一般社団法人 日本経済団体連合会
危機管理・社会基盤強化委員会企画部会
【総論】
近年、地震、台風、局所的豪雨などの災害が頻発化、激甚化しており、また、南海トラフ地震、首都直下地震などの未曾有の災害に見舞われるリスクに直面している。国民の生活を維持し、企業の事業を継続するためには、官民が力を合わせ、国土強靱化に取り組むことが不可欠である。
社会情勢は日々変化しており、災害情報の収集・伝達や災害予測の高度化、防災や災害時のライフラインとなるインフラ設備の施工・維持管理の高度化やコスト削減に資する、デジタル技術の活用は不可欠である。また、人口減少、少子高齢化が進展するなか、デジタル技術を活用した自治体の災害対応力の強化や、国民とのリスクコミュニケーションの強化による地域レジリエンスの向上も重要である。
こうした観点から、政府が国土強靱化基本計画の見直しに当たり、『デジタル等新技術活用による国土強靱化施策の高度化』、『地域における防災力の一層の強化による「地域力の発揮」』を新たな取組の柱としたことを評価したい。
そのうえで、各論について、以下のとおり意見を述べる。
意見募集ページ(内閣官房)
「国土強靱化基本計画(素案)」及び「国土強靱化年次計画2023(素案)」に関する意見募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=060101701&Mode=0
【各論】
2項 国土強靱化基本計画の見直しに当たって考慮すべき主要な事項と情勢の変化
(2)分野横断的に対応すべき事項
2)インフラの強靱化・老朽化対策
インフラの老朽化に伴う障害や事故は、保全しなければ確実に起こる「緩やかな災害」である。しかしながら、高度経済成長期以降に建設した膨大なインフラをすべて維持・更新していくことは現実的でない。PPP/PFIの活用や、デジタル技術による管理・保全コストの削減を官民連携で進める必要がある。
また、地域の活性化と防災力強化、インフラの管理・保全コスト削減の観点から、災害リスクが低い地域にコンパクト・シティを形成し、活力ある地域を構築することも有効である。災害リスクの低い地域に自治体の公共施設や民間施設等を誘導し、集約化を進めるとともに、「防災集団移転促進事業(防集)」等の災害リスクの高い地域から住居等の移転を促す制度を拡充すべきである。
4項 国土強靱化政策の展開方向
(2)経済発展の基盤となる交通・通信・エネルギーなどのライフライン強靱化
大規模災害からの迅速な復旧復興には、社会インフラ機能やサプライチェーンの強靱化が欠かせない。
電力・ガス・通信などのライフラインの強靱化に当たっては、マイクログリッドや停電時自立運転機能を持つコージェネレーションシステムを活用した自立・分散型電力、カーボンリサイクル燃料(バイオ燃料・合成燃料等)などの活用を通じたエネルギー供給の多角化、通信ネットワークの多ルート化、次世代通信基盤等、真に有効な対策への投資を促し、早期の社会実装を実現することが重要である。
また、幹線道路や交通インフラは、災害で損害が発生した場合、社会・経済活動に対する甚大な影響をもたらすことから、大規模地災害に備え、官民連携で計画的にソフト・ハード両面での対策を進めるべきである。コロナ禍で露見したサプライチェーンの脆弱性についても、多元化・可視化・一体化に向けた投資の促進など、政府によるサプライチェーン強靱化支援の制度拡充と長期的な予算措置を期待したい。
4項 国土強靱化政策の展開方向
(3)デジタル等新技術の活用による国土強靱化施策の高度化
人口減少下においては、デジタル技術を積極的に活用し、防災分野でのデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することが不可欠である。とくに、官民が保有する災害情報の一元化、高度な災害予測を担うデジタルプラットフォームの早期社会実装を目指すべきである。その際、政府が持つ各種データや研究と、企業が保有する情報や技術を掛け合わせたソリューションやシステムを連携することが重要である。デジタル技術の早期社会実装のため、企業による防災分野でのデジタル技術開発を促すなど、防災・減災に資するデジタル技術の開発における官民連携の強化や予算措置を検討する必要がある。
5G技術等を活用して、建設機械を遠隔操作する無人化施工の試験的な導入が進んでいるが、安全基準が整備されていない課題もあり、早期の社会実装を実現するために一刻も早いルール整備を期待したい。
4項 国土強靱化政策の展開方向
(4)災害時における事業継続性確保をはじめとした官民連携強化
災害時における迅速な対応を実現するためには、官民連携で災害対策に資する情報の共有体制を構築することが重要である。「気象業務法及び水防法の一部を改正する法律」が成立したことを受け、今後は、洪水や土砂災害等の予報業務の許可基準が最適化され、民間事業者による予報が高度化されることから、局地的な豪雨など地域に応じた防災情報の発信や、より高度な洪水、土砂災害の予測が期待される。また、デジタル技術やビッグデータを活用することで、気象情報・データを他分野データと組み合わせた災害予測システムが一層発展していくことも期待される。そのためには、災害対策に資する衛星データ共有システムを構築し、安全保障に係る機微情報以外のデータを誰もが使いやすい形で利用できるようにすることが重要である。そのため、衛星データの即時性や質の向上に加え、衛星ごとのデータ規格の統一や使用権の整備等を行い、社会実装をより一層推進していくべきである。
災害時に国民生活や経済の維持の役割を担う企業は、事業継続計画を策定し、平時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段を取り決めておく必要がある。その際、自然災害とパンデミックの同時発生等、あらゆるリスクに備えた事前対策を講じるため、「オールハザード型BCP」の策定が強く望まれる。また、事業継続計画を見直す過程で明らかとなるリスクについて、官民が連携して対処することが重要である。