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「デュー・プロセス・ハンドブック」に対するコメント

「デュー・プロセス・ハンドブック」改訂に係る、コメントの機会を頂いたことを歓迎する。本改訂が、昨年の「アジェンダ協議2011」で経団連の主張した、基準開発に係る「安定的なプラットフォームの構築」に資するように、IASB及びIFRS解釈指針委員会の基準開発のデュー・プロセスを改善することを期待して、以下のコメントを提出する。

質問1

「監督」と「責任」を明確化することでDPOCが行うプロセスの透明性が増す為、同意する。しかし、以下の点について、不整合・改善すべき点があるので、考慮願いたい

  • DPOCの負う責任・機能の範囲について、2.4では、「IFRSの開発段階全体」、2.8では、「IASBの基準設定活動」、2.9では、「IFRS又は解釈指針の開発全体」とある。しかしながら、本ハンドブックが、DPOCの監督領域について、アジェンダ設定以前の調査研究プログラムを含めた基準開発に係る全ての作業を意図していることは明らかであり、また、そうであるべきである。従って、区々となっている2.4、2.8、2.9の表現を、「基準開発に係る全ての作業(調査研究プログラム・適用後レビューを含む)」などと、訂正すべきである。

  • 2.8において、DPOCは、IASBの基準設定活動を「定期的に」レビューするとある。しかしながら、2.7、2.10においては「適時に…運営」「適時に報告」とあり、本来的にも、DPOCは、IASBの基準設定活動を「適時に」レビューすべきであることから、「定期的に」という表現を「適時に」に変更すべきである。

質問2

各プロジェクトの段階毎のデュー・プロセス手続きを公開することは、透明性のあるデュー・プロセスの実現に資するので、同意する。但し、以下の点に、留意願いたい

  • 単に、基準開発の各段階におけるデュー・プロセスを記載するだけではなく、各段階における議論が、最終的な基準開発に反映されたのかどうか、反映されなかった場合はなぜ反映されなかったのかも含めて記載頂きたい。

  • 付録4にある表に加え、アジェンダ協議で収集した意見をどのように取り纏め、方向性を決定したかを明確にするための表を追加して頂きたい。

  • 表形式のみだけではなく、図(フローチャート)等を用いて、視覚的により見やすい形式で開示すべきである。

質問3

まず、範囲の狭いプロジェクトと包括的なプロジェクトを区別することには同意する。限定的に基準を見直すことで改善可能であれば、機動的に短期間で対応できる仕組み(範囲の狭いプロジェクト)があることは有効だからである。

次に、調査研究プログラムの導入についても同意する。これにより、アジェンダに上げる前に、広範な市場関係者による意見聴取が可能になり、基準開発の出戻りによる資源の浪費を防ぐことが可能となるからである。しかしながら、次の点を考慮願いたい

  • 「金融危機に対応するための基準開発」等のように、基準開発に緊急性が伴うもの等は例外として、事前の調査研究が不要な場合もある。しかしながら、例外として事前の調査研究が不要なものと、必要なものとの線引きが明瞭ではない。例外対応が乱用されることを避けるために、事前調査が不要である場合の条件を明確に記載すべきである。

  • 4.17について、「研究調査ペーパー作成におけるIASBの関与を記載すべき」としながら、「研究調査ペーパーを公開の場で議論しない場合は、IASBの見解を作成しないことがある」としている。しかし、基準開発に係る予見可能性を示すという点で、IASBの見解の表明は非常に重要であり、IASBが見解を表明するか否かを「公開の場で議論しているか否か」のみで規定すべきではない。従って、「IASBが見解を表明するか否か」に係る要件を明確化すると同時に、見解を表明しない場合は、その理由を当該研究調査ペーパーに明記するべきである。

質問4

まず、解釈指針についての却下通知の草案の公開期間を30日から60日に延ばすことについては、デュー・プロセスの改善であるので、同意する。加えて、解釈指針の却下通知案へのコメントを、IFRSの公開草案と同様に、ホームページで公開して頂きたい。

一方で、2点目の、再公開草案に係る最低限のコメント期間を120日から60日に短縮する提案については、デュー・プロセスの後退であるので、反対する。特に、非英語圏では翻訳のプロセスが必要であり、狭い範囲のみの改訂であっても、高々60日の公開期間では、対処し難い場合もある。また、企業の経理責任者あるいはCFOは決算期等の繁忙期の場合はコメントを提出することが困難となる場合もある。このような理由から、再公開草案に係るコメント期間を120日から短縮するべきではないと考える。

また、同様の趣旨から、短いコメント期間が容認される以下の3つのケースについても、再考をお願いしたい

  • ・ 4.20、ディスカッション・ペーパーへのコメント。情報要請の場合は最低60日、その範囲が狭い場合はより短い期間でも可能

  • 6.7、IASBの公開草案に対するコメント。原則120日だが、範囲が狭く緊急性がある場合は30日を下回らない期間

  • 6.8、更に例外的な場合は、コメント期間を30日より短縮可能

質問5

  1. (1) 投資者及び財務報告書の他の利用者(3.45~3.47)
    投資家はコメントレターの提出者として少数派となる傾向があるため、新規のIFRSの提案等の場合には、IASBが投資家と別途協議する旨の記載である。IFRS基準開発においては、投資家とともに、他の市場関係者とのバランスを重視することが重要である。とりわけ、企業は作成者として、実務的な視点から、堅牢な基準開発に貢献すると同時に、財務諸表の利用者でもあり、その視点は基準開発にも有用であると考えられる。企業を含めたより広い協議の場を増やすべきである。

  2. (2) サンセットレビューについて
    これまで、一旦IASBの作業計画に取り上げられたプロジェクトが、その後、作業計画どおりに進捗しない例が多く見られた。この時に、徒に長期にわたる無為な検討を続けては、市場関係者の作業計画に対する予見可能性が低下し、開発資源の無駄使いとなる。従って、当初の作業計画に大きく遅延する事態に至ったプロジェクトは、その開発を取りやめるか否かの決定手続を行う旨(サンセットレビュー)を明確に規定すべきである。

  3. (3) IFRS財団ウェブサイトにおける情報(3.33)
    作業計画を、「定期的に更新」すべきとしている。しかし、「定期的に更新」するだけでは、十分な情報開示にはならない。「定期的に更新」を、「適時に更新」と改めるべきである。一方で、「適時」であっても、頻繁に更新されることは、市場関係者の予見可能性を低下させる。この点、作業計画を、IASB内でより慎重に議論し、相当の権威付けを行った上で公表すべきと考える。この旨も明確にして頂きたい。

  4. (4) 担当IASBメンバー(3.39)
    頂いた改訂案においては、主要プロジェクトについて、IASB議長がIASBの特定のメンバーを担当とすることが提案されているが、この記載のみでは、選ばれた特定のメンバーの考え方・見解が、スタッフ・ペーパーに直接的に反映される場合があるのではないかとの懸念が残る。このような懸念を現実のものとしないことを担保するために、少なくとも、「IASB担当メンバーは、個人の考え方を、スタッフ・ペーパーに反映させず、中立的な存在でなければならない」点を記載頂きたい。

  5. (5) 各国及び各地域のネットワーク(3.48~3.51)
    日本及びアジア諸法域の多様なフィードバックを反映し、より有用な基準開発に貢献する為、日本に誕生するアジア・オセアニアオフィスを有効活用(IFRSドラフティング、フィードワークの実施等)して頂きたい。

  6. (6) 審議の完了(6.24)
    IASBが大規模修正を、再公開を経ずに公表する場合に、書面投票に至るまでに踏むべきプロセスが記載されているが、「IASBが、再公開が必要ない理由を説明する」だけでは足りず、より慎重に、「DPOCと協議しDPOCの承認を受ける」という手続きを追加すべきである。

  7. (7) 基準化後の準備期間の確保(「付録4-デュー・プロセス手続き書」)
    「付録4-デュー・プロセス手続書」の表においては、基準の発行日を「一般に少なくとも1年」以上後に設定するとしている。しかし、各国での適用実績がない全く新しい概念を導入しようとする基準等については、適用にあたって入念な手続きが必要な基準もある。このような場合、適用までに、必要十分な検討と準備期間の確保をお願いしたい。

  8. (8) 本ハンドブックでは、アジェンダ・コンサルテーションを3年ごとに協議するとしている。しかし、3年ごとにアジェンダ・コンサルテーションを行い、IASBの活動方針を新しいものとすることは、IASBの安定的な基準開発活動の支障となる可能性がある。従って、アジェンダ・コンサルテーションに基づくIASBの活動は、より長いスパンで安定的に運営することを考えるべきである。

  9. (9) 本ハンドブックに記載の各運用に瑕疵があった場合の取り決めを、より明確に規定することで、本ハンドブックの実効性を高めるべきである。

以上

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