於 マニラ
2014年9月15日、アジアの7エコノミーから8経済団体がフィリピン・マニラに集まり、第5回アジア・ビジネス・サミットを開催した。経済界首脳は、台頭するグローバルな経済実態を背景に、アジア経済が直面する主要課題について議論し、共同声明を取りまとめた。
経済界の首脳たちは、サミットで表明された目標を実現するために積極的な役割を果たし、各エコノミーの政策立案者に対して実施可能なインプットを行っていくことに合意した。
共同声明は、アジア経済界の期待と要望を反映しており、アジア経済の活力を維持する上での民間部門の将来の役割を描いている。
1.アジア経済の持続可能性
アジア地域は、世界の繁栄の成長エンジンとして安定した経済成長を遂げている。アジア開発銀行は、アジア地域の平均GDP成長率は、他地域への波及効果をもたらしながら、2013年の6.1%から2014年に6.2%、2015年に6.4%を記録すると予測している。アジア経済界は、この趨勢に歯止めをかけることのないよう、各エコノミーに対して成長戦略の実行を求める。
この成長を持続可能なものとするためには、アジア地域において、それぞれのエコノミーが持つ優位性を最大限に活用して、お互いに補完しながら、国境を越えた分業体制を確立することが鍵となる。このことはまた、地域間の格差の是正につながり、さらなる成長基盤を強化することとなる。
アジアのエコノミーの間で高度人材の交流を図り、アジアの機関による共同研究開発のイニシアティブを奨励し、業種をまたいだイノベーションを促進することが重要である。イノベーション主導の産業発展と高度な人的資本の形成は、高付加価値製品の開発につながり、それによってグローバル・バリューチェーンが高度化される。
2.地域統合
アジア経済界は、アジアの各エコノミーに対し、現在交渉中のEPA/FTAを前進させることを要望する。特に、アジア経済界は、2015年のASEAN経済共同体の成立がアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構築の足がかりとなることを期待する。
EPAやFTAは、保護主義を撤廃し、物品・サービス貿易の増大、国境を越えた投資の拡大、非関税障壁の撤廃、食糧・資源の輸出制限の撤廃、知的財産権保護の強化、ロイヤリティ送金の自由化を実現する、包括的なものでなければならない。
EPA/FTAが排他的でないことは重要である。最初の段階から交渉に参加していなかったエコノミーについては、他の全ての参加者の合意があるとの前提の下で参加が認められるべきである。
3.環境・エネルギー・天然資源
温室効果ガス排出量を削減しつつ、希少なエネルギー資源を最大限に活用するためには、アジアの各エコノミーが省エネ政策を推し進めることが有益である。民間セクターは、高効率石炭火力発電、スマートグリッド、LRT(次世代型路面電車システム)、エコ住宅、エコビルディングなどの環境に配慮した技術を普及することで、省エネ政策の実施について政府と協力することができる。政府開発援助、輸出信用、二国間オフセットメカニズムを含む資金調達スキームは上記の取り組みを実行する際に役立つ。
新しい議定書、あるいは法的文書、または全ての当事者に適用される法的拘束力を持つ合意成果が2015年に開催されるCOP21で採択されることを考慮し、サミットは、公平で効果的な2020年以降の国際的枠組みの構築について共同歩調をとることに合意する。
天然資源の自由貿易が保証されることを条件として、サミットは、国内での選鉱と製錬のための共同開発と技術支援を促進することを決意した。
4.インフラ開発
インフラ開発を促進するために、アジア経済界は、建設関連の資材や機材に対する関税の引き下げ、過度なローカルコンテンツ要求の緩和、SPC設立の自由化、エンジニアと熟練労働者の国境を越えた移動の自由化、政府調達と国内規制の透明化を要望する。
高品質のインフラを開発することを視野に、アジア経済界は引き続きアジアの各エコノミー対して、環境にやさしい技術、ライフサイクルコスト、低い環境負荷などの非価格要素が適正に評価される入札制度を求める。
アジア経済界は、人材育成、第三国との協力を含むPPPプロジェクトのマスタープラン策定とその促進において、中心的な役割を果たしていくことに合意した。
アジア地域に流入する民間資金をインフラ開発に活用することを目的に、アジア経済界は、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)の推進をアジアのエコノミーに対して要求する。
5.ビジネス環境の改善
EPAやFTAを通じて投資が自由化されたとしても、ホスト国の国内規制が透明かつ合理的でない限り、ビジネスは促進されない。
アジア経済界は、各エコノミーにおけるビジネス環境の改善について議論するために、各政府、経済界の代表者から構成されるメカニズムの構築を求める。このメカニズムの下で、国内規制、行政手続き、税制、労働問題に起因する事業活動への障害を提起し、見直し、修正することが可能となる。
ビジネス環境の改善は、外国人投資家だけでなく、国内企業、特に中小企業に利益をもたらすであろう。
6.人の移動
アジアでは近い将来、少子高齢化による労働力不足に直面するエコノミーがある一方、人口増加に伴う若年雇用の問題に取り組む必要のあるエコノミーがある。これら人口構成の変化による負の影響を最小化し、この状況を最大限に利用するため、アジア経済界はアジアのエコノミーに対して国境を越えた人の移動にかかる現存の規制を取り除くことを求める。
企業内転勤者の移動の自由に加え、専門家、熟練労働者、学生および研修生、医療従事者や介護者の移動についても十分に留意する必要がある。医療サービスに関する規制改革が地域のヘルスケア部門における人材ニーズを補完することにより、高齢化社会の問題に対処することができる。
自然人の移動を促進すると同時に、各エコノミーと産業が教育と職業訓練を通じて人的資本を強化するための効果的な措置を講じなければならないことは言うまでもない。