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Policy(提言・報告書)  科学技術、情報通信、知財政策 第5期科学技術基本計画の策定に向けて

2014年11月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

諸外国において科学技術イノベーション政策が強化されるなか、わが国が策定する第5期科学技術基本計画(2016年度~2020年度)は、日本の再興と国際競争力強化に向け、科学技術を基礎としたイノベーションを持続的に創出していくシステムの構築や、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおいて世界に成果を示すため、極めて重要である。同計画の策定に向け、政府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が検討を今後行うことになる。

CSTIでの検討開始に先立ち、経団連として重要と考える基本的な視点を、以下の通り指摘する。なお、イノベーション・ナショナルシステム#1の強化に向けた具体的な方策および産業界としての関わり方について、来年3月に提言として改めて取りまとめる予定である。

1.総合科学技術・イノベーション会議による基本計画策定の意義

内閣府設置法の改正により、本年5月に総合科学技術会議から総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)へと改組され、科学技術イノベーション政策に関する司令塔機能の強化#2が図られた。第5期科学技術基本計画はCSTIのもとで策定される初の基本計画となり、産業界の期待は大きい。

第4期計画では、科学技術政策から科学技術イノベーション政策への転換を謳っていたが、実質的にはそれまでと変わらず科学技術のみに主眼を置いた政策も多かった。第5期計画では、科学技術の成果をイノベーションに確実につなげていくことができる実効性のある計画の策定が求められる。

2.第5期計画のコンセプト

第4期計画では、科学技術イノベーション政策のあり方として「課題達成型」が掲げられたことは極めて重要であったが、こうした考え方が、基礎研究の軽視につながっているとの指摘もある。第5期計画の策定にあたっては、「課題達成型」を包含しつつ、基礎研究から応用研究までを含むあらゆる段階の研究において、わが国の持続的成長に貢献する新しいコンセプトの検討が必要である。例えば、科学技術イノベーションによって、次世代の基幹となる事業#3を育成し未来を創るという「未来創造型」を盛り込むことを提案する。

また、第4期計画では、国家として重点的に取り組むべき研究分野が必ずしも明確でなかったとの指摘があり、これを明示する必要がある。そのなかには、エネルギー、ICT#4、ライフサイエンスなどの分野が含まれることが想定されるが、特にライフサイエンスについては、CSTIと日本医療研究開発機構との更なる連携強化をはかり、将来の産業化等につながる研究開発を重点的に推進すべきである。

3.基本計画の重要課題

イノベーション創出に向けた実効性のある計画とするためには、科学研究費#5のあり方などを中心とした従来の計画では踏み込めていない、あるいは踏み込み不足であった大学改革、研究開発法人改革、規制や税制の改革、さらには地方創生等のテーマについても、基本計画の対象範囲とし、重要課題として取り組んでいくべきである。

(1)大学改革

大学改革については、これまで言及はなされていたものの、あくまで第三者的なコメントを付すに留まっていた。第5期計画と国立大学法人の第3期中期目標の開始年度は同一となっており、第5期計画の指摘事項を大学改革に反映させる格好の機会である。両者の連携により、本格的な大学改革を進め、国立大学運営費交付金#6のあり方を見直し、ガバナンス改革や機能分化などの改革を行った大学に対する支援を強化するなど、改革に向けたインセンティブを付与する必要がある。

(2)研究開発法人

研究開発法人については、基礎研究の強化ならびに、基礎研究から生まれた技術シーズを事業化に結びつける「橋渡し」を担う組織となるための機能強化や整理・統合#7を含めた改革が不可欠である。

(3)地方創生

地方創生については、大学の機能分化により地域貢献型大学を創るなど、イノベーションの視点にたった方策が考えられる。第5期計画においては、こうした改革により、大学や研究開発法人と大企業のみならず、地元の中小企業の強みを活かした本格的な産学官連携に対する重点的な支援によって、地域の活性化や成長につながる具体策を示すことが期待される。

(4)人材政策

こうした改革を進めていくため、研究者や技術者などの人材の流動化の促進や、大型設備などを共用するための仕組み作り、ICTを活用した情報の共有・共用の促進が前提となる。また、若手や女性の研究者が活躍しやすい環境を整備し、イノベーション創出を担う人材の多様性を確保することも不可欠である。

(5)CSTIの司令塔機能の発揮

こうした広範にわたる重要課題に取り組むにあたっては、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の後継プログラムの創設、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の強化、ならびに事務局の人員増員などによって、強化されたCSTIの司令塔機能の発揮をはかるとともに、政府の他省庁や各本部および産業界との連携の強化が不可欠である。

4.基本計画の評価軸

第5期計画の策定にあたり、第4期計画の評価が行われたが、達成目標が定性的で不明確なものが多い。

第5期計画では、事後の評価が容易にでき、その評価を踏まえた上で、次の目標設定ができるよう、主要項目ごとの具体的な工程表を作り、いつまでに何を達成するか、アウトプットのみならず、アウトカム(具体的な効果)の指標についても示すべきである。そのなかでは、政府研究開発投資のGDP比1%目標#8のほか、イノベーションの視点にたったアウトカムの評価として地域の活性化、雇用や成長への貢献といったKPIを盛り込むことが不可欠である。

5.基本計画と総合戦略の整理

現在、わが国では、科学技術イノベーション政策の方向性を、5年おきに策定される科学技術基本計画、毎年更新される科学技術イノベーション総合戦略の両者によって定めている。両者を有効に利用し、科学技術イノベーション政策を着実に推進するためにも、基本計画は中期的計画、総合戦略は毎年の実行計画として明確に位置づけ、関係を整理することが望ましい。その上で、政策実行の段階で齟齬が生じないよう、具体的な政策の内容について両者に整合性を持たせることが重要である。

第5期計画をイノベーションにつながる具体的な実効性のあるものとするためにも、イノベーション創出の主体である産業界の関与が重要である。産業界としては、かねてより強みを有するものづくり#9の力を一層強化・深化させるとともに、従来協業することがなかった製造業とサービス業などの異業種同士の連携などによる革新的な製品・サービスの創出に力を入れる。あわせて、実用化までを見据えた研究開発プログラムへの参画や人材育成への関与などにより、わが国のイノベーション・ナショナルシステムの強化に向け、より一層の貢献を行う所存である。

以上

  1. 大学・公的研究機関・企業等の各セクターが協力・協調し、イノベーションを創出するための国全体としての仕組みを表した概念である。
  2. 科学技術基本計画の策定等の所掌事務が、文部科学省から内閣府に移管された。
  3. ロボット、航空機などの事業。
  4. Information and Communication Technology、情報通信技術。
  5. 科学研究費助成の規模は約2300億円。
  6. 国立大学運営費交付金の規模は約1兆1000億円。
  7. 研究開発法人は全37法人あり、財政規模は約1兆円。
  8. 第4期計画では、名目GDP年平均成長率2.8%を前提として、1年間5兆円、5年間で25兆円としている。
  9. ここでは、従来型の製造業による「ものづくり」のみならず、先端的な科学的知見を基にし、ユーザーである消費者や社会での使われ方までも見据えた、所謂「ことづくり」も視野。優れた要素技術を統合するシステム・インテグレーション技術を含む。

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