一般社団法人 日本経済団体連合会
我々は今、重大な岐路に立たされている。行き過ぎた株主資本主義や市場原理主義への傾注は、国内外における格差の拡大と再生産、地球環境や生態系の破壊といった様々な社会課題を招いた。コロナ禍は、これらの課題を浮き彫りにするとともに、デジタル化の急速な進展など社会に大きな変化をもたらしている。
また、ロシアによるウクライナ侵略を受けて、グローバルな経済活動の基盤である国際秩序が根底から揺らぐとともに、食料・エネルギー等の安定供給の重要性が増している。
国内外の難局が同時に、そして複合的に押し寄せているなか、我々はWell-beingの向上やSociety 5.0 for SDGsの実現を目指した取組みを進めていかなければならない。そのためには、グローバルな視点を持つとともに、各地域の強みを活かし、DX・GXの推進など社会課題の解決を成長戦略ととらえ、イノベーションの創出による産業競争力強化や人材育成を通じた成長と分配の好循環を達成する必要がある。
このような認識のもと、本日、経団連夏季フォーラム2022において、我々は以下のとおり、イノベーション、地方創生、およびGXの推進に加えて、激変する国際情勢への対応について議論し、経済界としてサステイナブルな資本主義を実践し、持続可能な社会の確立を主導するための基本的な戦略の方向性を共有した。
折しも、先の参議院選挙では、総定数の過半数を大きく超える議席を与党が獲得したことで、強力かつ安定した政治の態勢が維持された。今こそ政治には強いリーダーシップを発揮し、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」・「骨太方針2022」を着実に実行し、下記で掲げた諸課題に果敢に取り組むことを強く期待する。
経団連としても、本日の議論を踏まえ、持続可能な社会の実現に向け、主体的かつ積極的に行動する。
1. イノベーションを不断に起こし、新たなビジネスを創出し続ける
政府への提言:
- 「5年で10倍増」に向けたスタートアップ関連施策の着実な実行
- わが国がweb3先進国となるための国家戦略の策定
● 持続的な成長と社会課題の解決を成し遂げるためには、不断のイノベーションと新たなビジネス創出が不可欠である。コロナ禍を経てさらに加速するDXにより、イノベーションの手法やスピードも変化している。
● 「非中央集権的」と呼ばれるweb3の潮流に対応しながら、Society 5.0 for SDGsの実現に向け社会全体のDXを推進するとともに、とがった技術やアイディアを持ち社会課題解決を担うスタートアップが次々に誕生し、適切に評価され急成長することも求められる。
【政府への提言】
「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」や「骨太方針2022」に掲げられた、スタートアップ税制、規制改革、リスクマネー供給、起業家教育、在留資格等のスタートアップ関連施策を、環境変化に左右されず着実に実行すべき。これにより、海外スタートアップ誘致を含め国際競争力のあるエコシステムを実現し「5年で10倍増」を確実に達成すべき。
web3が企業と資本、企業と顧客との関係、組織のあり方や働き方等社会全体に及ぼす影響や、新たな経済圏創造、地方創生の可能性等について幅広く検討し、わが国がweb3先進国となるための国家戦略を策定すべき。その際、NFTやDAO等の法的位置づけ、蓄積されるデータの保護、税制等のあり方を含む制度・環境の整備も必要。
【経団連の取組み】
スタートアップエコシステム活性化に向け、人材・デットファイナンスの供給、カーブアウト、M&A等を通じ大企業がその発展に貢献することが重要。好事例の横展開等により、各社のこうした取組みを促すとともに、政府の施策の実行を継続的に政府に働きかける。1年後を目途に達成状況のフォローアップを行う。
web3、NFT、DAO、メタバース等について、Society 5.0 for SDGs実現に向けた活用のあり方を早急に検討し、年内を目途に提言する。その際、新技術の現実空間との関係性や、負の側面(メタバースへの依存、NFTを用いた詐欺等)への配慮が必要だが、これを恐れて入り口から否定するのではなく、解決策を積極的に議論する。「まずやってみる」精神をもって建設的なトライアルを行い、人材育成や活用事例の蓄積・共有を図る。
2. 地方創生を実現する
政府への提言:
- 自治体や企業、大学など地方のステークホルダーと都市部の企業等による地域協創促進に向けたグランドデザインの策定・共有機会の創出
- 地方における投資を促進する環境づくりと人材の成長・活躍につながる施策の推進
● 地方は、自治体や企業、大学などのステークホルダーによるグランドデザインが欠如し、資金や人材も不足しているため、強みを活かした地域づくりの点で停滞感が否めない。
● 地場産業の振興や新産業の創造、DX・GXの推進、インフラの安全性確保など、諸課題について「誰が」「何を」やるのか、地方がグランドデザインを自ら描き、実行にあたって、多様な資源を保有する都市部の企業が関与することで、明確な役割分担の下での地域協創が期待できる。
【政府への提言】
本年末策定のデジタル田園都市国家構想総合戦略(仮称)において、地方と都市部企業の協創促進策を地方版総合戦略に盛り込むよう謳うべき。
地方における観光や農業、行政サービスにおけるDX実現、GX推進、ソフト・ハード両面からのインフラ整備、地方中核大学発ベンチャーの創出等に向けた、個人金融資産の活用など投資促進策の拡充、リスキリング等の支援などの政策を強化すべき。とりわけ、地方への人流創出を目的とした既存の諸施策は、周知・広報活動を積極的に行うとともに、実績の評価と課題整理に基づき見直しを行うべき。
分散型社会の構築と自律的な地方経済の活性化に向けた行政システムのあり方の検討を促進すべき。
【経団連の取組み】
経団連は、「サステイナブルな資本主義」の実現に向け、企業がマルチステークホルダーの視点をもちながら、DX・GXをはじめとする社会課題解決に向けた地方への投資に取り組むマインド醸成を図る。
「地域協創アクションプログラム」に基づき、政府・自治体・大学等の研究機関・スポーツ団体・文化団体などの多様な主体とともに、地方における価値協創体制の確立と社会課題の解決に取り組む。
地方が求めるDXやGX、経営人材などの人流の創出に向けて、副業・兼業や多様な働き方を推進する。また、OB・OGを含む会員企業の人材と地方自治体や中小を含む地域企業のニーズに柔軟に対応したマッチングに向けて、政府や他の団体と連携のもと説明会や交流会を開催する。
3. 官民による最大限の投資を通じ、GXを推進する
政府への提言:
- 2050年カーボンニュートラル(CN)への実効あるロードマップの策定と強力な司令塔の下での官民を挙げたGXの推進
- 原子力発電所の着実な再稼働・革新炉を視野に入れたリプレース・新増設、バックエンドへの対応等、原子力の積極的な活用を含むエネルギーの脱炭素化の推進
● 経済成長、産業の国際競争力強化を図りながら、2050年CNを実現すべく、国民の理解を深めつつ、国を挙げてGXを強力に進めていく必要。
● ロシア・ウクライナ情勢や、国内における電力需給逼迫等を背景に、エネルギー安全保障の重要性はかつてない程高まっている。GXをわが国の持続可能な成長につなげるには、S+3E(Safety + Energy security, Economy, Environment)のバランスを確保したエネルギー政策が大前提。
【政府への提言】
2050年CNに向け実効性があり国民にもわかりやすいロードマップを策定し、財政支出(グリーンディール)を含む、官民のGX投資を最大限引き出す必要がある。その際、各業界の技術開発・社会実装・グローバルサプライチェーンの構築への支援、インフラ整備、開示や評価指標等の国際的ルールメイク、産業の国際競争力強化に資するカーボンプライシング、分散型エネルギーマネジメントの構築、循環経済も含む資源確保等について、官民で具体的な議論を早急に開始すべきである。
エネルギーの脱炭素化と安定供給確保、産業競争力の確保を図るべく、原子力に関しては、既設発電所の再稼働や運転期間の60年への延長の円滑化、バックエンドへの対応と同時に、2050年を見据え、運転期間60年超への延長や、革新炉を視野に入れたリプレース・新増設の方針の早急な提示が必要である。原子力の継続的活用のため技術継承と人材育成も急務である。再生可能エネルギーに関しては、コスト競争力のある電源・設備の導入等を通じ、低コスト化をはじめとする主力電源化が求められる。併せてエネルギー資源の確保に万全を期し、強固なサプライチェーンを構築すべきである。
【経団連の取組み】
「経団連カーボンニュートラル行動計画」や「チャレンジ・ゼロ」といった主体的取組みを通じて、積極的なGX投資、中小企業・スタートアップを含むサプライチェーン全体での削減に取組むなど、DXを活用しつつ、自ら先駆的役割を果たす。
革新炉も含む原子力利用の積極的推進、グリーンディール、攻めの経済外交戦略などの「GX政策パッケージ」の実現に向けた働きかけを強化するとともに、科学的・論理的・客観的な情報発信や政策提言を行い、国民的議論を喚起する。
4. 経済・安全保障・外交を一体的に捉えた政策の推進
政府への提言:
- 世界の持続的発展に貢献する国を目指すとの立ち位置を明確にすべき
- FOIPの下、EPAの拡大等によって同志国等との関係を強化すべき
- ウクライナ侵略を「わが事」と捉え、防衛力を抜本的に強化すべき
- 複雑な国際情勢の下で国益を追求するため独自の外交を展開すべき
● ロシアがウクライナを侵略し、自由主義的な国際秩序の根幹が揺らいでいる。世界の分断を回避するとともに、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」との懸念が現実のものとならぬよう、わが国は経済・安全保障・外交を一体的に捉えた政策を推進する必要がある。
【政府への提言】
科学技術力の向上を通じて国力を強化することによって、世界の持続的発展、すなわちSociety 5.0の実現に貢献する国を目指すとの立ち位置を明確にすべきである。
「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)ビジョンの下、EPA・FTAの拡大・深化やODAの拡充等を通じて、同志国をはじめとする各国との関係を強化することによって、企業によるサプライチェーンの再構築を促進するとともに、エネルギー・食料等の安定供給を確保すべきである。
ロシアによるウクライナ侵略を「わが事」と捉え、日米安保体制を基軸に防衛力を抜本的に強化すべきである。
自由貿易を含む自由主義的な国際秩序の重要性を高く掲げながら、複雑な国際情勢の下で、日米同盟およびG7としての結束・連携を基盤として、わが国の国益を追求する独自の外交を展開すべきである。
【経団連の取組み】
TICAD8、B20サミット、アジア・ビジネス・サミット等への参加を通じて各国と対話を重ね、世界の分断の回避に貢献する。来年議長を務めるB7サミットでは、刻一刻変化する国際情勢を踏まえ、自由で開かれた国際秩序の再構築について議論し、G7広島サミットへの提言を取りまとめる。