一般社団法人 日本経済団体連合会
行政改革推進委員会タスクフォース
1.基本的考え方
(1) 現状認識・背景
人口減少・高齢化や地域経済の疲弊等が進む中、厳しい財政制約の下での行政サービスの提供範囲や内容等のあり方を見直す必要性が高まっている。全ての公的サービスを行政に求めることが難しくなっており、国民・企業等が主体的に参画し社会課題解決に向けて協働することへの時代の要請も強い。同時に、グローバル化や国際競争の激化等により、規制や公的負担率等が国の立地競争力、さらには企業の競争力に影響を及ぼしており、国際的なイコールフッティングの確保が不可欠となっている。
政府においては、行政改革推進法等に基づき、掲げられた個別課題の改革を進め、一定の進展があったことは評価されるところである。2001年の省庁再編から15年、2006年成立の行革推進法から10年近くが経ち、消費増税等により国民に一層の負担を求められている中、行政も自己を改革し、行政のスリム化・効率化を断行するとともに、自立した参加型社会を構築すべき時期を迎えている。
(2) 目指すべき方向性
必要な行政サービスの見直しと民間・地方の活力向上(小さな政府の実現)
国民に対し最低限保障すべき行政サービス・水準を見極め、民間にできることは民間に、地方にできることは地方に委ねることで、小さな政府を実現する。その際、規制改革等を通じた民間活力の活用や国民参加を図るとともに、道州制への移行も含め、国・地方の関係の一体的な改革を推進する視点も重要となる。ICTデフォルトの業務改革と行政サービス向上(効率的で質の高い行政の実現)
許認可や行政サービスに係る業務プロセスを国民の利便性向上の観点から一から見直し、ICT等の技術革新を所与のものとした業務改革により、国民本位の効率的で質の高い行政を実現する。併せて、行政のオープン化・双方化を推進することで、行政情報の民間活用の促進、国民の声の行政への反映にもつなげる。政策立案機能の強化とPDCAサイクルの深化(行政ガバナンスの強化)
2001年の中央省庁等改革の評価を踏まえ、内閣機能の強化や行政需要に応じた組織改革により、機動的かつ戦略的な政策の企画・立案を可能とする体制を整備する。併せて、Evidence Based Policyを基本とし、情報公開や政策評価、人事評価、予算編成等を一体的に運用することで、行政のPDCAサイクルの適正化を図る。
(3) 行政改革の推進体制
2006年の行政改革推進法の成立から10年近くが経過したこともあり、その間の改革の成果と今後の課題について検証を行い、同法で掲げた重点分野および各重点分野における改革の基本方針等を見直すことを含め、同法を行政改革の基本法として抜本的に改正することにより、行政改革を国政の最重要課題の一つとして恒久的に推進する。また、重要性の高い改革項目について集中的に改革を推進する観点から、臨時行政調査会の仕組みを活用することも一案である。併せて、行政に対するガバナンスを確立する観点から、行政改革推進本部や行政改革推進会議の位置づけを、法定化することも視野に、強化する。
2.行政改革(中央政府)の重要課題
(1) 小さな政府の実現
規制改革
政治のリーダーシップの下、規制改革会議を中心に、農業や雇用等の岩盤規制をはじめ、地道な取組みにより改革の成果が上がっており、また、国家戦略特区や企業実証特例制度等、新たな仕組みも創設されたことは評価される。
しかしながら、公務員に規制改革のインセンティブが働く仕組みがなく、下位規制も含め規制の体系が複雑化しており、長期にわたり見直しが行われていない規制も少なくない。また、特区等の制度についても、制度間の重複、その後の全国展開が不明瞭といった問題も指摘される。
政府は各省の規制権限に固執するのではなく、「経済的規制は原則廃止、社会的規制は必要最小限度」との原則の下、国際的なイコールフッティングを確保する観点からも、改革の手綱を緩めることなく全力で取組むことが求められる。とりわけ、2016年3月には規制改革会議が設置期限を迎える機を捉え、政府としての規制改革の体制の強化、規制の見直しルールの整備、特区制度等の改革ツールの検証・見直しを推進する必要がある。官民競争入札・民間競争入札(いわゆる「市場化テスト」)
公共サービスの不断の見直し、質の維持向上、経費削減等を基本方針とした、競争の導入による公共サービス改革が進められている。対象公共サービスの選定にあたり、行政は民間に対して業務に関する情報を積極的に公表することが期待されるが、行政には情報開示インセンティブがなく、例えば、老朽化が進む社会資本の維持管理・更新業務をはじめ対象業務が十分に拡大していない。また、官民が競争環境下に置かれるが故に両者のノウハウ交流が行われにくいとの指摘もある。
民間ができる業務は民間が担うことを徹底し、指摘した課題に対応しつつ、民間開放を一層推進する必要がある。併せて、PPP/PFIといった手法も活用することが求められる。独立行政法人等改革
独立行政法人の整理統合、ガバナンスやPDCAサイクルの強化をはじめ種々の改革が進められている。また、本年4月には、省庁の縦割りの弊害を排し医療分野の研究開発に係るファンディングを一元的に管理する日本医療研究開発機構の創設も予定されている。
独立行政法人の本来の趣旨に立ち返り、組織・事務・事業の廃止・縮減等について市場化テスト等の実施により推進するとともに、政策目的の実現に向けて府省の壁を越えて一元的に業務を執行できるよう組織改革を進めるなど、不断の見直しが求められる。その際、組織の民営化や公設民営等の可能性も排除せず、当該事務・事業を担うべき主体について、費用対効果を最大化する観点からの検討も必須である。また、独法に限らず広く公的機関についても、同様の検証を行うべきである。
(2) 国民本位の効率的で質の高い行政の実現
行政の電子化と業務改革の一体的推進
わが国では、行政手続の電子化、オンライン化は進んだものの、利用者視点が徹底されておらず、また、業務プロセスの抜本的な見直しを伴ったものではなかったことから、行政サービスの質・利便性の向上や業務の負担軽減・効率化、組織・個人の生産性向上等の点で十分な結果が出ているとは言いがたい。
ICTはもとより、マイナンバー等の制度も最大限活用し、全政府的に業務プロセスを一から見直すとともに(行政版のBPR)、政府として一体的なシステムを構築していくことが求められる。特に、国民とのインターフェースにおいては、電子決済をベースとした決済状況の可視化、マイナンバーや政府内における情報連携をベースとした手続きのワンストップ化が重要となる。バックオフィス機能についても、業務プロセスの共通化・標準化、民間への業務委託等が検討されるべきである。業務改革の推進に際しては、企業のBPR専門家を積極的に活用するとともに、公務員のインセンティブ付与、国民の利便性の向上や事務コストの削減等を踏まえたKPIを設定することが有用である。調達改善
契約形態の見直しや共同調達の推進等、着実に成果が出てきているものの、効率的な調達を実現できた事例(ベストプラクティス)の共有やスケールメリットの活用等を通じた政府全体としての効率的な発注の実現には至っていない。
こうした課題に対応しつつ、適切なインセンティブの付与、KPIの設定等を通じて、不断の改善が図られるようすべきである。また、受注企業が財・サービスをより効率的に提供できるような発注のあり方(納期や搬入方法等)を検討することや、PPP/PFIの一層の活用が求められる。行政のオープン化・双方向化(含む:行政手続・救済)
政策情報の提供の充実、国民の政策形成過程への参加、公共データの民間活用等の観点から、行政情報の提供範囲の拡大・オープンデータ化、パブリックコメントやノーアクションレター制度、グレーゾーン解消制度等の整備が進められてきた。
引き続き、公共データの産業利用を一層促進すべく、障害となりうる法制度の見直しや未公開データの早期公開等を推進するとともに、個人情報保護法に留意しつつ、オープンデータの活用効果の説明等を通じ、オープンデータに対する国民理解を醸成することが重要である。
また、政策評価や予決算に係わる情報をより国民に分かりやすい形で適時開示することで国民による政策検証を容易にするほか、パブリックコメントの実態調査も踏まえ、同制度の改善や提出意見の取り扱いに対する説明の強化等、国民の政策形成への参加を促進する必要がある。
(3) 行政ガバナンスの強化
政策評価・行政事業レビュー
政策評価制度に加え、行政事業レビューが行われるなど、アウトプットを評価し、政策のPDCAサイクルを回す枠組みが整備されてきたことは評価される。しかしながら、依然として、評価の質の確保や、予算要求や政策立案への評価結果の反映、評価の妥当性確保等、課題も多く指摘されている。
政策・事業の評価の活用を予算編成や政策形成プロセスにより強固に位置づけるとともに、政策目的に即した測定指標の定量化の一層の推進、外部評価の強化、事業等の廃止基準の導入、公会計のさらなる見直し、人事評価との連動等に取り組む必要がある。併せて、行政に対する国民や国会のガバナンスを強化していくことも求められる。内閣機能の強化
中央省庁再編時、省庁横断的な政策を縦割りの弊害を排して官邸主導で進めるため、内閣官房の機能を強化するとともに内閣府が新設されたが、近年、両者の役割の拡大・業務の増大により、官邸主導による重要政策の機動的な決定が困難になっているとの指摘がある。そうした中、今般、政府が、内閣官房と内閣府の業務を見直す閣議決定を行い、「内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための国家行政組織法等の一部を改正する法律案」を国会に提出したことを評価する。
法改正に加え、政府方針に基づき改革を着実に実施するとともに、内閣の重要課題に対して各省大臣が総合調整機能を果たすことで、わが国の重要課題にこれまで以上に機動的に対処していくことが期待される。また、特命担当大臣の所掌が広がっていることも踏まえ、大臣官房機能の強化等も検討される必要がある。中央省庁再編
2001年の中央省庁再編から15年近くが経過し、わが国を取り巻く状況も大きく変化してきている。その後、外局の廃止・新設が行われたものの、中央省庁再編の効果や行政需要の変化等に伴う新たな縦割り行政の弊害等の検証は十分に行われていない。
省庁再編には法改正や膨大な事務量が発生するものの、中長期的な観点から国家的課題に取り組むことができるよう、2001年の中央省庁再編の検証を行うとともに、必要な体制について定期的に検討を行うことが重要である。公務員制度改革
国益のために使命感・意欲を持った優秀な公務員が疲弊することなく、能力を向上・最大限発揮することを可能とする公務員制度の確立が不可欠である。これまで人員削減や再就職管理等が中心であったところ、全政府的観点からの国家公務員の人事行政や幹部職員人事の一元管理等を推進する内閣人事局が創設されたことは評価される。
今後は、業務改革と一体となった公務員の働き方の見直しや、公務員の能力・業績に関する人事評価制度の一層の改善、生産性向上、人材の流動化等に向けた不断の取組みが求められる。また、官民の労働条件のイコールフッティングの確立、身分保障のあり方の見直し、職員の採用・人事管理・再就職管理等の一元化についても検討を進めていく必要がある。
3.地方分権改革(補論)
国全体の持続的成長と財政健全化を両立していくためには、経済活動の基盤となる国・地方の行政システムの重複による無駄を排除しつつ、地域自らが主体性と責任の下で、その特性を活かした経営と成長戦略を実践できる体制を構築していくことが極めて重要である。将来的な道州制への移行、地方支分部局の縮小・廃止も視野に入れつつ、地方への権限・財源・人員の移譲を徹底するなど、地方分権改革を重点的に推進すべきである。