一般社団法人 日本経済団体連合会
Ⅰ 背景・趣旨
グローバルサウスを主な対象とするインフラシステムの海外展開を取り巻く環境は、新興国が台頭し、価格面のみならず、一部技術面においても優位性を獲得しつつある中、益々厳しさを増している。他方、グローバルサウス諸国は、食料・医療の不足、難民の発生、気候変動問題等の社会課題に直面している。わが国は、優れた技術や日本ならではのきめ細かいニーズ対応力を活かし、それら課題の解決に貢献することによって、グローバルサウスからパートナーとして「選ばれる」国を目指す必要がある。
経団連は、「グローバルサウスとの連携強化に関する提言」(2024年4月)において、日本が必要な国として選ばれるべく、各国・地域の実情に応じて各種政策ツールを組み合わせて対応する必要性を訴えており、質の高いインフラシステムの展開はこの政策ツールの一つである#1。
また、経団連では、現在、日本の2040年のあるべき姿からバックキャストし、取組むべき課題に焦点を当てた「Future Design 2040」を策定中である。「Future Design 2040」では、経済外交に関し、「国際的なルールの整備等」、「主体的な経済外交の基盤となる総合的な国力の強化」と並んで、「グローバルサウスとの連携強化」を重要課題として提示する方針である。ここでも質の高いインフラシステムの展開は重要な施策と位置付けられる。
このような中、政府は、2024年6月に「グローバルサウス諸国との新たな連携強化に向けた方針」#2(以下、「グローバルサウス連携強化方針」と表記)を決定すると共に、連携強化の中核となるインフラの海外展開に関し、「2030年を見据えた新戦略骨子」#3(以下、「新戦略骨子」と表記)を公表した。「新戦略骨子」では、上述のインフラ市場における構造的変化や日本企業の立ち位置に触れた上で、2040年頃も視野に入れ「2030 年のあるべき姿」と実現に向けた政策対応が提示されている。そこに盛り込まれた「相手国のニーズを踏まえた『懐に入る』対応」、「PPPを含めた案件形成の上流への積極的参画支援と提案力の強化」、「新たな市場とルール整備の主導」、「新たな市場に対応する現地及び本邦人材の育成と交流」、ならびにこれらの具体策としての「オファー型協力」、「官民プラットフォーム」、「国際標準化や現地国・地域での法制度整備等のルールメイキング」、「二国間クレジッド制度(JCM)」などは、上記の経団連提言に沿ったものであり、本年末を目途に具体化した上で、行動に移していくことが求められる。
他方、「2030年のあるべき姿」や個々の政策対応の位置付けについては、「選ばれる国」となる必要性をより意識した記述とすべきである。以下では、「新戦略骨子」の「2030年のあるべき姿」について若干の意見を述べた上で、「新戦略骨子」の具体化に向けて、会員企業を対象に行ったアンケート結果に基づいて、「あるべき姿」の実現に向けて必要な基盤整備、わが国が重点的に取り組むべき分野について提言する。
Ⅱ 「2030年のあるべき姿」
従来、わが国は円借款を通じて大規模なハードインフラ協力事業を展開すると共に、制度・システム等のソフト面でも相手国の発展に貢献してきた。2030年に向けても、ハード・ソフト両面から「選ばれる」国になるための取組みを強化することによって、グローバルサウスが直面する社会課題解決に貢献する必要がある。
「新戦略骨子」では、2030年のあるべき姿として、第1に「わが国の『稼ぐ力』と国際競争力を高める」#4ことが位置付けられている。しかし、稼ぐ力と国際競争力は、あくまでも「選ばれ」た結果として獲得されるものとして位置付けるべきである。また、第2に「サプライチェーンの強靭化や経済安全保障を確保し、国益を守る」#5ことが掲げられているが、第3に挙げられている「グリーン・脱炭素」#6等の社会課題の解決を優先課題とすべきである。さらに、「世界が直面している社会変革を大きな成長市場・チャンスととらえ」#7ることが重要であることは言うまでもないが、それ以前に相手国ニーズに応えながら社会課題解決に取組むという姿勢こそが求められる。
そのためにも、政府関係部局間の連携強化はもとより、政府、民間企業、公的金融機関の連携を強化し、「オファー型協力」の具体例#8を積み上げることで「選ばれる」国としての存在感を示すべきである。その際、例えば、上流段階のプロセス短縮に向けたタイムラインの合意など、一層の迅速化が求められる#9。そうすることによって、相手国の社会課題を出来る限り短期間で解決することが、わが国が「選ばれる」ことにつながると考えられる。
また、中長期的観点から、インフラの運営・維持管理(O&M)や当該インフラを活用した社会課題の解決に携わる人材の育成・交流の推進をあるべき姿として位置付けるべきである。かかる人材は、ホスト国・地域とわが国との間で将来に亘って架け橋となる、いわば「インフラのためのインフラ」と位置付けられるべきである。ここで言う人材にはホスト国の現地人材のみならず、本邦人材も当然含まれる。
さらに、「新戦略骨子」が政策対応の一つに掲げる「国際標準化等のルールメイキング」#10は、市場の創出・展開の観点から有用であるばかりでなく、ホスト国・地域の実情や直面する社会課題に応じた付加価値の提供を容易にするプラットフォームとなり得るものであり、「あるべき姿」として位置付けるに相応しいものと評価できる。
加えて、「新戦略骨子」ならびに「グローバルサウス連携強化方針」では、「従来のインフラ概念を超えた新領域」#11に言及しているが、新戦略の策定に際しては、「新領域」の外縁を示すべきである。例えば上述の人材の育成・交流の推進はその一つとして位置付けることも可能である。また、デジタル、防災・レジリエンス、保健医療などについても、「新領域」と位置付けることが可能と考えられる。
なお、中高所得国へと成長を遂げた国であっても、着実なグリーン・トランジションの実現等、インフラ整備を通じた社会課題の解決は不可欠である。したがって、中高所得国においても、JBICの投融資や民間資金活用の呼び水としてのODAによる制度・ファイナンス支援などを戦略的に行っていくことは有意義と考えられる。
Ⅲ 「あるべき姿」の実現に向けて必要な基盤整備
1.総理・閣僚によるトップセールス等
ホスト国との外交関係の緊密化は、わが国が選ばれる国となり、具体的な協力案件を推進していくための大前提である。「新戦略骨子」にもある通り、総理・閣僚による外国訪問、首脳の招聘などトップ外交の場を活用し、相手国のニーズを把握すると共にわが国のインフラシステムの優位性を直接説明することが重要である。その上で、首相訪問時に民間企業の代表が同行し、現地で官民フォーラムを開催することを含め、ホスト国・地域の経済発展戦略等の策定段階など上流段階から案件形成にコミットすることが求められる。その際、プロセスの迅速化を図り、速やかな案件形成につなげる必要がある。また、重点国については経済広域担当官を配置し、日本企業への情報提供、事業機会の開拓、人脈構築・パートナー発掘#12など、案件形成、着工、完成、運営の各段階におけるフォローアップ体制を万全にすることが重要である。
2.人材育成の推進
上述の通り、社会課題解決の中核を担うのは「インフラのためのインフラ」である人材である。これまで、わが国は、ODA技術協力によって当該国の人材育成に貢献してきた。例えば、「ABEイニシアチブ」#13は研修生の受け入れ、企業研修を通じてアフリカの産業人材育成に貢献しており、このようなスキームをアフリカ以外の地域にも横展開することが求められる。また、将来の政治的リーダーとなり得る人材、ICT人材、起業家等の高度人材との連携を強化すべく、グローバルサウス各国のトップクラスの大学、研究機関との交流事業や共同研究等に、技術協力スキームを活用すべきである。なお、人材育成を円滑に推進するためには、在留資格における「研修」の範囲の見直し#14も含め、わが国における国内法制の改善も必要である。
3.国際標準化戦略の展開
わが国の優れた技術を最大限に活用し、インフラシステムの海外展開を推進する観点から、国際標準獲得のための取組みが不可欠である。具体的には、鉄道、再生可能エネルギー、ICT、宇宙衛星等の分野において、日本が主導することで国際規格を確立・普及すべきである。また、社会課題の解決に貢献する観点からは、個別の技術のみならず、運営、サービス提供、環境対応、社会政策等に係るマスタープランを作成し、包括的な国際規格を確立する取組み#15を推進し、実績を積み重ねることが求められる。さらに、これらの取組みと並行して、経費の削減、技術情報の流出防止等の観点から、国内における認証機能を強化することが重要である#16。
わが国企業のグローバル化に伴い、既に海外規格に適応しているケースも少なくないが、発注者が求める規格に対応できない事業者が存在するために、オールジャパンでの対応が困難となる事態も散見されることから、そのような事態を回避すべく、わが国の技術仕様を国際規格にスペックインする取組みが引き続き重要である。
4.公的資金の制度改善
(1) ODAの刷新
① 無償資金協力の充実
日本は他のODA供与国に比べ、無償資金協力の割合が少ない#17。一方、各国の経済発展に伴い円借款の対象国は減少している。各国が譲許性の高い支援を展開する中、わが国が劣後しないよう、無償案件の割合を増加させる必要がある。人口の増加、都市化の進展など、今後発展が予想される南アジア、アフリカなど依然としてODA、特に無償資金協力が必要な国や地域は多い。従来、無償資金協力は緊急援助物資の供与やベーシック・ヒューマン・ニーズの充足を中心に活用されてきたが、例えば、民間資金動員の触媒機能としての、また、民間投資と社会課題解決の両立に向けた補完的な役割としての無償資金の活用、或いは、社会の基礎インフラであるICTや社会課題解決に取組むスタートアップ振興に向けたエコシステムの整備#18など、現代的なニーズに迅速に応えていくことが求められる。また、業種によっては、わが国企業の現地法人を無償資金協力案件の主契約者とすることを認めるなど、使い勝手の向上を図るべきである。
② 運用・メンテナンス(O&M)・フィージビリティスタディ(F/S)へのきめ細かい対応
デジタル・ICT分野など技術革新が速く、機器の更新やソフトウェアのライセンス更新が頻繁に発生する分野を中心に、案件形成の段階からO&Mを含む形で予算措置を講じるなど、柔軟な運用が求められる。また、インフラシステムの設備導入後、ホスト国側の事情でO&Mの予算が措置されない事例も散見される。ホスト国側からO&Mに対する支援要請があり、その内容が当該国の持続可能で自律的な成長を実現し、わが国企業にとって、協力可能なものである場合、中高所得国も含め、事後的にO&Mを目的としたODAを提供することで、既存のインフラシステムのライフサイクルを通じた活用を可能とすべきである。
また、新規事業の発掘にあたり、F/Sの調査数を拡大#19、補助金の補助率の拡充が求められる。
③ 円借款の本邦技術活用条件(STEP)の柔軟な運用
グローバルサウス諸国の所得水準の向上等によってSTEPの対象国が限定される中、その活用を促進するためには、譲許性の高さ#20についてホスト国の理解を得ると共に柔軟に運用することが不可欠である。具体的には、全てのシステム、製品を日本で調達する困難さに鑑み、本邦技術・製品の調達の明確化・確保を大前提としながら、コアの部分が日本の技術・製品であれば、個々に導入されるものは他国製品・技術も認めるなど、本邦技術要件を柔軟化することで相手国のニーズに沿った事業遂行を可能とすべきである#21。
(2) リスクテイク機能の強化
為替相場の変動は不可避である一方、ODA案件は組成から実施までに一定の時間を要し、その間に経費が高騰する可能性があることから、案件形成にあたり、為替・物価対策の予備費を計上するなどの柔軟な措置が求められる。また、収益性に係るリスクに対応したVGF(Viability Gap Funding)#22について、円借款のみならず無償資金協力の活用も検討するなど、ホスト国にとって魅力あるものとすべきである。
また、リスクを逓減し、民間資金の呼び水とする観点から、JBIC投融資ならびにNEXI保険の付保を柔軟に行うべきである#23。具体的には、サブソブリンに対する投融資ならびに貿易保険付保、JBIC出資比率の上限#24にとらわれない柔軟な出資、市中銀行が負う為替リスクへの信用補完供与、JBICによるハードミニパームローン#25の提供拡大など金融商品の多角化等が求められる。JOGMECの投融資、債務保証機能については、①鉱山開発のみならず製品引取契約に基づくオフテイクファイナンス#26も対象とする、また、②鉱山への輸送や電力網など周辺インフラも含めてカバーする、など柔軟に運用すべきである#27。
5.インフラ海外展開への各種支援
「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」はグローバルサウス諸国との経済連携強化、本事業実施国における課題解決への貢献が期待されている。戦略的なインフラ展開を可能とすべく、グリーンなど重点分野における大型プラントの海外実証に対する支援枠拡大が求められる。
また、サプライチェーン強靭化や第三国協力などの観点から、「グローバルサウス連携強化方針」で示された、施設・設備の実装まで含めた支援強化を早期に実現すべきである。
6.ホスト国等との連携
(1) 経済連携協定等を通じた関係強化
経済連携協定・自由貿易協定(EPA/FTA)に基づくビジネス環境整備は、ホスト国におけるインフラ事業の障害を除去するにあたって有効に機能し得る。また、EPA/FTAや二国間投資協定に基づく投資家対国家紛争解決制度(ISDS)は、インフラ関連投資をめぐってホスト国との間で紛争が生じた場合に国際仲裁裁判による公平な解決を図る上で有効なツールである。わが国として、インフラ需要が旺盛な国・地域とのEPA/FTAならびに投資協定の締結に向け、交渉を加速すべきである#28。
また、国際的に重要性の高い案件を進めていくためにも、同志国や主要なグローバルサウス諸国、国際機関とのパートナーシップをより一層強化すべきである。また、それらの国における有望な民間企業との連携促進への支援を期待する。
(2) ホスト国国内法制度の整備支援
質の高いインフラシステムを普及させ、社会課題解決につなげていくためには、ホスト国・地域において適切な法制度が整備されている必要があり、技術協力スキームに基づいて、それらを促進すべきである。
① 入札制度の改善
価格本位ではなく、品質、持続可能性、革新性が十分考慮される公共調達制度を確立する#29ほか、予定価格を超えた場合や一社入札の場合にも一律に入札不調とはせず、柔軟に対応することで事業を滞りなく実施することが求められる#30。
② 過度なローカルコンテンツ要求の是正
過度なローカルコンテンツ要求は経費高騰に直結する。また、現地で調達が困難な資機材、人材がローカルコンテンツの対象となれば、インフラシステムの品質への影響が必至であり、是正が不可欠である#31。
③ 免税措置・税還付の徹底
ODA案件に係る資機材に対する関税や特別目的会社(SPC)に対する法人税の免除、付加価値税の還付の徹底が不可欠であり、わが国政府には、ホスト国政府との事前合意及び履行確認などの措置の徹底が求められる。税の減免や還付が見込めない場合は、予め税額を含めた費用を計上し、ODAでカバーすべきである。
Ⅳ わが国が重点的に取り組むべき分野
1.グリーン
(1) 多様な道筋によるグリーン・トランジション
地球規模でカーボン・ニュートラル(CN)を実現するためには、経済成長に伴いCO2排出が増えているグローバルサウスにおける排出削減が必須である。アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の下では、CNへの多様かつ現実的な道筋があること、また、道筋を設計・実施するために多様なエネルギー源と技術の活用が重要であることを前提に、低炭素、省エネ技術に関する協力を推進する方針である#32。
「新戦略骨子」においても、この方針に沿ったインフラシステム海外展開が求められる。とりわけAZEC参加国は火力発電への依存度が高く#33、一足飛びに再生可能エネルギーへと移行することは困難である。LNGを含む天然ガスが移行期におけるエネルギー源として引き続き重要な役割を果たす#34ことに鑑み、既存の施設におけるアンモニア・水素混焼技術の導入など、移行期のCO2排出削減にODA、OOFを適用することが不可欠である。併せて、電力の安定供給のための送配電網整備も急務である。送電網については採算性が見込みにくいことから、ODAの活用、ホスト国による資金供給に対する保証、保険の供与が求められる。
東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)の下に設立された「アジア・ゼロエミッションセンター」は、各パートナー国の脱炭素化に向けたビジョンやロードマップ、政策策定の支援を行うこととしている。「新戦略骨子」の下、わが国として、上流段階からコミットすることで、パートナー国との政策協調を推進すべきである。
また、安全性を大前提とした原子力発電の展開は、気候変動対策ならびにベースロード電源確保に資することから、原子力協定の締結を条件に、JBIC投融資、NEXI貿易保険付保の対象とすべきである。
このほかアジアを中心とするサプライチェーン全体を通じた排出量を捕捉すべく、セクター別のデータ共有プラットフォームの構築を支援#35すべきである。
(2) 二国間クレジット制度(JCM)の活用#36
「新戦略骨子」において、質の高い炭素市場の構築への貢献として盛り込まれているJCMの「パートナー国の拡大」は、国際連携の一層の推進の切り札となり得るものである。JCMの更なる活用を通じた具体的な案件の形成・実施が急務であり、インド、マレーシア、ブラジル、トルコ、エジプト、南アフリカ等と早期締結すべきである。あわせて、JCMを活用するメリットの整理などを通じたホスト国側の理解醸成およびカーボンクレジットの売買制度設計に関するキャパシティ・ビルディングにも取り組むべきである。
また、「二酸化炭素回収・貯留(CCS)等大規模案件の形成」にあたっては、予算の大幅な増額(①個別の補助金額・補助率および補助上限の拡大、②技術・周辺設備、導入設備の保守・点検、方法論作成等コンサル費用等への補助対象の拡大等)が必要である。
「民間資金を中心としたJCM」については、クレジットの創出に手間、コスト、時間がかかること、流通市場が未整備であること等から、現状の実績は少数に留まっている。その拡大に向けて、わが国政府による相手国政府との各種制度面の対応〔各環境価値(CO2削減貢献)の帰属問題を含む調整交渉、政府間の合意書の調整(セクトラルスコープの追加等)、個別事業の現地法規制との整合性確保等〕、各種支援制度の創設〔例えば、案件形成F/SやMRV、JCM方法論の確立、JCMプロジェクト登録作業、コンサルティング等への支援〕、さらにJCMクレジットが適切な価格で流通するための市場や制度の整備(例えば、有価証券報告書における温暖化ガス排出量の開示に当たって、JCMクレジット分を控除したネット表示も可能な制度設計とする等を含む)等を行うべきである。
2.デジタル
経済社会活動のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進は、社会課題の解決に不可欠である。デジタル公共基盤やデータ連携の重要性が増す中、安全で強靱なデジタルインフラの構築を一層推進すると共に、データの自由かつ円滑な流通を確保する必要がある。また、デジタル技術(ICT)は、製造業・サービス業のみならず農業、さらには産業全体の発展に不可欠なヒトやモノの移動を担う鉄道、航空など様々なインフラを安全かつ効率的に活用するために不可欠であり、より一層の海外展開に向けた取組みが必要である。
太平洋島嶼国を含む自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を実現するためには、海底から衛星に至るまで、固定、モバイルを含む通信ネットワークを整備し、安全性・信頼性の高いデジタルサービスの普及を促進する必要がある。
海洋安全保障・海上安全の確保、防災の実現、気候変動問題への対応においては、人工衛星や人工知能(AI)等の先端技術の活用可能性が高まっている。一方、特に宇宙インフラの整備は、相手国の国内情勢や法制度に左右されることに加え、開発コストの算定や需要の予測が困難であり、民間企業単独では負担が過剰に及ぶ恐れが大きい。政府間において協定を締結するなどの支援が不可欠である。また、相手国のガバナンス構築支援による予測可能性を高める取り組みが不可欠である。
なお、重要インフラに関する調査事業・実証事業等の支援を強化することにより、より多くの案件形成に結び付けていくことが求められる。
3.防災・レジリエンス
巨大地震、津波など世界各国で大規模災害が頻発している。わが国は、道路、トンネル、橋梁、港湾や空港などのハードインフラについて、技術力・実績等で優位性を有する。わが国の顔の見える国際貢献の重要な分野として、防災・減災に関する知識・技術を積極的に活用すべきである。特に価格競争力では、欧米諸国や新興国企業との熾烈な競争にある中、デジタル技術も組み合わせながら、それら知識・技術が海外で応用される機会を創出していくべきである。
グローバルサウスにも、自然災害リスクが高い国は多くあり、「選ばれる国」となるための重要な分野として位置付けるべきである。
4.保健医療
グローバルサウス諸国においては、保健医療インフラの欠如により、十分な予防・医療を受けられない地域が存在している。高度な保健医療技術を有するわが国は、相手国のニーズに沿ったインフラ提供を通じて、相手国の課題解決に協力できる余地が大きい。また、地域保健システムの強化、中核医療施設の整備・ネットワーク化等を通じても保健医療水準の向上に貢献すべきである。
5.経済安全保障
経済安全保障を確保するためには、わが国としてパートナーとして「選ばれる」のと同時に、特定国・地域への過度の依存を回避しながら、相手国・地域を適切に「選ぶ」ことも重要である。その際、具体的な分野として、「新戦略骨子」でも示されている、5G/Open RAN、光海底ケーブル、データセンター、オール光ネットワークや 成層圏通信プラットフォーム(HAPS) 等の Beyond 5G を含むデジタルインフラ、電力インフラ、金融インフラ、宇宙インフラ等が考えられる。
「新戦略骨子」では、「資源・エネルギー・食料の安定的な供給」を確保する観点から、サプライチェーンの強靭化等への公的金融による支援を強化していくことが謳われているところ、中高所得国向け円借款やJBIC投融資等を活用し、食料・鉱物資源関連の物流網(例えばブラジル)、石油・天然ガス・LNGの開発・精製(例えば湾岸諸国、アフリカ)、重要鉱物の採掘・精製(例えば中央アジア諸国、インドネシア)などのインフラ整備を推進すべきである。その際、他国による支援の動きも踏まえ、わが国企業の競争力が維持されるよう十分配慮すべきである。
- www.keidanren.or.jp/policy/2024/032_honbun.pdf
- www.cas.go.jp/jp/seisaku/global_south/pdf/kaigikettei.pdf
- www.kantei.go.jp/jp/singi/keikyou/dai57/siryou5.pdf
- 2 新戦略の骨子(2030年のあるべき姿と実現に向けた政策対応)(1)
- 同(2)
- 同(3)
- 同上
- オファー型協力とは、外交政策上、戦略的に取り組む分野において、わが国の強みを活かしつつ、開発協力目標や開発シナリオ、協力メニューを積極的に提案し、相手国と共に創り上げていくODAの新しい取組(外務省資料)。例えば、工業団地の周辺インフラ(電力、上下水、アクセス道路、港湾整備を円借等、工業団地テナントへの許認可取得サービス体制構築の技術支援等)の整備をODAで取り組むことを通じて、相手国の課題解決と日本の国際競争力向上につなげることが考えられる。また、公共交通志向型開発(TOD)において、例えば地下鉄建設など基本計画段階から周辺開発を見据えた組成が効果的かつ合理的であり、その段階から民間の知見を取り入れる仕組みが構築されることが期待される。調査段階にて駅前開発の構想を考え、地下街やプロムナード、連絡通路などについても借款対象にし、周辺開発のデベロッパーにメリットがあるような整備を行うことが求められる。
- 上流段階より、ホスト国の官民との対話を通じてニーズとシーズを合致させることなどにより、要請から借款契約調印までに要する「標準処理期間」の達成率を向上すべきである。また、基本設計と詳細設計の一体発注などによる手続の簡素化・迅速化が考えられる。
- 2 新戦略の骨子(2030年のあるべき姿と実現に向けた政策対応)(3)
- 1 背景(インフラ市場の伸長とわが国企業の立ち位置)参照
- クロスボーダーな活動を展開する日本企業への効果的なサポート、広域で戦略的に事業を展開する企業側の事情やニーズに対応し、わが国経済外交戦略と連動させることを目的に設置。例えば、西アフリカ諸国では、現地進出している第三国企業の紹介、現地フランス大使館との連携が重要。
- アフリカの若者のための産業人材育成イニシアチブ(African Business Education Initiative for Youth)。アフリカの産業人材育成と、日本とアフリカのビジネスを繋ぐ架け橋となる人材の育成を目的として、アフリカの若者を日本に招き、日本の大学での修士号取得と日本企業などでのインターンシップの機会を提供するプログラム。2013年の第5回アフリカ開発会議(TICAD V)で日本政府から発表。
- 在留資格「研修」における「実務研修」は、国や地方公共団体のほか、国際協力機構(JICA)や海外産業人材育成協会(AOTS)等の公的機関の招聘等、公的な要素を含む研修に限定。民間企業主体による研修は、座学等の「非実務研修」のみが認められ、研修者のニーズに応えられない事例が存在。
- 日本が提案した「スマートコミュニティインフラの統合と運用のためのフレームワーク」に関する国際規格がISOで発行された事例あり。
- 例えば、鉄道分野に於いてはRQMS(鉄道品質マネジメントシステム)・RAMS認証の費用や更新費用の補助、認証員育成への支援等が求められる。
- 日本は19%に対し、米国は80%、ドイツは50%超が無償資金協力。
- 例えば、ナイジェリアにおける無償資金を活用したソーシャル・スタートアップ支援計画が検討中。www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/100713612.pdf
- なお、F/Sの精度向上により、予算の価格高騰等による予算不足の問題を回避することも重要。
- 金利0.2%、償還期間40年、据置期間10年を基準
- 現状、主契約者が日本法人であり、事業を実施する際に使用する資機材の30%以上が日本製とされている。
- VGF(Viability Gap Funding)は、途上国政府の実施するPPPインフラ事業に対して、民間事業者に供与する採算補填の原資を貸付け、PPPインフラ制度整備を促進するもの。鉄道事業などのライダーシップリスクのある分野に加え、燃料アンモニア製造などの採算性確保が難しい分野での活用の可能性がある。
- ゼネコン向けの新たなNEXI保険スキームの創設が考えられる。例えば、ODA案件のみまたは土木工事のみを対象とする包括保険制度の創設を期待する。
- 出資比率50%以内、最大株主にならないことが原則。
- ハードミニパームローンは、ミニパームローン(長期ローンまでのつなぎの融資)の一種で、期日前に借り換えなければデフォルトになるタイプのローンであり、北米・中南米では一般的。
- プロジェクトによって生産される生産物や製品の全部または相当部分を購入する契約に対するファイナンス。
- JOGMECの債務保証において、支援メニューの上限額が円貨で設定されているが、海外案件においては外貨建ての案件組成が必要であり、現在の円安局面下では外貨ベースでの上限額が減少してしまう課題があるため、外貨ベースでの基準設置が求められる。
- 日メルコスールEPA、日GCC・FTAの実現、アフリカ主要国との二国間投資協定の実現が急務。
- 例えば、世界銀行が2023年9月から導入したRated Criteriaなど。なお、わが国が優位性を有する、事故の少なさ、工期の厳守等のマネジメントを定量化して入札案件等とすることが考えられる。
- 例えば、衛星に関する受注など。
- 例えば、過去の実績・技術力が高いレベルで要求されるLNG分野において、基礎設計時点では多くのLNG案件の遂行経験豊富な日本人エンジニアを活用する必要であり、高い数値でのLC達成は困難である。
- 「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳共同声明」(2023年12月18日、東京)
- 例えば、電源構成における化石燃料依存率は、インドネシア78%、ヴェトナム55%、タイ82%、マレーシア80%、フィリピン78%【資源エネルギー庁資料】。
- 「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳共同声明」(2023年12月18日、東京)
- 「第13回アジア・ビジネス・サミット共同声明」。地球規模で他のプラットフォームとの相互運用性を確保し、国際標準設定、相互承認を推進。
- 経団連提言「二国間クレジット制度(JCM)の一層の活用に向けてパートナー国・地域の拡大と公的支援の改善・拡充を求める」(2023年11月6日)参照。