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Policy(提言・報告書)  経済連携、貿易投資 日EU規制協力の推進を改めて求める -未来志向でEPAの早期実現を-

2015年11月11日
一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ.基本的な認識

企業のバリューチェーンがグローバルに広がる中、事業活動のコストアップ要因として、各国の国内規制の相違が占める比重が増加している。環境、安全、健康、個人情報の保護等のための国内規制の目的を損なうことなく、それらの実効性を確保し、貿易投資に及ぼすマイナスの影響を最小限に止めるには、規制・制度の整合性・透明性の確保や規格・基準の調和・相互承認等の規制面における国際的な協力(以下、規制協力)を推進することが極めて重要である。

そこで、経団連では、わが国と基本的価値観を共有し、規制の策定・伝播に強い影響力を有するEUをパートナーとして規制協力を推進すべく、本年3月、「日EU規制協力に関する提言-経済連携協定(EPA) 締結後の将来を見据えて」#1を取りまとめ公表した。

Ⅱ.前回提言後の状況

  1. (1) 提言後、半年余りを経て、上記の問題意識は日EUの官民において広く共有されるようになっている。

    欧州における経団連のカウンターパートであるビジネスヨーロッパは、本年4月、第4回日EU業界対話会合後の経団連との共同リリースにおいて、「(日EU)EPA締結後の将来を見据えて、不要な規制の乖離を防ぐべく、日EU間の規制協力を強化することをEPAにおいて明確にすべきである」と主張している#2。また、日・EUビジネス・ラウンドテーブル(BRT)は、同じく4月、「日・EU FTA/EPAは、TPPやTTIPと共に、国際貿易のルール作り、規制協力、規格の整合化を促進するための指導的役割を果たすことが可能であり、(中略)BRTは、日・EUサミットのリーダーに対し、FTA/EPAが経済界の分野特有の問題に取り組む規制協力を可能にする、盤石かつ包括的な枠組みとなるよう万全を期すことを求める」と提言している#3。さらに、6月には、在欧日系企業によって構成されるJBCE(Japan Business Council in Europe)が設立15周年にあたって規制協力のあり方に関するセミナーを開催、日EU官民双方の関係者による意見交換を行っている#4

    政府レベルにおいても、まず、経団連提言の公表と同日、日EU産業政策対話の一つの成果として「日EU規制協力に関する共同文書」が取りまとめられた#5。また、5月に行われた日EU定期首脳協議においては、「この(規制)協力がEPA/FTA交渉を通じても扱われることに留意しつつ、日EU間の規制協力における更なる進展に対する大きな期待」が表明された#6。さらに、同定期首脳協議にも出席したマルムストローム欧州委員会貿易担当委員は、経団連との会合において、日EU EPAの内容に関して「恐らくこれ(規制協力)が最も重要なこと」と前置きした上で、「規制協力は、通商政策の未来を示すものである。国際基準に基づいて不必要で細かい規制の差異をなくすことでコストを削減し、成長を促す必要がある。経団連が3月に公表した提言において、こうした目的を強力に支持していることを歓迎する。提言が指摘するとおり、ギアチェンジが必要であり、EPA交渉はそのための絶好の機会である。既存の障壁に取り組むとともに、将来生じる障壁にも対応できるような仕組みを確立すべきである。よい協定を締結できれば、規制の相違を減らすだけでなく、国際基準の策定にも役立ち、開かれたグローバル市場の形成に貢献することができる」と強調した#7。このような問題意識は、10月に公表された欧州委員会の貿易投資戦略にも反映されており、米国や日本とのFTA交渉において、規制協力を高い優先順位で取りあげる姿勢を示している#8

  2. (2) 3月にも提言したとおり、規制協力の継続的な推進にはEPAという確たる制度的基盤が不可欠である。さる5月の定期協議における日EU首脳間の合意#9に基づき、日EU EPA交渉が佳境を迎えている今、以下、改めて規制協力について提言する。

    世界経済において、新興国の占める比重がますます高まっていくと想定される中、EUとの協力の成果を基に米国を含めた先進国間の規制協力を推進し、アジアをはじめとする第三国市場へ横展開を図ることが重要である。難しい交渉をまとめあげるためには、日EUがそのような中長期的な利益をEPAに見出し、協力していく未来志向の姿勢こそが求められている。

    なお、さる10月5日に大筋合意をみた環太平洋パートナーシップ(TPP)協定においては、各国の規制措置間の整合性確保について規定されているところである#10

Ⅲ.分野横断的な規制協力

日EU EPAにおいて、以下のような分野横断的な規制協力について規定すべきである#11

1.規制・制度の整合性・透明性の確保

  1. (1) 日EUは、規制の策定にあたり、他方の規制手法、関連する国際基準ならびに対外的な影響等を考慮する。
  2. (2) 日EUは、新たな規制を導入する場合あるいは既存の規制を改変する場合、他方に対してそれを科学的・技術的データとともに通報・協議し、早期に意見照会を実施する。

2.規格・基準の調和・相互承認等

  1. (1) 日EU間で規格・基準の調和ならびに相互承認を推進する。即ち、日EUで規格・基準を統一する、あるいは相互の規格・基準を調和させる。適切な国際規格・基準が存在する場合、それを軸に調和を推進する。
  2. (2) 日EU間で統一・調和された規格・基準がない場合でも、ある産品が一方において適法に生産され、取引されている限り、他方においても輸入・流通を認められるべきとの考え方に基づき、相互承認を推進する。機能的同等性(規格・基準が異なっても同じ目的を達成できること)があると評価できる場合には、相手の規格・基準を自国のそれと同等であると看做し、相互承認を実施する。
  3. (3) 規格・基準の調和、相互承認によらない場合であっても、少なくとも事前の十分早い段階での通報、規格・基準等の公表等によって情報を共有、透明性を確保する。

3.継続的な規制協力のための仕組み

  1. (1) 日EU双方の規制当局や産業当局を含む規制協力推進のための仕組みを規定し、規制協力に関する約束の実行監視機能および約束の改訂に関する事項を含む提言機能を付与する。
  2. (2) 上記の仕組みが政治のリーダーシップの下で所定の機能を十分に果たすよう、日EU双方の閣僚が関与する。
  3. (3) 規格・基準のベースとなる技術の動向を知るのは企業であることから、上記の機能を遂行するにあたって企業の声が十分反映されるよう措置する。

Ⅳ. 個別分野の規制協力

  1. (1) 経団連が促進してきた日EU業界対話の進捗等に基づき、主要業界における規制協力の優先事項を別紙に示す#12。これらのうち、EPA交渉において可能なものは合意し、協定に盛り込むべきである。

  2. (2) 3月に提言した業界共通の規制協力事項(個人情報の保護、欧州特許制度の統一、模倣品等の取締り、EUの紛争鉱物規則への対応)のうち、特に個人情報については、(1)日本において、先の通常国会で改正個人情報保護法が成立し、個人情報保護行政の一元化を担う第三者機関が設置されるとともに、グローバル化に対応するための規定が整備されるなど、個人情報の保護に関する規律が格段に強化されたこと、(2)事業の実施のために行われる場合には、情報(個人情報を含む。)の電子的手段による国境を越える移転を許可することが規定されているTPP協定#13について、先般、大筋合意をみたこと、を踏まえ、日EU EPAにおいて、適切な保護を前提に自由な越境データ移転を認めるべきである。なお、EUにおいては、デジタル単一市場戦略の一環として、従来の個人データ保護指令に代わる保護規則案の2015年中の採択に向けて検討が進められているが、新たな規則の下においても日EU間でクロスボーダー・データ・フローを確立するための所要の規定を置くべきである。

    併せてOECDの「プライバシー保護の個人データの国際流通についてのガイドライン」(1980年策定、2013年改訂)に盛り込まれた施策を軸に第三国を含めた国際的なルール作りを日EUで協力して推進すべきである。

  3. (3) 現在、先進諸国においては、デジタル技術を背景に生産工程や消費者に係る各種データの取得・活用による付加価値の創造を目指す取組みが活発になっている。企業活動のボーダレス化が進む中、これらの取組みが期待される成果を上げるためには、標準化、情報セキュリティ等と並んで各種の規制・制度のグローバルな規模での整合性の確保が必要であり、こうした面でも日EU間の協力を進めていく必要がある。

以上

  1. http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/024.html
  2. 「経団連・ビジネスヨーロッパ共同リリース 日EU 経済連携協定:第4回日EU業界対話会合をブリュッセルにおいて開催」(2015年4月23日)
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/041.html
  3. 「日・EU ビジネス・ラウンドテーブル総括提言書-新たな産業パートナーシップへの道を開く」(2015年4月27~28日)
    http://www.eu-japan-brt.eu/ja/joint-recommendations-authorities
  4. http://www.jbce.org/board-of-the-directors-general-assembly/jbce-celebrates-fifteen-years/
    席上、カレハ欧州委員会成長総局長(当時)は、規制協力の成功のポイントとして、(1)規制協力が協働のための産業政策であることを理解すること、(2)産業界が実際に直面している問題を取りあげること、(3)規制当局が自らの問題として主体的に取り組むこと、(4)規制協力は情報交換、対話、信頼醸成の終わりのないプロセスであることを受入れること、(5)各国の規制権限は独立しており、一方的に主権を放棄することはないことを了解した上で取り組むこと、の5点を指摘
  5. http://www.meti.go.jp/press/2014/03/20150317005/20150317005.pdf
  6. 第23回 日EU 定期首脳協議(2015年5月29日、東京)共同プレス声明(仮訳)
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000082847.pdf
  7. 週刊経団連タイムス(2015年6月11日 No.3227)
    http://www.keidanren.or.jp/journal/times/2015/0611_04.html
    講演全文はhttp://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2015/may/tradoc_153488.pdf
  8. "Trade for all - Towards a more responsible trade and investment policy"
    http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2015/october/tradoc_153846.pdf
  9. 「我々は、我々の交渉官に、望むらくは2015年末までに、すべての主要課題を含む合意に達することを目指し、未解決の懸隔点を解決するための権限を付託した。」
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000082847.pdf (共同プレス声明パラグラフ3)
  10. 「第25章 規制の整合性章」において、「各締約国は自国の対象規制措置の範囲を決定すること、対象規制措置の案に関する機関相互間の効果的な調整及び見直しを円滑にする手続又は仕組みを有するよう努めることを規定する他、規制の影響評価、締約国間の協力等について規定している。なお、いずれの締約国も、本章の規定の下で生ずる事項については、第28章(紛争解決)の規定による紛争解決を求めてはならないことを規定」
    〔内閣官房TPP政府対策本部「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要」(2015年11月5日)〕
    http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/13/151105_tpp_zensyougaiyou.pdf
    なお、環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉では、規制協力を、市場アクセス、ルールと並ぶ三本柱の一つに位置づけ。
  11. TPP協定の規制の整合性に関する章の主要条文は、(1)対象規制措置の範囲、(2)調整及び見直しの手続又は仕組み、(3)規制に関する中核的な良い慣行の実施、(4)規制の整合性に関する小委員会、(5)協力、(6)利害関係者の関与、(7)実施の通報、(8)紛争解決の不適用
    〔内閣官房TPP政府対策本部「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要」(2015年11月5日〕
    http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/13/151105_tpp_zensyougaiyou.pdf
  12. TPP協定は、「第8章 貿易の技術的障害(TBT)章」において、(1)ワイン及び蒸留酒、(2)情報通信技術産品、(3)医薬品、(4)化粧品、(5)医療機器、(6)あらかじめ包装された食品及び食品添加物の専有されている製法、(7)有機産品、に関するルールを定める附属書を設けているところ
    〔内閣官房TPP政府対策本部「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要」(2015年11月5日)〕
    http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/13/151105_tpp_zensyougaiyou.pdf
  13. TPP協定「第14章 電子商取引章」において規定
    〔内閣官房TPP政府対策本部「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要」(2015年11月5日)〕
    http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/13/151105_tpp_zensyougaiyou.pdf

(別紙) 主要業界における日EU規制協力の方向性と優先事項

業界規制協力の方向性(2015年3月提言)規制協力の優先事項
自動車
  • 「国連の車両・装置等の統一基準と型式認定相互承認協定(1958年協定)」へのアジア諸国の加盟を働きかけていく
  • 新興国市場への先進技術の普及を受け、1958年協定に基づく認証の相互承認を装置単位から車両単位へと発展させる国際的な車両認証制度(IWVTA)の導入に向けて日EUが協力して取り組んでいく
  1. アジア諸国の1958年協定への加盟働きかけ
  2. 将来的なIWVTAの導入
  3. 1998年協定の執行の改善(協定内容の国内採用を促すための改定)
  4. 自動運転の導入をめぐる国際的な基準調和活動の支援
化学
  • TTIPにおけるEU米国間の規制協力に関する交渉の動向も睨みながら具体化を検討中である。APEC、ICCA(国際化学工業協会協議会)においても規制協力について情報交換等を行っている。OECD等の国際機関における化学品管理に関する動向を把握した上で意見を反映させていく
  • 化学物質の管理に関する規制・制度の国際的な調和に向けて、化審法等の合理化を進める必要がある
  1. 評価を行うべき化学品の優先順位づけと評価協力
  2. 化学品の分類と表示に関する調和の推進 (国連のGHS: Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals が存在するも、日米欧で異なる運用)
  3. 混合物のリスク評価手法の開発(ガイダンス作成等)
ICT
  • 米国を含めた先進国間で整合性のある制度を構築することが第三国における保護主義的な措置の拡大を防ぐことにつながるとの考え方に立って取り組んでいる
  • 自国の技術力・研究開発力・生産力を強化する目的で各種の現地化を強制する措置の拡大を防ぐべく、日欧米の業界団体で連携して活動を展開している(とりわけデータの現地保管の義務づけについて、日米欧三団体連名で反対決議)
  1. TPP協定において規定されている、「事業の実施のために行われる場合には、情報(個人情報を含む。)の電子的手段による国境を越える移転を許可すること」、「自国の領域において事業を遂行するための条件として、当該領域においてコンピュータ関連設備を利用し、または設置することを要求してはならないこと」、「ソフトウェアのソース・コードの移転または当該ソース・コードへのアクセスを原則として要求してはならないこと」と同様の規定化
  2. 自国の技術力・研究開発力・生産力を強化する等の目的で、領域内コンピュータ関連設備の利用・設置要求、ソース・コードの移転・アクセス要求を含む各種の現地化を強制する措置の拡大を防ぐための協力の推進
医療機器
  • 日米欧の産業界が中心となって組織されているDITTAを通じて、国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)に参加している新興国とも規制の整合性を確保すべく取り組んでいく
  1. QMS監査の効率化(MDSAP:単一監査プログラム)
    (IMDRFにおける重要なガイダンス文書が揃い、これから本格的なパイロットを開始)
  2. 市販前審査の効率化
医薬品
  • 2016年に日米欧の三極に加え、他の多くの規制当局・産業界代表も参加するグローバルな枠組みとなる医薬品規制調和国際会議(ICH)において、日EUとしては、米国とも協力して新興国に対して規制調和を働きかけていく
  • ICHでは取りあげない規制についても、ICHとは別に、日EU米国が協力して新興国にアプローチしていく
  1. 日・EU相互承認協定におけるGMPの対象範囲(GMPの世界標準になりつつあるPICS: Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme への日本の加盟を受け、固形制剤のみならず、注射剤などの無菌製剤や有効成分である原薬APIも)、対象地域(EU新規加盟国も)の拡大
  2. GMP査察の相互承認
  3. 知的財産の保護と執行のための枠組みの確立
  4. 後発医薬品承認時に有効特許を考慮する仕組み(Early Resolution Mechanism :ERM)の導入
繊維
  • .(1)ラベル表示に関する要件の最小限化、(2)製品の安全性と消費者保護を保証する技術的な規制や取組みの調和、(3)ライフサイクルの短いテキスタイルや衣料品に適したデザインの模倣を防ぐための方策等を含めた双方にメリットのある知的財産権、について合意の可能性を探っていく
  1. ラベル表示に関する要件の最小限化
    (ア) 表示義務づけ要件の最小限化
    (イ) ISO規格に基づく名称の整合化
    (ウ) ISO規格に基づく取扱説明の記号の調和
  2. 製品の安全性と消費者保護を保証する技術的な規制や取組みの調和
    • 高機能・高性能繊維など特殊繊維に関する試験方法の標準化
  3. ライフサイクルの短い衣料品等に適した意匠保護制度の導入
その他
(鉄道)
  • 他の分野と異なり、日EU間の対話の対象は非関税措置や規制協力ではなく、日本の鉄道事業者による調達が中心。日本の特定の鉄道事業者は、調達ウェブサイトのリニューアルを実施。さらに、車両の公募による調達の試行や、EUのサプライヤーとの相互理解を促進するための技術関係交流会の開催といった積極的な取組みを行っている事業者あり
  • 日EU両政府の主催により、日EU鉄道産業間対話を実施
  • 第23回日EU定期首脳協議において、「この分野について世界的に主導的アクターである日EU の間で、公的部門及び民間部門それぞれにおいて、技術的規格を含め、更なる協力の意義を認識する。我々は、この対話が、双方の市場の更なる開放性と、グローバル市場における共同行動につながるものであると確信する」とされたところ
  • 2015年5月と11月に開催された日EU鉄道産業間対話において、技術基準に関する意見交換を実施。今後も情報交換を行っていく予定
以上

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