於:日本記者クラブ 10階ホール
1.はじめに
ただいま、ご紹介に預かりました、日本経団連の米倉でございます。本日は、歴史と伝統のある日本記者クラブでお話をする機会をいただきまして、大変光栄に存じます。
私が経団連の会長に就任してから、約半年が経過いたしました。この間を振り返りますと、鳩山前総理の辞任と菅総理の就任、7月には参議院選挙、そして9月には民主党の代表選と菅改造内閣のスタートなど、わが国の政治は、まさに変化に溢れる半年でありました。
この上、政府におかれましては、体制づくりや政局争いなどにこれ以上労を費やすことなく、今こそわが国の将来をしっかりと見据えて、腰を据えた議論と政策の実現を果たしていかれるようお願いしたいと考えております。
菅総理は、わが国の最重要課題である経済の再生・活性化に向けて6月に策定した、「新成長戦略」の実現に強い意欲を示されており、大いに期待いたしているところでございます。経済界といたしましても、できうる限りの支援をさせていただくとともに、経済界自身が知恵を絞り、自らが経済成長の実現に向け、行動を起していきたいと考えております。
本日は「民間の力で未来を切り拓く」というテーマで、まず、日本経済の現状についての認識を申し上げ、続いて、経団連が特に重要な課題と位置付けております3つのテーマ、すなわち、「税財政・社会保障の一体改革」、「アジア太平洋諸国との地域経済統合」、「日本経済の復活・再生に向けた民間主導の取組み」についてお話を申し上げたく存じます。
2.日本経済の現状と課題
(1)日本経済の現状
まず、わが国経済の現状についてお話しいたします。ご承知の通り、世界金融危機に続く世界同時不況の中でわが国経済は戦後最大の落ち込みを記録しましたが、その後、新興国の経済回復をきっかけに、昨年春頃から本年の前半まで緩やかに持ち直してまいりました。
とくに、輸出に関しましては、中国をはじめとする新興国向けを中心に上向きになり、これに伴い生産も順調な回復を見せ始め、こうした動きに合わせて、設備投資も、依然として低水準ながら、持ち直しの方向に転じつつありました。また、個人消費は、エコ関連の各種経済対策の効果や猛暑の影響から、自動車やエアコンなどの家電を中心として、緩やかに改善を続けてまいりました。しかし、雇用情勢は、失業率が5%台の高水準で推移するなど、厳しい状況が続き、全体として、自律的な回復を示すまでには至らない状況が続いておりました。
そしてここにきて、足もとの景気回復の勢いは、明らかに鈍化しており、景気の先行きに対する見通しも厳しさを増しております。このような変化の背景といたしましては、エコカー購入補助金制度など、経済対策の効果が剥がれ落ち、さらに世界経済の減速や急速な円高の進行による影響が大きくなっていることがあげられるものと存じます。
(2)世界経済の現状とその影響
そこで、世界経済の直近の状況を見てみますと、これまで世界経済の回復を牽引してきた中国をはじめとする新興国におきましては、景気の過熱に対する警戒感から、経済政策をやや引き締めの方向に転換しており、景気拡大の勢いは鈍化しつつあります。
また、米国では、雇用・賃金の回復が極めて緩慢になっていることに加えて、個人消費や住宅などの各種の指標が示すとおり、夏場以降、内需が力強さを欠き、景気の先行きに対する懸念が急速に高まっております。
欧州では、ドイツを中心に堅調な回復を維持しておりますが、各国間で回復の勢いにバラツキが生じております。特に、ギリシャをはじめ、財政健全化が大きな課題となっている南欧諸国は、依然として低成長を脱しておらず、こうした中で、金融市場は、予断を許さない状況が続いております。
(3)円高・デフレ対策
このように世界経済の先行きに対する不安が高まる中、わが国では、企業の想定を上回る勢いで急速に円高が進行しており、日本企業の輸出は深刻な打撃を被っております。一方、日本政府は内需主導の自律的な経済への転換を目指し、さまざまな施策を打ち出されていますが、内需に力強さは戻っておらず、当面は外需に頼らざるを得ない状況であります。また、国内市場における需要と供給のギャップは依然として大きく、デフレ脱却の目途は依然として立っておりません。
このような状況にあって政府は、およそ6年半ぶりに円売り・ドル買い介入を実施するとともに、2度にわたり緊急経済対策を決定しました。また、日銀も先月の金融政策決定会合において、包括的な金融緩和政策の導入を決定しました。しかし、残念ながら、政府・日銀のこうした取り組みも、円高・デフレの動きを止めるには至っておりません。
特に為替については、現状のレベルの円高が定着いたしますと、わが国産業の海外移転を加速させ、ひいては国内の雇用機会を喪失させる恐れがあると経済界では強く危惧しております。
経団連といたしましては、こうした大変厳しい状況を打破するために必要なあらゆる政策を、迅速かつ果敢に遂行することを菅内閣に強く求めております。
具体的にはまず、円高是正のための外為市場への介入に加え、デフレ脱却に向けて政府・日銀が一体となった取組みをさらに強化すること。
二つ目に、国内での投資促進、雇用創造を目指し、政府の「新成長戦略」を早期かつ着実に実施すること。
第三に、自由で円滑な企業活動を促すため、法人税の軽減、公平かつ適切な地球温暖化政策の策定など、わが国の事業環境の国際的なイコールフッティングを確保するとともに規制・制度改革を徹底すること。
そして、税財政・社会保障の一体改革を推進し、将来に対する国民の不安を払拭し、消費と投資の拡大を促すこと。さらに、WTOドーハラウンド交渉の早期妥結やアジア太平洋地域における経済統合の拡充など、国際協力・通商・投資政策を積極的に推進すること、を要望しております。
3.税財政・社会保障一体改革
(1)政府の取り組み
ここで、経団連が特に重要視しております3つのテーマの一つ目である「税財政・社会保障の一体改革」についてお話を申し上げたいと思います。
菅総理は、先の臨時国会の所信表明演説において、財政健全化と社会保障改革を改めて重要政策と位置付けることを明言されました。これを受け、総理を本部長とする「政府・与党社会保障改革検討本部」と民主党の「税と社会保障の抜本改革調査会」が一体となり、年内にも改革の中間的な取りまとめが示される予定と伺っております。
本日は、少々時間をいただき、経団連の考えております税財政・社会保障の一体改革のあるべき姿をご紹介させていただきたいと存じます。
(2)社会保障制度改革
まず、社会保障制度の改革についてお話ししたいと思います。ご承知の通り、高齢化が急速に進展しているわが国では、現役世代3人で高齢者1人を支えている現在の構造は、2055年には1.3人で1人の高齢者を支える姿に変わります。また、2010年時点で105兆円の社会保障給付費は、2015年には117兆円、2025年には141兆円まで膨らむと推計されております。人口増加を前提に事業主や勤労者の社会保険料で支えてきたこれまでの制度は、将来立ち行かなくなることは明白であります。また、働き方が多様化する中で、現在の制度は必ずしもセーフティネットとして機能しておりません。こうした社会保障制度の現状を目の当たりにして、国民の不安は急速に高まっています。
将来について悲観的な見方が広がり、それが消費や投資の足かせとなり、経済の低迷の大きな原因となっていることに経済界は強い危機感を抱いております。また、単に社会保険料を引き上げて給付拡大を賄う改革では、経済の活力を削ぎ、雇用の創出を阻害することになります。
そこで経団連では、かねてから「中福祉・中負担国家」を目指し、消費税の社会保障目的税化と消費税率の引き上げにより、社会保障制度を国民全体で支えていく仕組みへ転換すべきことを提案しております。これにより、日本の国民負担率は、現在の40%からイギリス・ドイツ並みの50%台となりますが、本格的な少子高齢化の時代を迎える中で、将来の世代へ「つけ」を回さないという強い責任感をもって、国民全体でこの負担増を受け入れることを今こそ決断すべきである、と考えております。
ここで社会保障制度の中の、高齢者医療制度、介護保険制度、そして子育て支援の三つの分野についてお話を申し上げたいと存じます。
一つ目は高齢者医療制度改革であります。現在、健康保険組合の保険料の約4割から5割は高齢者の医療給付費への支援に使われております。こうした負担もあって、企業の健康保険組合の運営は、年々厳しさを増しており、平成21年度決算では、約8割の組合が赤字決算に陥っております。中小企業で構成される「協会けんぽ」の状況はより深刻であり、現役世代からの支援は既に限界に達しております。
しかしながら、政府の高齢者医療制度の議論では、こうした事態がかえりみられることなく、さらなる負担を企業や勤労者に求める形で検討が進められております。これに対し、経団連、そして連合におかれましても、制度の持続可能性を高めるとともに、世代間の扶助に関する負担は税に求めることを基本とすべきであるという考えのもとで、公費負担割合を高める形での制度設計を求めております。しかし、新たな負担のあり方については、いまだ十分な議論が行われているとは言えない状況であります。
二つ目は介護分野であります。介護保険制度の見直しの議論をめぐっては、新たな財源が確保されないまま、サービスの機能強化や拡大を求める声だけが強くなっている傾向にあります。厳しい財政制約がある中で、重度の要介護者に資源を集中するなど、給付と負担のバランスを図っていくことが非常に重要であります。
三つ目は、子育て支援であります。政府は、「子ども・子育て新システムの基本制度要綱」を公表しましたが、この中で子育て支援対策の制度、財源、給付を一元化するために「子ども・子育て勘定」という特別会計の創設を謳っており、厚生年金保険料に上乗せする形で、さらなる費用負担を求める動きがあります。経団連といたしましては、子育て支援政策において企業が担うべき基本的な役割は、ワーク・ライフ・バランスを積極的に推進することであり、子育て支援に向けられる財源は、公費で対応するべきであると考えております。
(3)税財政の抜本改革
次に、税財政の抜本改革についてお話ししたいと存じます。政府は、財政運営戦略や中期財政フレームを閣議決定し、財政健全化に向けた道筋を明示されております。経団連といたしましても、こうした政府の姿勢を全面的に支持しており、政府が財政健全化の方針を堅持しつつ諸施策の実行にあたられることを強く期待しております。
この問題に関して重要なことは、日本の財政の圧迫要因となっている社会保障関連の歳出について、徹底的な合理化、効率化を進めるべきであるということであります。具体的には、社会保障・税共通番号の導入やICTの利活用を推進するとともに、非正規労働者への社会保険の適用範囲の拡大も加味しながら、選択と集中による給付の適正化を実現していくべきである、と私どもは考えております。
税制についてでありますが、ただ今申し上げた社会保障制度の改革と財政の健全化を成し遂げるためには、安定した財源の確保が欠かせません。しかし、わが国の現在の税制においては、所得税では課税ベースの浸食が著しく、消費税についても税率が低いため、財政を安定的に支えるという、税制に本来求められる重要な機能が十分に果たされておりません。
今、求められている税制改革とは、将来世代への付け回しを回避することを目指し、消費税率を速やかに引き上げるとともに、所得税の基幹税としての機能を回復し、法人税への過度な依存を改めることであり、社会保障給付をはじめとする中長期的な歳出の増大に対応できる税体系を構築していくことであります。
経団連といたしましては、とりわけ消費税の改革を重視しております。消費税は様々な税目の中でも、特定の対象に負担が集中することがないだけでなく、経済活動への影響が最も中立的な税であります。また、消費税は、持続可能な社会保障制度を実現する上で、現役世代の重い社会保険料負担を抑え、広く国民全体で制度を支えるための安定財源として、最もふさわしい税目と考えられます。
そこで、社会保障費用の増加分、すなわち、高齢化に伴う自然増並びに公的負担割合の引き上げ分には、消費税率の引き上げによって対応するとの原則を確立し、景気動向を注視しつつ、速やか、かつ、段階的に、少なくとも10%まで引き上げるべきであると経団連は主張しております。そしてその後も、国民の合意を得つつ、2020年代半ばまでに、消費税率を欧州諸国並みの10%台後半、ないしはそれ以上に引き上げていく必要があると考えております。
政府におかれましては、税財政・社会保障の一体的な抜本改革の実現に向け、その道筋をしっかりと示し、不退転の決意でのぞんでいただきたいと存じます。そして、与党ならびに野党におかれましても、超党派による取組みも含め、国民本位、国益本位の観点に立った合意形成と諸施策の実行のためにご尽力をいただきますようお願いを申し上げたいと思います。
4.アジア太平洋諸国との地域経済統合
(1)アジアとともに果たす成長
次に、経団連が最重要課題と位置づけておりますテーマの二つ目であります「アジア太平洋諸国との地域経済統合」についてお話ししたいと存じます。
世界経済の持続的な成長を実現する上で、中間所得層の拡大が著しく、高い潜在成長力を有するアジア地域の経済は非常に重要なカギを握っております。経団連では、アジアの成長に貢献し、またアジアとともに成長していくことを目指し、「東アジア経済共同体」を視野に入れながら、アジア太平洋諸国との開かれた地域経済統合の推進と、これを支えるインフラ整備を二本柱とするアジア経済成長戦略を打ち出しております。
(2)FTAAPへの道筋
まず、アジア太平洋諸国との地域経済統合について申し上げます。来週、いよいよ、横浜でAPEC首脳会議が開催されます。議長を務めるわが国は、6月に閣議決定された「新成長戦略」におきまして、APECの枠組みを活用し、2020年を目処に、「アジア太平洋自由貿易圏」、いわゆるFTAAPを構築すべく、それに向けた道筋を策定するとしております。
2020年を目標とするFTAAPの構築に向けた道筋として、経団連が提言しておりますのは、第一に、日韓EPAをできる限り早期に締結するとともに、ASEAN域内の関税が撤廃される2015年までに日中韓FTAを締結し、ASEAN+3を完成すること、第二に、先般大筋合意したインドとのEPAに加え、豪州ともEPAを実現し、2015年を目処にASEAN+6完成の道筋をつけること、第三に、これと並行して、「環太平洋経済連携協定」、TPP交渉に早期に参加し、2015年までに協定を締結してアジアと米国の橋渡しを実現すること、であります。
(3)日中韓FTA
日中韓FTAは、アジアにおけるFTAの空白を解消するとともに、ASEAN+6のGDPの7割を占める日中韓の貿易投資を一層活性化させるという観点から、アジア太平洋諸国との地域経済統合を推進する上で、極めて重要な役割を担うものであります。
先般、経団連が会員企業を対象に日中韓FTAに関するアンケートを行ったところ、100社あまりから回答があり、事業を展開する上での障壁や障害の事例が幅広い分野で多数指摘されたところであります。FTA締結によってこうした障害が取り除かれることで日中韓の三国間の貿易投資がさらに活性化されることは確実であります。今年5月に韓国済州島で開催された日中韓首脳会談の際には、温家宝総理、李明博大統領、そして当時の鳩山総理にお会いし、日中韓FTAの早期締結に向け交渉プロセスを前倒しするよう、お願いいたしました。現在、2012年を目処に、産官学共同研究を終了させることとなっておりますが、共同研究の終了如何にかかわらず、早期に交渉を開始するよう、引き続き政府に働きかけて参りたいと存じます。
(4)TPP
次に、TPPについて申し上げます。TPP交渉は、最近加わったマレーシアも含め9カ国で行われており、今後さらに参加国が拡大する可能性があります。日本としても、門戸が開かれているうちに、できる限り早く交渉に参加し、日本の事情を考慮した国境措置の取扱いなど、わが国の要望を直接訴え、新たなルール作りに積極的に参画する必要があります。米国が参加しているTPP交渉に加わることで日本は米国とアジアの橋渡し役となるべきであります。また、TPPの参加国とともに先進的なルール作りを進めることは、日本の国際社会における地位を高めるとともに、日中韓FTAといった中国を含めた経済連携の枠組み作りや、日・EU経済統合協定の推進にも必ずや大きく寄与するものと考えております。
先の月曜日に、経団連は、日本商工会議所、経済同友会とともに、経済3団体主催の緊急集会を行い、「TPP交渉への早期参加を求める」ことを決議、表明いたしました。経済界といたしましては、来週13日、14日に開催される「APEC首脳会議」において、アジア太平洋地域の成長と繁栄に向けた議長国の責務として、わが国がTPP交渉への参加を表明することを強く望んでおります。
(5)農業問題への対処
以上、アジア太平洋諸国との地域経済統合についてお話しいたしましたが、地域経済統合の推進にあたっては、わが国の食料供給基盤の強化との両立を常に念頭に置かなければなりません。
新規就農者や企業による農業への新規参入を含めた、意欲ある多様な農業の担い手の確保、農地集約による経営規模の拡大と生産性の向上等の構造改革を進め、日本の農業の競争力を強化していくことが重要であります。政治のリーダーシップの下、構造改革を迅速かつ強力に推進するとともに、必要な国内対策を総合的に講じていくべきであります。経済界といたしましても、農商工連携の推進や輸出の促進といった取組みを通じて、わが国農業の競争力の強化に貢献して参りたいと考えております。
(6)インフラ整備
次にインフラ整備についてお話し申し上げます。アジア地域経済統合を推進するためには、民間の事業活動を支える基幹インフラや都市インフラを整備し、経済成長のボトルネックを解消して域内の経済格差を縮小させていくことが重要であります。
しかし、インフラ整備には莫大な資金を必要といたします。そこで、経団連では、基礎インフラ部分を公的資金で賄い、採算性の見込まれる部分は民間が投資するといったようなPPP、すなわち官民連携で対応するというしくみを構築し、活用していくことを提案しております。
経団連がアンケート調査を行ったところ、会員企業は、例えば超超臨界の石炭火力発電などの日本の優れた環境技術が活かせる案件や、成長著しい中間所得層の住生活の向上に資する都市・住宅開発などの案件、また、IT技術を活用した都市インフラの整備、といった分野に強い関心を持っていることが明らかになりました。
官民連携でこうしたインフラ整備プロジェクトを実現していくには、まず、1997年をピークに減少の一途をたどっているODA予算を再び増加させることが必要であると考えております。
この点に関しましては、円借款に伴う剰余金を財源に予算を組むことや、現在、最大でも1件あたり10億円程度の規模である無償資金協力を大規模化することなどの措置を政府に求めて参りたいと存じます。さらに、政府間ベースではなく、民間が主体となって手掛けるプロジェクトに直接公的資金を導入できるよう、JICAの海外投融資の早期再開についても働きかけて参りたいと思います。加えて、インフラ事業に関わるホスト国における人材の育成など、いわゆるソフト・インフラの支援を行うことも必要であります。
一方、ホスト国に対しては、一貫した政策の遂行を求めると同時に、わが国の技術が正当に評価される公正で透明度の高い入札制度を整備することを強く求めて参りたいと存じます。この点については、先月ハノイで開催された東アジアサミット際して経団連ミッションを派遣し、アジア各国の首脳に対して私どものメッセージをお伝えしたところであります。
経団連といたしましては、今後、アジアにおける広域インフラ開発や産業振興の戦略である「アジア総合開発計画」の実現に向け、アジア各国、ASEAN事務局、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)等と密に連携してまいりたいと考えております。
5.日本経済の復活・再生に向けた民間主導の取組み
~「サンライズ・レポート―未来都市モデルプロジェクト」
次に、経団連の三つ目の最重要テーマであります「日本経済の復活・再生に向けた民間主導の取組み」についてお話を申し上げます。
私は企業が元気を出して日本経済が成長してはじめて、雇用の創出、財政の健全化、持続可能な社会保障制度の確立といった諸課題への対応が可能になる、と考えております。
そして、グローバル化が一段と加速する現在におきまして、日本経済の持続的な成長を実現するには、わが国の企業の国際競争力の強化が不可欠であります。こうした観点から、経団連では年末を目処に、民間主導での競争力強化のための新たなアクションプランを示した「サンライズ・レポート」をとりまとめることといたしました。
本日はこの構想の目玉となる「未来都市モデルプロジェクト」についてご紹介いたします。このプロジェクトは、都市を舞台に、環境・エネルギー、ICT、医療、交通などの分野で日本企業が有する最先端の優れた技術を結集して、実証実験を行い、革新的な製品、技術、システムを開発し、さらには教育・子育て支援、観光振興などの取組みも含めながら、安心で安全な生活を実現していくことを目指すものです。
具体的なプロジェクトの内容としては、「低炭素・環境共生」、「先進医療・介護」、「次世代交通・物流システム」、「先端研究開発」、「次世代電子行政・電子社会」、「国際観光拠点」、「先進農業」、「子育て支援・先進教育」などを考えております。
世界では、技術やサービスの開発スピードが加速する中で、個別の技術や製品単体だけで国際競争力を維持することは難しくなりつつあり、産業分野や業種の垣根を取り払い、高度な技術やサービスを組み合わせたシステムとしての総合力で勝負する時代を迎えています。このプロジェクトでは、実証実験を通じて得られた成果をパッケージ化し、付加価値を高めて広く市場に展開して参ります。国内にとどまらず、アジアをはじめとする海外市場へも積極的に展開することによって、新しい内需を創出しながら、外需を取り込み、中長期的には、わが国の新たな成長産業をつくりあげていくことを目指します。
実施する都市については、インフラ整備や事業展開のしやすさ、地域活性化への貢献などを考え、人口20万から30万人程度の都市を考えておりますが、最終的な都市の指定は実証実験の内容や地域特性なども踏まえ、柔軟に行いたいと考えております。
民間主導のプロジェクトでありますので、参加企業が資金を負担し、各社が持つ最先端の技術、アイデア、製品等を投入するという形で進めることになりますが、規制緩和や税制などの面で、必要に応じて政府や地方自治体のご協力をお願いすることになるものと考えております。今年6月の政府の「新成長戦略」では、区域を絞って集中的に規制改革、予算や税制、金融措置を行う「総合特区制度」や「環境未来都市構想」の創設がうたわれ、現在、具体的な制度づくりが進められておりますが、可能であればこうした制度との連携も検討して参ります。
6.おわりに
以上、本日は限られた時間ではございましたが、「民間の力で未来を切り拓く」というテーマでお話して参りました。私は経団連会長に就任した際、「国民とともに歩む経団連」と申し上げましたが、本日申し上げました経済界としてのさまざまな政策や取り組みを推進していくためには、国民の皆様のご理解とご支持が不可欠であります。そして、経団連は、政策の提言にとどまるのではなく、より豊かな社会を実現するために行動する集団でありたい、と考えております。本日、オピニオンリーダーである皆様にこうした形で私どもの考えを直接お話しすることができましたことは大変有意義であり、心より感謝を申し上げる次第であります。本日は長時間、ご静聴いただき、誠にありがとうございました。