2020年5月15日
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会 競争法部会
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会 競争法部会
【はじめに】
昨年の独占禁止法改正法案の成立に伴い、弁護士・依頼者間秘匿特権が導入されることを受け、「公正取引委員会の審査に関する規則」の一部改正(案)及び、「事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の内容が記録されている物件の取扱指針」(案)(以下「指針案」という)が公表された。同制度は、当会が長らくその創設を求めてきたものであり、議論の進展を歓迎する。
概要文書の提出期限をはじめ、全体的に事業者が対応可能なものとするよう配慮が伺えるところであるが、さらなる改善・明確化を図る観点から、指針案に関し以下の通り意見を提出する。
【意見】
<第2「本取扱いの内容」>
〇 (注5)(指針案(以下略)2頁)
- 社内弁護士が「指揮命令監督下になく、独立して法律事務を行っていることが明らか」と認められるためには、雇用契約の解約が必要となるわけではないことを確認したい。
- 社内弁護士が事業者からの独立性がないため本取扱いの「弁護士」と認められないことの立証責任は、公正取引委員会にあることを確認したい。
- 被疑行為の主体となった事業部門と法務部門が指揮命令監督のラインを異にしている場合は、法務部門所属の組織内弁護士については、事業者の指揮命令監督下にない「弁護士」に該当すると考え得るか確認したい。また、会社法に定められる監査役(あるいは監査委員会、監査等委員会、社外取締役)の執行サイドへの監督機能、独立性に鑑み、法務部門が監査役の指揮命令下で法律事務を行っている場合はどうか。
〇 1「特定通信の内容を記録した物件」(3頁)
- 弁護士から取得した法的意見を引用した社内の稟議書は、 「弁護士から特定行為者への回答文書」に準ずるものとして、特定物件と扱われるという理解で良いか。
〇 1「特定通信の内容を記録した物件」の(注7)(3頁)
- 事業者から弁護士への相談や弁護士から事業者への回答に係る文書の中に事 実に関する記載が含まれている場合は、全体として相談文書・回答文書であるかを判断する理解でよいか(例えば、本文の例示にある「弁護士から特定行為者への回答文書」において、前提となる事実の記載部分の文章量が、法的意見そのものの記載部分より多かったとしても、「弁護士から特定行為者への回答文書」に該当すると判断され得るという理解でよいか。)この理解でよければ、本文の例示に「弁護士から特定行為者への回答文書(事実関係のサマリーが記載されている場合を含み得る。)」などと追記すべきである。
- 「弁護士が…実施した役員等へのヒアリング記録等」は対象外文書とされるが、弁護士のヒアリングに関して、単に事実をヒアリングするのではなく、弁護士が考える法的意見に沿って質問が構成され、その質問に弁護士の被疑事件に関する見解や印象等が反映されている場合には、秘匿特権の対象となり得るとすべきである。
- 事業者が日本国内の「不当な取引制限」被疑事件の立証に関係する事項について、日本法弁護士を経由して、外国法弁護士の助言等(例えば、国際カルテル事件であって、日本の独禁法に抵触する行為を含む可能性のある事実関係に関して得た助言を想定)を得た際、日本法弁護士が当該外国法弁護士の助言等に自らの「不当な取引制限」に関する法的助言を付している場合には、外国法弁護士の法的助言部分も含めて秘匿特権の対象とり得るとの理解でよいか。
- 上記の理解で良い場合、ここでいう助言等を行う外国法弁護士については、事業者の法務部門(子会社・海外現地法人の法務部門等を含む)に所属する社内弁護士を含むとの理解でよいか。
〇 2「適切な保管」の(1)「表示」(3~4頁)
※ 第7「電子データへの対応」の1「適切な保管」の(1)「表示」(9頁)も同様
- 「公取審査規則特定通信」等の表示は、指針案に記載の通りあくまで例示であり、日本の「不当な取引制限」事案に関する特定物件であることが示される記載であればよいことを確認したい。また、その記載は必ずしも日本語で表記されていなくてもよいことを確認したい。
〇 2「適切な保管」の(2)「保管場所」(4頁)
※ 第7「電子データへの対応」の1「適切な保管」の(2)「保存箇所」(9頁)も同様
- 「適切な保管」の要件は、検査に入った審査官に対象物件を明示することに重点があると思われる。そこで、対象物件の保管場所として示された場所に、対象外物件が多少混在していたとしても、「適切な保管」の要件を満たすことを確認したい。
- 対象物件の保管場所に関して、保管場所が法務部門フロア内に位置するといった専ら物理的状況を意味するものではなく、施錠・管理等が法務部門によって行われているという機能的状況を意味するもの(例えば、法務部門が施錠・管理する外部倉庫、ロッカーも含まれる)との理解でよいことを確認したい。また、この理解で良い場合、その距離的限界はあるか(例えば、法務部は東京本社にあるが、ロッカーは大阪の支社にある場合はどうか)。
〇 2「適切な保管」の(3)「内容を知る者の範囲」(4頁)
※ 第7「電子データへの対応」の1「適切な保管」の(3)「内容を知る者の範囲」(9~10頁)も同様
- 国際カルテル事案の対応においては、各国での手続き・評価を総合的に判断して取り進める必要があることから、日本の弁護士とのやりとりは、外国弁護士にも共有する必要がある。その際、事業者と日本の弁護士との通信内容を、日本の弁護士から外国弁護士に共有するといった方法のみでは、時間もかかり(場合によっては言語の問題も生じ)、日本の弁護士の労力も大きくなる。そこで、国際カルテル案件においては、外国法弁護士を「適切な保管」の「内容を・・・知るべき者」に含める、あるいはその他の方法により、日本の弁護士との通信内容を事業者と外国弁護士が直接共有した場合においても、その通信内容は秘匿特権の対象として保護されるとすべきである。
- 子会社等が、弁護士から取得した法的意見を引用し報告書を親会社等に提出した場合、親会社等を「内容を・・・知るべき者」に含めるべきである。改正独禁法では、グループ会社における親会社等の管理責任も前提に改正が行われていることを踏まえると、秘匿特権を理由にグループ会社から情報が上がらず、管理に限界が生じることは支障がある。
〇 3「申出書及び概要文書の提出」の(2)「概要文書の提出」(4~5頁)
※ 第7「電子データへの対応」の2「申出書及び概要文書の提出」の(2)「概要文書の提出」(10頁)も同様
- 概要文書記載事項の「カ 特定物件の概要(作成・取得経緯)」(電子データは「カ 特定データの概要」)については、当該事件に関する弁護士との相談文書・回答文書等であることが分かる程度のものが要求されていると理解しているが、具体的にどのような記載を行えば足りるのか、記載例を示すべきである。
〇 4「その他」(5頁)
- 外国弁護士とのコミュニケーションにつき、日本法弁護士との日本の独禁法に関するコミュニケーションとは別の特定のアカウント・フォルダで管理・保存している場合には、原則として、提出命令の対象外となり、「当該事件の調査に必要である」場合には、審査官がその理由を事業者に説明の上、提出命令を行う(事業者が「当該事件の調査に必要ではない」ことを示す必要はない)との理解でよいか。
<第4「判別手続等」>
〇 2「判別手続」の(2)「 第二次判別手続」のイ「対象外文書等の確認」(6~7頁)
- 対象外文書等の写しを判別官と審査官に提出する旨の記載があるが、一つ一つの文書等について写しを2部準備するのは煩雑であるので、他の運用方法を検討すべきである。また、必ずしも「写し」を提出させる必要はなく、当該文書等を特定可能な方法で明示すれば足りるのではないか。
<第5「還付手続等」>
〇 2「審査官への引継ぎ等」の(1)「特定行為者への確認等」(8頁)
- 判別官から事業者に確認の連絡が行われた場合には、回答準備に要する合理的な期間を考慮し、事業者の意見も踏まえ適切な回答期限が設定されるとの理解でよいか。
〇 2「審査官への引継ぎ等 」の(3)「特定行為者への通知等」(8頁)
- 判別官から審査官へ引継ぎの際、事業者への通知書面には、事業者が還付請求を行うべきかを合理的に判断できる程度に対象物件でないと判断した理由が記載されるとの理解でよいか。
〇 3「特定行為者による還付の請求への対応」の(3)「特定行為者への通知」(8頁)
- 審査官による還付請求の却下は「処分」に該当すると理解しているが、当該処分は行政手続法に定める処分の理由開示の対象となるか。もし、ならないのであれば同等の理由の開示がなされるか。
<第7「電子データへの対応」>
〇 1「適切な保管」全体(9~10頁)
- 電子メールに限らず、チャットツールやウェブ会議システムを介して事業者と弁護士がコミュニケーションを取ることもある。この場合も、弁護士との通信の内容を知る者を「知るべき者」に制限した場合は、「適切な保管」の要件を満たすとの理解でよいか。
- 例えば、Microsoft Teamsでは、弁護士との通信用の特定のteamの中で、ファイルのやり取りができる。この場合、このファイルに関しては、特段取り出して、別途フォルダ等に収納する必要はないとの理解で良いか。
〇 1「適切な保管」の(1)「表示」(9頁)
- 電子メールの件名の箇所に特定通信の内容である旨の表示がなされていることが要求されているが、本制度の開始前に存在した特定通信の内容について、事後的に件名にかかる表示を付すことは困難である場合もある。そこで、電子メールについても、物件と同じように保存箇所のフォルダに必要な表示することで足りるとすべきであり、それで「表示」の趣旨は達成されるはずである。
〇 1「適切な保管」の(3)「内容を知る者の範囲」(9~10頁)
- 「電子データの内容を知る者が制限」されているとは、当該データをパスワード管理し閲覧可能な者を限定していれば、フォルダへのアクセス制限まで必要でないという理解でよいか。また、逆に、内容を知るべき者以外に対するフォルダへのアクセス制限が設けられていれば、フォルダ内の1つ1つのファイルにPWをかけることは必要ないとの理解で良いか。
<第8「供述聴取における本取扱いの対象となる物件等に係る配慮」(12頁)>
- 「原則として・・・聴取を行わない」とあるが、例外に関しては、秘匿特権制度の実効性を担保するためにも、限定的に解する必要がある。被聴取者が任意に話した場合などに限られると理解しているが、想定事例を確認したい。
以上