経団連は6月15日、東京・大手町の経団連会館で教育問題委員会(渡邉光一郎委員長、岡本毅委員長)を開催した。東京大学の小林雅之大学総合教育研究センター教授から格差是正のための教育政策のあり方について、説明を聞くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 懸念される教育格差の拡大
教育の機会均等は、価値概念であり一義的には定義できないが、ここでは教育を受ける機会が国民に平等に保障されること(集団間で教育の結果に差がないこと=結果の平等)と定義する。教育の機会均等は、社会経済格差の解消の前提条件であり、特に高等教育においては人材の有効活用といった側面からも重要である。
しかし、現実には具体的な政策に乏しく、地域間、男女間、所得階層間などさまざまな格差が存在する。特に所得階層間では、以前は家庭の所得による大学への進学率の差異がそれほど見受けられなかった成績優秀者層においても、近年では家庭の所得が低くなればなるほど進学率が下がるというデータもある。所得が低くても成績がよければ何とか教育費を捻出して進学させる、という「無理する家計」が日本の高等教育を支えてきたが、そういった層が徐々に大学へ進学できなくなっており、所得階層間の教育格差が拡大していることが懸念される。
■ だれが教育費を負担するのか?
教育費をその負担主体によって分類すると、まず公的負担と私的負担に大別される。私的負担は家計負担と民間負担に分けられるが、民間負担(企業や慈善団体など)は世界的にみてもそれほど多くはなく、家計負担は親(保護者)負担と子(学生本人)負担に分けられる。つまり、教育費の負担主体は実質、公的(政府)、親、子の三者となっており、その構成割合は国や国民の教育観によって異なる。
日本は親負担の割合が高いが、世界的にみると大学進学率の上昇や授業料の高騰による負担増が公財政や家計を逼迫し、本人負担(個人主義)へと移行している傾向がみて取れる。日本でも近年では奨学金等を利用して本人が負担する学生の割合が増加している。
■ 世論を動かすエビデンス
高等教育の機会均等実現に向けて、教育費の家計負担を軽減する方策としては、学費の無償化や給付型奨学金の拡大、授業料減免の拡大等がある。高等教育の無償化も有効な方策ではあるが、所得逆進的との指摘があるほか、残念ながら現状では世論の支持を得てはいない。
世論を動かすためには、教育の社会経済的効果を示すことが重要で、例えば個人が大学に進学することによる費用便益(注)をエビデンスで示すことなどが有効である。また、憲法改正による高等教育無償化も、現状では国民投票で否決される可能性が高く、そうなればほかの方法での実質的な無償化や負担軽減策の推進も難しくなる。慎重に議論を進めていく必要がある。
<意見交換>
引き続き行われた意見交換では、経団連側からの「教育投資のための財源はどうすべきか」との質問に対し、「保険では負担層の範囲が限定的であるため、基本的には税財源で考えるべきだ」との回答があった。
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懇談終了後は、提言「第3期教育振興基本計画に向けた意見」(案)について審議が行われ、承認された。
(注)大卒者・院卒者1人当たりの費用便益分析:(1)費用=253万7524円(学部・大学院在学期間中の公的投資額)(2)便益=608万4468円(大学・大学院卒業者の公財政への貢献)(3)1人当たりの効果額=354万6944円(約2.4倍の効果)
※ 出典=2010年文部科学省委託調査「教育投資が社会関係資本に与える影響に関する調査研究」
【教育・CSR本部】