はじめに
日印のビジネス・リーダーは、ナレンドラ・モディ首相の就任を歓迎するとともに、同首相が懸案の諸改革を加速し、インドのビジネス環境を改善して日印間の貿易投資を促進することに期待を表明した。また、日印首脳が両国間の戦略的グローバル・パートナーシップを一層強化することにより、両国が世界経済の牽引役を果たすことを望む。
本フォーラムは、2007年の設置以来、日印双方のメンバーが協力し、日印包括的経済連携協定(日印CEPA)の実現を含め、両国間の多くの2国間の課題を解決してきた。日印経済界は、日印両国が世界経済の成長エンジンとしての役割を継続して果たすことができるよう、ビジネスの立場から両国政府に協力していく。そのために、日印の経済界は、各々の政府と連携し本フォーラムで提起された課題の進捗をフォローアップするメカニズムを設置するとともに、その一環として、日本側が次回日印首脳会談の実施までに訪印経済ミッションを派遣することを表明した。
日印のビジネス・リーダーは、両国首脳に以下のとおり共同報告書を提出する。
1.ビジネス環境の改善のための日印CEPAの活用
日印のビジネス・リーダーは、ここ数年の二国間貿易の減少傾向に留意するとともに、ハイテク産業を中心とする日本の対印貿易投資の拡大と、インドから日本への高付加価値商品の輸出拡大のために、以下の措置の実行を推奨した。
CEPAは重要な制度的インフラとして、貿易投資を含む日印間のビジネス活動を一層加速し磐石にする上で必須のものである。日印のビジネス・リーダーは、両国の通関当局と民間に対し、CEPAの規定と活用のメリットの周知徹底を重ねて求めた。また双方は、インドにおける投資、製造、雇用機会の拡大に貢献するビジネス環境の一層の改善に活用していくために、CEPAの枠組みにおいて設置されているビジネス環境の整備に関する小委員会を両国政府が定期的に開催することを求めた。さらに、双方は、自由貿易推進の観点から、地球規模で貿易投資環境の改善を進めることが必要という認識で一致した。
日印のビジネス・リーダーは、双方向貿易額が2012年度の185億ドルから2013年度の163億ドルに減少したことに留意した。あわせて双方は、二国間貿易が両国の経済規模に相応しいものになるよう、期待を表明した。
ビジネス・リーダーは、両国政府の規制当局に対し、CEPAに基づき、二国間のサービス貿易の促進という観点から、資格承認に関する両国の国内規制について議論を開始することを求めた。
インド側は、海産物・農産物の日本市場へのアクセスと、非関税障壁の除去とともに、インドから日本への食品輸出、特に海産物の輸出における、試験、検査、記録管理手続きの合理化を求めた。具体的には、インドで認可されている17の食品添加物の使用許可や、エトキシキンの最大残留基準の緩和、認証取得コストの軽減が要望された。
さらにインド側からは、医薬品分野における相互認証協定を締結し、医薬品の試験手続きと基準の統一を可能にすることが示唆された。
インド産業界は、自然人の移動の促進のため、コンピューター・エンジニアに対する査証発給上の学歴基準の緩和、日本の顧客にサービスが求められる弁護士や会計士などの専門職に対する資格の相互承認を求めた。加えて、配当・ロイヤルティ・技術サービス料に対する10%の源泉課税の廃止等が示唆された。
日本側は、円滑な土地収用、物品サービス税(GST:消費税相当の連邦間接税)の早期導入、中央政府と州の間における徴税方針・制度の不整合の解消、みなし課税における実際の利益とみなし利益とのかい離の是正、ビジネス実態から乖離した移転価格課税や恒久的施設(PE)課税等の解決、国際電気標準会議(IEC)が定めた方式での電気・電子製品検査データの受け入れ、通関・州際貿易手続のワンストップサービス化と通関後の最大小売価格表示ラベル貼付許可、都心部での外国金融機関の開設規制の撤廃、日印間の金融ノウハウの共有に向けた地場銀行への外資出資規制(新銀行認可ガイドライン4.99%、改正銀行法26%)の緩和、対外商業借入(ECB)の規制緩和を始めとする金融・保険分野での規制緩和、特許権や商標権などの知財権法制の運用と国際的整合性の確保などのビジネス環境に関する当面の課題の早期解決の重要性を指摘した。
双方は、インド政府が提案した保険業への外国企業の出資制限を26%から49%に引き上げる方針を歓迎した。
日本側は、インド政府の小売業に関する外資受け入れ政策について、引き続き高い関心を表明した。日印双方は、本年6月、インド中銀が発表した対外商業借入規制の一部緩和を、投資環境改善に向けた動きとして歓迎した。さらに、日印ビジネスパートナーシップ、中央政府・州政府との投資促進協力、ビジネス環境改善からなる日印間の直接投資拡大のためのアクションプランの策定に両国政府が合意したことを歓迎した。
インドのIT、ITES(IT Enabled Services)、専門職分野等のサービス部門および世界的に高い評価とビジネス実績を誇るインドの製薬会社は、日本の市場に高い関心を有している。かかる観点からインド側は、インド企業が、日本国内においてこれら分野で日本企業と対等に活動できるような市場アクセスの実現を改めて求めた。
また双方は、インドにおいて国際競争力のある産業、とくに製造業を育成することならびにレンタル工場やプラグアンドプレイ工場(事務局注:コンセントを差し込めばすぐに稼動する工場の意)を含むビジネス環境の整備によって日本の中小企業のインド進出を促進することが重要であり、日本の中小企業がインドの若年労働者の雇用機会を増大し、裾野産業の育成に貢献することができるとの点で認識が一致した。双方は、これらの推進が、モディ首相のメイク・イン・インディア・キャンペーン実施の決定を支援するとの点で一致した。
両国間の人的交流の拡大には、査証の円滑な取得が不可欠である。その観点から、両国のビジネス・リーダーは、本年7月、日本政府がインド国民に対する数次査証の発給容易化を歓迎するとともに、商用数次査証の発給容易化が早期実施されることに期待を表明した。さらに、日印双方は、両国の査証発給手続きについて、提出を求められる書類量の削減を含む一層の簡素化と合理化がなされることに期待を表明した。
また双方は、昨年批准済みで発効待ちとなっている日印社会保障協定の早期発効を求めた。
2.インフラ整備の重要性と日印協力
日印のビジネス・リーダーは、インド政府の第12次5カ年計画のインフラ整備の方針を歓迎し、電力供給、スマート・グリッド、水処理を含む上水道、道路、既存鉄道と都市交通システムの接続や高速鉄道の整備、港湾等の産業・社会インフラ整備や、ロジスティクス、工業団地等といったインド全土を網羅するインフラ整備を進めることがインドの産業発展にとって引き続き喫緊の課題であるとの認識で一致した。
インド側は、デリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)とチェンナイ・バンガロール産業回廊(CBIC)が日印経済協力の象徴として進展していることを歓迎した。また、インド政府の国家製造業政策と主要な経済の推進役である製造業に関するスマート・シティの概念の包括的な枠組みの中でDMICやCBICに関連するプロジェクトを推進することが、両国に大きな利益をもたらすだけでなく、インドの製造業発展と都市化の触媒としての役割を果たしつつ、インドに次世代技術をもたらすことにつながると述べた。
日印双方は、デリー・ムンバイ間の西部貨物専用鉄道(WDFC)の完成に向け、確実かつ迅速な推進を図るべきであるとの認識で一致した。また、DMICおよびCBICについては、日本企業の関連プロジェクトを速やかに推進し、インフラ全般に亘って日本企業の技術と専門知識、日本の長期的な資金を活用する観点から、閣僚級の官民政策対話、DMIC次官級タスクフォース、セクター別の協議等の場を活用し、課題を確実に解決するよう、日印政府に継続して要請していくことで一致した。さらに、45億ドルのDMIC Facilityの立ち上げと、国際協力銀行(JBIC)による資本参加とDMIC開発公社への役員派遣を歓迎し、インド政府による受け入れ措置が、スマート・コミュニティ開発を含むインフラ分野において革新的な最先端技術の創出につながることに期待を表明した。インド側は、バンガロール・ムンバイやアムリトサル・コルカタ産業回廊や、ヴィサグ・チェンナイ回廊を第一期とした東海岸の回廊開発構想等についても早期に着手することへ改めて期待を示した。
日印のビジネス・リーダーは、インフラ整備に関連する法規制の緩和、中央政府と州政府の許認可プロセスの透明性の確保と迅速化、より多くの日本企業がインドのインフラ案件に参加できるようリスクの極小化の支援、PPPの促進のため、需要に関するリスク軽減が必要な場合の包括的なリスク軽減や政府保証の付保を引き続き日印両政府に要請していくことで合意した。あわせて、定期的な官民対話の場を設置し、話し合うことを求めた。
なお、双方はインド国内、とくに工業団地の日本企業に高品質の停電のない電力供給を可能とするために、土地収用や環境許可等必要となる政府認可のスムーズな許可、主要な燃料である天然ガス、石炭の適正価格での必要量の安定的確保と燃料価格高騰時の売電価格への転嫁、発電・送電・配電事業に関連する規制緩和と中長期的な契約の締結が必要であることで一致した。
3.戦略的分野における協力
日印のビジネス・リーダーは、日印間のエネルギー分野での商業ベースの協力の必要性を認識し、日本のエネルギーセクターの技術力をインドで普及する方策をさらに検討していくことを求めた。インド側は、エネルギー分野での協力を強化するため、インドにおいて日本の環境技術を紹介する見本市を開催するよう重ねて求めた。日印のビジネス・リーダーは、日印のエネルギー対話の着実な進捗に期待を表明した。さらに、双方は、行政の改善が期待されるインドの国民皆ID(UID)制度に関する協力の拡大に関心を示した。また、ICTを活用した農業の高度化に関する日印協力も試行されている。
双方は、インド政府がムンバイ・アーメダバード間のみならず、ムンバイ・デリー・コルカタ・チェンナイの4都市をむすぶ高速鉄道整備計画を決定したことを歓迎した。
双方は、自動車、機械、材料学等の分野に加え、電子機器、通信機器、重工業、鉄道管理システムなどの分野における先端技術の導入、農業や、水処理、衛生、リサイクル等の環境管理における技術交流と対印製造業投資を重視することが必要であるとの認識で一致した。
インドにおける電力部門のインフラ改善の一環として、原子力発電プラント建設における日印協力は戦略的に重要であり、こうした観点から、日印のビジネス・リーダーは、両国政府が原子力発電所の安全性を最大限確保しつつ、原子力協定の締結を含む一層の協力に取り組むことを求めた。
双方は、両国政府に対し、日印間の科学技術、人材育成、研究開発、イノベーションにおける協力等が、将来の経済開発と製造業の競争力を決定づけることから、これら分野での協力をより一層拡大深化するよう求めた。
また、レアアースのような戦略的に重要な資源をインドで開発する新たな日印共同イニシアティブの実現に期待を表明した。
このような戦略分野での共同事業を推進する上で、ソフトインフラとしての良質な人材の育成が不可欠であることから、日印のビジネス・リーダーは、技能の訓練と認定、日印の学生の相互交流や企業でのインターンシップ等を通じたスキル向上のための協力を進めることの重要性を改めて指摘した。
4.グローバルな協力
日印のビジネス・リーダーは、2015年のASEAN経済共同体発足が両国の貿易・投資協力にとって面的広がりの可能性を高めていることで認識が一致した。また、日印戦略的グローバル・パートナーシップがアジア太平洋地域の経済発展に好ましい影響を及ぼすと認識した。
双方は、交渉中の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)について幅広く有益なものとなるよう、引き続き共同でイニシアティブを発揮することで合意した。RCEPは物品貿易、サービス貿易、投資の自由化で、原産地規則の統一と地域における生産ネットワークの拡大やサプライチェーンの強化に貢献するとの認識で一致した。
さらに双方は、日印グローバル・パートナーシップの一環として、日印の官民が中東やアフリカ等、第三国におけるプロジェクトで協力を推進していくことが重要であるとの認識で一致した。
5.今後の協力について
本フォーラムのフォローアップ・メカニズムを構築するにあたり、双方は必要に応じて分野別の合同作業グループの設置を検討することとした。
インド側は、インド工業連盟が対日投資窓口を設置するとともに、インターネット上に日印企業間情報ポータルサイト(B2B portal)を設置することを紹介し、日本側は、その努力を歓迎した。
総括
日本とインドは、相互の尊敬と協力の精神に基づき、歴史的に強い結びつきを構築してきた。加えて、両国には、相互補完的な関係および地政学的重要性に基づいて戦略的経済連携を発展させうる大きな潜在性がある。例えば、インド洋における海賊問題への対応では、日印の連携が有効であり、シーレーンの確保の観点からも重要である。そこで、両国のビジネス・リーダーは、これらに加えてサイバー・セキュリティ、テロ対策の分野での協力強化を求めた。
日印のビジネス・リーダーは、アジアでも主要な二つの民主主義国家の共同の取り組みが、アジア太平洋地域の安定と繁栄に寄与することを確信する。
最後に、本フォーラムのメンバーは、日本の安倍総理とインドのモディ首相が我々に寄せていただいた信頼に対し、深い謝意を表するものである。
- 印日ビジネス・リーダーズ・フォーラム共同議長
- ババ カリヤニ
- 日印ビジネス・リーダーズ・フォーラム共同議長
- 榊原 定征