一般社団法人 日本経済団体連合会
第5期科学技術基本計画は、2016年度から2020年度の5年間にわたるわが国の科学技術イノベーション政策の基本的な方向性を定めるものであり、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の下で策定される#1初の計画である。経団連としても科学技術の成果をイノベーションに結びつける観点から、計画に盛り込むべき項目や政策等につき、これまで二度にわたり提言#2してきた。
今般、6月18日には「中間取りまとめ」が公表された。そこで示された考え方は、概ね経団連の提言に沿った内容であり、評価している。年内の答申案取りまとめに向け、現在、計画の策定に向けた検討も佳境を迎えていることから、経団連として重視する点を以下に提言する。
1.未来の産業創造と社会変革
「中間取りまとめ」の第4章「未来の産業創造と社会変革」については、現在、(1)変革(ゲームチェンジ)につながる新しい価値を自ら生み出すことのできる力の強化、(2)世界に先駆けた「超スマート社会」#3の実現、が検討されている。同章はわが国の将来にとって、極めて重要な指針となりうる。
(1)において、ImPACT(革新的研究開発推進プログラム)の制度としての恒久化とさらなる発展・展開#4、関係府省におけるチャレンジングな研究開発の推進に適したマネジメント体制の導入、ベンチャー企業の重要性と具体的施策の検討を明記されたい。とりわけ、中小企業政策と同一視されてきたベンチャー政策は、科学技術イノベーション政策と有機的に連携させる契機となりえることから、研究開発型ベンチャー等を念頭にした積極的な検討が求められる。併せて知的財産政策との連動も図る必要がある。
IoT#5、AI#6、ロボット等の技術の飛躍的発展が経済社会に大きな変革をもたらす可能性が指摘されるなか、(2)において、「超スマート社会」実現に向けてシステム化#7が不可欠である旨を強調していることは重要である。今後、生み出す価値に関する記述を充実させた上、「見えないものづくり」たるソフト面を含めた#8システムの高度化・統合化に必要な共通基盤的プラットフォームの構築#9や、重要基盤技術の戦略的な強化について検討することが求められる。基礎研究から社会実装までのビジョンや経営課題の共有を通じた本格的な産学官連携や拠点形成、さらには産学連携での人材育成を進めるための有効な方策についても具体的な検討が必要である。
IoT等が今後の成長戦略の大きな鍵となることから、諸外国でも取り組みを強化しているなか#10、IoT等によって創出される将来ビジネスの可能性を十分に引き出せるような法制度整備#11とセキュリティの向上を念頭に入れた取り組みを同時に進める#12ことが不可欠である。
2.経済・社会的課題への対応
「中間取りまとめ」の第5章「経済・社会的課題への対応」についても、CSTIにおける検討が深まりつつある。
「中間取りまとめ」段階では、同章で5つの重要課題を抽出し、それら課題毎に「重点的に推進すべき課題例」が示されていたが、その課題達成に向けて鍵となる技術的課題を具体的に明示する方向で議論がなされていることは、望ましいといえる。その際、これまで検討があまり行われていなかった宇宙、海洋等のフロンティアについても本格的な検討も必要である。また、課題達成のための手法としてSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)が重要である。同プログラムの制度としての恒久化と拡充#13を通じ、産学官・関係府省連携のもとで、研究開発から社会実装までをシームレスに推進することも強く望まれる。なお、社会実装を考えるにあたっては、人文・社会科学系の知見が必要であることは指摘しておきたい。
3.政府研究開発投資の目標
諸外国が科学技術イノベーション政策を強化し、政府の研究開発投資を増額させるなか、わが国の科学技術予算の伸びは低調である。
科学技術によるイノベーションの創出は、わが国が持続的な成長を遂げる上で不可欠であり、安倍政権の政策の方向性と軌を一にするものである。「中間取りまとめ」では、「第5期科学技術基本計画中における研究開発投資総額の目標についても検討する」という表現にとどまっており、具体的な目標を明確にすべきである。
科学技術予算は未来への投資である。第5期科学技術基本計画においては、最低限、従来の計画で掲げた「政府研究開発投資の対GDP比1%」という数値目標を明記し、着実な実現に努めることが不可欠である。安倍政権の基本方針の一つである「2020年度名目GDP600兆円達成」#14という目標を前提とし、2016年度から毎年度GDP比1%の研究開発投資額を確保するとした場合、第5期計画期間中の政府研究開発投資は、総額28兆円となる。また、政府とあわせて民間の研究開発投資を促進することも重要であり、研究開発税制の維持・拡充#15についても明記すべきである。
(2014年度の実績は、4.35兆円、対GDP比約0.88%)
また、科学技術予算をイノベーション創出に効率的・効果的に結びつけるため、CSTIの下で、各省予算の調整を行う予算戦略会議の調整機能を強化#16し、予算の戦略的活用を進めることが不可欠である。さらに、国立大学改革や研究開発法人改革を通じたわが国全体のイノベーション・ナショナルシステム改革(含:資金制度改革)の重要性は指摘されているが、その実効性確保が、わが国の競争力の強化の観点からも極めて重要である#17ことをあらためて強調したい。それら重要政策を進める上では、CSTIと産業競争力会議や他の本部#18との連携強化も不可欠である。
4.女性の活躍の促進
現在、文部科学省・経済産業省共管で「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」#19を実施中であり、内閣府では、「理工チャレンジ」の取り組みを進めるほか、9月には理工系女性に焦点を絞った「科学技術イノベーションにおける女性の活躍の促進に向けた検討会」のまとめ#20を行ったところである。
第5期科学技術基本計画においては、こうした検討状況を踏まえ、理工系(特に工学系)分野における女性の活躍の促進に向けた具体的施策の充実が図られることが期待される。
5.PDCAサイクル実行に向けた指標の作成
科学技術基本計画については、予てよりPDCAサイクル実行の必要性が叫ばれながらもそのための具体的な指標づくりが課題となっていた。
第5期科学技術基本計画策定に向け、PDCAサイクルを回すための主要指標の検討にあたっては、全体を俯瞰でき、かつ分かりやすく適切な数の、検証可能な具体的指標が策定されることを期待する。その際、指標によっては、CSTIにおいて10年以上の長期的な成果を見極めていくことも重要である。
なお、こうした指標を活用しつつ、5年計画の「科学技術基本計画」と1年計画の「科学技術イノベーション総合戦略」との整合性を図ることにも努められたい。
産業界では、経団連ビジョンで掲げた、次の時代を担う「新たな基幹産業の育成」に向けた本格的なオープンイノベーションを推進する。具体的には、非競争領域を中心に複数の企業・大学・研究機関等とのパートナーシップを拡大し、将来の産業構造の変革を見通した革新的技術の創出に取り組む。
- 内閣府設置法改正により2014年に総合科学技術会議が改組。これに伴い、文部科学省からCSTIに科学技術基本計画の策定権限が移管。
- 2014年11月に「第5期科学技術基本計画の策定に向けて」、2015年3月に「未来創造に資する『科学技術イノベーション基本計画』への進化を求める」を発表。
- 必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細やかに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な制約を乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会。
- CSTIの司令塔の下、各省が展開するプログラムの連携・調整を図られたい。
- Internet of Things。あらゆるモノがネットワークに接続され、相互に情報のやり取りを行うというコンセプト。
- Artificial Intelligence。人工知能。
- 「科学技術イノベーション総合戦略2015」では11のシステムが掲げられたが、健康・医療に関するシステムの記載はなかった。第5期計画では、医療IDの導入、医療データベースの構築等の健康・医療に関するシステムも記載し、推進すべきである。
- 近年の情報通信分野への予算の推移を見ると、情報通信分野の減少傾向が激しい(平成24年度は、平成18年度比で約30%減)。予算配分には、計画の理念を反映させることが重要である。
- これらの海外へのパッケージ輸出を念頭に、外交政策との連動が求められる。
- ドイツ政府は、2011年に自国製造業の競争力強化のための構想「Industrie 4.0」を推進。米国では、GEが「Industrial Internet」を提唱し、コンソーシアムを推進。
- 本年9月4日に成立した改正航空法(通称ドローン規制法)により、ドローンの開発ならびに建設業などにおけるドローン活用まで萎縮するとの指摘もある。
- 本年9月に策定された新たな「サイバーセキュリティ戦略」の問題意識や推進すべき研究開発分野等との整合を図ることも求められる。
- 新たなプログラムとして、「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」が追加。
- 本年1月に発表した経団連ビジョン「『豊かで活力ある日本』の再生」においても、ビジョン実現により2020年度に名目GDPが595兆円となると試算。
- 試験研究費総額に係る控除制度である総額型の維持・拡充のみならず、共同・委託研究に係るオープンイノベーション型ならびにベンチャー企業に係る制度の充実等も求めたい。
- 所掌範囲を広げること等。
- 平成27年版経済財政白書では、「我が国におけるイノベーションの動向を振り返ると、長期的な経済の停滞にもかかわらず研究開発や特許の出願といった官民合わせた我が国全体のイノベーションへの取組は積極的であったものの、そうした取組に応じた生産性や営業利益の向上、企業におけるイノベーションの創出が必ずしも実現されていなかったと考えられる」とした上、イノベーション・システムの改善やコーポレートガバナンスの強化の必要性等を指摘。
- IT、知的財産、宇宙、海洋、サイバーセキュリティ等。外務省に新設される科学技術顧問との連携も必要。
- 理工系人材育成戦略を踏まえ、同戦略の充実を図るために設置された産学官の対話の場。座長は内山田竹志トヨタ自動車会長と大西隆豊橋技術科学大学学長の共同である。
- (1)女性が理工系を選択する、(2)女性研究者・技術者が活躍する、(3)女性が科学技術イノベーションを支える多様な人材として活躍する、を三本柱として女性研究者・技術者の活躍促進の取り組みを加速する。