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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2024年11月28日 No.3661 2024年米大統領選挙総括 -ワシントンレポート

2024年米国大統領選挙は、選挙人312対226でドナルド・トランプ前大統領がカマラ・ハリス副大統領を破り、史上2人目の大統領職への返り咲きを果たす結果となった。投票日直前の接戦7州の世論調査は、両候補が誤差の範囲内という僅差であったが、トランプ氏が7州全てで勝利し、数字上は予想以上の大勝となった。しかし、ブルーウォール(伝統的に民主党が強い)といわれるミシガン州(1.4ポイント差)、ペンシルベニア州(1.8ポイント差)、およびウィスコンシン州(0.8ポイント差)はいずれも大接戦となった。ハリス氏がこの3州を獲得していれば大統領に選出されていたことを考えると、圧倒的勝利とまでは言いきれない。

選挙結果を左右した大きな要因は、ハリス氏が自ら副大統領を務めていたバイデン政権の不人気を克服することができなかった点である。出口調査では、ジョー・バイデン大統領個人の評価は40%が好意的、58%が批判的であった。また、有権者が最重要視した課題は経済と不法移民問題であったが、いずれについても有権者はバイデン政権の政策(インフレ進展につながった数兆ドルもの政府支出や不法移民の流入を阻止できなかった国境政策)に批判的だった。有権者は経済政策については10ポイント差で、移民政策については17ポイント差でそれぞれトランプ氏を支持し、ハリス氏は結局バイデン政権に対する評価と距離を置くことができなかった。

こうした不利を巻き返すために、ハリス陣営はトランプ氏を権威主義的だとして、民主主義に対する脅威と個人的批判を繰り返した。しかし、民主党ベース支持者以外はトランプ氏をそこまでの脅威とは認識しなかった。前述の出口調査では、55%がトランプ氏は大統領にふさわしい人格を持たないとしながら、52%がトランプ氏は正しい政策アイデアを持っていると評価した。米国の民主主義は危機に陥っていると答えた人の間でも51%対48%で、トランプ氏の支持が上回っていた。そして、バイデン大統領の支持率が42%(不支持57%)なのに対し、現時点でトランプ政権時を振り返ってのトランプ氏の大統領としての支持率は52%(不支持48%)であった。無党派層は、トランプ氏個人を問題視する以上に、現政権とトランプ前政権の実績を比較していたと考えられる。

トランプ氏の選挙人獲得数における大差よりもさらに驚くべきは、20年に比べてトランプ氏がその支持を幅広く拡大した点である。勝利の原動力となった接戦州での支持拡大だけでなく、保守州のみならず民主党州まで、実にトランプ氏は50州全てにおいて20年の得票率を上回った(11月20日時点)。これは1992年に当時のビル・クリントン候補が49州において88年の民主党候補の得票率を上回って以来の水準である。

今回のトランプ氏の支持層はより幅広く、多様であった。若年層、黒人、ヒスパニックの有権者間でも、かつてないほどの支持を得た。特にヒスパニック有権者の支持の趨勢は注目に値する。全米のヒスパニック有権者の過半数はハリス氏に投票したものの、トランプ氏は43%と迫っており、なかでも男性ヒスパニックではハリス氏49%、トランプ氏48%の僅差であった。ヒスパニック有権者が重視する政策課題も今回は他の有権者と同様、経済政策であった。

トランプ氏の「労働者階級向け政治」は、人種や民族の壁を越え、従来は白人に偏っていた共和党支持層を多様なものに変えることに成功した。共和党系世論調査専門家のパトリック・ラフィニー氏が提唱していた「多民族ポピュリスト連合」(Multiracial Populist Coalition)実現に向けたさらなる前進である。トランプ陣営は、人種・民族グループごとに異なったアプローチを取るのではなく、米国民の優先課題である経済、不法移民、インフレの対策について一様に語りかけることで成功した。ワシントン・ポスト紙のコラムニストであるファリード・ザカリア氏は、民主党が各グループ単位でしか捉えられない「identity politics」に固執するあまり、トランプ氏へ支持が流れていることに気付くのが遅れたと指摘する。今回の選挙結果が、人種・民族単位の対立を軸とした政治アプローチからの脱却につながるとしたら、それは米国政治における重要な変化といえる。

今回の選挙で米国社会が依然として分断されていることが示されたが、民主党は、有権者が問題視する分断を読み違えたのではないか。投票のカギとなったのは、民主党が注力する人種・性別・LGBTQといった社会的な分断より、階級や学歴の違いによる経済的な分断の方だった。ハリス陣営は、自分たちが考える「有権者が関心を持つべき問題」を半ば啓発するかのように働きかけた。一方のトランプ陣営は、有権者の実際の関心事項に合わせて働きかけた。その差が有権者に、候補者個人の人格よりも政策を優先させることとなり、トランプ氏の勝利につながったと考えられる。

【米国事務所】

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