一般社団法人 日本経済団体連合会
経済基盤本部
1.総論
意見提出の機会に感謝する。本意見は「Pillar 1 Amount Aに関する企業連絡会」#1におけるこれまでの検討を基礎に経団連経済基盤本部として提出するものである。
2.これまでに波状コンサルテーションにかけられた項目
波状コンサルテーションにかけられた項目について、ステークホルダーの意見を反映していることを歓迎する。引き続き、申告実務を担う企業の実務負担を軽減する観点から、とりわけ以下の点についてコメントする。
(1) スコープ
(総論)
収入金額テストに関し、単年度での判定となったことは基本的に評価できる。なお、スコープの対象外であることが明らかな場合には、利益Aに係る課税ベースの計算、収入源泉地の特定等の一連のプロセスを実施することは不要であることを明確化すべきである。
また、利益Aの各種算定の際に用いられる収入の数値は、対象グループの連結財務諸表上の数値をそのまま用いることができるようにすべきである。
(各論)
① 規制金融業の除外
「預金」の定義における預入元本の保証の判定については、資金を預け入れた先の口座の通貨(外貨建て預金の場合には当該外貨)建てで価値変動を判定すべきである。すなわち、預入から満期迄の期間の為替変動の影響は除外すべきである。
また、金融セグメント内に規制された金融事業を営まない小規模法人が存在する場合についても、金融セグメント連結ベースでその財務指標を管轄法域の監督当局に提出し、その管理下にある場合においては、事務負担の軽減の観点から、当該金融セグメントにおける利益の大部分(90%)が規制された金融事業から生じている事を条件に、金融セグメント連結ベースで利益A対象から除外できるようにすべきである。
加えて、採掘業と同様に、規制金融事業についても、早期の安定性レビュープロセスを通じスコープからの除外対象と判定されるまでは、一定の移行期間を設けるべきである。
(2) 収入源泉ルール
取引アプローチの記載が削除されたことおよび配分キーに基づく一定のプロラタ計算の利用拡大を歓迎する。もっとも、依然として実施困難な項目も存在する。納税者の実務負担の軽減および予見可能性の向上の観点から、特に以下の項目についてさらに検討すべきである。なお、制度導入の7年後に、スコープの収入の閾値が200億ユーロから100億ユーロへ引き下げる方向でレビューされることが予定されている。同様に、収入源泉ルールの移行期間を7年間、少なくとも3年超の十分な期間として設定することが望ましいのではないか。収入源泉ルールは企業によって実行の困難さに大きく違いがあり、新しくスコープに入りうる企業の状況もよく勘案して決定する必要がある。
(a) 独立販社を通じた最終製品の販売
独立販社を通じた最終製品の販売について、3年間の移行期間が設けられたことを歓迎する。しかしながら、独立販社から情報を得る慣行はこれまでないなかで、最終的な販売先の情報を得ることは極めて困難である。また、補助的取引ルールについても、独立販社が補助的取引を区別する必要が生じる。よって、上記のとおり、少なくとも移行期間も3年超の十分な期間に設定し、スコープの議論とあわせて再度検討すべきである。
ノックアウトルールについても商業上、収入金額が無いことの証明は困難であることから、仮に適用される場合においても、禁輸措置など、国・地域をあらかじめ明確に特定できる法的な制約が存在する等の極めて稀なケースに限定されるべきである。
Tail End Revenue の閾値基準に関しては、それ単独で議論するのではなく、閾値を超えた後2年経過後の遵守状況を踏まえた取扱いとも併せて、慎重に検討する事を期待する。
なお、ノックアウトルールの判断にあたっては、VAT等の間接税に係る納税情報等を企業の任意により活用することも考えられる。
(b) 部品
部品について、3年の移行期間において、配分キーが設定されたことは一定の前進として評価できる。もっとも、移行期間を踏まえても、最終顧客の所在地を確定することは困難である。配分キーの活用の前提となる要件についても、どのようなプロセスやステップで信頼できる指標が無い事の証明を行うのか不明である。例えば、代替的な手段が無い事に関し、企業側の自己申告・宣言を前提に、直ちにアロケーションキーの活用が常に認められるようにすべきであり、その旨を多国間協定に明記すべきである。
(c) その他のサービス
国際モビリティおよびクラウドコンピューティングに関する収入判定の基準を明確化すべきである。
その他のサービスに関し、Large Customersの収入源泉の判定は「サービスが利用された場所に関する情報」や「商業的な文書」 など、手作業による収集が必要となる。また、「Aggregate Headcount Allocation Key(総人員割り当てキー)」についても、各Large Customersの親会社の所在地国及びCbCRの統計を引き続き必要としており、手作業が膨大となる。よって、例えば、多国籍企業グループの同一の親会社が把握している複数の顧客アカウントが商用システム上で紐づけされていない限り、Large Customersの判定は個別のアカウントレベルにて行うかたちとするなど、システム上で対応できるものにすべきである。また、Small Customersと同様に請求先住所を用いることも許容することも検討すべきである。
なお、代替的な方法として、Large Customersの財務報告における地域別売上の情報を、申告企業が任意で用いることも検討すべきである。
また、Large Customersに関する初期移行フェーズ後に適用可能な信頼性のある方法(Paragraph 7 and 8(c) of Section 2, Schedule E)について、代替的な選択肢を取らざるを得ないことの証明をどのように行うのか、明確化すべきである。
(d) オンライン仲介業者
デジタルコンテンツに関し、オンライン仲介業者とデジタルコンテンツの販売業者の定義・区分が不明確である。両者で適用される収入源泉のルールが大きく異なるため、具体的な事例を伴うかたちで明確化すべきである。
(e) 国庫補助
収入源泉ルールの対象となる国庫補助は、会計原則上、収入と分類されるものに限定すべきである。費用の控除項目等、損益計算書上、別の勘定で計上されている場合には、収入として再分類することを求めるべきではない。
(f) 合理的なステップ
合理的なステップとして契約の変更までは必要ないと明記したことを歓迎する。その上で、配分キーの適用等の前提となる「合理的なステップ」の内容は、コメンタリーではなく、多国間協定において内容を明確化すべきである。各国において合理的なステップの解釈が異なることは望ましくなく、拘束力のある多国間協定に規定することが望ましい。
(g) 内部統制フレームワーク
内部統制フレームワークにおける計算の正しさを確認するための検証プロセスについて、既存の財務報告に関わる内部統制制度との共通点または相違点を明確化することが望ましい。全く新しい監査のプロセスを追加するのではなく、既存のERP(Enterprise Resource Planning)のシステムや監査を最大限尊重すべきである。
(3) 課税ベースの決定
(a) 非支配持分の取り扱い
非支配持分に係る利益については、そもそも対象となるMNEの利益とは言えない。非支配持分に係る利益及び損失は確実に課税ベースから除き、支配持分に係る利益及び損失のみに基づいて課税ベースおよび利益率の算定が行われるべきである。
(b) JV持分の取り扱い
JV損益については課税ベースから除外することが望ましいが、課税ベースに含まれる場合は、非支配持分の取り扱いと整合的にすべきであり、JVパートナーに帰属する非支配持分に係る利益及び損失は、確実に課税ベースから除くべきである。すなわち、対象グループのJVに対する支配持分割合に基づいて課税ベースおよび利益率の算定が行われるべきである。
(c) 資産の公正価値に関する調整(Asset Fair Value Adjustment)
附則Fの税務会計調整は、時価評価前の簿価と時価評価後の簿価を個別資産毎に把握・管理し、減価償却費、資産処分損益等の調整額を計算することを求めており、企業にとって過大な事務負担となる。IFRS等の会計処理をそのまま用いて処理できる、もしくは選択制とすることが望ましい。
(d) 取得持分ベーシスの調整(Acquire Equity Basis Adjustment)
附則Gの税務会計調整は、取得時のみならず取得時以降も被結合企業の企業結合直前の簿価と連結上の簿価を個別資産毎に紐づけて把握・管理し、減価償却費、減損損失額、資産処分損益等の調整額を計算することを求めており、企業にとって過大な事務負担となる。したがって、IFRS等の会計処理をそのまま受け入れて修正を必要としない処理とする、もしくは選択制とすることが望ましい。
仮に、調整項目が残る場合であっても、株式取得、株式交換、株式移転、合併等、どのような形態の企業結合が会計税務間調整項目に該当するか、明確にすべきである。
3.プログレスレポートで新たに詳細が提示された項目
マーケティング販売利益セーフハーバーおよび二重課税の排除について、早期にコンセプトが提示されたことを歓迎する。定性的な判定ではなく定量的な判定とすることは、方向性としては正しい。もっとも、減価償却費や給与を参照し、マーケティング販売利益セーフハーバーや二重課税の排除を算定する仕組みは、新たに提示されたものであり、青写真における考え方とも大きく異なっている。また、簡素ではないようにも見える。このため、特に以下のとおりコメントする。
(1) マーケティング販売利益セーフハーバー(MDSH)
MDSHの各法域における計算に関し、法域単位の数値は第2の柱と整合的なものとすべきである。第1の柱と第2の柱でそれぞれ別個に数字を集計し、適用することは、望ましくない。あわせて、事務負担の軽減等の観点から、CbCRの数値を活用することや適用を任意とすることも検討すべきである。
適格資産、適格給与、適格従業員の定義および解釈については、各国で齟齬のないよう、明確なものとすべきである。
適格資産については、資産とその保有する事業体が同じ法域に所在しない場合や、航空機など資産が複数法域に所在する場合の取り扱いを明確すべきである。なお、資産の除去損についても適格資産に係る減価償却費の計算に加えることを検討すべきである。
適格従業員については、「独立した請負業者を通じて従事し、対象グループのメンバーであるグループ企業の指示および管理の下で行動する外部委託要員」も含まれるとされているが、その具体例を明確化すべきである。
(2) 二重課税の排除
① 総論
二重課税の排除については、MNEグループのなかで誰が申告・納税主体となるのか、源泉税の取り扱い等、明確になっていない点があるため、全体像を早期に示す必要がある。あわせて、コメンタリー等において複数のシナリオに関して具体的かつ詳細な計算例が解説されることが望ましい。全体として極めて複雑な印象を受けるため、Tierの階層を簡素化すること、waterfallとプロラタ方式の併用ではなくプロラタに一本化することも検討すべきである。
各法域における利益計算は、第2の柱における計算方法とも整合的に、当該法域所在の各法人データの積み上げ値に基づくものと理解しているが、併せて連結ベースでの計算も企業が選択できるようにすべきである。
市場国でPEが課税された場合の二重課税の排除の方法も明確化する必要がある。
なお、二重課税の排除を行うタイミングや修更正が生じた場合の二重課税排除の計算方法についても明確化が必要である。
② 二重課税排除の方式について
二重課税排除の方式は各国の選択に委ねるよりも、一律に同じ制度を採用する方が排除できない二重課税が発生するリスクは小さく、事務負担の軽減に資する。利益の概念に近いRODPという基準に基づき複数の法域が当事者となって二重課税の排除を行う設計を前提とすれば、所得免除方式を採用することが最も簡便かつ明快である。
仮に各国の選択に委ねる場合、外国税額控除方式では、各国の既存の制度において、控除上限や繰越期間の制限などが存在している。国家間の利益の配分に係る利益Aにおいて、これらの各国における制限を前提に制度設計を行えば、二重課税が完全に排除できないことになる。利益Aに基づいた定式的な配分は国家間における利益の調整の問題であり、必ずしもビジネスの実態や所得の源泉、現地での納税の有無に基づいて二重課税排除義務が配分されるわけではないなかで、これに伴って恒久的に排除できない二重課税が発生しうることは不適切である。このため、控除方式については、多国間協定において、控除上限や繰越期間などの制限がないかたちでの控除の仕組みを設けるべきである。
なお、二重課税の排除との関係では、全体像が見えた段階で第2の柱や源泉税との相互作用についてもさらに検討すべきである。
4.その他
行政機関に関する項目は今回のプログレスレポートでは明確化されていないが、納税・申告の際には、事務負担の軽減のため、One Stop Shop方式で行うことを要望する。
また、第2の柱と同様に、各構成要素の重要なポイントに関しては具体的な事例集を準備いただきたい。