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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 BEPS行動7 PE帰属利得に関する追加ガイダンス 公開討議草案に対する意見

2016年9月5日

OECD租税政策・税務行政センター
 条約・移転価格・金融取引課 御中

一般社団法人 日本経済団体連合会
税制委員会企画部会

BEPS行動7 PE帰属利得に関する追加ガイダンス 公開討議草案に対する意見

1.総論

BEPS最終報告書の勧告を受けて、今後、OECDモデル租税条約第5条(恒久的施設)が改訂され、代理人PEの範囲が拡大されるとともに、企業の活動が準備的・補助的であるか否かについては実質判定がなされることになった。しかし、実際にPE認定が行われた場合の帰属利得については積み残しの課題となっていたため、今回の公開討議草案でAOA(Authorised OECD Approach:OECD承認アプローチ)に基づくPE帰属利得のガイダンス案が提示されたことを歓迎する。

OECDモデル租税条約第7条(事業所得)が規定するAOAの下では、PE に帰属する利得は、当該PE が分離し、かつ独立した企業であるとしたならば取得したとみられる利得とされ、移転価格税制の概念を用いて計算する。しかし、AOAは比較的新しい概念であり、すべての国が採用しているわけではない。OECD加盟国においては今後、導入推進が期待されるが、OECD非加盟国においてはAOA採用の見通しが立っておらず、今後もみなし利益率による課税やワールド・ワイド課税といった、AOAと整合しない利得計算が行われる恐れがある。

こうした状況におけるPEの範囲の拡大は、必然的に二重課税の拡大を意味する。BEPSプロジェクトの結果、PEの範囲を拡大する一方、その帰属利得の計算方法についてコンセンサスが得られなければバランスを欠く。今回の公開討議草案からは、適切にAOAを当てはめれば、多くの場合、PEに帰属する利得はゼロ又は僅少であることが読み取れ、議論の方向性には賛同できる。今後、ガイダンスをさらに洗練させるとともに、OECD非加盟国も含め、PEの範囲・帰属利得につき一貫性のある解釈・実施を確保することが不可欠である。

少なくとも、年末までに署名のため開放される予定の多国間協定によって、何らかの形で個別の租税条約の第5条を改訂する場合には、その改訂は必ずAOAに基づく本ガイダンスの採用とセットであるべきである。第5条のみの先行改訂は不合理であり、受け入れることはできない。

公開討議草案では、従属代理人PEと倉庫PEの双方について事例を提供している。いずれも具体的な数値を含んでおり、納税者・課税当局の共通理解促進にとって有益である。ただし、いくつか疑問点があるため、以下コメントを行う。

2.各論

(1) 従属代理人PE

公開討議草案の従属代理人PEのセクションでは、消費者向け製品の製造を行うA国のPrimaが関連企業であるB国のSellcoをB国におけるセールス・エージェントとして起用し、その結果としてPrimaのPEがB国で認定されるという事例1、2、4が登場する。そこではまず、OECDモデル租税条約第9条(特殊関連企業)の移転価格分析によってPrimaとSellcoの所得配分を行い、その上で、7条(事業所得)のAOA分析によってPrimaの本店とPEの帰属利得を算出する。第9条から分析を進めるとの順番自体は分かりやすく、違和感がない。

PEに一定の利得が帰属するためには、SellcoがPrimaのために重要な人的機能を果たしていることが必要とされる。事例1ではPrimaが在庫・信用リスクを負っており、Sellcoは重要な人的機能を果たしていないとされ、PEの帰属利得はゼロとなる。一方、事例2ではSellcoが在庫・信用リスクを負っており、Sellcoが重要な人的機能を果たしているが、在庫に対する資金提供リターンを認識する前のPEの帰属利得は同じくゼロとなる。事例4ではSellcoが在庫リスクを負う一方、信用管理についてはPrimaとSellcoが関連する機能を共同で果たしている。PEの帰属利得は大きい。ここから3つの疑問が生じる。

第1は、帰属利得ゼロのPEを認定することの意義である。事例1において、PEの帰属利得がゼロとなることには納得感があるが、法人税を納める必要がないにもかかわらず所得計算を行い、申告を行う必要が生じるとするならば、納税者にとっても課税当局にとっても不毛な作業といわざるを得ない。また、一旦PE認定がなされれば、国によっては個人所得課税の納税義務が生じるなどの副作用が生じる恐れがある。そもそもこのようなケースにおいてはPE認定を行うべきではないだろう。

第2は、事例2の考え方である。今回の公開討議草案が度々参照するOECDの2010年PE帰属利得レポートでは、従属代理企業(Sellco)が非居住企業(Prima)のために重要な人的機能を果たしている場合には、PEにそれなりの帰属利得が生じることを示唆しており(同レポートパラ234)、Sellcoに対する独立企業間のフィーを控除した後はPEに残余の利得は生じないとする"single taxpayer approach"の考え方を明確に否定しているが(同レポートパラ235~239)、この事例2ではSellcoが重要な人的機能を果たしているとしつつも、資金提供リターン認識前のPEの帰属利得はゼロとなっている。加えて、利息費用の額によっては、PEの帰属利得がマイナスになる場合もあるように見える。

また、今回の公開討議草案では、「条約第9条の分析が行われ、Sellcoにリスクが配分されているならば、条約第7条の分析はPEにリスクを帰属させない」(脚注10)との説明があり、一見すると"single taxpayer approach"を採用しているようにも見える。我々は"single taxpayer approach"の考え方に納得感を覚えるが、OECDのスタンスについて改めて整理を希望する。また、資金提供リターンの計算方法についても、ガイダンスが有用である。いずれにせよ、結果としてのPE帰属利得が極めて僅少ならば、事例1と同様、PE認定する意義は乏しい。

第3は、事例2と事例4の関係である。公開討議草案を読む限り、事例2ではSellcoが全面的に信用リスクを負う一方、事例4では信用管理に関する機能をPrimaとSellcoが共同で果たしていることから、Sellcoの機能は事例2に比べ事例4の方が低いように見えるが、PEに帰属する利得は事例4の方が多くなっている。AOAの理論的な整理として、PEが認定される前提で、仮にSellcoがPrimaのために果たした重要な人的機能の程度に応じ、PEに帰属する利得も多くなるとの立場をとるとした場合、そのような結果となっておらず、分かりにくい事例といえる。

公開討議草案では、条約第9条と第7条でリスクの配分に関する考え方が異なることを説明しており(パラ80)、また、2010年PE帰属利得レポートでも、AOAはPEと子会社の利得の結果同等性を確保することを目的としていない旨、説明されているが(同レポートパラ55)、仮に差異が不可避であるとしても、事例2と事例4で何故これほど結果が異なるのか、明確な説明が必要である。条約第9条に基づく分析を尊重すべきとの立場からすると、この事例におけるSellco所在地国の税収は二重取り(条約第9条によりSellcoが受領するサービス・フィー及びインセンティブ・フィー/条約第7条によるPrimaの所得のPEへの按分)のようにも見える。ガイダンスの最終化において、再検討が必要と思われる。

Primaの従業員がPE認定される事例3の結果の適切さについては、判断を留保する。在庫・信用リスクを負うのがSellcoではなくPrimaの従業員であるということ以外、事例2と3は前提条件が同じであるが、PE帰属利得は異なっている。一般的に、従業員の活動が安易にPE認定され、不当に多額の利得が認定されることを懸念する。

(2) 倉庫PE

公開討議草案の倉庫PEのセクションでは、A国の企業であるWRUがW国において倉庫PEの認定を受けるシナリオA、B、Cが登場する。シナリオAはWRUが第三者のため倉庫業を営む事例、シナリオBはWRUが製品の販売に従事し、倉庫を自ら運営する事例、シナリオCはWRUが製品の販売に従事し、倉庫は非関連者が運営する事例である。いずれもPE帰属利得は僅少と観察されるが、いくつか明確化が必要である。

シナリオAについては、無形資産の権利提供、在庫の使用・補充に関する助言役務につき、PEがWRU本店に補償を行うことになっているが、その計算過程に関する情報が提供されると有用である。

シナリオB・Cについては、PEの利得は資産への投資に見合ったものに「合理化」されるとの説明があるが(パラ97、101)、「合理化」の意味するところが明確ではないため、シナリオAと同様、損益計算書を用いてPEの帰属利得を説明すべきである。少なくとも、PEにおいてWRUの人員が活動していないシナリオCにおいては、WRUがPEに在庫を置いているだけであるため、資産への投資リターンを含め、PEに利得が帰属するとは思われない。

なお、従属代理人PEと同様、利得が帰属しない倉庫PEを認定しても実益が乏しい。この場合には、無理にPE認定を行わないようにすべきである。

以上

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