経団連の労働法規委員会(鵜浦博夫委員長)は6月16日、東京・大手町の経団連会館で「重要労働判例説明会」を開催した。経営法曹会議所属弁護士の木下潮音氏(第一芙蓉法律事務所)から、最新の重要労働判例3件の概要や企業が留意すべき点について説明を聞いた。紹介判例とその解説内容は次のとおり。
■ 大王製紙事件(東京地裁平成28年1月14日判決)
同控訴事件(東京高裁平成28年8月24日判決)
内部告発を行った労働者に対して、企業が命じた配置転換、降格処分、出向、懲戒解雇の各人事について、告発を行った労働者がいずれの人事も無効であると主張した事件。
東京高裁は、告発内容、手段に正当性を欠き、正当な内部告発とはいえないとしている。よって、就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が認められ、企業が行った降格処分については有効であるとしたものの、その後企業が実施した出向命令については合理性がなく無効とし、無効な出向命令を拒否したことによる懲戒解雇についても同様に無効であるとした。
内部告発・公益通報が正当であると認められるためには、告発内容が(1)真実であるか、または告発者が真実であるとした相当な理由があるか(2)公益的な目的に基づくものであるか――という2点が重要である。懲戒事由が認められたとしても、その後の懲戒・人事の内容に合理性がなければ無効と判断される可能性が高いことに留意する必要がある。
■ 山梨県民信用組合事件(最高裁第二小平成28年2月19日判決)
企業合併時の退職金支給基準引き下げにかかる労働者の同意の有無について紛争となり、労働者側が変更前の支給基準による退職金支払いを求めた事件。
最高裁は、合併後の基準変更に際して就業規則の変更がなされていないのであれば、同意の有無につき審理判断するまでもなく、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める合意として無効であるとした。
退職金に関する不利益変更では、企業再編実施後、長期間を経て紛争化する可能性がある。そのため、企業再編にかかる労働条件変更は個別労働者の同意によるのではなく、画一的集団的な労働条件決定である就業規則変更手続きにより、紛争を惹起することなく実施すべきである。
■ 国際自動車事件(最高裁第三小平成29年2月28日判決)
タクシー会社に運転手として勤務する従業員が、歩合給の計算にあたり、残業手当(深夜手当等含む)が控除されて計算されている賃金規則は無効であり、未払い賃金の支払いを求めた事件。
最高裁は、残業手当を控除する歩合給の定めが無効であると解することはできないとしたものの、割増賃金を支払ったかどうかの判断が必要であり、(1)通常賃金と割増賃金部分とに判別できるか(2)判別できる場合、支払われたとされる割増賃金が労働基準法による計算を下回らないか否か――を検討すべきとして原審に差し戻した。
現在、ドライバー職の時間外手当の不払いが話題となっており、今後も同様の紛争が増加するものと思われる。年俸制などと称して基本賃金と割増賃金の区別が契約上明示されていない給与支給は、不適切とされるおそれが高い。
【労働法制本部】