一般社団法人 日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会 資本市場部会
建設的対話促進ワーキング・グループ
はじめに
ポストコロナの新しい経済社会づくりに資する、実効あるコーポレートガバナンスを構築するためには、株主、顧客、従業員、地域社会などのステークホルダーの利益とともに、SDGsをはじめとするグローバルな社会的課題の解決に企業が主体的に貢献することを通じて、企業の持続的な成長と中長期的な価値向上を図る観点が重要である。
経団連は、コーポレートガバナンスとは本来、各企業自らが、企業の目的に即して主体的に構築すべきものであるという考えから、様々な取組みを行ってきた。2017年11月には企業行動憲章を改訂し、会員企業に対し、Society 5.0の実現を通じたSDGsの達成やESG(環境・社会・ガバナンス)重視の経営を呼びかけるとともに、トップの主導による実効あるガバナンス構築を求めた。また、2020年9月には、提言「企業と投資家による建設的対話の促進に向けて」を公表し、新型コロナウイルスの感染拡大による金融・経済情勢の変化を踏まえながら、建設的対話の促進に向け、企業や投資家、政府それぞれに求められる取組みを示した。さらに、2020年11月には、今後の経団連活動の指針となる「。新成長戦略」を公表し、多様なステークホルダーとの協創によるサステイナブルな資本主義の確立を提言した。
政府による「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)の検討においても、日本企業の競争力強化、企業価値の向上に資する改革に賛同する立場から、意見を述べてきたところである。
今般、その検討の結果を踏まえ、コーポレートガバナンス・コード改訂案ならびに投資家と企業の対話ガイドライン改訂案が公表された。
これらの改訂案は、企業のサステナビリティへの取組みや人材の多様性の確保を通じて、社会の発展と企業価値の向上を目指すものであり、経団連の掲げる「サステイナブルな資本主義」の考え方や、世界の潮流にも合致したものと評価する。
近年、社会的存在としての企業の意義が問われる中、今般の改訂を機に、日本企業が中長期的な企業価値の向上の観点から、内外の投資家やステークホルダーから高い評価が得られる経営体制を自ら再構築することが重要である。
改訂されたコードならびにガイドラインの実施にあたっては、投資家と企業との対話やコーポレートガバナンスのあり方が、より一層「形式」から「実質」を伴うものとすることが何より肝要である。
以上の観点を踏まえ、以下の通り、コード改訂案に関する意見を述べる。
1.プリンシプルベース・アプローチ及びコンプライ・オア・エクスプレインの徹底
コーポレートガバナンス・コードはルールベース・アプローチ(細則主義)ではなく、プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)により、それぞれの企業が、自らの価値向上に最も資する形で適用することが基本である。また、コンプライ・オア・エクスプレインの枠組みの中で、コードに合致しない場合でも、投資家への説明を通じてガバナンス向上を図ることが重要となる。
この仕組みを機能させるためには、企業側の真摯な取り組みと同時に、機関投資家や議決権行使助言会社等の取組みが鍵となる。ガバナンスの「実質」を高める観点から、投資家や議決権助言会社等において、一律的・形式的な判断を行うのではなく、投資先企業との建設的な対話を行っていくことが必要である。この点、政府ならびに金融当局から、投資家をはじめとする市場関係者に対し、一層の理解促進を図るべきである。
2.ガバナンスコードの改革が企業価値向上に与える影響についての検証
持続的成長と中長期的な企業価値の向上につながるコーポレートガバナンスを実行していくためには、これまでの改革によるコードの実施をより一層「形式」から「実質」を伴うものとすることが必要である。そのためには、コードの導入とこれまでの改訂により、わが国企業の経営や、中長期的な企業価値向上にどのような成果がもたらされたのか、逆にどのような成果が得られていないのか、それらの要因などについて、客観的・包括的な検証を行うことが不可欠である。その際、コードを踏まえつつ実情に応じて創意工夫に取り組む各社の実態も、十分に把握すべきである。
3.改訂後のコードの実施・運用局面におけるフォローアップ
本コードはプリンシプルベース・アプローチを採用していることから、その実施にあたっては、各社が一定の裁量を持ちつつ自らの状況に応じた柔軟な運用が前提となる。一方で、各項目の解釈や適用において、実務上、様々な課題や疑問が生ずると考えられる。各企業からの質問や直面する課題の解決について、当局には丁寧な対応とフォローアップを期待する。
4.各論
(1) 適切な社外取締役候補の選任(コード原則4-8、同補充原則4-11①)
わが国企業のガバナンス改革や人材育成は着実に進展してきたものの、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するような資質を十分に備えた者(コード原則4-8)、他社での経営経験を有する者(同補充原則4-11①)を上場企業が一斉に、独立社外取締役として選任するためには、人材プールやパイプラインの育成が未だ十分ではない。
特に、プライム市場上場会社についてはこのような独立取締役を少なくとも3分の1以上選任すべき(同原則4-8)とされ、2022年4月以降の株主総会において新たな独立社外取締役の選任が一斉に行われることとなるが、適切な人選がそれまでに間に合わないことも考えられる。その場合、例えば、2023年の総会において〇人の独立社外取締役を選任予定といった記載を行えば、コード改訂の趣旨は十分満たされると考えられるため、このような対応の可能性について示されることを希望する。
また、「他社での経営経験を有する者」として、例えばメインバンクなどの金融機関関係者も有力な候補者となると考えられるが、現状、東証の独立性基準の判断において「主要な取引先」として「いわゆるメインバンクなどが考えられる」とされていること、また、議決権行使助言会社が一律的に「金融機関出身者」を否定していることなどから、独立社外取締役の候補の幅が狭くなっている。東証や議決権行使助言会社の基準を見直しの上、柔軟性を確保して、実質的な判断を行うべきである。
(2) 多様性確保のための目標、方針と実施状況の開示(コード補充原則2-4①)
多様性の確保のあり方は、業種・業態・経営環境等によって様々であることから、多様性確保の目的や必要性を明確化するとともに、目標の開示方法についても、数値目標等を前提とした形式的・画一的な内容ではなく、中長期的な企業価値向上の観点から各社が実状に応じて必要と判断する内容を示すことを可能とすべきである。#1
おわりに
これまでの資本主義の限界が、コロナ禍によって浮き彫りにされるなか、資本主義の主要な担い手である企業には、SDGsをはじめとするグローバルな社会的課題の解決を通じた中長期的な企業価値の向上が求められている。その鍵となるのは、多様なステークホルダーとの協創、対話であり、その実現に向けてコーポレートガバナンスの果たす役割は極めて重要である。
経団連では、引き続き会員企業に対し、このような観点から望ましいコーポレートガバナンス確立に向けた取組みを強化すべく、さらなる努力を呼びかけていくとともに、幅広いステークホルダーとの対話を通じて、わが国経済界としてのあるべき姿の実現に向けて取組みを推進していく。
- 例えば、以下のような記載でも対応可能とすべきである。
- 現状の数値を示し、将来的に〇%、あるいは、〇人程度まで拡充する予定。
- 現状の数値を示し、現状より増加させる予定、あるいは、現状を維持する予定。(定性的な記載方法)
- 女性の管理職登用は、〇%を目標としている。中途採用者は現状の〇%を増加させていく。外国人の登用については、当社の事業が国内中心であるという特性に鑑みて、測定可能な目標は示さない。(目標を示さない理由を開示する方法)