経団連は11月5日、東京・大手町の経団連会館で農業活性化委員会企画部会(川添雄彦部会長)を開催した。三菱総合研究所の稲垣公雄研究理事・食農分野連携推進本部長から、食料自給率・食料安全保障の捉え方とわが国農業の課題などについて、説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 食料自給率の捉え方
わが国の食料自給率はカロリーベースで約40%、生産額ベースで約60%と、米国、カナダ、オーストラリアなどごく一部の先進国かつ穀物の大生産国を除けば、国際的に見てそれほど低い水準ではない。カロリーベースの自給率は確かに低下の傾向にあるが、これは国内で自給できているコメの消費量の減少が主な要因であり、必ずしも農業生産力の低下を一義的に示すものではない。輸入穀物については現在、米国、カナダ、オーストラリア、ブラジルの4カ国からほぼ全てを賄っている。このうち、小麦と飼料用穀物を国産化すれば、カロリーベースの自給率は19%向上すると見込まれる。しかし実現には、最低でも約9000億円の追加コストがかかるため、わが国の財政状況を考えれば簡単に取り得る選択肢ではない。また足元では、これらを国内生産したから食料安全保障のレベルが上がるわけでもない。
■ 食料安全保障の状態と課題
現状、日本の食卓は豊かという意味で、食料安全保障のレベルは高いといえるだろう。この状況は、(1)生産額ベースで6割は国内で自給できていること(2)日本に一定の経済力があり海外からも食料を不自由なく調達できていること(3)世界の食料生産と供給システムが安定的に機能していること――のうえに成り立っている。
わが国の食料安全保障に対するリスクとしては、国内の農業生産基盤の減少と海外からの輸入の不安定化が考えられる。ただ、このような大きなリスクが短期間で顕在化する可能性は高くないと見込んでいる。最も恐れるべき状況は、2040~50年ごろに日本の農業生産力が大幅に弱体化しているなかで、世界的な干ばつや異常気象による急激な食料危機が発生するような事態である。その際に国内で現状並みの生産力を維持するためには、(1)国民1人当たり3.5アールの農地とそれを生産できる経営体・人材(2)その人材が所得を安定的に得られる状況――を維持する必要がある。それが日本の食料自給「力」に他ならないが、有事の際の食料自給力は危険な水準に入りつつある。将来にわたっても、最低限国内で必要となる食料が自給できるだけの生産基盤を維持しておくことが必要である。
■ 国内農業の見通しと目指すべき姿
三菱総合研究所では、成り行きの見通しとして、50年に経営耕地面積は現状の約420万ヘクタールから約280万ヘクタールまで減少すると推計している。前述の考えを踏まえて、経営耕地面積約350万ヘクタールを、50年に目指すべき状態として提言した。この規模を実現するためには、経営耕地集積に向けた法制度の見直し、予算や人材確保など行政機構の強化、農業人材・農業法人の農業生産力と経営力の育成、農業インフラのデジタルデータの整備、デジタルトランスフォーメーション(DX)などの施策を推進すべきと考えている。
環境負荷の削減に向けた対応も、大きなビジネスチャンスにつながる可能性がある。ここでは、生産プロセスの革新と、クレジットなどによる価値移転の仕組みが重要である。当面は、生産性の向上と環境負荷の低減を両立させるイノベーションに期待している。
【産業政策本部】