経団連環境安全委員会
1.昨年末に開催されたCOP21では、すべての主要排出国が気候変動対策に取り組む「パリ協定」が採択された。わが国が約束草案として提出した「2013年度比26%削減」という貢献目標は、他国に比しても遜色ない、野心的な目標である。国際的な法的拘束力はないものの、わが国として、その達成に向けて真摯な努力を行う必要がある。
経団連としても、低炭素社会実行計画を着実に推進し、政府の目標達成、地球規模・長期の気候変動対策に貢献していく。2.今回公表された「地球温暖化対策計画(案)(以下、計画案)」は、約束草案に盛り込まれた対策を着実に実行することを掲げ、産業界の対策の柱として、「低炭素社会実行計画」を位置付けている点を高く評価する。
3.その上で、「計画案」について、以下の通り意見を述べる。
(1) 長期目標を記載すべきではない(6頁31~35行目)
- 今回の計画案は、エネルギーミックスや低炭素社会実行計画など、具体的な対策に基づき策定した約束草案の実現を目指すものであり、計画期間は2030年度とされている。長期目標は計画期間外であり、また、約束草案で示した2030年度の中期目標とは異なり、具体的な対策の裏づけを欠いている。
- 計画案に示された「2050年80%削減」という数値目標は、2008年に政府が掲げた数字を十分な検討なく踏襲したものであり、東日本大震災後のわが国エネルギー事情の変化等を踏まえておらず、適切でない。
- 2030年以降の長期目標について、パリ協定では世界全体での目標を掲げており、わが国一国のみの削減率を掲げるべきでない。
これらの点について、十分な議論がなされないまま具体的な目標を記載することは将来に禍根を残す。 - やむを得ず長期目標を記載するにしても、「経済成長への影響、エネルギーミックスの実現状況と技術革新の動向、さらには各国の削減努力を見極めつつ」といった前提条件を加えることが必要であり、これらの前提条件が満たされない場合は、目標自体を見直す方針を明確に記載すべきである。
- なお、長期目標の達成には技術革新が必須である。技術革新は非連続的に生じるものであることから、長期目標から直線で毎年の削減率を割戻し、規制色の強い対策を検討すべきではない。
(2) 国内排出量取引制度に関する記載を削除すべきである(53頁22~26行目)
- 国内排出量取引制度は、日本が国連に登録している「約束草案」の算定根拠となっていない。「約束草案」に掲げた施策を着実に実施すれば、2013年度比26%削減は実現可能である。
- 経済界は、排出量取引制度をはじめとする規制的手法は、経済活動を阻害し、「環境と経済の両立」を困難にするばかりか、長期の温暖化対策に必要な研究開発投資の原資も奪うことから、記載に強く反対する。
(3) 国民運動の実効性を高めるべき(47頁11~42行目)
- 家庭部門のCO2排出量は過去増加の一途をたどってきた。これを2030年度までに4割削減するためには、国民運動を実効あるものとする必要がある。
- そこで、「家庭部門4割削減」という明確な目標の下、国民運動のPDCAサイクルを展開し、環境省が責任をもって目標の実現に取り組む旨を記載すべきである。
(4) 温暖化対策における原子力の重要性を明記すべき(39頁30~36行目)
原子力は、「計画案」にも記載のとおり、温室効果ガスを排出しないベースロード電源である。したがって、発電所の再稼働に関する記述のみならず、温暖化対策の観点から必要不可欠な重要な電源である旨や、原子力の事業環境整備を進める旨を記載すべきである。
(5) パリ協定への対応は各国の動向を見極めるべき(7頁35行目~8頁11行目)
パリ協定の締結については、京都議定書の教訓を踏まえ、各国の対応を慎重に見極める必要がある。7頁37行目については、「各国の動向を踏まえつつ、パリ協定の署名および締結に向けての必要な準備を進め、・・・」に改めるべきである。
環境省 平成28年3月15日付け報道発表資料
「地球温暖化対策計画(案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について(お知らせ)
添付資料「地球温暖化対策計画(案)」