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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 BEPS行動7 PE帰属利得に関する追加ガイダンス 公開討議草案に対する意見

2017年9月15日

OECD租税政策・税務行政センター
 条約・移転価格・金融取引課 御中

一般社団法人 日本経済団体連合会
税制委員会企画部会

BEPS行動7 PE帰属利得に関する追加ガイダンス
公開討議草案に対する意見

「BEPS行動7 PE帰属利得に関する追加ガイダンス 公開討議草案」に対しコメントする機会に感謝する。BEPS最終報告書によってPEの範囲拡大が勧告され、多国間協定等によってその効果が近い将来、個別の租税条約に反映される見込みとなる中、課税当局・納税者の双方にとって受け入れ可能な帰属利得ガイダンスの策定が急務となっている。

今回の公開討議草案には、いくつか評価できる部分がある。例えば、「租税条約7条(事業所得)と9条(特殊関連企業)を適用する場合…源泉地国内で二重課税が生じないことを確保しなければならない」(パラ12)との記述は極めて重要であり、また、「取引の正確な描写の結果、源泉地国に所在する仲介者が非居住企業の取引に関しリスクを負っていることが示される場合には、PEに帰属する利得は極小又はゼロ」(パラ19)との説明には納得感がある。加えて、非AOA採用国も射程に入れた簡便性向上のための執行アプローチが新たに提示されたことを歓迎する(パラ20~21)。

他方、こうしたハイレベルの概念を個別具体的な事例に当てはめる場合のガイダンスについては、依然として明確化・拡充の余地がある。納税者の二重課税リスクを排除するとともに事務負担増加を抑制する観点から、7条と9条の関係に関する検討の深掘りを行うとともに、簡便性向上のための執行アプローチを具体化することが不可欠である。

なお、今回の公開討議草案はPEの帰属利得に関するものであるが、そもそも特定の活動がPEに該当するか否かについてのガイダンス(例えば、準備的・補助的活動とそうでない活動の線引きに関するもの)も、今後、拡充すべきである。

1.7条と9条の関係

今回の公開討議草案では、2016年7月の公開討議草案(第1次草案)と同様、非居住企業が関連者たる仲介者を源泉地国に有し、その仲介者の活動によって非居住企業のPEが源泉地国で創出されるという事案に重点が置かれている。その上で、仲介者の利得と非居住企業のPEの利得の関係については、「ホスト国の課税権は、仲介者に対する独立企業の報酬を保証することによっては必ずしも枯渇しない」(パラ19)とされるなど、従来のダブル・タックスペイヤー・アプローチが踏襲されている。その理由としては、7条におけるリスク帰属のための重要な人的機能と9条におけるリスク支配機能が互換可能でないことが挙げられている(パラ17)。

仲介者の利得が移転価格税制によって適切に算定されていればPE認定はそもそも不要との我々の立場(シングル・タックスペイヤー・アプローチ)からすれば、上記の説明には違和感を覚える。そもそも、7条のAOAによれば、PE に帰属する利得は、当該PE が分離し、かつ独立した企業であるとしたならば取得したとみられる利得とされ、移転価格税制の概念を用いて計算する。リスクの帰属についてのみ9条と異なる概念を採用するとの考え方は理解が難しく、混乱が生じるため、この機会に7条と9条の概念を統一していただきたい。

それでも、ダブル・タックス・ペイヤー・アプローチを徹底するならば、リスクに関する7条と9条の考え方の相違について、それがどのようなケースで顕在化するのかという点も含め、詳細なガイダンスを提供すべきである。

なお、7条と9条の適用順序については、今回の公開討議草案では多くの法域が9条を先行させる旨の記述を行っている一方、結果としていずれの順番も許容しているように見える(パラ12)。源泉地国に関連者たる仲介者が存在する場合、まずは9条による分析を先行することが自然であり、最終ガイダンスでは、9条優先とのメッセージを明確に打ち出すべきである。

2.簡便性向上のための執行アプローチ

今回の公開討議草案では、PEの存在を認識しつつ、仲介者の活動から適切な税額を徴収するという簡便性向上のための執行アプローチが紹介されている。納税者サイドとして方向性については歓迎するが、いくつか課題を指摘したい。

第1は内容の拡充である。パラ21で正しく認識されている通り、一旦PEを有すると決定された場合、ホスト国での納税・報告義務に対する非居住企業の潜在的コンプライアンス負荷は取るに足らないものと退けることはできない(より正確に表現すれば、コンプライアンス負荷は非常に重い)。この点を踏まえるならば、簡便性向上のための執行アプローチとは、単に「認定されるはずだったPEの分も含め、仲介者が税額を納付する」という内容に留まらず、「そもそも認定されるべきPEはなかったものとする」ところまで踏み込んだものでなければ、効果は充分でない。従って、移転価格税制が適切に執行されていればPEの認定及びその利得計算は不要とするという考え方も、改めて、真剣に検討すべきである。仮にそうした合意が難しい場合であっても、利得(或いは収入)が明らかに一定金額以下になると見られる場合には、PEの認定及びその利得計算を不要とするアプローチを採用すべきである。

第2は、AOAの徹底である。上記を踏まえてもなお、PEの存在が認識される場合には、提示された簡素化アプローチに沿って仲介者の活動から適切な税額が徴収されることになると思われるが、実務的には、「適切な税額」の意義を含め、このアプローチの詳細が必要不可欠となる。今回の公開討議草案における記述のみでは、源泉地国課税当局による恣意的な解釈を招き、結果、二重課税に繋がる恐れがある。最終ガイダンスでは、「PE分の利得」は、みなし利益率やワールドワイド課税等ではなく、あくまでもAOAに則って算定すべきことを明記するとともに、「PE分の利得」の上乗せを目的とした課税当局による安易な調査・更正を抑制する記述を盛り込むべきである。

なお、このアプローチでは、仲介者が納付する「PE分の税額」に対応した外国税額控除が、非居住企業において認められるか否かが明らかになっていない。本件は源泉地国課税当局の判断のみで決まるものではなく、居住地国課税当局の立場も問われると見られる。二重課税を確実に排除する方向での明確化に期待する。

第3は、規範性の強化である。このアプローチの位置づけついては、各国が継続又は採用することが妨げられない旨の記述に留まっているが(パラ21)、二重課税の排除、事務負担軽減の観点からは甚だ心許ない。最終ガイダンスでは、このアプローチの採用をより明確に勧告し、包摂的枠組に参加する各国の協調行動を促すべきである。少なくとも各国は、納税者の予見可能性を確保するため、アプローチの採用・不採用に関する立場を公表すべきである。

3.事例

今回の公開討議草案において、PE帰属利得の計算に関する事例は、第一次草案と異なり、数値ではなく文章で説明されている。数値による説明は、場合よって一人歩きの恐れがある一方、やはり、概念の説明だけでは結果が推測しにくいため、数値での説明を復活させることが望ましい。それが難しい場合でも、仲介者とPEの機能・リスクを区分した、より複雑な事例が複数、必要である。

帰属利得の算出に際しては、非居住企業の本店とPEの内部取引及びPEに帰属する外部取引を明確に認識することが重要となる。その意味で、事例1~4でそれぞれ分析が示されていることは評価するが、いくつかコメントしたい。

事例1

PEが存在する前提での事例であることは理解するが、やはりTradeCoのPEに外部売上を帰属させ、PEと本店の内部取引によってPEにおいて売上原価を認識するとの建付けには違和感を覚える。いずれにせよ、仮に公開討議草案で示された計算方法を実行すると、PEの帰属利得はゼロ又はマイナスになるように感じられる。

なお、「S国でSellCoがTradeCoのため行う活動と同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う非関連当事者にTradeCoが製品を販売したとするならばTradeCoが得ると見られる金額」の算定に際しては、内外のデータ入手に困難が生じると見られること、また、課税当局が恣意的なコンパラを選定する恐れがあることを指摘したい。

この他、帰属利得の計算の過程で控除する「PEのために生じた他の費用」については、PEでの収入を得るための直接・間接費用であり、本店とPEの共通経費もあり得ると思われるが、その具体的内容や計算方法に関するガイダンスの拡充に期待する。

事例2・3

問題意識は基本的に事例1と同様である。なお、いずれについても、そもそもPEが認定される理由について、補足的な説明を歓迎する。

事例4

本事例では倉庫における活動と事務所における活動を一体的なものとして捉える一方、結果として二つのPEが認定され、それぞれ帰属利得を計算することとなっており、申告や調査対応で実務が煩雑化する恐れがある。1のPEとして簡便に利得を計算する方法についても検討すべきではないか。また、事例1~3には記載のある簡便性向上のための執行アプローチが事例4では見当たらない。特段の理由がない限り、事例4にも盛り込むべきである。加えて、関連者が運営する倉庫において関連者の従業員が勤務している場合には結論が異なるのか、事例の拡充に期待する。

なお、この事例は、OnlineCoの商品をS国で販売するため役割分担をしているという意味で、倉庫の業務と事務所の業務には共通性があるが、倉庫の業務はある製品の引渡し、また、事務所の業務は別の事業に関する情報収集と、共通性がない場合もある。そのような事例が細分化防止条項の対象となることがないよう留意する必要がある。

以上

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