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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 「重要な契約」の開示にかかる「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対する意見

2023年8月10
一般社団法人 日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会 企業会計部会
経済法規委員会 企画部会

「重要な契約」の開示にかかる「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案について、意見を述べる機会に感謝する。

今回の改正案は、2022年6月に公表された「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(DWG報告)に即した内容であれば、基本的な方向性に異論はない。一方、今回の改正により経営上の機微に触れる情報が開示対象となり得ることから、開示する企業のレピュテーションや資金調達に影響が出ないように、各条項の具体的な開示対象及び開示内容は丁寧に検討する必要がある。金融庁においては、開示対象が過度に広がることがないよう、文言の修正や解釈の明確化を検討されたい

個別の論点に関しては、下記の通りに意見を提出する。

1. 全体

(1) 項目名

  1. ① 「経営上の重要な契約等」という項目名が「重要な契約」に変更されること自体によって、開示対象が従来よりも拡大するわけではないとの理解でよいか。また、項目名を変更した理由をガイドライン等で明記されたい。

(2) 対象となる合意・契約

  1. ① 「合意」とは契約書等の書面に限り、口頭の合意は含まれないこととすべきである。また、通知や協議にとどまる場合は、「合意」には該当しないとの理解でよいか。
  2. ② 改正府令の施行日前に既に存在する契約等は開示対象に含まれるのか、あるいは施行日後に新たに締結・変更した契約等が開示対象になるのか。前者である場合、開示内容に契約上の秘密保持条項に抵触するものが含まれる可能性があるが、企業に対して施行日までに契約の見直しを求めるということか。そうであれば、改正府令の公布から施行まで十分な猶予期間を設けることを検討されたい。
  3. ③ ガバナンス又は株主保有株式の処分・買増し等に関する合意について、完全親子会社間のガバナンスに関する合意に加えて、非上場の合弁会社など、株主が少数であり、かつ、全株主が当該契約の内容を認識している場合も開示を不要とすべきである。
    DWG報告33頁脚注93に記載のとおり、完全親子会社間の契約については、ガバナンスや株主保有株式の処分・買増し等に関する合意を含む場合でも、少数株主保護に配慮する必要がないため、開示を求める意義が乏しいとされている。株主が少数であり、かつ、全株主が当該契約の内容を認識している場合についても、完全親子会社間の契約の場合と同様、少数株主保護に配慮するために開示を行う意義は乏しいと考えられる。

(3) 開示の方法

  1. 開示が求められる項目について、外部開示を参照する対応を許容すべきと考える
    例えば、財務諸表の注記において財務上の特約の記載が行われている場合には、財務諸表の注記を参照できるようにされたい。
    また、金融機関では、各種規制に基づき財務上の特約が付された借入・社債等について届出や自社ウェブサイト等における開示を行うことがある。これらの開示を参照することを許容されたい。
    国際的な開示の潮流として他の書類等への参照を許容する動きがあり、わが国の開示においても、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」における会計上の見積りやサステナビリティ情報の開示等で参照対応が許容されている。本改正案で新たに開示が求められる項目についても、参照方式を許容できるようにされたい。
  2. 契約概要や合意の目的、取締役会における検討状況、財務上の特約や担保の内容などは、いずれも守秘性の高い事項であるため、ある程度抽象的な開示内容を許容すべきである各項目について、どの程度の記載が必要になるかについて、企業の負担にならないように具体例や指針を示されたい

2. 企業・株主間のガバナンスに関する合意

  1. ① DWG報告では、提出会社のガバナンス等に関する契約を対象とすることとされていたにもかかわらず、本改正案では、ガバナンスと無関係な事業上の契約等まで開示対象となるおそれがある
    例えば、持株会社(提出会社)P社の重要な子会社であるS社と、P社の株主であるX社とで、ライセンス契約を締結しているとする。当該契約の中に、知的財産権侵害の訴訟の提起および和解には、相手方の同意を得なければならない旨の合意が盛り込まれている。他方、S社において、訴訟の提起等は取締役会決議事項である。この場合、S社の取締役会決議事項(訴訟の提起等)についてP社株主(X社)の承諾が必要であることから、本改正案に基づく開示対象に含まれてしまう。しかし、このような契約を開示対象にすることは、P社のガバナンスには本来関係ないものまで開示させることになるうえ、P社のライセンス契約の相手方や契約の概要といった事業上の秘密について開示を強いることになり、不適切である。
    したがって、米国およびEUの開示ルールと同様に、通常の事業過程で締結した契約は開示対象から除外すべきである。加えて、契約(合意)について重要でないものは除くことを明確化すべきである
  2. ② 親子会社間の契約について、子会社が有価証券報告書提出会社である場合に限り、子会社側のみ開示すればよいとの理解でよいか。
  3. ③ 株主にはいわゆる実質株主も含まれるか。契約(合意)相手が実質株主か否かを確認することは容易ではないため、開示対象は名義株主との契約(合意)に限定すべきと考える。
  4. ④ 「役員について候補者を指名する権利」とは、契約上の指名権(つまり、特定の役員を候補者とすることについて法的拘束力がある場合)を指しており、事実上(慣例上)役員候補者を指名している場合は該当しないとの理解でよいか。また、有価証券報告書提出会社が株主に役員候補者の選定を要請し、それに基づき当該株主が候補者を推薦する場合、当該推薦された者を有価証券報告書提出会社が役員候補者としなければならない法的義務まで負っている例外的場合を除き、開示対象に該当しないとの理解でよいか。
  5. ⑤ 「議決権の行使に制限を定める旨の合意」は、具体的にどのような内容を意味するか。株主総会の会社提案議案に賛成する旨の合意や、特定議案について議決権を行使しない旨の合意が該当するのか。

3. 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意

  1. ① 米国およびEUの開示ルールと同様に、通常の事業過程で締結した契約は開示対象から除外すべきである。加えて、契約(合意)について重要でないものは除くことを明確化すべきである。
  2. ② 株券等保有割合の計算において、共同保有者の持分も合算することとされているが、共同保有者全員が「大量保有報告書を提出した者」に該当するのか。
    該当する場合、共同保有者のうち一部の株主との間でのみ、保有株式の処分・買増し等に関する合意を行っており、当該株主のみでは持分が5%以下となる(すなわち、大量保有報告書提出義務の閾値を下回る)場合も開示対象になるのか。共同保有者間で議決権行使について合意をしていたとしても、株式の処分・買増し等について合意をしているとは限らず、単独持分5%以下の株主との合意を開示する必要性は乏しいのではないか。
    仮に開示対象になる場合、有価証券報告書提出会社と合意を締結していない共同保有者については「当該契約の相手方」として開示する必要がないとの理解でよいか。
  3. 「その他の投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性がある者」は削除して、大量保有報告書の提出者との合意のみを開示対象とすべきである。重要性の高い株主として大量保有報告書の提出者が対象になっていると考えられるところ、「投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性がある者」の範囲が明確ではない。仮に削除が難しいとしても、具体例等により対象範囲を明確化されたい。
  4. ④ 有価証券報告書提出会社がその役員又は従業員に対して、当該提出会社の譲渡制限付株式を交付する場合、合意の相手方たる株主が役員又は従業員であることをもって、直ちに「その他の投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性がある者」に該当するわけではないと解してよいか。
  5. ⑤ 会社と株主が販売代理店契約等の継続的取引契約を締結していた場合において、株式保有比率が一定の割合を下回ったときに契約解除権が発生する条項は、開示対象に該当しないとの理解でよいか。

4. ローン契約と社債に付される財務上の特約

(1) 対象となる特約

  1. 財務上の特約の定義をより限定すべきである。例えば、契約上の一般条項として債務不履行や経営不安、債務超過になった場合に、期限の利益を喪失する旨の規定を置く場合が多いが、かかる規定も本改正案の「その他の一定の事由が生じたことを条件として当該提出会社が期限の利益を喪失する旨の特約」に該当するのか。該当する場合、開示対象が徒に拡大する可能性がある一方で、このような一般条項は大抵の契約に盛り込まれているものであり、開示する必要性が乏しい。したがって、「その他の一定の事由が生じたことを条件として当該提出会社が期限の利益を喪失する旨の特約」は削除すべきである。
  2. ② いわゆる破綻事由(債務者について破産手続等が開始されたこと、支払停止又は支払不能に陥ったこと、手形交換所から不渡処分又は取引停止処分を受けたこと、第三者から差押え等を受けたことなど)は「財務指標があらかじめ定めた基準を維持することができないことその他の一定の事由」に含まれないとの理解でよいか。このような事由も大抵の契約に盛り込まれているものであり、開示する必要性が乏しい。
  3. ③ 定量的に明示されていない事象(担保価値の減少、債務者の信用不安等)を条件として担保の提供を求める条項は、「期限の利益を喪失する旨の特約」に該当しないとの理解でよいか。
  4. ④ 有価証券報告書では、「財務上の特約」に限らず「その他当該提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性のある特約」が付された金銭消費貸借契約及び社債についても、当該特約の内容が開示対象になっている。しかし、DWG報告では単に、財務上の特約を開示対象にすべきとされていることから、開示対象は「財務上の特約」のみとすべきである
  5. ⑤ 第4号の3様式(四半期報告書)改正案では、財務上の特約が「当該連結会社……の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性のあるものであるとき」に開示対象とされている。臨時報告書及び有価証券報告書においても、財務上の特約が財政状態等に「重要な影響を及ぼす可能性のあるものであるとき」に限り開示対象とされたい
  6. ⑥ 特定の事業又は資産に依拠して借入を行う形式の金銭消費貸借契約(プロジェクトファイナンス、アセットファイナンス)は、貸出人も当該事業又は資産のリスクを負担するため、財務上の特約を定めることがある。
    このような金銭消費貸借契約において、事業運営上の機密事項に関連する財務制限条項を付すことがあり、当該条項の内容を開示することは事業パートナー、顧客や競合との関係において事業運営上の不都合が生じ得る。また、このような形式の借入金は倒産隔離や信託設定による資産保全措置などが講じられた特別目的事業体(SPV)による借入が主となっており、当該SPVが有価証券報告書提出企業の連結子会社としてオンバランスされる場合も、連結グループ全体の財務活動への影響は限定されている。
    したがって、特定の事業又は資産に依拠して借入を行う形式の融資については、財務上の特約に関する開示を不要とする、又は開示内容を限定すべきである。

(2) 元本額の基準

  1. ① 臨時報告書について純資産額の3%以上、有価証券報告書について純資産額の10%以上を基準とした理由は何か。臨時報告書と有価証券報告書で異なる閾値を設ける理由は何か。
    また、東京証券取引所の適時開示基準における子会社の異動等の軽微基準、および、インサイダー取引規制における組織再編の機関決定の軽微基準では、閾値が純資産額の30%未満となっていることも踏まえ、閾値の引上げも検討されたい。
  2. ② 企業内容等開示ガイドライン5-17-3について、基準となる財務指標又はその値が異なる財務上の特約が「実質的に同種と認められる」のはどのような場合かを具体例等により明確化されたい。
  3. ③ 企業内容等開示ガイドライン5-17-3について、財務上の特約において基準となる財務指標及びその値が同一であれば、財務上の特約全体が一致していなくとも「同種の特約」になるのか。

(3) 開示の方法等

  1. ① ガバナンスに関する合意や保有株式の処分・買増し等に関する合意は「重要な変更」があった場合が開示対象であるところ、財務上の特約については単に「変更」があった場合が開示対象になっている。軽微な変更は開示対象とならないことを明らかにされたい。
  2. ② 会社が海外で発行している社債について、現地の規制に従って目論見書等を開示している場合には、有価証券届出書又は発行登録追補書類を提出している場合と同様に、臨時報告書の提出を不要とすべきである。
  3. ③ 連結子会社が上場している場合、当該子会社が締結した財務上の特約は、当該子会社の有価証券報告書の中で開示される。また、上場子会社は独立した経営判断を行うことを期待され、親会社は通常、出資額以上の責任を負わないと考えられる。
    したがって、上場子会社が締結した財務上の特約に関して、親会社側の開示は不要とすべきである。
  4. ④ 財務上の特約が付された金銭消費貸借契約又は社債について、特約に定める一定の事由の発生があった場合であっても、その事実だけでもって開示を求めるのではなく、改善の為の対応策が確定した段階で、または、債権者と債務者の間での交渉が不調となるなど、期限の利益の喪失の可能性が高まった場合に開示を求めるべきである
    わが国の商習慣を踏まえると、財務上の特約に定める一定の事由が発生した場合であっても、直ちに期限の利益の喪失とはならず、債権者と債務者の間で交渉が行われ、一定の条件の下で債権者が自発的に権利を放棄することが多い。そのため、当該事由の発生時点で企業が開示できる情報は、当該事由が発生したことと、対応について権利者と協議していることのみとなる。このような開示は、レピュテーションリスクの増大とマーケットへの不必要な悪影響等を招くと懸念される。
    したがって、わが国固有の状況を踏まえ、債権者と債務者の間で合意が確実となった段階で、または、期限の利益の喪失の可能性が高まった場合に開示を求めるのが適切である。
  5. ⑤ 金銭消費貸借契約の相手方の名称ではなく、相手方の属性のみを開示すれば足りることとされたい。
以上

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