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会長コメント/スピーチ  会長スピーチ 経団連ビジョン「豊かで活力ある日本」の再生
-Innovation & Globalization-
~読売国際経済懇話会における榊原会長講演~

2015年1月19日(月)
於:帝国ホテル 本館中2階 光の間
講演資料はこちら

「豊かで活力ある日本」の再生 -Innovation & Globalization-

経団連では、この1月1日、2030年のあるべき日本の姿を見据えた将来ビジョンを発表いたしました。経団連としてビジョンの策定は8年ぶりとなります。

皆様のお手元に、ビジョンの冊子をお配りしております。表題を「『豊かで活力ある日本』の再生」、副題を「Innovation & Globalization」としております。

本日は、このビジョンの内容を中心に、経団連活動を遂行する上での私自身の決意と想いも含めまして、お話をさせていただきたいと思います。

日本の名目GDPの推移

この図は1993年度から2013年度までのわが国の名目GDP(国内総生産)の推移を示したものです。

ご覧のように、この20年間GDPは全く増えておらず、むしろ減っています。この20年間、日本はデフレ経済が続き、経済の成長が全くなかったということです。「失われた20年」と呼ばれる所以であります。

各国の名目GDPの推移

このグラフは、この間の世界各国の名目GDPの推移を示したものです。この20年間、米国は2.4倍、韓国は4.5倍、中国に至っては16.1倍に成長する中、日本は1.0倍を下回っておりまして、日本だけが世界の成長から取り残される状況となってしまいました。

世界GDPに占める日本のGDP

こちらは、世界全体に占める各国GDPの割合です。左側の図、1990年には、アメリカが27%で世界第1位、日本は14%で世界第2位の経済大国でした。しかし、右側の図、2013年になると、日本は7%に半減し、中国の13%に抜かれて世界第3位に転落しました。それだけ世界の中の日本の存在感が低下してしまったわけです。

長引く経済停滞の下で醸成された閉塞感は、日本全体を覆い尽くし、いつしか国民は、将来への明るい夢や希望を持てなくなってしまったのではないでしょうか。

こうした中、「強い経済・強い日本を取り戻す」ことを最重要課題に掲げた安倍政権は、2012年12月の内閣発足以降、スピード感ある的確な経済政策を相次いで打ち出し、長引く経済停滞による閉塞感の打開が期待できる状況になってまいりました。さらに、昨年末に行われた総選挙で、強固な政権基盤を固め、いよいよ、デフレからの脱却と経済再生に向けた、アベノミクスの第2ステージが始動します。日本にとって最大の、そして最後とも言える好機と言うことができると思います。

総人口と65歳以上割合の推移

アベノミクスの経済政策により、経済の緩やかな回復が続いておりますが、先行きは決して楽観できる状況ではありません。

国立研究機関の将来推計によれば、日本の総人口はこれから急速に減少し、2048年には1億人を割り込むと予測されています。また、65歳以上が総人口に占める割合は、現在の約25%から、2060年に約40%まで上昇するなど、本格的な人口減少・超高齢社会の到来が予測されています。現状に安住し、手をこまねいている限り、まさに「ひと」は減り、「まち」は消え、「しごと」はなくなるわけであります。

山積する課題

さらに、①財政赤字の継続と長期債務残高の累増、②社会保障給付費の急速な増加、③原発停止に伴うエネルギー問題、④経常収支の赤字化への懸念など、日本が直面する課題は山積しております。

われわれの世代の責務

明るい未来を切り拓き、子や孫、さらにその次の世代へと活力ある経済・社会を引き継いでいくことは、今日を生きるわれわれの世代の責務であります。

そのためには、現下のこういった危機感を、政府が、企業が、そして国民が等しく共有し、オールジャパンで日本再興に取り組み、経済・社会のダイナミズムを取り戻していかなければなりません。

企業が生み出す付加価値の使われ方

ここできちんと申し上げておかなければならないことは、企業の持続的成長は、国民生活の向上と一体をなすものであるということです。このことを、財務省の「法人企業統計」を引用してご説明します。

企業の経済活動によって生み出される付加価値の規模は、2013年度の実績で276.3兆円です。このうち、6割強の170.5兆円が給与に回り、約4,540万人の雇用を維持・創出することで、2,670万世帯の日々の暮らしを支えております。さらに、企業が負担する税・社会保険料の合計48.3兆円は、国民生活の安心・安全の基盤となっています。また、21.4兆円の営業純益は、経済成長の原動力となる今後の設備投資や研究開発投資の原資となっています。このように企業の成長は、国民の利益に反するものではなく、むしろ生活の向上に資するのだということをご理解いただけると思います。

企業の生み出す付加価値の推移

しかしながら、先ほどご説明した「GDPの推移」と同様、企業が生み出す付加価値額も、この20年間ほとんど横ばいの状態が続いております。国民生活をより一層豊かなものとしていくため、企業は自らの収益力を強化し、付加価値を一層高めていかなければなりません。

そこで、自ら主体的にリスクをとって、設備投資・研究開発投資などの事業拡大投資を行い、積極的に成長機会を創出することで、雇用機会・賃金の拡大に努めることが求められます。

経団連の使命とアクション

一方、今回のビジョンでは、「経団連の使命とアクション」についても、しっかりと書き込んでいます。そのキーワードは、Policy&Actionです。

定款にも記しておりますが、われわれ経団連の使命は、日本の国益や将来を見据え、「企業と企業を支える個人や地域の活力を引き出し、経済の自律的な発展と国民生活の向上に寄与する」ことです。経団連は、民主導の成長実現に向けて、経済界全体の進むべき方向性を示し、企業の積極果敢な行動を先導する役割を担っています。

また、日本経済の再生には地域経済の発展が不可欠との認識の下、経団連は、日本商工会議所や地方経済団体等との連携を従来よりもさらに深め、政治・行政に対して積極的に政策提言・働きかけを行います。

デフレからの脱却と日本再生に向けた正念場にある今、経団連は、政治・行政との意思疎通を密にし、現下の難局を乗り越えるべく、積極的に提言し、自らも果敢に行動してまいる所存でございます。

「イノベーション」と「グローバリゼーション」

私は、昨年6月に経団連会長に就任いたしましたが、その時の就任挨拶でも申し上げましたが、「日本再生」への大きな鍵は、「イノベーション」と「グローバリゼーション」であると考えております。ここで申し上げる「イノベーション」には、二つの意味があります。

一つは、果敢に研究開発や技術開発に挑戦し、新しい事業、新しい産業を起こす、いわゆる「技術革新」です。これは、資源に乏しいわが国が、国際競争力を強化するための重要な生命線であり、経済成長の最も大きなエンジンであります。

もう一つの意味は、旧来の制度や慣行と、その根底にある国民的な意識や社会的な通念を変革する「社会・制度のイノベーション」です。これらのイノベーションの創出を通じて、日本の潜在的な活力を最大限に引き出していくことが重要となります。

「グローバリゼーション」は、日本の強みや魅力などを世界に向けて発信しつつ、海外の活力・成長を積極的に取り込んでいくことです。天然資源の乏しい日本においては、国内のありとあらゆる資源を活用し、「イノベーション」と「グローバリゼーション」を進めていくことで、持続的成長の源泉が生み出されます。

ビジョンでは、こうした考え方をベースに、2030年を展望し、政府、企業、国民等が取り組むべき課題について、可能な限り具体的に書き込みました。

2030年までに目指すべき国家像

2030年を展望する上で、どのような国家像を描くべきかということについて、経団連では、半年にわたり、何度も議論を重ねてまいりました。その結果、目指すべき国家像をここに示す4つに集約しました。

目指すべき国家像の第1は「豊かで活力ある国民生活を実現する」、第2は「人口1億人を維持し、魅力ある都市・地域を形成する」、第3は「成長国家としての強い基盤を確立する」、第4は「地球規模の課題を解決し、世界の繁栄に貢献する」です。

ビジョンでは、それぞれの国家像の具体的なイメージをお示ししております。1番目の「豊かで活力ある国民生活を実現する」では、(1)GDPとGNIがともに名目3%、実質2%程度で持続的に成長する社会、(2)国民生活を大きく変革するイノベーションが次々と生まれる社会、(3)意欲・能力ある若者や女性、高齢者など、誰もが活き活きと働き、持てる能力を最大限発揮できる社会、など5項目を描きました。

続く2番目の「人口1億人を維持し、魅力ある都市・地域を形成する」では、(1)50年後も1億人の安定した人口構造を維持できる社会、(3)「子育て」と「仕事」を両立できる環境を整備した社会、(6)地域経済が活性化し、世界の需要を取り込み、一層発展している社会、などを掲げました。

3番目の「成長国家としての強い基盤を確立する」は、(1)事業環境の国際的なイコールフッティングを実現した社会、(2)国家存立の前提となる財政制度や、社会保障制度の健全性と持続可能性を確保した社会、(4)グローバルに活躍し、イノベーションを生み出せる高度人材を数多く輩出できる社会、などを描きました。

最後の4番目「地球規模の課題を解決し、世界の繁栄に貢献する」では、(1)気候変動、資源・水・エネルギー、自然災害、疫病、医療・健康といった、世界人類が直面する地球規模の課題解決に向けて、中心的役割を果たしていく国の姿を掲げました。

われわれは、これら4つの国家像を目指す中で、がんばった者が報われる社会を築き、日本を、(1)「若者が日本国民であることに誇りを持ち、チャレンジ精神を発揮し、希望ある未来を切り拓いていける国」、(2)「世界から信頼され、尊敬される国」にしていきたいと考えています。

「世界から信頼され、尊敬される国」

折しも昨年12月、スウェーデンのストックホルムにおいて、日本出身の3人の研究者にノーベル物理学賞が授与されました。これは、3氏による青色発光ダイオード(LED)の発明および実用化がLED照明の普及につながり、世界の省エネ化に大きく貢献したこと、さらには、ICT、医療といった様々な技術分野において世界を変える可能性を提供したことを、高く評価されたためであります。まさに、アルフレッド・ノーベルの遺志が求める「人類のために最大の貢献」が認められた結果と言えます。

一つの国が、単に経済発展を誇り、あるいは強大な軍事力を誇っても、世界中の信頼や尊敬を集めることはありません。「世界から信頼され、尊敬される国」とは、今回のノーベル賞受賞者のように、人類の発展や世界の繁栄に資する科学的成果、知的・文化的財産、すなわち普遍的な財産を生み出し続けることができる国であります。

また、同時に、そうした国は、「若者が日本国民であることに誇りを持ち、チャレンジ精神を発揮し、希望ある未来を切り拓いていける国」でもあるわけです。

国家像実現に向けた課題

ビジョンでは、こうした国家像を実現するため、政府・企業・国民等が重点的に取り組むべき課題として、3つの優先課題・「総合課題」と、4つの国家像それぞれに対応する28の「個別課題」を提示しています。

ビジョンでは、それぞれの課題について、2020年と2030年の到達目標を、できる限り具体的に明記しております。

震災復興の加速化と新しい東北の実現

総合課題の第1は、震災復興の加速化と新しい東北の実現です。昨年7月、会長就任直後でしたが、東北に行き、宮城県の女川原発、石巻ほかの被災地を訪問しました。また、昨年末には福島第1原発を視察しました。被災地の現場では、多くの困難にもかかわらず、関係者が復興に向けて大変な努力をされ、着実に成果を上げておられることに大きな感銘を受けました。

一方で、課題も数多く見受けられました。具体的に申し上げれば、被災地の人々が希望と生きがいをもって日々の生活を送れる地域社会を早期に再興するということです。地域の一日も早い復興と、「新しい東北」の実現に向けて、国・自治体・経済界・国民が一丸となり、粘り強い取り組みを展開していかなければなりません。

そこで、国・自治体には、震災復興の司令塔としてのリーダーシップの発揮、企業には、ビジネスを通じた被災地域の活力の向上、そして国民には、被災地への継続的支援といった、それぞれが取り組むべき課題を、具体的に取りまとめました。経団連としても、地域経済の再生への支援を中核として、継続的に復興を支援してまいります。

東京オリンピック・パラリンピックの成功

続いて、総合課題の第2は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの成功です。

半世紀ぶり、2度目となる東京大会開催の決定は、日本中に明るさと希望をもたらしています。他方、図にお示ししておりますように、過去のオリンピック・パラリンピック開催国は、開催後の成長率が落ち込む傾向が見られており、大会後のさらなる成長の実現が課題となります。

そこで、東京オリンピック・パラリンピックの開催を通じて、東日本大震災からの復興を遂げた日本の姿を世界に示すとともに、高品質で安全な製品・サービス・インフラ、奥の深い文化や伝統など、日本の良さを存分にアピールすることが求められます。

また、2012年のロンドン大会の成功例も参考に、大会開催後の持続的成長につながる様々なレガシー、遺産を形成していくことも欠かせません。

われわれ経済界としても、オリンピック・パラリンピックの成功に向けた資金面を含めた貢献を果たすとともに、日本人選手へのバックアップに取り組んでまいります。

時代を牽引する新たな基幹産業の育成

総合課題の第3は、「時代を牽引する新たな基幹産業の育成」です。

日本では、国際競争力ある基幹産業が稼ぎ出した外貨によって、国民生活の健全な発展を支える食料や燃料などの天然資源を輸入しているのが、基本的な経済構造となっています。

日本の基幹産業は、明治初期の繊維業に始まり、造船業、鉄鋼業、半導体産業、電機・機械産業、自動車産業へと、時代とともに変遷してきました。経済の持続的成長を今後とも実現していくためには、時代を牽引する新たな基幹産業を育成していくことが求められます。

そこで、今回のビジョンの策定にあたり、経団連は、将来的な基幹産業となり得るポテンシャルを秘めた産業を選び出し、その未来像を探りました。具体的には、①Internet of Things(IoT)、②人工知能・ロボット、③スマートシティ、④バイオテクノロジー、⑤海洋資源開発、⑥航空・宇宙6分野です。

後ほど改めてご説明いたしますが、これらの新産業の合計で、2030年には、約100兆円の付加価値を新たに創出できると見込んでおります。

個別政策課題1

続いて、4つの国家像に対応する個別の政策課題です。

はじめに「1.豊かで活力ある国民生活を実現する」では、①科学技術イノベーション、②海外の活力の取り込み、③女性の活躍推進など6項目を挙げています。この中から、いくつかをご紹介したいと思います。

科学技術イノベーション政策の推進

まずは、「科学技術イノベーション政策の推進」です。

私は東レで長年、炭素繊維の研究などに取り組んできました。その経験から、資源に乏しく少子高齢化が進むわが国では、科学技術イノベーションが経済成長の生命線であると確信しています。炭素繊維は1960年代から研究開発に取り組み、約40年かけて花開いたイノベーションの代表例です。

日本企業は今後とも、世界最高水準の科学技術を磨き上げて、他国の追随を許さない、圧倒的に強い技術に裏打ちされた製品やサービスの事業化につなげていく着実な努力が求められます。

そこで、先ほど申し上げた6分野で、新たな事業や産業を創造していきたい。民主導で科学技術イノベーションを起こしていきたいというのが、私の考えです。

他方、日本の研究開発投資に占める政府部門の割合は20%以下であり、諸外国に比べて低い水準に留まっております。厳しい国際競争に打ち勝つためには、政府研究開発投資も世界最高水準に高める必要があります。

そこで、ビジョンでは2020年の到達目標として、第4期科学技術基本計画にもある政府研究開発投資の対GDP比1%目標の達成を掲げました。併せて、大学改革、研究開発法人改革、産学官連携の強化など、総合的な研究開発体制の革新に取り組むべきとしております。

また、2030年には、政府研究開発投資の対GDP比1%以上の維持、「総合科学技術・イノベーション会議」による強力な司令塔機能の発揮といった到達目標を示しております。

これらの到達目標の実現に向け、政府はイノベーション ナショナルシステムの強化に向け、大学や研究開発法人の改革などに取り組んでいくべきです。また、企業としても、新産業・新事業の創出や、オープンイノベーションの促進に取り組んでいく必要があります。

海外の活力の取り込み ①新たな通商戦略の構築

イノベーションの推進と同時に、グローバリゼーションの加速化も大きな課題です。とりわけ、成長著しい海外の国・地域の活力を取り込んでいくことは、日本の成長に欠かせないものです。

そこで、第1に、新たな通商戦略の構築が求められます。表は、その国の貿易額全体に占めるFTA締結国との間での貿易額の比率である「FTAカバー率」です。日本は18%であるのに対して、中国は27%、韓国は36%、米国は37%、EUは26%となっております。諸外国・地域と比較して、日本の通商政策は遅れをとっているのが現状です。

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、日EU EPAの3つのメガFTA/EPAに参加する日本の眼前には、世界のGDPの約8割、人口の6割強をカバーする自由貿易圏が広がっています。

まずは、これらの早期妥結が必要です。また、2020年までには、TPP、RCEPを核とするアジア太平洋地域の自由貿易圏、FTAAPを構築していく必要があります。

ビジョンでは、2020年までに、現在約18%のFTAカバー率を、2020年までに80%程度にまで高めるとの数値目標を掲げました。さらに、2030年の到達目標として、WTO新ラウンドを経て、高水準の多角的自由貿易投資体制を確立するとしました。

このスライドに、2020年を見据えて、直ちに取り組むべき課題を取りまとめました。経団連としても、各国の経済団体と協力し、国内外での活動を展開していくとともに、日米間、日EU間の業界対話も強化・継続してまいります。

海外の活力の取り込み ②インフラシステムの海外展開の推進

通商戦略の構築と併せて、官民連携による日本の優れたインフラ システムの海外展開を、より一層強力に推し進めていくことも重要です。2020年には、日本再興戦略が掲げる「インフラ システム輸出30兆円」を確実に達成すべきと考えます。2030年までには、日本企業がイニシアティブを発揮し、日本発の国際標準を確立するとともに、人材育成等を通じて、世界経済の成長基盤づくりに貢献していくことも求められます。

私は、昨年7月25日から8月2日にかけて、安倍総理の中南米歴訪に同行し、メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリ、ブラジルの5カ国の政府や経済団体と交流する機会を得ました。スライドは、その時に開催された「日本メキシコ経済協議会」の写真です。安倍総理と私の間にいらっしゃるのは、メキシコのペニャ・ニエト大統領です。今回の訪問を通じて、官民が一体となって経済外交を推進し、日本の総合力を発揮していくことの重要性を、改めて認識いたしました。

政府には、引き続き、官民連携のもとでトップセールスの推進に取り組んでいただきたいと思います。経団連としても、インフラ開発での両国の官民協力を議論する「官民政策対話」を、引き続き、積極的に実施していきたいと思います。

誰もが生き生きと働ける環境の整備 ②女性の活躍推進

次は、女性の活躍推進です。企業の経営環境が、グローバル化の進展と少子高齢化で大きく変わる中、企業の競争力向上と、経済の持続的成長を実現するためには、女性、高齢者、外国人など、誰もが生き生きと働ける環境を整備することで、人材の多様性を推進することが欠かせません。

このうち、女性の活躍推進は特に重要な課題です。これまでに講じられた様々な施策により、女性の就労は相当程度進んでまいりました。しかし、緑色の棒グラフにお示ししておりますように、日本における女性の管理職への登用は、海外に比べて大きく遅れています。女性が「働きやすく」また、「働きがい」のある環境を、官民挙げて整備し、女性の能力を十分に引き出していく社会を構築すべきです。

そこでビジョンでは、2030年に企業の指導的地位に女性が占める割合が30%を超える社会の実現を目指しています。

この目標を達成するため、政府には、待機児童の解消や働き方に中立的な税制・社会保障の実現を訴えております。経団連は、昨年4月、「女性活躍アクション・プラン」を策定・公表し、経団連、企業、政府等が今後とるべき課題を提案しています。会員企業には、このアクション・プランに基づき、自主行動計画の着実な実行をお願いしております。また、働き方の見直しや、男性の育児休業取得の促進なども、重要な課題として取り上げております。

個別政策課題2

続いて、2番目の国家像「人口1億人を維持し、魅力ある都市・地域を形成する」に対応する政策課題です。ここでは、少子化対策、地域経済の発展、外国人材の活躍を課題として掲げております。

少子化対策の推進

日本では、これまでも様々な少子化対策が講じられてきましたが、グラフでご覧いただきますように、出生率・出生数の減少傾向に、歯止めがかかっておりません。そこで、政府・企業・国民など現世代が一丸となって、若者たちが結婚や子どもを持つことに前向きになれる社会を実現することが不可欠と考えます。

このスライドは、総人口の対前年比での増減数を示したものですが、仮に、現在の1.3~1.4程度の低い出生率が今後も継続した場合、2060年には総人口は8,000万人台まで低下すると予測されています。他方、赤色の折線グラフで示しましたが、2030年までに出生率が2.07程度まで回復すれば、50年後も人口1億人の維持が可能になります。

われわれの子や孫たちに、明るい未来を引き継いでいくためにも、出生率の大幅な改善につながる、実効ある少子化対策が急務です。

少子化対策の財源を考える時に、現在の高齢者に偏った社会保障給付の見直しは不可欠です。ご覧のように、社会保障給付のうち、高齢者関係給付は年とともに大幅に増加しているのに対し、児童関係給付は横バイ状態が続いています。2012年度の社会保障給付費108.6兆円のうち、高齢者関係給付費は74.1兆円であるのに対し、児童・家族関係給付費は5.5兆円と、対GDP比でも1%程度に留まっています。この高齢者に偏った給付の形を改め、子育て世代に給付を増やす方向に変えるべきとしています。

そこで、ビジョンでは、現在1%程度の家族関係社会支出の対GDP比を、2030年にフランスやスウェーデン並みの3%台に到達するとの数値目標を掲げました。

国・地方自治体には、この数値目標の達成に加え、待機児童解消に向けた施策を着実に実施することを求めています。企業・経団連としても、恒常的な長時間労働の是正など、ワークライフバランスの推進に取り組んでまいります。

地域経済の発展・活性化 ①都市・地域の活力発揮

次に、地方創生も重要な政策課題です。都市・地域の活力発揮に向けて、地域の特色を活かした都市のコンパクト化を進め、2020年には、集積効果による市場の効率化、産業の新陳代謝、行政コストの削減などを実現しなければなりません。

都市のコンパクト化は、高齢化が進む中、医療・介護サービスの提供体制を効率化するためにも、必須の取り組みとなります。また、中核都市と周辺地域間の各種ネットワーク構築による地域の成長力向上も重要です。域外取引が拡大し、地域の成長力が向上すれば、結果として、企業が地方拠点の強化も含めた、事業拠点のあり方を見直す機会も増加していくと思います。

また、2030年には、各地域がそれぞれの特色を活かした農業資源や観光資源を磨き上げ、世界の需要を取り込み、一層発展していること。さらに、農業や観光といった特定分野にとどまらず、需要変動に左右されにくい多層的な産業構造を、地域が構築していることを目標に掲げました。

そこで、国・地方自治体は、都市のコンパクト化とネットワーク化の推進や、企業の地方拠点強化を促すインセンティブの付与などを進めていくべきと主張しています。

一方、企業は、都市・地域における雇用機会の維持・創出などに取り組んでいく必要があります。

経団連としても、地方経済団体・商工会議所等との連携強化を通じ、地方が抱える課題の共有と、具体的な支援に取り組んでまいります。

地域経済の発展・活性化 ②農業の構造改革

一方、地域の基幹産業である農業は、近年、耕作地が減少を続ける一方、耕作放棄地は拡大の一途を辿っており、本格的な構造改革が待ったなしです。日本の農水産品は、品質面での評価は非常に高く、2013年には「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されるなど、潜在的な魅力は十分に備わっています。今こそ、こうした潜在力をいかんなく発揮し、強い国内農業の実現へとつながるよう、大胆かつ抜本的な「攻め」の改革を断行しなければなりません。

まずは、企業等の農業参入の促進により、消費者に対して魅力ある農産物を安定的に供給できる経営体を確保し、農業の存続基盤を確立する必要があります。さらに、農業の成長産業化や6次産業化により、農業の生産性向上、輸出の促進を進める必要があります。

ビジョンでは、農林水産物・食品の輸出額が2020年に1兆円、2030年に5兆円に達するという目標を掲げています。

そこで、政府による規制緩和や、企業による異業種間連携などが課題となります。また、経団連としても、JAをはじめとする農業関係者との連携を強化してまいります。

JAとの連携に関連いたしまして、昨年10月には、JAおよび日本経済新聞社と合同で、「被災地応援マルシェ」を開催いたしました。当日は、福島・宮城・岩手の被災3県の名産品・農水産品などが販売され、竹下復興大臣やJA全中の萬歳会長、さらには、経団連会員企業の社員とその家族、近隣の企業・団体の勤務者など、約3千人もの人々にご来場いただき、大いに賑わいました。

地域経済の発展・活性化 ③観光振興

また、地方活性化を図る上で、観光振興にも国を挙げて戦略的に取り組むべきです。政府は現在、外国人観光客へのビザの発給要件の見直しなど、観光立国の実現に向けた施策を推進しており、2013年には、節目となる訪日外国人観光客数1,000万人を突破いたしました。さらに、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに、2,000万人、2030年までに3,000万人を達成する目標も掲げられております。

今後とも、多様化する外国人観光客のニーズに合わせて、日本の多様な魅力を発信し、東京のみならず、日本各地を訪問してもらうことで、これらの目標を着実に実現していく必要があります。

そのためには、政府、各地域、企業、国民のそれぞれが、努力をしていく必要がございます。政府は、交通インフラの整備や、さらなるビザ発給要件の緩和などに取り組んでいくべきです。

経団連としても、国を挙げた観光立国の実現に向け、民間外交の場を活用して観光交流の拡大の重要性を訴えてまいります。

個別政策課題3

続いて、3番目の国家像「成長国家としての強い基盤を確立する」に対応する政策課題です。

イノベーションとグローバリゼーションを牽引し、経済の付加価値を向上させ、雇用機会を創出する役割を果たすのは企業です。そこで、事業環境のイコールフッティングを確保し、企業が日本で活動しやすいビジネス環境を整備することが不可欠です。財政健全化、社会保障・税一体改革も、強い国家基盤を構築する上でその中核となる課題です。

事業環境のイコールフッティング ①法人税改革

まずは法人税改革です。スライドには、各国における、国税と地方税を合計した法人実効税率の水準をお示ししております。皆様もご案内のとおり、日本の税率は国際的に見ても非常に高い水準にあります。

他方、近年では、世界各国で実効税率の引き下げが進んでおります。2000年時点と比べて、OECD諸国では9%、EUでは14%程度引き下げが進みました。

このスライドでは、法人税改革について、2020年および2030年までの到達目標を示しました。日本では、今般取りまとめられた税制改正大綱により、2015年度から法人実効税率を2.51%引き下げ、続く2016年度は0.78%以上引き下げる方向性が決まりましたが、2017年度には、これを20%台へ引き下げ、最終的には、OECD諸国や競合するアジア近隣諸国並みの25%に引き下げることを求めています。さらに、研究開発税制など、日本の国際競争力の根幹にかかわる税制の拡充・恒久化も実現する必要があるとしています。

政府には、これらの改革を着実に推進していただきたいと思います。

また、企業・経団連といたしましても、法人実効税率の引き下げによって競争力を強化し、新たな投資や雇用を創出するとともに、賃金・配当の水準の向上を図り、経済の活性化に努めていかなければならないと考えております。

事業環境のイコールフッティング ②エネルギー政策の再構築

次に、エネルギー問題ですが、これも非常に重要な課題です。

エネルギーが経済性ある価格で安定的に供給されなければ、国民生活や経済活動の基盤が揺らぐことになります。まずは、原子力の事業環境の整備や、化石燃料に関する資源権益の確保などが求められます。また、安全が確認され、地元の理解が得られた原発については全て稼働していくことで、エネルギー供給の安定性と経済性を確保していくべきです。

さらに、2030年には、安全性を前提に、エネルギー安全保障(安定供給)、経済性、環境適合性のバランスがとれたエネルギーミックスを実現していかなければなりません。そのためには、原子力をベースロード電源として活用するとともに、技術的により高い安全性を備えた原子炉へのリプレース、核燃料サイクルの確立など、原子力を活用するための環境整備を進めていくべきです。今回のビジョンでは、2030年時点の原発比率について、「総発電電力量の25%超」という具体的な数値目標も明記しております。

政府には、エネルギーミックスの策定や、安全性の確認された原子力発電所の早期再稼働に取り組んでいただきたいと思います。

一方、企業や経団連は、「低炭素社会実行計画」等の推進を通じて、CO2の削減や、世界最高のエネルギー効率の維持・向上に取り組んでまいります。もちろん、国民各層にも、社会生活全般で省エネに取り組んでいただきたいと考えます。

社会保障・税一体改革

次は、社会保障・税一体改革についてです。国民の誰もが安心して暮らせる社会を構築するため、社会保障・税一体改革は喫緊の課題です。日本では、急速な高齢化の進展により、社会保障給付費は増大の一途をたどっております。足もとの約110兆円から、2025年には約150兆円まで膨らむと予測されています。

社会保障制度を持続可能なものとしていくためには、医療・介護分野ではマイナンバーやICTを活用して給付を適正化する、消費税による安定財源を確保する、さらには、国民の自助努力を促す。これらを明確にしていくことが必要です。ビジョンでは、2030年度時点の社会保障給付費は140兆円を下回るという、数値目標を掲げています。

国民各層も、「自主」「自立」「自己責任」の原則の下、自身で健康を管理し、養生する「セルフメディケーション」等へ積極的に取り組んでいくことが求められます。

個別政策課題4

最後に、4番目の国家像「地球規模の課題を解決し、世界の繁栄に貢献する」に対応する課題です。

この中で、「環境・資源・水・エネルギー分野」「防災・減災対策」「健康・医療分野」「絶対的貧困・飢餓・疫病の撲滅」への貢献を、それぞれ課題として掲げております。

環境・資源・水・エネルギー分野における貢献

まずは、「環境・資源・水・エネルギー分野における貢献」です。

経済成長著しい新興国においては、水質汚濁、大気汚染をはじめとする環境汚染の解決が喫緊の課題となっております。日本企業は、これまで、環境・資源・水・エネルギー分野における最先端の技術を開発してまいりました。例えば、私が会長を務める東レでは、世界的な「水不足」の問題を解決するため、海水から淡水を製造する膜技術の開発に40年にわたって取り組み、今では地球上の1億2,000万人の人々が、東レの膜技術で得られた水で生活をしています。経済界は、こうした最先端の技術やノウハウを世界に展開し、地球規模の貢献を果たしていくことが求められます。

経団連は、先ほど申し上げました「低炭素社会実行計画」を通じて、参加業種・企業に対して、2020年におけるCO2削減目標を設定するよう促しております。まずは、これを着実に達成していくことが重要です。さらに、昨年7月には、従来の2020年目標に加え、2030年の目標を設定するフェーズⅡの策定を呼びかけました。こうした取り組みを推進していくことにより、環境・資源・水・エネルギー分野における地球規模の課題解決に向けた道筋をつけていかなければなりません。

企業は、「低炭素社会実行計画」の着実な推進などを通じて、省エネ・低炭素社会や循環型社会のさらなる進展に向けた技術開発や、それらの海外普及に積極的に取り組んでいくことが求められます。

健康・医療分野における貢献

続いて、「健康・医療分野における貢献」です。

日本はすでに、本格的な人口減少・高齢社会を迎えておりますが、韓国・シンガポール・タイ・中国といったアジアの国々でも、今後、日本と同様の急速な高齢化が進むことが見込まれております。

そこで、ビジョンでは、2020年までに日本発のヘルスケア産業を世界の国々に展開し、現地における医療サービスの改善や健康寿命の延伸に貢献すること。さらに、2030年には、超高齢社会を迎える国々の経済社会の活力維持に貢献するといった目標を掲げました。

企業としても、高齢化社会に対応したヘルスケア関連製品・サービスの開発に努めるとともに、これらを海外へ積極的に展開していくことが求められます。

2030年の日本経済・産業構造の姿

以上が、国家像実現のための政策課題の概要です。

続いて、2030年の日本のマクロ経済および産業構造の姿を、現状を放置した場合、ビジョンを実現した場合のそれぞれについて、数値によって描いております。

1.現状を放置した場合のマクロ経済の姿

まず、改革に取り組まず、現状を放置した場合の日本の将来像、いわば、Business As Usual(BAU)のケースを試算してみました。このケースでは、名目GDP成長率は辛うじてプラスとなるものの、1%台前半、実質0%台の低成長が継続し、2030年度の名目GDPは615兆円、国民一人当たり530万円程度にとどまります。さらに、プラマリーバランス赤字は拡大し、長期債務残高の累増にも歯止めがかからない危機的状況となります。数値で言いますと、2030年で実額3,300兆円、対名目GDP比率は537%になります。

このように、現状を放置した場合の2030年の日本の姿は、低成長と財政破綻に陥るという、惨憺たるものです。こうした危機的状況は、何としても避けなければなりません。

2.ビジョンを実現した場合のマクロ経済の姿

そこで、ビジョンで掲げた改革を確実に実行した場合、どのような成長経路が実現され、財政の持続可能性はどうなるのか、といった点について、試算を行った結果をお示ししております。

第1に、イノベーションによる生産性の向上や、グローバリゼーションによる海外需要の獲得、事業環境のイコールフッティングの実現などにより、名目3%・実質2%程度の持続的成長が実現し、2030年度時点で名目GDPは833兆円、一人当たり約700万円まで拡大します。

第2に、社会保障給付の重点化・効率化や、消費税率の段階的な引き上げ、行政改革を通じた歳出の効率化といった財政再建への取り組みも進み、プライマリーバランスは2020年度に黒字化します。国・地方を合わせた長期債務残高の対GDP比も、2030年度にかけて140%程度へと緩やかに低下していく姿を描くことができます。

名目3%・実質2%の持続的成長と、財政の持続可能性を確保した社会。これこそが、われわれの目指すべき日本経済の姿であると考えます。

3.ビジョンを実現した場合の産業構造の姿

最後に、ビジョンを実現した場合の2030年時点の産業構造の姿を描きました。

企業は、ビジョンが掲げる国家像の実現に向け、イノベーションの創出を通じた生産性の向上や、グローバル市場の獲得などに取り組みます。とりわけ、イノベーションによる生産性の飛躍的な向上は、既存産業の競争力強化にとどまらず、新産業の創出も視野に入れたものとなります。

このことを、産業構造の一つのモデルとして定量的に描いたのが、スライドの図です。第1に、医療・健康、エネルギー、観光、農業・食といった既存産業は、イノベーションによる生産性の向上や、グローバリゼーションによる海外需要の獲得などを通じて競争力を強化し、2013年度比で付加価値を実質110兆円拡大させます。第2に、総合課題「時代を牽引する新たな基幹産業の育成」でも申し上げた6つの新産業で、およそ100兆円の付加価値を創出します。

以上の「既存産業の競争力強化」と「新産業の創出」により、2030年の全産業の付加価値規模は、2013年度比で実質約210兆円拡大することを見込んでいます。

結び

以上がビジョンの概要です。冒頭申し上げましたとおり、日本経済は、長引くデフレによる縮小均衡から脱却できるか否かの正念場にあります。現状に安住し、不作為を続け、改革を先送りにすれば、日本に未来はなく、われわれは、後世の歴史家から厳しい指弾を受けることになります。そのような日本に絶対してはなりません。まずはこうした危機感を国全体で共有し、旧来の制度や慣行と、その根底にある国民的な意識や社会的な通念をイノベートすることが必要です。

成熟した社会の改革には多大なエネルギーが必要となります。このビジョンに記した一つひとつの課題を乗り越えていく過程にあっては、様々な痛みや社会的な摩擦を伴うことがあるかもしれません。しかし、今、求められているのは、痛みや摩擦を厭わない勇気と挑戦する行動力ではないかと思います。

経団連は、「豊かで活力ある日本」の再生に向け、ビジョンで描いた国家像が実現するよう、積極果敢に行動していきたいと思います。

本日ご来席の皆様におかれましても、経団連のこのような取り組みに対して、ご理解・ご協力をいただくようお願い申し上げるとともに、ビジョンの内容・その他について、忌憚のないご感想・ご批評をお寄せいただければ幸いに思います。

本日はご清聴いただきありがとうございました。

以上

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