一般社団法人 日本経済団体連合会
安倍政権の経済政策が功を奏し、デフレからの脱却に向けて「経済の好循環」が始まりつつある。今こそ「日本再興」の絶好のチャンスである。この機会を逃すことなく、日本経済を本格的な成長軌道に乗せることが喫緊の課題である。経済成長を通じ、国民生活を向上させ、社会全体のセーフティーネットを強化するとともに、世界から投資や人材を集め、更なる発展の可能性を切り拓いていかなければならない。官民が一体となって、少子・高齢化と人口減少問題にも向き合い、名目3%程度の持続的な成長の実現に全力をあげる必要がある。
折しも東京でオリンピック・パラリンピックが開催されることが決定した。これを好機として、それまでの間を持続的成長の礎を築くための集中対応期間と位置づけ、規制・制度改革を含めた経済・社会のイノベーションを大胆に進め、豊かで活力と魅力に溢れ、グローバル経済の発展に主導的な役割を果たす、新たな日本を創り上げていかなければならない。
政治と経済は車の両輪である。政治には、引き続き、経済再生に最優先で取り組むことを期待したい。企業は成長戦略の主役との自覚のもと自ら攻めの経営に努めることが重要であり、経団連としても、政府の「日本再興戦略」の着実かつ迅速な実現に向けて政策提言を積極的に行い、下記の課題に真正面から取り組み、持続的な成長と豊かな国民生活の実現に邁進する。
1.震災復興の加速
「集中復興期間(2011~2015年度)」の後半に入った今、被災地の住民の目に見え、実感できる具体的成果が問われている。あらゆる資源を優先的に投入し、まちづくり事業の加速や地域産業の再建などを成し遂げるべきである。創造と可能性の地としての「新しい東北」の展望を内外に示すことも重要である。
このため、復興事業の推進に必要な体制を強化し、事業をより一層充実させるとともに、経団連としても、引き続き会員企業と連携しつつ、政府・被災自治体ならびに市民セクターの取り組みに協力し、復興特区制度の活用促進など被災地の事業環境の整備等に向け、関係方面に積極的に働きかける。
福島の再生・復興のためには、国が前面に立って、廃炉・汚染水対策、除染等を最優先課題として確実に進めることが不可欠である。また、福島復興再生特別措置法に基づく産業復興再生計画等に即し、農林水産業の再生や再生可能エネルギー等の新たな産業の創出、企業立地を加速する。
2.成長戦略の確かな実行
日本経済の再生に向けた「好循環」が始動しつつある今こそ、「日本再興戦略」をはじめとする成長戦略を積極的に展開するべきである。持続的成長のためには、企業と個人の力を高め、これを最大限発揮させることが重要である。経済界は、「未来都市モデルプロジェクト」等の成果も踏まえ、主体的かつ積極的に成長戦略を実行する。そのためにも、わが国が抱える構造問題を解消し、持続的成長による国民生活の向上を実現するための確固たる基盤を作らなければならない。また、こうした取り組みに広く国民の理解を得るための情報発信に努める。
(1)企業と個人の力を高め、最大限発揮させる
科学技術イノベーションの加速
優れた科学技術をイノベーションにつなげていくことが、持続的成長の原動力となる。企業は、世界最先端の技術開発やこれまでにない発想によって、新たな製品・サービスを創出し、市場に提供していくことが責務である。このような活動を支援する観点から、第4期科学技術基本計画に掲げられた政府研究開発投資対GDP比率1%の達成、高度理工系人材の育成強化等の実現を図る。また、公共データの産業利用、個人情報保護を前提とするパーソナルデータの利活用、クラウド技術の活用促進等により、新産業・新事業の創出につなげる。女性の活躍推進と人材の育成
少子・高齢化、グローバリゼーションの進展の中で経済成長を実現するためには、グローバル人材の育成と多様な人々が活躍できる環境の整備が重要である。特に、より多くの女性が最大限能力を発揮していくことは、持続的成長の実現に大きく寄与する。このため、女性の活躍推進について、企業が自主行動計画を定めて取り組むことを支援する。また、初等中等教育から大学教育における必要な改革を働きかける。加えて、若年層を中心とする雇用のミスマッチ解消、就業機会の多様化、柔軟な労働市場の構築による労働移動の円滑化を図る。グローバル化の推進
TPP交渉の早期かつハイレベルでの妥結、ならびに中国、韓国、ASEANなどのアジア諸国、EU等との経済連携交渉の推進に向け、経団連として、相手国・地域の政府や関係団体等との連携を深め、ルール作りをリードするなど積極的な役割を果たす。また、近隣諸国との関係改善と強化に努める。新興国をはじめとする諸外国へのインフラ輸出推進に向けて、政府との連携を深め、ODAの見直しとともに、ファイナンスや保険・保証制度の強化を図る。技術協力を通じて、現地における関連諸制度の整備に協力する。
わが国に、ヒト・モノ・カネ・情報を呼び込むため、国内の生活・労働・教育・ビジネス環境の整備を図るとともに、わが国の魅力や考え方を積極的に情報発信し、環境、医療、農業をはじめとする分野で国としてのブランド力を強化する。将来に向けた国づくり
東京オリンピック・パラリンピックの開催を機に、新しい国づくりを推進するべきである。その際、東北の復興ならびに防災に配慮した強靭な国家を目指す。あわせて、訪日外国人旅行者数2000万人の達成や満足度の向上など、より高いレベルの観光立国の実現を目指す。農業の成長産業化
地域経済社会の中で基幹産業として大きな役割を担っている農業の競争力強化、成長産業化を加速する。このため、経営感覚溢れる担い手の確保、農地集積の推進と経営規模の拡大を進めるとともに、産業界と農業界の連携・協力拡大に向けた取り組みを一層強化する。規制・制度改革、行政改革の推進
規制・制度改革は、民間の創意工夫の発揮を通じたイノベーションの推進、復興のスピードアップ、地域活性化などの観点から極めて重要である。特に、今後の成長分野と見込まれ、経済効果が期待される「情報通信」、「医療・介護」、「農業」、「街づくり」などの規制を抜本的に見直すことが不可欠である。また、わが国の国際競争力強化やビジネスフロンティアの開拓に向け、「国家戦略特区」、「企業実証特例制度」、「グレーゾーン解消制度」などを、積極的かつ効果的に運用するべきである。また、労働者派遣制度や労働時間制度などの改革が必要となっている。経団連としても、これらの実現を積極的に働きかける。同時に、業務プロセスの抜本的見直しを含めた電子行政の推進、番号制度を活用した行政効率の向上など、行政改革への不断の取り組みも欠かせない。
(2)成長に資する経済社会基盤を構築する
法人実効税率の引き下げ
企業活動がグローバル化する中、国内生産・開発拠点等の維持と内外からの投資促進を図り、「経済の好循環」を進めるためには、法人税制の国際的なイコールフッティングが欠かせない。経団連としては、法人税制全体のあるべき姿を念頭に置きつつ、国際的に最も高い水準にある、わが国の法人実効税率を25%程度に引き下げるべく、その道筋の早期明確化に向けて、幅広い理解と支持を高めていく。エネルギーの安定供給と経済性の確保
エネルギーは国民生活・企業活動の基盤である。原子力を含む多様なエネルギー源を確保し、安価・安定的なエネルギー供給を実現する必要がある。このため、安全性の確保を大前提に、原子力発電所の再稼働プロセスを可能な限り加速するべく、国民の理解と支持を高めつつ、関係方面に働きかける。放射性廃棄物の最終処分場問題も国主導で進展することを期待する。同時に、革新的エネルギー・低炭素技術等の開発と、再生可能エネルギーの固定価格買取制度と地球温暖化対策税の見直しに取り組む。エネルギー資源の安定確保、経済性、環境適合性のバランスが取れたエネルギーミックスを実現する。電力システム改革に当たっては、電力の安定供給と経済性を確保できるものとするべきである。あわせて、官民が協力して、家庭における省エネ努力も促進する必要がある。少子・高齢化と人口減少問題への取り組み
今後ますます深刻化する少子・高齢化と人口減少問題に対し、日本経済への影響ならびに、その対策について検討する。その際、子育て環境の改善はもとより、諸外国の移民政策も参考にしつつ幅広い外国人材の受け入れ等の促進を図る。財政健全化・社会保障制度改革の推進
財政健全化に向けて、経済成長とのバランスを踏まえつつ歳出・歳入両面からの改革を促し、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化する道筋を描く。国民の安心を支える社会保障の持続可能性を高めるため、番号制度も活用した社会保障給付の一層の重点化・効率化とともに、まずは消費税率10%への着実な引き上げの実現を図る。急速に進む高齢化に備え、高齢者医療制度の負担構造を抜本的に改革するとともに、企業自らも、従業員の健康維持増進や疾病予防を重要課題と位置づけた「健康経営」を推進する。地域の活性化に向けた道州制の導入と地方分権改革の推進
地方経済の活性化は、国・地方を通じた「経済の好循環」を実現する上で不可欠である。人口減少と財政状況の悪化という困難な課題に直面する中、地方の活性化を図るためには、地方中枢拠点都市をベースとした連携や地方の中堅企業の活躍、PFI、PPPなどによる民間参加などが重要である。また、自らの選択と責任によって地域経営を機動的に行えるよう、道州制の導入を進め、道州制推進基本法の早期成立に向けた政治への働きかけを強化する。あわせて、道州制導入の前提である地方分権改革を重点的に推進する。