一般社団法人 日本経済団体連合会
環境安全委員会環境リスク対策部会
環境管理ワーキング・グループ
座長 高澤彰裕
今年度の土壌汚染対策法(以下、法)の見直しに向けた審議を控え、昨年、経団連は、内閣府規制改革会議投資促進等ワーキング・グループにおいて、法の規制緩和を求める意見陳述を行った。
その結果、2015年6月30日に閣議決定された規制改革実施計画において、法の見直しについて、「事業者の意見を踏まえつつ、人の健康へのリスクに応じた必要最小限の規制とする観点から検討し、結論を得る」こととされた。これを踏まえ、中央環境審議会土壌制度小委員会において規制緩和の方向性が示されている論点については一定程度評価する。
しかし、とりわけ以下の「1.」の「有害物質使用特定施設における土壌汚染状況調査」の論点については、必要最小限の規制とは言えず、事業者にとって非常に大きな負担となり、事業活動に影響を及ぼすことが懸念される。
安倍政権が経済成長を優先課題にかかげ、経済界による国内投資の拡大が期待されているところ、今般の法の見直しにあたっては、人の健康へのリスクに応じた必要最小限の規制とする観点から、検討していただきたい。
1.有害物質使用特定施設における土壌汚染状況調査について
同小委員会では、操業中の有害物質使用特定施設が設置されている事業所の土地、有害物質使用特定施設を廃止した事業所のうち法3条の土壌汚染状況調査義務が一時的に免除されている事業所の土地において、3,000m2未満の形質変更を行う際や土壌を搬出する際には、汚染状態を確認する調査の機会がないため、形質変更に伴って地下水の汚染や汚染土壌の拡散が発生している可能性があるとの指摘が出されている。このため、施設が操業中の事業所については、一定規模以上の土地の形質変更や土壌の搬出を行う際にあらかじめ行政機関に届出を行い、形質変更を行う範囲に限定して調査を行うこととすべきとされている。また、調査が一時的に免除されている土地については、土地の用途変更、形質変更、敷地外への搬出時に、調査義務の一時的免除を解除して調査すべきとされている。
これに対し、まず、土壌が敷地外に搬出される場合の汚染拡散の懸念については、搬出土壌に限定して調査を義務付けて汚染の有無を確認することで対応すべきである。これにより、汚染土壌の拡散の防止は担保できると考えられる。なお、搬出土壌の調査方法については、事業者にとって過度な負担とならないよう、土地の履歴や特定有害物質の使用状況を踏まえ、調査の対象物質を限定すべきである。
他方、操業中の有害物質使用特定施設が設置されている事業所および調査が一時的に免除されている土地で形質変更が行われた場合に、地下水の汚染や健康被害など周辺への影響がどの程度生じているのかについては、必ずしも明らかにされておらず、形質の変更時を新たな調査の契機として追加することは過剰と言え、反対である。
現行法に則り、企業は、操業中の事業所において3,000m2以上の土地の形質の変更を行う際に法4条の届出を行っている。また、法3条により調査が一時的に免除されている土地は、施設廃止後の土地利用方法に鑑みれば汚染土壌の飛散による人の健康被害が生ずるおそれがないと、都道府県知事の確認を受けた土地であることも考慮すべきである。
多数の事業所に有害物質使用特定施設が設置されている現状において、操業中の事業所および調査が一時的に免除されている土地で形質変更時に調査が求められることになれば、調査結果が出るまでの数カ月間、工事が開始できず、環境対策や安全対策などに必要な投資や競争力強化のための投資に多大な支障を来たす。また、多額の調査費用が必要になる。
2.臨海部の工業専用地域における新たな特例区域について
臨海部の工業専用地域においては、一般の人が地下水を飲んだり、直接土壌を摂取することによる健康被害が発生するリスクはきわめて低いと考えられるため、新たな特例区域を新設し、10m2ではなく3,000m2以上の区域内での土地の形質変更および土壌の移動の際の届出を年1回、事後で良いこととすべきである。
新たな特例区域の認定を受けるにあたっては、まず土地所有者が個別あるいは共同で、「簡易な調査」の結果および「自主管理計画」をもって都道府県知事等に申請する。
ここで言う「簡易な調査」には、一般の人の立ち入りが制限されていること、周辺に飲用井戸がないこと、地下水が流れる方向、履歴調査の内容が含まれることで足りることとすべきである。環境省が求める専ら埋立材由来汚染かつ第二溶出量基準適合を確認するためには試料を採取して調査を行う必要がある。これは簡易な調査とは言えず、事業者にとって過大な負担となる。
「自主管理計画」には、新たな特例区域内の土地の形質変更に伴う土壌の移動を記録・保存すること、原則として区域外に土壌を搬出せず、搬出する際には地歴調査で汚染の恐れがあると判断される特定有害物質について調査を実施すること、形質変更時の施行方法を埋立地管理区域並みとすることにより地下水の汚染を防止すること、運搬時の飛散流出防止対策を行うことなどが含まれ、自治体との協議により決定することとすべきである。また、臨海部では地下水が基本的に海に向かって流れていることに加え、上記のとおり施行方法を自主管理することにより地下水による汚染の拡散は防止できるため、地下水の常時モニタリングを自主管理計画の必須項目とすべきではない。
申請を受け、都道府県知事等は、簡易な調査の内容および自主管理計画の妥当性を確認したうえで、新たな特例区域として指定・公示すべきである。
3.自然由来・埋立材由来基準不適合土壌の取り扱いについて
東京湾、伊勢湾、瀬戸内海では、高度経済成長期に埋立用材料等を採取したことによる大規模な深掘り跡が確認されている。環境省は、深掘り跡において貧酸素水塊が発生し、魚介類に悪影響を与えるため、埋戻しを実施していく必要があるとしている(2015年12月中央環境審議会答申「第8次水質総量削減の在り方について」)。
深掘り跡の埋戻しや水面埋立利用にあたっては、資源の有効利用の観点から、埋立地特例区域や埋立地管理区域の汚染土壌のうち、地歴調査の結果、自然由来または埋立材由来であることが判明し、海洋汚染防止法の水底土砂判定基準に適合する土壌の有効利用を可能とすべきである。