2014年6月の定時総会で経団連会長にご選任いただきましてから、4年が経過いたしました。当時の日本経済は、デフレ状態が続くなか、GDPは20年前の水準を下回っておりました。アメリカ、中国をはじめ諸外国では堅調な成長が続く一方、日本だけが世界の成長から取り残される状況となっておりました。
こうしたなかでこの4年間、アベノミクスのもとで政治と経済が連携しながら、デフレ脱却、経済再生、GDP600兆円経済の実現を最優先課題に掲げて取り組んでまいりました。
その結果、景気は、66カ月連続で拡大基調を続け、GDPはこの間、60兆円上積みされ、550兆円の水準にまで伸びてまいりました。企業収益、税収、雇用も大きく改善しました。昨年後半来、企業の設備投資も活発化し始め、守りから攻めへの転換がみられるようになって来ました。成長への好循環の確かな兆しが出てまいりました。日本経済は新しい成長ステージに入りつつあるといえるのではないかと思っております。
さて、私は会長に就任して直ちに経団連の中長期計画の策定に取りかかり、半年後の2015年1月に、中長期ビジョン「『豊かで活力ある日本』の再生」を取りまとめました。このビジョンでは、2030年を見据えて、日本が目指すべき国の姿を描き、政府、企業、国民が成し遂げるべき課題を示しました。経団連はこの4年間、このビジョンが描く国の姿を実現すべくさまざまな課題に取り組んでまいりました。
具体的には、成長戦略、構造改革、経済外交の推進を3つの柱として重点的に取り組んでまいりました。
■ 成長戦略 ― Society 5.0
成長戦略のなかで、特に力を入れて推進してきたのは、「Society 5.0」の実現です。Society 5.0は、政府の成長戦略のなかでも中核課題に位置づけられております。Society 5.0とは、ご案内のとおり、IoT、AI、ビッグデータ、ロボットなどの革新技術を駆使することにより、経済成長と合わせて社会的課題の解決を目指すものであります。Society 5.0は、19世紀に英国で始まった産業革命に匹敵する、いうならば文明全体の飛躍的進化を図るものです。
さらに、Society 5.0により実現する未来社会の姿は、国連が掲げる持続可能な開発目標、SDGsとも軌を一にしていることから、経団連では、Society 5.0の実現を通じて、わが国がSDGsの達成における世界のフロントランナーになるという大きな目標を打ち出しました。今後、具体的な分野において、Society 5.0の社会実装に向けた取り組みが大いに進んでいくことを期待しております。
また、経済の好循環をまわすため、賃金の引き上げに取り組んでまいりました。その結果、皆さまのご理解・ご協力により、5年連続でベアを含む大幅な賃上げを実現することができました。この5年間の累計の賃上げ率は12%に達し、国民の消費活動を支える大きな力になったと考えます。さらに、生産性向上に向けた働き方改革、女性活躍の推進にも力を入れて取り組んでまいりました。
■ 構造改革 ― 規制改革・社会保障改革・財政再建
第2の課題である構造改革ですが、その柱はやはり規制改革です。安倍政権のもとで、いわゆる岩盤規制の撤廃など、大きな進展がみられました。今後はさらに“disruptive”な規制改革の推進を期待したいと思います。
構造改革のもう一つの柱は社会保障改革です。この改革は、もうすでに「あとがない」状況であり、国民の痛みを伴うことになりますが、思い切った改革が必要です。これをやり遂げるためにも、安倍政権には、強固で安定した政権基盤を築いていただきたいと思います。
さらにもう1つの柱は、財政再建です。経団連は、2020年代半ばにプライマリーバランスを黒字化するための道筋を明確化するよう、政府・与党に対し働きかけてまいりました。まずは2019年10月に予定されている消費税率10%への引き上げを確実に進めていくことを求めたいと考えます。また、消費増税に伴う景気変動をならす機動的な対策もあわせて提案をしているところであります。
また、法人実効税率は、この4年間で、34.62%から29.74%まで4.88%ポイント引き下げることができました。日本の産業の競争力強化に大いに資するものと考えます。
今後はさらに25%への引き下げを目指して働きかけを続けてまいりたいと思っております。
■ 経済外交の推進
第3の課題、経済外交ですが、世界情勢は、北朝鮮や中東情勢などの地政学的リスクの顕在化や通商面での保護主義的な動きなど、安全保障・経済両面において緊張が高まっております。こうした現状を踏まえ、経済界の立場から、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化に向けて、力を入れて取り組んでまいりました。
とりわけ、広域経済連携の推進が重要な課題でありますが、日EU EPA交渉の妥結、TPP11の署名が実現するなど、昨年から今年にかけて大きな進展がありました。われわれ経済界の後押しが功を奏したものと受け止めております。
引き続き、日中韓FTAやRCEP(東アジア地域包括的経済連携)など、アジアにおいて包括的で質の高い経済連携を推進する必要があると考えております。
さらに、アメリカや中国など、わが国の主要経済パートナーとの関係強化にも、積極的に取り組んでまいりました。
■ 日米経済関係強化に向けた取り組み
この4年間を振り返って、特に力を入れてきたのは、日米経済関係強化に向けた取り組みです。2015年には、ワシントンDCに経団連米国事務所を開設するとともに、経団連としては初めての試みとなりますが、総勢約100名のハイレベルな経済ミッションをアメリカに派遣しました。以後毎年、ワシントンDCと全米各州に経済ミッションを派遣しています。この3年で合計8回派遣しており、訪れた州の数は延べ15になりました。
現地では、自由貿易推進の重要性や日本企業の米国経済社会への貢献の実績を繰り返し説明し、アメリカの政治・経済各方面の方々の理解を得るよう努めております。
わが国にとって最も重要なパートナーであるアメリカとの関係強化に向けて、今後も積極的に取り組みを続けていく必要があると思います。
■ 日中双方向での経済界の交流
また、アメリカ同様、日中関係もわが国にとって非常に重要な二国間関係です。私が会長に就任した当時、政治・外交面における日中関係は大変厳しい状況にありました。
そうしたなか、経済界の立場から、粘り強く経済交流の維持・発展に取り組むことにより、両国の政治・外交関係の改善を後押しすることができたと感じております。
折しも、今年2018年は日中平和友好条約締結40周年という節目の年を迎えております。今月10日には、李克強国務院総理来日を歓迎して、私が委員長を務めます日中交流促進実行委員会の主催で記念レセプションを開催いたしました。安倍総理のご来席のもと、日中双方より1400名のご関係の方々のご出席を得て、正に国を挙げたかたちで歓迎をいたしました。日中友好協力関係のさらなる発展につながる記念すべきイベントであったと思っております。
引き続き、経団連として積極的に日中双方向での経済界の交流を深め、両国の戦略的互恵関係の強化に向けて経済界としての役割を果たしてまいりたいと思っております。
また、国家的イベントへの取り組みについて、一言申し上げます。経団連では、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの成功を目指してさまざまな取り組みを進めております。
さらに、大阪・関西における2025年万国博覧会の誘致実現に向けて、私自身、誘致委員会会長として、国を挙げた取り組みを進めております。今年11月の開催地決定の投票で、誘致成功を勝ち取るべく全力を尽くしてまいります。
■ 政治との連携強化
私は、就任以来、政治との連携強化に取り組んでまいりました。単に政策を提言するだけでは何も実現しません。政策を提言して終わりということではなく、政治とも緊密に連携し、具体的政策の実現に関与する、貢献するということを心がけてきました。
経団連会長として出席した総理をヘッドとする政府の会合は、経済財政諮問会議、産業競争力会議、未来投資会議、人生100年時代構想会議などですが、この4年間で130回を超えました。こういった場で、経済界を代表する立場で直接総理に対して政策提言をする機会を得ました。このように、政治と経済は車の両輪という基本的な考えのもとに実践してまいりました。その結果、経団連に対する社会や政界・官界そして会員企業の皆さまの信頼や期待も高まってきている手ごたえを感じているところでございます。
私は本日、経団連会長を退任いたしますが、会員の皆さまには、この4年間、絶大なるご支援・ご協力をいただきました。ここにあらためて心から感謝申し上げたいと思います。また、中西新会長にも、同様のご支援・ご協力をお願い申し上げます。
また、4年間、多大なご支援をいただきました岩沙審議員会議長、副会長、副議長、委員長、事務局の皆さまにも、心より感謝を申し上げます。
最後でございますが、デフレ脱却・経済再生の早期実現、経団連のますますの発展、そして皆さま方のご健勝を祈念申し上げまして、私のごあいさつとさせていただきます。