経団連は3月5日、雇用政策委員会人事・労務部会(直木敬陽部会長)をオンラインで開催した。同部会は、「若年社員のさらなる活躍推進」をテーマに、2024年から研究を進めている。今回の会合では、実践女子大学人間社会学部の初見康行准教授が「若手社員の人材育成の方向性」と題して講演したほか、若手社員の活躍推進について企業から事例を聴取した。初見氏の講演の概要は次のとおり。
■ 人的資本経営における「人材育成」のあり方
昨今、人材を「資本」として捉え、中長期的な企業価値の向上につなげる「人的資本経営」に注目が集まっている。その実現には、経営戦略と人材戦略の連動が欠かせない。企業には、自社の経営戦略の遂行に必要な人材ポートフォリオを作成し、「現在」と「あるべき姿」のギャップを埋めることが求められる。そのための手法の一つが、人材育成(リスキリング等での育成)である。
これまで日本企業は、「人材育成=能力開発」との考えに基づき、教育訓練を通じたスキルアップが生産性を向上させるという暗黙の前提があった。それを示すように、最も採用されている人材育成投資の一つが「資格取得の支援」である。
しかし、日本生産性本部から依頼を受けて私を含む複数の有識者で行った調査結果によると、教育訓練の充実と生産性向上には、直接的な関係が認められなかった。一方で、企業理念への共感や自己効力感といった従業員の「マインド(心の状態)」が生産性に大きな影響を及ぼすことが分かった。つまり、マインドが、人材育成投資と生産性をつなぐ重要な媒介変数といえる。そこで、従業員のマインドを人材育成投資の対象として明確に位置付け、スキルとマインドの両立を目指していく必要がある。
■ 「働く目的(仕事観)」への介入と重層化
若手社員の早期離職を防ぎ、ワークエンゲージメントを高めるには、企業が若年社員の「働く目的(仕事観)」に介入することが望まれる。
働く目的の数とワークエンゲージメントの関係を調査した研究結果によると、性別・年代に関係なく、働く目的として「お金を得る」だけを回答した人が最も多く、その場合のワークエンゲージメントは低い。一方、例えば「生きがいを見つける」「社会や人の役に立つ」など、働く目的を複数回答した人のワークエンゲージメントは高く、働く目的の数が増えるほど、エンゲージメントも上昇傾向にあることが確認された。
この結果を踏まえ、若手社員の育成に向けて、「働く目的(仕事観)の重層化」を企業としてサポートすることを提案する。そのポイントは、答えを教える「ティーチング」ではなく、対話を通じて対象者が自ら考えて行動していくことを促す「コーチング」によって、若手社員の働く目的を引き出していくことである。若手社員一人ひとりが「自分らしい働く目的」を持ちながら、自身が属する企業と仕事にエンゲージしていくことが理想である。
コーチングの実施者は、直属の上司だけでなく、身近な若手リーダー層に任せ、マネジメント能力の育成にもつなげることが有益といえる。一方で、適切なコーチング技術の習得と施策効果の測定等には費用や時間がかかるうえ、若手社員の働く目的(仕事観)と自社の方向性を擦り合わせる技術が必要となる。これらの課題を認識したうえで、評価面談や1 on 1ミーティングでコーチングを導入していくことが望ましい。
こうした取り組みを通じて、企業が若手社員の働く目的(仕事観)に介入してワークエンゲージメントを向上させることが、若手社員の人材育成の方向性であり、活躍推進に向けた要諦といえる。
【労働政策本部】