OECD租税委員会御中
税制委員会企画部会
BEPS行動4(利子控除)に係わる公開討議草案に対する意見
OECDが2014年12月18日に公表した「公開討議草案 BEPS行動4:利子控除」に対し、以下の通り経団連の意見を提出する。
1.はじめに
経団連として、BEPSを防止するためのOECDの取り組みを総体的に支持する。今回の検討課題である利子等を利用したBEPSは、既に多くの先進国で何らかの手立てが講じられている一方、今後、さらなるBEPSの浸透を防止すべく、何らかの検討・手当てをすべき必要性があることは認識している。その意味で、今回のOECDの積極的な調査・検討を支持する。
もっとも、企業は、本来、事業活動の必要に応じて、経済的に最も合理的な方法で資金調達をしているのが大半であって、租税回避を意図して資金調達をしているのではない。また税メリットをとるために資金調達をしているわけではない。そのため、ルールの具体化に際しては、他の行動計画と同様、新たな租税回避防止策が通常の事業活動を阻害せず、事務負担が過大とならない制度とすることが大前提である。今回のOECDのグループワイドルールを用いた提案は、理論的には最新の議論を盛り込んでおり、目新しさを感じるが、実際にルールの適用を考えると、対象を十分に絞っておらず、制度として機械的・非現実的なものとなっていると考えている。広範なルールを設定すれば、これまでBEPSの問題が生じていなかった国や納税者もそのルールの影響を受け、対応を迫られることになる。また、グループワイドルールを遵守するために、各国及び納税者において飛躍的に事務負担が増大する。
そのため、利子を利用したBEPSについて既存の制度がない国では、まずは固定比率ルールを導入することを前提に考えるべきであり、また、すでに制度がある国では、現行の制度が十分に機能しているかをまず検証すべきである。これらの取り組みを行ってもなお、グループワイドルールを導入する必要が生じる場合には、既存の制度との接続・整合性に十分に配慮して慎重に制度の在り方を検討すべきである。
その観点から以下のとおり、意見を述べる。
2.グループワイドルールの問題点
グループワイドルールは理論的にクリアかもしれないが、実際にルールとして適用する場合には、以下のような問題があり、その点を解決しなければ、ベストプラクティスと位置づけることには困難が多いと考える。
グループ企業の資金調達形態は多様であり、グループワイドルールを機械的に適用することで、企業の資金調達の自由度が低下し、事業活動や金融市場の健全性にまで影響が及ぶおそれがある。グループワイドルールが税源浸食の防止という目的を超えて、企業行動や金融市場に負の影響を及ぼす過剰な手段となっていないか、十分に検討する必要がある。
例えば、グループ全体として、無借金経営や自己資本を積極的に活用した経営を指向している場合やグループ内に金融子会社を保有する場合、グループワイドルールのもとでは、グループ全体への第三者への利子が少ないことから、個社の利子控除枠が縮小することになるが、そのような扱いは不必要な外部起債を誘発することになり、不適切である。
キャッシュマネジメントシステムとグループワイドルールが整合するのか不明である。この点、公開討議草案では、Ⅷ.Gのパラグラフ138において、「グループワイドルールの適用は、キャッシュプーリングを通じた第三者に対するバランスを確保する企業の能力に影響を与えるべきではない(The application of a group-wide rule should not impact the ability of a group to manage its third party balances through cash pooling)。」とあるものの、具体的にどのように配慮して適用していくのか、制度の詳細を示しておらず、さらなる検討のため具体化が求められる。
グループワイドルールと移転価格税制の関係を整理する必要がある。とりわけ、グループワイドルールのもと、個別の法人において控除枠が生じない場合でも、移転価格税制との適合性の観点から、独立企業原則に従ってグループ内企業への利子の支払いをせざるを得ない場合があるが、そのような支払い利子に制限を付するような取り扱いは非合理である。
グループワイドルールの適用により、現在、各国で広く認められているREIT等のペイスルー事業体が課税対象となった場合、利子支払が大きく制限される可能性が高い。また、利子控除が制限されれば、配当にまわす資金が目減りし、結果的にペイスルー事業体の利便性を損ない、REIT等の市場の流動性への悪影響が大きく懸念される。
他方、現地子会社が資金調達の判断を行っている場合であっても、グループ全体で控除枠の割り当てが決まるため、現地子会社のマネジメントの裁量が小さくなるおそれがある。例えば、現地企業が自らの設備投資のために外部からの借り入れで資金調達を行った場合でも、利子支払の控除枠はグループ他社との関係で決まるため、通常のビジネス行為であるにも係らず、控除額が制限されるおそれがあり、グループ内からのequityによる資金調達を選択せざるをえなくなり、資金調達の選択肢を狭めることに繋がりかねない。結果的に、現地子会社における財務マネジメントの機能が縮小し、途上国も含めた各国における経営・財務人材の育成・能力向上に寄与しないおそれもある。
借入に係る為替差損益も利子の範囲に含まれるのであれば(パラグラフ35)、納税者の通貨により利子の金額が変わることとなり、統一的な測定が困難となる。また、複数の通貨による借り入れ等が行われる場合、どの通貨を機軸として測定するのか、その際の換算レートは何を使うべきかというルールの詳細について、各国間で整合性が取れなければ、申告実務に反映できない。
会計上の利子費用・EBITDAのデータを借用する場合、会計基準の統一も必要となる。特にデリバティブの取り扱いについては、詳細なルールが必要である。
また、各国における利子の取扱・解釈により、利子の範囲・額が変わりうるため、不安定な制度になるとともに、事務負担等が飛躍的に増大する。とりわけ、連結調整、課税期間の調整、会計基準の調整、会計基準と税制との差の調整を行いながら、利子配賦基準を参照していく必要があり、そのための事務負担・計算の困難さを考慮すれば、企業が対応することは実質的に不可能である。
3.固定比率ルールの支持と修正点
(1) ベンチマークとなる水準
fixed ratio ruleのベンチマークとなる水準について、提案では現行の30%~50%台の水準がBEPSに対応するためには高すぎるとしているが、この点、企業活動の実態から乖離したBEPSによるリスクに対処するという趣旨を考えれば、多くの健全に事業を営む多国籍企業が対象となるような低い水準を推奨することは不適切である。
あるべき水準については、当該国の企業のBEPSの利用実態、企業の経営・財務の状況、BEPSを利用するおそれ等を勘案し、各国における慎重かつ十分な議論を踏まえて個別に決定することが望ましい。少なくとも、多くの国が採用している30%より低い水準に設定することは、混乱を招くことになると考える。また、全世界的に低い水準を設定することは、とりわけ高い金利水準にある途上国の成長にとって悪影響をもたらす可能性があることを認識する必要がある。
(2) 対象とすべき基準
固定比率ルールの基準について、公開討議草案では、資産とEBITDAなどの所得の二つが候補としてあげられている。この点、原則としては、両者を選択できることが望ましい。
もっとも、資産において、無形資産を基準に加える場合には、その算定が難しいことが課題となる。特に自己創設無形資産や自己創設のれんの取扱いは、慎重な検討が必要である。他方、所得を基準に考えた場合、業績の変動等の影響を大きく受けるが、超過利子の繰越制度を設けることでこの問題は解消できる。また、所得は、資産よりも企業の実際の事業活動をより正確に表したものであり、現在、固定比率ルールの基準としては、資産よりも幅広く採用されている。このような点を踏まえ、各国で制度を設計すべきである。なお、所得を基準とする場合、急激な不況時に、所得等の減少による控除枠の縮小が、企業の借入を縮小させ、結果的に不況を深刻にする側面(プロシクリカリティ)があることに留意すべきである。
4.混合アプローチの評価
グループワイドルールをメインルールとするアプローチ1には2.で述べた問題点がある。したがって固定比率ルール(fixed ratio rule)を主体とするアプローチ2のほうが経済活動への影響、納税者の事務負担の観点から比較的ダメージが少ないものと言うことができるかもしれない。
しかし、アプローチ2では、固定比率ルールをメインルールとしつつ、例外(Carve-out)として、グループ比率ルールを適用するとしているが、上記のグループワイドルールの問題点等を考慮すれば、グループ比率ルールの適用の余地はできるかぎり限定すべきであり、むしろ固定比率を現実的な水準に設定することが重要である。あわせて、とりわけBEPSを強く意図した取引類型については、各国で広く取り入れられている既存の税制を踏まえ、足並みをそろえて対象を明確にしたターゲットルールを導入することが制度・取引の安定性の確保の観点から望ましい。
5.その他の課題
(1) 控除されない利子費用と二重課税の取扱(第12章)
公開討議草案では、控除されなかった利子費用について、繰越できるとしており、この提案に賛成する。繰越の期間については、理論上永久に繰り越しできることを念頭に、各国の帳簿保存期間との関係も考慮しつつ、十分な期間を確保するよう、各国がそれぞれ制度を設計すべきである。また、超過利子の繰戻や利用しなかった控除限度額の繰越も可能とする方向が望ましい。
(2) 誰にルールを適用すべきか(第5章)
ルールの適用について、公開討議草案では、直接的、間接的に25%以上の保有関係を有する関係者(related party)についても、ルールを適用すべきとしているが、25%以上の保有関係があったとしても、保有する関係者が、当該企業を実質的に支配しているとは言えない場合が多い。また、直接支配したり、業務執行等を監督しているわけではない当該企業から、利子等の金融取引に関わる情報を得ることは容易ではない。関係者の要件については、少なくとも、50%超の保有関係を有する場合に限るべきである。
また、シナリオ4のように利子支払者と支払先との間に資本関係等が全くない場合については、利子損金算入制限規定の適用が各国で完全に対象外となることを明確化すべきである。
(3) 小規模の企業の例外や限定(threshold)を設けるべきか(第7章)
小規模の企業の事務負担の増大を考慮し、小規模企業の例外を設けることが望ましい。少なくとも、各国において小規模企業の例外を認めないとする方向は不適切である。
(4) 特定の業種の取扱(第13章)
金融セクター
銀行等の資本構成は各国の金融規制及び金融市場の規律に服していることを踏まえる必要がある。この点、銀行等において、既存の資本規制は一般利子控除制限ルールとして機能するものであるが、その場合であっても、その他のグループの利子費用等を用いて、グループワイドルールを補完するルールを適用すべきではなく、個々の課題に対するターゲットルールの設定を基本線として、慎重な検討を行うことが望ましい。
また、企業グループ内に、金融事業会社を有する場合について、ディスカッション・ドラフト13章213項で特別な対応が必要である旨が述べられている。この点、同一グループとしてグループワイドルールを適用することには非常に大きな課題があると想定される。仮にグループワイドルールを適用する場合でも「金融事業会社・事業体」と「その他の事業会社・事業体」については別々のルールをそれぞれに適用する、若しくは「金融事業会社・事業体」は適用除外とすべきである。インフラプロジェクト
多額の資金を要するプロジェクトに取り組むためには、non-recourseまたは、limited-recourseベースでProject Finance組成が必要不可欠である。この場合、指標となるDebt-Equity-RatioやDebt-Service-Coverage-Ratioは、Project Financeの実態を考慮し、合意によって定められているため、グループワイドルールに基づいて利子費用を制限することは妥当ではない。Debt-Equity-RatioやDebt-Service-Coverage-Ratioが独立企業間原則に基づく指標と言えることを踏まえ、包括的に一般的な利子制限ルールの対象外とすべきである。
なお、この点、民間部門が主体的に行うインフラプロジェクトについても、同様である。