一般社団法人 日本経済団体連合会
都市・地域政策委員会 PPP推進部会
〔概要〕
わが国経済が民間主導の成長軌道を描いていくためには、担い手である民間企業の力を最大限引き出すことが不可欠であり、これを喚起する施策のひとつとしてPPP/PFIのさらなる活用が求められている。また、PPP/PFIを通じて、従来、国や地方自治体が担ってきたインフラの整備・運営を民間企業に開放することで、厳しい財政事情の下でも効果的・効率的なインフラ整備・運営が可能となる。こうした中、わが国の成長戦略である「日本再興戦略」では、10年間(2013~2022年)で12兆円規模のPPP/PFI事業を推進する目標が掲げられた。
一方、わが国のPPP/PFIの事業規模は、1999年のPFI法の制定以来、着実に実績を積み上げてはいるものの、事業類型別では延べ払い型のPFI事業が中心であり、また、事業数も昨年までの類型で約400件、事業費が約4兆円にとどまっている。これまでの実績の3倍近い目標を達成するためには、民間事業者ニーズを踏まえた、魅力ある案件を創出していくことが重要であり、そのための制度の改正や事業環境の整備が求められている。
そこで、経団連では、会員企業向けアンケート調査を通じて、PPP/PFIの活用促進に向けた、阻害要因、今後活用が期待される分野、官民双方へのインセンティブについて、下記の通り、調査報告を取りまとめた。政府には、事業実施主体の観点からの意見・要望について、成長戦略の実行をはじめ政策運営へ反映していくことを強く望む。
1.PPP/PFI市場の拡大を阻害している要因
まず、事業環境における阻害要因として、民間事業者が過度なリスク負担を余儀なくされている実態がある。例えば、事業における需要変動リスクを民間事業者に一方的に移転される、あるいは、要求水準書に想定していなかった不測の事象に対して民間事業者のみが対応を求められるといったケースが多い。このほか、株式等の譲渡制限が長期の投資や柔軟な事業運営を妨げていることに加え、税制面においても、従来型の公共事業とPFI事業との間で負担の差が生じていること(BOT(Build-Operate-Transfer)方式では固定資産税、都市計画税、不動産取得税の負担が生じる)、長期修繕計画が伴う事業において修繕引当金の損金計上が認められないことも民間事業者の参画意欲を削いでいる。
また、発注者である行政側の対応をめぐっても、VFM(Value for Money)算定根拠の不十分さ、公会計と企業会計との運用面・制度面における差異などに加えて、財務情報が部局全体として総括され、個別事業の財務状況が把握できないことなど、民間事業者への情報提供が十分でないことがPPP/PFIの活用を阻害している。
さらに、地方自治体におけるPPP/PFIの実施に伴う業務負荷は従来の発注方式と比べて圧倒的に大きく、自治体にとってあえてPPP/PFIに取り組んでいくという動機付けが働かないのではないかとの指摘が多い。
2.PPP/PFIの活用が期待される分野と活用促進に向けた環境整備
民間企業においては、まちのコンパクト化・スマート化やハード・ソフト両面からの防災・減災対策、地域包括的な高齢化への対応など、まちづくりに係る総合的な提案事業への関心が強い。行政にとっても、庁舎など公共施設単体でのPFIに対して、まちづくり、あるいは、防災・減災、高齢化などの同種テーマの下での包括的なPPP/PFIは、財政削減効果が大きいと期待される。
国、地方自治体には、住宅、交通、道路、港湾、河川、商業・文化施設(複合施設含む)、防災設備、福祉施設など広範な分野について、これらの連携・集約の可能性も含め、事業の計画段階から、PPP/PFIの活用を民間企業に求めることが有効である。その際、容積率の移転・緩和や空中権の活用、遊休地・遊休施設の売却や民間による運用などを通じて、事業全体での資源・資産の徹底した活用を図ることが重要であり、これらに係る制度・規制の弾力的な運用が不可欠である。他方、事業が広範な分野にまたがることから、財政、まちづくり、各公共施設・インフラに係る部局が連携した、行政組織でのタテ割りを排した対応が求められる。
また、2011年の改正PFI法の成立により、公共施設等運営権制度(コンセッション)を活用したPFI事業が創設された。これにより、空港をはじめとする公共インフラへの活用を期待する声が強い。コンセッションの活用拡大に向けては、利用料金の設定をはじめとする民間事業者の経営裁量の担保や官民での適切なリスク分担(需要変動リスクに係る片務的な契約条件の排除、天災など経営基盤への影響が大きい変化への対応など)、修繕、投資等を含めた運営・維持管理に係る責任の所在や会計・税務処理の明確化、当該事業の運営状況(財務、収益性、利用者数等)に係る精緻な情報提供などが課題として挙げられている。
3.インセンティブなど官民双方へのPPP/PFI活用促進策
今後、官と民の双方に対して、PPP/PFIの活用を促していくためには、まず地方自治体へのインセンティブとして、PPP/PFIを通じて得られた財政削減効果に応じて、財政面での支援措置や起債枠の拡大など自治体の自主財源を増やすことが考えられる。PPP/PFIの市場拡大のためには、多くの魅力ある案件の組成が不可欠であり、地方自治体が従来型の発注方式ではなく、PPP/PFIに積極的に取り組むよう、こうしたインセンティブによる動機付けが必要である。なお、得られた財政的なメリットについては、財政部局のみならず、特別枠などを通じて事業実施部局にも還元されることも考えられる。
一方、民間事業者の提案を促していくためには、地方自治体が公共施設白書を通じて、公共施設の立地や改修・建替え、老朽化等に係る情報を見える化し、民間事業者のPPP/PFIへの関心を高めることが必要である。また、諸外国の制度を参考に、民間提案に対するインセンティブの付与も検討すべきである。併せて、サービスの受け手である国民への理解醸成に努めていくことが求められる。
また、PFIに係る官民双方の事務手続きの煩雑さ・負担の大きさもかねてより指摘されているところであるが、これまでの事例の蓄積があり、導入効果が得られると見込まれる分野については、導入可能性調査の省略など手続きを簡素化することで、官民双方からの提案を促していくことが有効である。
〔調査結果〕
(PDF形式/〔調査結果〕の目次は以下のとおり)
1.調査の概要
2.PPP/PFIへの関心
3.事業類型における関心業種の内訳と関心の高い分野
- (1)延べ払い型PFI事業
- (2)公共施設等運営権制度(コンセッション)を活用したPFI事業
- (3)収益施設の併設など利用料金等で費用を回収するPFI事業等
- (4)公的不動産の有効活用など民間の提案を活かしたPPP事業
【参考】参画に関心がある企業における関心分野
4.参画に関心がある企業における回答数の多い業種の意見・要望
- (1)金融・保険業
- (2)建設業
- (3)製造業
- (4)サービス業