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Policy(提言・報告書)  都市住宅、地域活性化、観光 高いレベルの観光立国実現に向けた提言

2014年6月11日
一般社団法人 日本経済団体連合会

「高いレベルの観光立国実現に向けた提言」概要

はじめに

2013年、わが国を訪れる外国人旅行者は1036万人を数え、2003年のビジット・ジャパン事業開始以来の政府目標であった年間1000万人を初めて達成した。

この成果を踏まえ、安倍総理は2014年1月の観光立国推進閣僚会議において、「2020年に向けて訪日外国人旅行者2000万人という高みを目指す」との強い意欲を示すとともに、各閣僚に対して外国人旅行者に不便な規制や障害を徹底的に洗い出し、できることは速やかに実施に移していくとともに、2013年6月に策定した「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」を改定し、政府一丸となって観光立国を加速するよう指示している。

訪日外国人旅行者2000万人達成は決して容易ではないが、関係者の尽力もあり、2020年オリンピック・パラリンピックの招致成功のみならず、円高の緩和による訪日旅行の割安感の浸透、ユネスコにおける富士山の世界遺産登録、和食の無形文化遺産登録と世界的な和食ブーム、アジアでの旅行需要の急増といった多くの外国人旅行者を呼び込む環境が整いつつある。

わが国はこうした好機を最大限活用し、わが国に注目が集まる2020年を1つのステップとして、「質」・「量」ともに高いレベルの観光立国を官・民、国・地方一体となって、段階的かつ着実に実現すべきである。そのためには、多様化する消費者のニーズに合わせて、日本の多様な魅力を発信し、多くの外国人に日本を体験してもらう必要がある。加えて、訪日旅行の満足度を高めてファンとリピーターを増やし、日本観光のブランドを確立することで、訪日旅行の持続的成長を図る必要がある。外国人にとって魅力的な訪日旅行は、国内旅行の魅力向上にもつながろう。

観光は今後も大きな成長が見込まれる産業である。オリンピック・パラリンピックを契機に東京の魅力と先進性をアピールするとともに、地方にも観光に出かけてもらう仕組みを作り、季節の変化や地域の多様性をうまく活かせば、東京のみならず、地方の活性化や震災被災地の復興、ひいては国全体の成長につながることが期待される。

我々経済界は、2020年を1つのステップとして高いレベルの観光立国を実現するため、国の体制強化、観光立国に資するハード・ソフトインフラの整備等、下記の取組みを強力に推進することを提言する。

1.国の体制強化

(1) 観光庁の体制及び機能強化

今後、わが国がオリンピックを契機に、MICE(Meeting, Incentive, Convention, Exhibition)関連も含めた多くの外国人旅行者を呼び込み、観光立国を進めていくためには、国の観光立国推進体制についてもさらなる強化が必要である。

第二次安倍内閣の下では、2013年3月、総理が主宰し、全閣僚が参加する観光立国推進閣僚会議が設置され、政府を挙げた取組みが積極的に進められている。今後、同会議の成果を踏まえつつ、観光庁が観光立国に関る施策についての総合調整機能を政府内で名実ともに一層発揮できるよう、国土交通省設置法改正も視野に入れた対応を進めるべきである。

(2) 観光予算の確保等

観光庁関係予算については、2014年度に98億円(復興枠を入れて103億円)と、政府全体の観光関連予算(2,956億円)や政府の一般会計予算(約96兆円)に比して規模が小さい。また、観光が経済全体に及ぼす波及効果(対名目GDP比5.0%)や観光立国が今後の成長戦略の柱の1つであることを考慮しても、十分な投資額とは言えない。

今後の予算編成に当たっては、骨太にわが国が今後高いレベルの観光立国実現に向けて進むに相応しい規模の予算を確保する必要がある。また、財政制約が厳しい中で観光政策を進めるにあたっては、政府全体の観光関連予算の一覧化したものを活用し、観光庁と他の省庁との連携を一層強化するとともに、現在のビジット・ジャパン官民連携事業を今後も積極的に進め、民間企業等の有する海外ネットワークやノウハウを活用することも重要である。

(3) 日本政府観光局(JNTO)の機能強化

海外における訪日観光プロモーションを強化するためには、独立行政法人 国際観光振興機構(日本政府観光局;JNTO)の機能強化が不可欠である。

政府は、こうした観点から「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(2013年12月閣議決定)において、これまで観光庁が実施していた訪日プロモーション事業をJNTOに移管することを決定した。

政府においては、観光庁からJNTOへの訪日プロモーション事業の移管を円滑かつ可能な限り速やかに行うとともに、同事業の更なる強化に向けて、(1)海外事務所の増設、(2)予算・人員の確保、(3)国際交流基金やJETRO、在外公館等他の政府機関や地域で外国人旅行者の呼び込みに力を入れる広域観光組織との連携強化等を図っていくべきである。

(4) 国によるMICE戦略の立案遂行

会議や見本市などをはじめとするMICE(※)の誘致・開催は、開催地における高い経済効果のみならず、各界のキーパーソンや情報をわが国に呼び込んでイノベーションやビジネスチャンスを創出するとともに、MICE参加者にアフターコンベンションも含めてわが国の魅力を体感してもらい、わが国のブランド力を強化するという意味でも極めて重要である。

※ Meeting, Incentive, Convention, Exhibition

現在、国はMICE誘致・開催に取り組む都市の競争力強化に向けて、「グローバルMICE戦略都市」を選定し、支援する取組みを進めている。今後は、国も国の成長戦略の一環としてMICE戦略を立案し、国家ブランド強化に向けた取り組みと平仄を合わせながら、より主体的かつ戦略的に、重要な国際会議や大規模な見本市、スポーツ国際大会等を積極的に誘致・開催する必要がある。また、日本で定期的に開催される世界トップクラスの国際会議や見本市を増やすために、国内イベントの育成・充実を図っていくことも重要である。

(5) 国を挙げたジャパン・ブランド発信の強化

より多くの外国人旅行者やMICEを国内に呼び込み、また、訪日旅行の満足度を高めていくためには、その基盤として、日本そのものについてのブランド価値を高め、発信を強化していくことも重要である。

このためには、クール・ジャパン、インベスト・ジャパンなど、これまで分野ごとに実施してきたプロモーションを棚卸しし、新たに策定する国全体の国家ブランド戦略の中で、各分野連携して整合的かつ強力に推進していく必要がある。すでに、観光庁と文化庁、放送コンテンツ海外展開促進機構(BEAJ)と海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)の連携が進められているが、今後、こうした取組みを効果的に進めていくためには、国際的なイベントの機会等を活用して、世界のリーダー層やメディアなどに、日本の魅力を体感してもらうとともに、彼らの意見を今後のプロモーションに活かしていくことを検討すべきである。

2.観光立国に資するハードインフラの整備

(1) 首都圏空港の容量拡大・整備

首都圏空港(羽田空港・成田空港)は、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を円滑に開催する上でも、また、訪日外国人旅行者2000万人を達成する上でも基幹となる極めて重要なインフラである。

現在、政府においては、首都圏空港について、2014年度中の発着回数75万回化の達成に向けた整備が進められるとともに、更なる機能強化と利便性向上に向けた検討が行なわれている。今後は、訪日外国人旅行者2000万人、3000万人時代の空港処理能力のシミュレーションも行いつつ、まずは首都圏空港の容量拡大・整備について、周辺住民や環境にも配慮しつつ、都市部の上空通過を含む羽田空港の空路及び空域制限の見直し、滑走路の増設及び新ターミナルエリアの整備等を含む多面的な検討を行い、対応を急ぐ必要がある。

(2) 地方空港の活用とCIQ体制の充実

外国人旅行者2000万人の受け入れには、首都圏空港のみならず地方空港も最大限活用していく必要がある。また、オリンピック・パラリンピック東京大会の開催効果についても、日本全国に波及させることが望ましい。

こうした観点から、地方空港については、補助金や着陸料の軽減など多様な政策手段も視野に、航空会社による新規路線の開設・就航を促していくべきである。その際、外国人旅行者の受入れに必要となるCIQ(※)の体制についても、旅行者の利便性を念頭に整備を行うべきである。

※ CIQ(Customs、Immigration、Quarantine)

(3) ビジネスジェットの利用促進に向けた基盤整備

ビジネスジェットを利用するVIPの訪日を促すとともに、その満足度を高めることは、量のみならず質の上でも高いレベルの観光立国を実現するため、極めて重要である。また、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を契機にビジネスジェットで日本を訪れるVIPも増加すると考えられる。

こうした状況に対応して、首都圏空港を中心とした発着枠の確保、着陸料等の空港使用料体系の見直しを進めるとともに、VIP専用の動線や柔軟なCIQ手続を検討・整備し、安全性と利便性の向上を図るべきである。

(4) 空港アクセスの利便性向上

外国人旅行者の受入れ拡大と満足度向上に向けては、都市~空港間、および空港相互間のスムーズな乗り継ぎルートを確立し、有機的な連携を強化していく必要がある。

このため、首都圏空港アクセス路線の整備・拡充を進めるとともに、複数の空港とその間を結ぶ交通機関等が連携して、旅行者の利便性を高めるための取組みを行う場合には、何らかの政策手段を通じて支援を行うことも検討すべきである。

(5) クルーズ寄港促進に向けた港湾関係のインフラ整備

現在、政府はクルーズによる訪日旅行の促進に向け、国を挙げたポートセールスの支援、大型クルーズ船の海外臨船審査の実施やクルーズ船の外国人乗客に対応した出入国管理法の改正案の国会提出など、外国人乗客の出入国手続の円滑化・迅速化に向けた取組みを積極的に進めている。

今後さらに、大型クルーズ船が最初にわが国に寄港する港湾(ファースト・ポート)となることが多い港湾については、CIQの体制を特に強化することも重要である。また、大型クルーズ船が頻繁に寄港するいくつかの港湾については、埠頭・旅客ターミナル等をハード・ソフト両面において、戦略的かつ重点的に整備する必要がある。この際、既存ストックの有効活用という観点からは、貨物埠頭の再編やクルーズ船埠頭への利用転換についても、寄港地の需要動向を見極めつつ検討すべきである。また、旅客ターミナルの整備に当たっては、バリアフリー・多言語表記・無料Wi-Fiの整備等にも配慮が必要である。

(6) 次世代自動車による交通輸送システム構築に向けた施設整備

2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を機に、訪日外国人旅行者に東京の魅力と先進性を体感してもらうべく、今後の道路・公共施設等の整備に当たっては、次世代自動車による交通輸送システム構築を視野に、充電設備や水素ステーションの設置を積極的に検討すべきである。

(7) 大規模MICE施設の整備

わが国が今後MICE戦略を立案・遂行する上で、世界最大級の国際会議、国際見本市を誘致・開催可能な大規模MICE施設の整備は喫緊の課題である。

このため、現在計画が進んでいる東京ビッグサイトの増床等については、既存の施設の拡充と利便性向上の観点から積極的に推進すべきである。

さらに、今後、新たな大規模MICE施設の整備を検討する際には、わが国の成長に最大限活用できるよう、(1)国際空港から30分圏内といった海外からの良好なアクセス、(2)宿泊施設、レストラン、ショッピング施設等の魅力付け施設との一体的開発や超小型モビリティ等を活用した施設周辺域内の移動の円滑化など参加者の満足度を高める利便性・快適性、(3)わが国のトップリーダーのアクセスならびに電車等の大量輸送手段の確保によるMICE参加者・運営者にとってのアクセスの良さ等を念頭に置くべきである。加えて、整備を具体的に進める際には、国家戦略特区等の制度も最大限活用し、用地・用途規制についても迅速に対応すべきである。

現在国会に提出されている「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(IR推進法案)」については、MICEを巡る国際競争が激化し、大規模MICE施設についてカジノを含む魅力付け施設と一体的に開発することが国際的な流れになっていることに鑑み、経済性と倫理性を踏まえた議論が一層深化し、早期に結論が得られることを強く期待する。

3.観光立国に資するソフトインフラの強化

(1) 査証発給要件の一層の見直し

政府が昨年7月に実施したタイ・マレーシアをはじめとする東南アジア諸国に対する査証発給要件の大幅な緩和は、タイで前年比7割以上も訪日旅行者が増加する等、訪日外国人旅行者1,000万人の達成に大きく貢献した。

こうした成果を踏まえ、今後も、インドなど訪日旅行の需要が拡大する可能性がある国・地域等を念頭に、また、国内の治安維持の確保のための入国審査体制の強化・手続の合理化等と平行して、査証発給要件の緩和をさらに進めるべきである。

また、中国については、2011年7月より沖縄を訪問する個人観光客、2012年7月より東北3県を訪問する個人観光客に対して、沖縄振興・震災復興の観点から数次査証が発給されている。この制度を一層活用するため、東北3県数次査証については、東北6県への対象拡大、次いで全国への展開を実施すべきである。その際、中国側の不満の原因になっている査証発給審査の際の所得要件の緩和についても検討することが望ましい。

(2) 入国手続の円滑化・迅速化

スムーズでストレスのない入国手続は、わが国の訪日外国人旅行者の増加への対応のみならず、旅行者の日本における観光満足度の向上にもつながる。

入国手続の円滑化・迅速化と水際でのテロ対策等の厳格な審査の両立に向け、わが国は入国審査体制の充実を図ることはもちろんのこと、VIPや予め登録された国際会議の参加者向けの専用レーンの設置、自動化ゲートの対象を出入国管理上のリスクが低く頻繁にわが国を訪問する外国人旅行者に拡大することをはじめ、ITを利用した高度で正確な個人認証システムの活用を推進すべきである。

また、わが国を経由して海外に向かうことを予定している外国人旅行者に対して、国内観光・ショッピングの機会をより多く提供することができれば、国内消費が増大するとともに、日本に対する好感度を高めることができることから、不法残留等の弊害防止措置の検討を前提に、寄港地上陸許可を観光に活用していくことを検討すべきである。

(3) 多言語表示の一層の充実・見直し

外国人旅行者の快適・円滑な移動・滞在の実現に向け、道路、公共交通機関、文化施設、観光地等での多言語表示の一層の充実・見直しが行われるよう、「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」(2014年3月、観光庁)の一層の周知・活用を図るべきである。また、取り組み事例の周知等、民間事業者の負担の軽減策についても検討すべきである。

(4) 通訳案内士制度の見直し・ボランティアガイドの登録と研修の充実

現在の通訳案内士制度に基づく通訳案内士は、都市部かつ英語での資格取得者に集中しており、訪日外国人旅行者2,000万人時代には地方を中心にアジア言語等で案内できる人材が不足することが懸念される。

そこで、通訳案内士については、現在も筆記試験免除の対象となる資格を増やす等の見直しが行われているものの、さらに試験を実施する回数や会場を見直し、希望者が受験しやすくするともに、総合特区制度等に基づいた地域限定の特例ガイドの活用を促進すべきである。

また、通訳案内士の機能を補完する意味でも、各地で養成が進むボランティアガイド等の登録とネットワーク化を進めるとともに、ガイドの質の向上を目指した研修の充実を推進すべきである。

(5) ユニークベニューの活用推進

歴史的建造物や文化施設、道路等の公的空間等で会議やレセプションを行うことで参加者が特別感や地域の特徴を感じられるユニークベニューの活用は、今後のMICEの一層の振興と地域活性化に向けて重要な課題である。

ユニークベニューの活用に向けては、対象建築物の所有・管理者のみならず、道路占用における道路管理者や地域の警察、消防、保健所等の関係機関の理解と協力が重要である。政府においてはMICE戦略の一環として、関係機関の一層の連携強化を促進するとともに、国家戦略特区法等も活用し、エリアマネジメントを行うNPO法人等の民間に対して積極的にユニークベニュー周辺等の道路についての占用許可を与えるべきである。

(6) 24時間対応「ワンストップ・コールセンター」と外国人旅行者苦情対応相談センターの設置

訪日外国人旅行者、とりわけ個人の旅行者の増加に伴い、外国人旅行者が目的地を探すのに不便や不安を感じたり、宿泊施設や商業施設との間でコミュニケーションに不都合が生じたりするケースが増加することも考えられる。また、旅行者が日本での体験に強い不満を感じ、その不満をそのまま持ち帰ってしまえば、旅行者の満足度が低下するのみならず、わが国はトラブルの原因を抱えたままブランド力を低下させることにつながりかねない。

こうした事態を未然に防ぎ、外国人旅行者の満足度を高めるため、わが国は韓国観光公社の「コリアトラベルホットライン1330」や「観光苦情申告センター」等の取組みを参考に、公的支援による24時間対応の多言語対応のコールセンターや外国人旅行者を対象とした苦情対応相談センターを設置すべきである。

(7) 公共施設等のバリアフリー対応強化と「心の」バリアフリーの実現に向けた教育・研修機会の増大

超高齢社会の到来の中で迎える2020年オリンピック・パラリンピック東京大会は、東京がアジアにおいてパラリンピックを開催するにふさわしい文化・経済レベルの都市であることを世界に発信するチャンスである。わが国はこの機を最大限活かすべく、バリアフリー対応はもとよりユニバーサルデザインの積極的採用、ユニバーサルツーリズムの振興を図り、障害者や高齢者をはじめ誰もが安心して旅行することが出来る環境を創出すべきである。

わが国は、公共施設等をはじめとするハード面でのバリアフリー対応の向上に引き続き取組みつつ、各種施設のバリアフリー対応及びサポート体制について、利用者やその関係者がポータルサイトやアプリ等を通じて確認し実際に各施設を利用しながら外出することを後押しするような取組みを推進すべきである。また、2016年4月の「障害者差別解消法」施行も契機に、社会全体で障害を理由にした不当な差別的取扱いや社会的障壁を取り除くために必要で合理的な配慮についての教育・研修や国民に対する啓発活動を充実し、ソフト面でも高いレベルのバリアフリー社会を実現すべきである。

(8) ムスリム用の礼拝スペース確保等の宗教上の配慮の推進

わが国が高いレベルの観光立国を実現するためには、マレーシア・インドネシアを中心とした東南アジア・中東からのムスリム旅行者への訪日プロモーションに一層注力するとともに、日本国内での異文化への理解と受入れ環境の整備を促進すべきである。

昨年、観光庁・JNTOが、飲食・宿泊施設等におけるムスリムの受入れ環境の整備に向け「ジャパン・ムスリムツーリズム・セミナー」を開催した。政府においては必要に応じてこうした取組みを行うとともに、一定の規模以上の観光関係施設についてはムスリム用の礼拝スペースの確保等、宗教上の配慮を行っているかについての情報公開を促すといった取組みを通じて、様々な宗教的背景を持った旅行者が安心して日本を旅行できる環境を整えるべきである。

(9) 外国人旅行者のショッピング等の利便性の向上

外国人旅行者は現金を持ち歩かずクレジットカード等を携帯することが多いため、ショッピングの利便性を向上するために、多様な決済端末やアプリ等の活用により、クレジットカードのみならず、電子マネー等の利用可能範囲を拡充していくことが重要である。

政府においては、外国人旅行者が安心してショッピングができる環境整備のために、関係省庁が一体となって民間事業者や業界団体と連携し、多様な決済手段の利用範囲の拡充・カード利用のロゴマークの店頭表示強化及び海外向け情報発信の強化等について事業者への働きかけを行うことが望ましい。

また、消費税免税販売制度については、2014年10月から、従来対象となっていなかった化粧品類、食品類、飲料類、たばこ、薬品類等の消耗品が新たに対象となることは大きな前進である。免税店許可要件の明確化と制度の周知により、制度を利用できる店舗を増やすとともに、さらなるショッピングの魅力の向上のため、諸外国の制度を参考にしつつ、手続の合理化・簡素化の検討を進めていくべきである。

(10) 公共施設等での無料Wi-Fiサービス提供エリアの一層の拡充

ITの普及に伴い、旅行中にスマートフォンやタブレット端末、PC等を利用して観光情報を入手しようとする外国人旅行者が今後益々増加することが予想される。こうした外国人旅行者の満足度を高めるためにも、ITを活用して外国人旅行者とのコミュニケーションを強化し、日本の観光の付加価値を高めるためにも、無料Wi-Fiサービスの提供エリアの拡充は重要である。

政府は、公共施設等での無料Wi-Fiサービスの提供の一層の拡充に向け、施設の所有者・管理者への働きかけを強化する必要がある。その際には、地域を挙げた無料Wi-Fiサービスエリアの拡充の事例を他地域と共有するとともに、たとえば無料Wi-Fiサービスを活用したマーケティングや観光案内、無料Wi-Fi付自動販売機の活用など、施設の所有者・管理者が無料Wi-Fiサービスの提供にメリットが感じられる事例や選択肢の紹介も検討すべきである。

また、一度の利用登録で日本各地の空港や駅等のWi-Fiサービスに利用できるアプリの活用促進、外国人旅行者にわかりやすい無料Wi-Fiサービスの提供を示す共通シンボルマークの導入と普及促進を進める。

なお、オリンピック・パラリンピックの各種目の競技場や選手村等については、無料Wi-Fiサービスの提供を施設の所有者・管理者やオリンピック関係者等の負担で実施し、円滑な競技運営と競技観戦を支える安定的な通信環境の確保を図るべきである。

(11) IT等先進技術の一層の活用

外国人旅行者、障害者や高齢者に日本観光の魅力やオリンピック・パラリンピックを満喫してもらうために、IT等の日本の先進技術の活用を積極的に検討、実行に移していくべきである。

急速に普及が進んだスマートフォンやタブレット型端末に加え、今後普及が予想されるウェアラブル端末も視野に、たとえば、一般的な旅行者、競技参加者、競技運営者、競技観戦者など様々なシチュエーションに応じた情報提供、自動翻訳による異なる言語・コミュニケーション手段間の対話の支援、GPSを活用した精度の高いパーソナル・ナビゲーションと観光情報の提供などが考えられる。

こうした技術開発と普及を2020年に向けて一気に加速していくためには、今後、各種政府関係機関と様々な規模・業種の民間事業者との連携を強化し、オール・ジャパンの体制を構築していくことが重要である。

4.その他に国・地方が取組むべき課題

(1) 全国各地での魅力ある観光地域づくりの一層の強化

わが国で今後、2,000万人を超える外国人旅行者を受入れ可能にするためにも、また、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の開催効果を地方にも波及させ、観光を通じて地域活性化を実現していくためにも、首都圏のキャパシティ向上に加え、全国各地で魅力ある観光地域づくりに向けた取組みの一層の強化を図っていく必要がある。

そのためには、各地の自然、食をはじめとする文化、地域独自の伝統産業など、様々な観光資源を外部の視点も活用しながら地域が主体的に発掘し、磨き上げ、発信していく必要がある。

現在、全国各地で、多様な観光モデルルートの開発・プロモーションが地域間連携により進められている。政府はこうした取り組みの一層の強化に向け、広域観光組織による海外プロモーションや、ノウハウの共有や組織間の連携促進のための広域観光組織間の交流促進について、積極的に協力を行うべきである。

また、地域と海外とを直接結びつけ、地域の国際観光を振興していく観点からは、オリンピックに合わせて2016年リオデジャネイロ大会終了後から日本で実施される文化プログラムの全国各地での開催、東日本大震災の被災地をはじめ全国各地をめぐる聖火リレー、2018年に韓国で開催される平昌冬季オリンピック・パラリンピックの各国チームの合宿・練習の誘致などが考えられる。

(2) 観光資源としての景観の整備・保全

各地の自然や歴史・文化がつくりだす景観は、地域の重要な観光資源である。今後の都市・地域開発や高速道路等のインフラの整備・更新に当たっては、観光客が自然散策や町歩きを心から楽しめるような景観の整備・保全の観点から、広告の規制や電線の地中化、川を覆う高速道路の撤去による水辺の風景の再生等を可能な限り進めていくことが望ましい。

(3) 国民の語学力の向上

自動翻訳ツール等の開発・普及が進めば、将来的には外国人旅行者とのコミュニケーションも大きく改善するが、訪問国の印象はそこで出会った人々との生の会話により形成される部分が極めて大きい。我々国民の一人一人が外国人旅行者をもてなす気持ちを持ち、それを一言でも相手に通じる言語で表現できれば、世界各国からの訪問者のわが国に対する印象も変わるはずである。

政府は、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向け、学校における英語教育の強化を図るとともに、学校単位が1つの国の言語を学び、その国のチームを応援するといった応援プログラムの実施によるおもてなしの実施も検討・実施すべきである。

また、外国人旅行者が安心して日本を訪問できるようにするために、怪我や病気になった際に対応する医療機関の外国人旅行者対応なども向上させることが望ましい。このため、現場の実情に合わせて、医療スタッフの語学力強化や医療スタッフを支える翻訳ボランティア等の活用を、指さし会話ノートや翻訳機能を持ったアプリを搭載したタブレット端末等の支援機材の用意とともに進めるべきである。同様に、交番、救急、公共交通機関等においても同様の取り組みを進めていくことが望ましい。加えて、災害等緊急時における外国人旅行者への情報提供のあり方についても留意が必要である。

(4) 多様なモビリティの活用に向けた環境整備

イギリス・ロンドンでは、「交通環境の改善」、「市民の健康増進」の観点から、ロンドンオリンピックを契機にレンタサイクルの導入と自転車レーン・駐輪場の整備を行った。

日本・東京においても、人と多様なモビリティの共生をテーマに、東京の魅力と先進性をアピールすべく、可能な限り歩道や自転車や超小型モビリティの専用レーンを整備すると共に、駐輪場や駐車場の確保を行い、外国人旅行者も気軽に自転車や超小型モビリティを利用できる環境整備を検討すべきである。

おわりに

訪日外国人旅行者1000万人時代の到来を踏まえ、今後より「質」「量」ともに高いレベルの観光立国を実現するためには、政治のリーダーシップと政府の施策に加え、国民一人一人や民間企業・団体も参画した国を挙げた取組みが重要である。経団連としても以下の取組みを進めていく。

(1) 国際観光交流の拡大に向けた民間外交の実施

各国の政府機関や経済団体との交流の機会を活用して国際観光交流の拡大方策についての意見交換を行うなど、民間外交を積極的に進める。

(2) 関係機関・団体等とのノウハウの共有・連携強化

国や地方自治体との政策対話を行うとともに、地域の経済団体や広域観光組織などとの交流を行い、地域の観光協会の取り組み等、現場の先進的な取組みのノウハウの共有と組織間の連携強化を図る。

(3) 高度観光人材の育成に向けた経団連観光インターンシップの実施

観光立国の担い手となる高度観光人材の育成に向け、経団連では2011年から立教大学観光学部と連携して観光インターンシップ・プログラムを実施してきた。2014年度は内容の一層の充実を図ると共に、新たに首都大学大学東京ともプログラムを開始する。今後は、2つの大学でのプログラムの経験を踏まえ、観光人材育成に取り組む各団体とのノウハウの共有も図っていく。

(4) 企業活動の実態に応じた有給休暇・ボランティア休暇の取得促進

国内での観光需要を喚起するとともに、社員の創造性の向上、企業の生産性向上も図る観点から、会員企業・団体に企業の活動実態に応じて、有給休暇を活用した社員の長期休暇の取得を進めるようセミナー等を通じて働きかける。

また今後、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会開催に向けては多くのボランティアが必要になることが予想されるため、企業にボランティア休暇制度の導入・活用を事例収集・紹介等を通じ促していく。

以上

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