OECD租税政策・税務行政センター
国際協力・税務行政課 御中
税制委員会企画部会
BEPS行動4 グループ比率ルールの設計・運用要素
に係る公開討議草案に対する意見
本意見では、まず、グループ比率ルールに関するコメントを行う。その上で、グループ比率ルールが補完する固定比率ルールについても、関連があるためあわせて考え方を述べることとする。我々は、包摂的枠組みの下でBEPS勧告が一貫性のある形で実施されるとともに、グループ比率ルールの設計・運用を含め、残された課題に関する議論が着実に進展するよう、今後もOECDが主導的な役割を果たすことを期待する。
1.グループ比率ルール
(1) グループ全体の第三者への純支払利子
グループ比率を計算する際、まず、分子であるグループ全体の第三者への純支払利子を集計する必要がある。その方法としては、連結損益計算書における利子を調整することなく利用するアプローチ1を採用すべきである。企業によっては数百から千以上の子会社を有する場合もあり、連結損益計算書における利子を基礎として必要な加減算を行うアプローチ2、及び必要な利子及び利子同等支払を積み上げるアプローチ3は、およそ現実的なオプションとはいえない。
公開討議草案では、アプローチ1の難点として、連結損益計算書における利子を「操作」する可能性が指摘されているが(パラ9)、連結財務諸表は通常、厳格な会計監査に服する。このような中で、企業がグループ比率ルールにおける分子を増加させるためにそのような「操作」を行う可能性がどれほど高いのか、疑問である。
また、採用する会計制度によって利子の範囲が異なる場合、企業グループ間で公平性の問題が生じる恐れがあるとされているが(パラ9)、制度の簡便性を犠牲にしなければならないほどの「実質的な相違」がどの程度、あるかについては、さらなる検証の余地があると考える。
なお、仮にグループの最終親会社所在地国がアプローチ1を採用したとしても、子会社所在地国がアプローチ2、3を採用するならば、アプローチ1を採用した意義が失われる。なぜならば、子会社自身にはアプローチ2、3で求められる計算を行うためのデータがなく、結局、最終親会社が子会社所在地国の法令に基づいた計算を行う他ないからである。グループ比率ルールを導入する国は、すべてアプローチ1を採用すべきであり、最終親会社が採用する会計基準を尊重すべきである。
また、制度の複雑化を回避する観点からは、できるだけ利子の範囲に関する各国個別の政策的な調整を認めないことが望ましい。公開討議草案では25%以上の支配関係がある関連者への純支払利子を第三者への純支払利子から除くこと、また、持分法適用会社における純支払利子を第三者への純支払利子の計算上、考慮することなどを示唆しているが(パラ27、30)、慎重に検討すべきである。
(2) グループ全体のEBITDA
グループ比率の分母であるグループ全体のEBITDAについても、分子と同様、複雑な計算を避ける必要がある。公開討議草案における勧告の通り(パラ64)、経常外の項目は、一般的に調整することなくグループ全体のEBITDAに含めるべきである。
グループ内の一部に負のEBITDAを計上した子会社を有する場合、グループ全体のEBITDAが相対的に減少し、結果としてグループ比率が不相応に高くなるという問題が生じる。また、グループ全体として負のEBITDAを計上した場合には、そもそも固定比率ルールの補完制度としてのグループ比率ルールが機能しない。
前者の場合には、一般的に何らかのキャップを設けることが合理的であると考えるが、後者の場合において、負のEBITDAを計上した子会社をグループEBITDAの計算上、除外することは、事務負担の増大につながり、賛同できない。
グループ比率ルールはこのようにいくつか制度上の不備を抱える。従って、重要なことは、グループ比率ルールをさらに複雑化する中で問題の解決を図ることではなく、むしろ固定比率ルールにおける固定比率を充分高い水準に設定するとともに、実効的な繰越制度を整備することではないか。そうすることで、BEPSに関係のない大多数の企業に対する影響を最小化し、事務負担の増加を回避する必要がある。
2.固定比率ルール
固定比率ルールは、BEPS行動4最終報告書の骨格を成し、過大な支払利子を通じたBEPSの防止に一定の役割を果たすと考えられるが、いくつか懸念が残っているため、この機会に改めて表明する。
第1は、制限対象となる利子の範囲である。固定比率ルールは対国内、対第三者も含め、すべての純支払利子を対象としているため、国内の銀行借入に係る支払利子も規制されるなど、通常の事業活動を阻害し、投資意欲を損なう恐れがある。また、利子は受取側で益金算入されるため、大規模な二重課税が発生する。
BEPS行動4最終報告書では、国内の支払利子であっても国外の貸出人に対する対応的支払が行われる場合、また、第三者からの借入であっても仕組まれた取決めが行われる場合、BEPSが生じる可能性があるとしているが、そのような事例は例外的と思われる。利子控除を通じたBEPSリスクの検証の結果、法域によっては濫用的な取引を除き、制限対象を国外関連者への純支払利子に絞るべきであろう。
第2はEBITDAの範囲である。固定比率ルールでは、借入を原資とする免税所得の創出を防止するため、EBITDAから免税配当を除いているが、ほとんどの場合、免税配当は事業投資の結果であって目的ではない。一律に免税配当をEBITDAから除外することが適当か、また、何をもって免税配当と見なすかについては、各国における法制化作業において柔軟性が認められるべきである。
例えば、X国のP社がX国で借入を行い、それを原資にX国で多額の研究開発投資を行うとともに、Y国の製造子会社であるS社に資本投下を行ったとする。P社は多額の試験研究費を支出しており、かつ、S社からの免税配当を計上しているため、EBITDAが低くなり、X国の固定比率ルールに抵触するかもしれない。一方、グループ比率ルールの計算においては、Y国における製造活動の結果、多額の減価償却費が計上され、グループ全体のEBTIDAが大きくなり、グループ比率ルールによる救済が期待できないかもしれない。P社にはBEPSの意図がなくても損金不算入額が生じる恐れがある。このような状況は避ける必要がある。
第3は固定比率の水準である。固定比率ルールでは10~30%の間で各国が選択することとされているが、景気変動によってEBITDAの水準が落ち込めば、損金算入できない支払利子が生じる恐れがある。もちろん、固定比率ルールでは損金不算入額の繰越は認められているものの、通常の企業に対する影響を最小化するため、固定比率は十分に高い水準とすべきである。
固定比率ルールに抵触した場合でも、グループ比率ルールによる救済があり得るが、今回の公開討議草案で改めて明らかになったように、グループ比率ルールを導入すれば設計によっては事務負担が飛躍的に増加すると見込まれる。各国が固定比率ルールを敢えて厳しく設定し、多くの企業がグループ比率ルールに進むような制度の建付けを強く懸念する。できるだけ固定比率ルールで完結する制度とすることが望ましく、仮にグループ比率ルールに進む局面があったとしても、可能な限り簡素な制度とすべきである。