性」と「資金」がある。

(1) 「透明性」

パリ協定13条が定める、「透明性」#2枠組みにおいては、「柔軟性」#3に関して、「能力に応じた」例外的な取扱いをどこまで認めるべきかが大きな焦点となっている。中国をはじめとして、世界経済における新興国の存在感が高まるなか、パリ協定の下でも、レベル・プレイング・フィールド(公正な競争条件)の確保が重要であり、能力の高い新興国等は、先進国と共通のルールとすべきである。これは、パリ協定からの脱退を表明している米国が、将来的な協定への残留に向けた道筋を確保する上でも必要条件となる。一方で、十分な能力を有していない開発後進国・島嶼国にとっても、現実的に実行可能なルールとすることも求められることから、適切なバランスをとりつつ、比較可能性を担保できるものとすべきである。

(2) 「資金」

「資金」の拠出については、パリ協定9条に規定されているように、先進国のみならず、それ以外の国による自発的な拠出を含め、拠出国の拡大が意図されているところ、各国がその能力に応じて公平な拠出を行うルールとすることが望ましい。#4

また、実施指針交渉では、「緩和」における評価プロセス等と同等のプロセスを「資金」拠出等の論点についても求める、議題間の「対称性」に関する主張が途上国の一部からなされている。「対称性」の議論に対しては、協定条文の本来の趣旨に照らし、妥当性を吟味したうえで、適切に対処していくことを求める。

3.国際的プレゼンスの向上に向けて

一方、地球温暖化対策の実効性を高める上で、こうした政府間交渉に加え、NGOや民間企業、研究機関等のノンステートアクター(非国家主体)の取り組みの重要性が高まっている。COPにおいても、ノンステートアクターが主催するサイドイベント等に注目が集まっており、国家の取り組みを補完するアピールの場として存在感を高めている。

わが国政府には、官民連携の下、COPサイドイベント等を通じ、地球温暖化対策におけるわが国の強みや世界での貢献等を具体的に発信することで、地球温暖化対策におけるわが国の国際的プレゼンスを高めていくことが求められる。併せて、今後の地球温暖化対策の柱の一つである、グローバル・バリューチェーン(GVC)を通じた温室効果ガスの削減貢献の取り組みについても、官民連携の下、各国の理解を獲得していく活動が重要となる。

経団連は、実効性と公平性が確保されたパリ協定の枠組みの下で、経団連低炭素社会実行計画の着実な推進を中核として、2050年を展望した温暖化対策の長期ビジョンの策定の働きかけ、グローバル・バリューチェーンを通じた温室効果ガスの削減貢献、海外経済団体・企業等との連携、イノベーションの推進等を通じて、引き続き、自主的かつ主体的に地球温暖化対策に尽力していく所存である。

以上

【別添】

今後のわが国経済界の取り組み

経団連は、1991年の「経団連地球環境憲章」の制定以来、今日に至るまで、政府等の方針決定に先駆け、主体的に地球温暖化対策を推進してきた。1997年、COP3での京都議定書の合意に先駆け策定された「経団連環境自主行動計画」、そして2013年策定の「経団連低炭素社会実行計画」に基づく自主的取り組みにより、わが国経済界は、地球規模での温室効果ガスの削減に向けて邁進している。

今日、地球温暖化対策において、ノンステートアクターの取り組みに対する注目がかつてないほどの高まりを見せていることを踏まえ、わが国経済界として、これまでの自主的取り組みの経験と実績をもとに、今後の地球温暖化対策をより一層加速すべく、当面の取り組みとして、以下の4点を推進していく。

(1) 経団連低炭素社会実行計画の着実な推進#5

日本がNDCとして掲げた中期目標(2030年度に2013年度比で26%削減)の達成に向けた対策の柱として位置付けられている「経団連低炭素社会実行計画」について、第1の柱「国内の事業活動における排出削減」、第2の柱「主体間連携の強化」、第3の柱「国際貢献の推進」、第4の柱「革新的技術の開発」の推進を通じて、PDCAサイクルを回しつつ、国内のみならず地球規模の温室効果ガス削減に、主体的に取り組んでいく。また、国内の事業活動に排出削減目標についても、経済動向等を分析しながら、社会にコミットできる最大限の目標水準を絶えず検討し、目標の妥当性や進捗に対する説明責任を果たすことで、低炭素社会実行計画の実効性を確保していく#6

(2) 2050年を展望した温暖化対策長期ビジョンの策定に向けた検討・PR

2015年の国連における「持続可能な開発目標」(SDGs)の策定やパリ協定の採択等を背景に、世界ではESG投資が拡大している。また、日本政府においては、パリ協定に基づく、2050年を展望した長期戦略策定に向けた検討が本格化している。

2050年という不確実な長期を展望した温暖化対策は、中期目標のような従来の対策の「積み上げ」ではなく、「目指すべきゴールや方向性となるビジョン」を構想していくことが求められる。こうした認識の下、経団連は、会員企業・団体に、長期ビジョンの策定を呼びかけ、わが国企業・団体の長期的な温暖化対策への取り組み姿勢を国内外にPRすることとした。こうしたわが国経済界主導のイニシアティブは、日本のみならず海外政府・企業等における長期の温暖化対策へのモメンタムの醸成、ひいてはESG投資の促進にも資すると考えられる。

(3) グローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献の取り組みの推進#7

経団連では、地球規模での温室効果ガス削減貢献に向けた方策の一つとして、「グローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献」の取り組みを推進していく。この取り組みの世界への展開に向け、今般、経団連として、コンセプトブック『グローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献』を取りまとめ、公表した。今後、COP24におけるサイドイベント等を通じ、官民連携の下、この取り組みに対する各国の理解を促していく。

(4) 海外経済団体・企業等との連携の推進

地球規模での温室効果ガス削減に向けて、海外経済団体とも積極的に連携して、グローバルな取り組みを推進していく。具体的には、BizMEF#8との連携を通じて、パリ協定や各国NDCの実行に向けた経済界の役割について提言していくほか、2019年3月に東京で開催予定のB20の機会を捉えて、主要国の経済団体との連携を一層強化していく。

また、温室効果ガス削減の鍵を握る技術として、クリーンなエネルギー源としての水素の技術開発・普及に向けた取り組みが重要性を増しており、政府では、水素閣僚会議を通じた国際連携を主導しているところである。安定・安価な形で水素を活用できるよう、民間企業においても、政府の動きと連携しつつ、セクターを超えた国際連携を進めていく。

以上

  1. 「2度目標」とは、COP21で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べてセ氏2度未満に抑える」を掲げた目標を指す。
  2. パリ協定の下、各国は、「国が定める貢献(NDC)」を提出し、削減行動を明らかにしていくことが求められている。各国の努力度合いを比較するためには、各国の行動や支援の透明性を高めていくことが重要となる。協定13条では、「透明性」枠組みとして、「緩和」や「支援」等に関する報告・レビューの枠組みの創設を規定しており、すべての国の取り組みに対する透明性を高めることが可能な共通ルールの構築が求められる。
  3. パリ協定13条では、開発途上締約国が自国の能力に照らして柔軟性を必要とする場合には、当該国に対し柔軟性を与える旨を規定している。すなわち、定期的な報告を行う経験や経済的・行政的な能力が十分に備わっていない国への配慮として、国情や能力の違いを考慮した柔軟性を付与し、先進国とは異なる「能力に応じた」例外的な取扱いを認めている。
  4. なお、パリ協定実施指針の議論とは別に、COP15決定において、先進国全体で官民合わせて年間1,000億米ドルの動員目標が掲げられているが、その実現は、米国の動向等、不確実な要素も多く、予断を許さない状況にある。1,000億ドルの動員実現に向けて、民間資金を呼び込むことを目指すならば、適切な投資環境の整備が求められる。
  5. 経団連HP:http://www.keidanren.or.jp/policy/vape.html
  6. 環境自主行動計画(1997年~2012年)のもと、29業種が41回にわたり目標の見直し・引上げを実施。直近では、2016年度中間レビューにおいて6業種が目標の見直し・引上げを実施。
  7. 経団連HP:http://www.keidanren.or.jp/policy/vape.html
  8. Major Economic Business Forum on Energy Security and Climate Change(エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国ビジネスフォーラム)の通称。2009年に立ち上げ、米国をはじめとする主要国経済団体が参加するパートナーシップ。日本からは経団連が参加。

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