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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 流通・取引慣行ガイドラインの見直しについて

2014年5月15日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.見直しの必要性

平成3年に流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(以下、現行ガイドライン)が制定されて以来、20年以上の年月が経ち、その間に我が国の流通取引をめぐる状況は大きく様変わりした。

ICT(情報通信技術)が大幅に発達したことにより、インターネット通販やいわゆる価格比較サイト・口コミサイトなどの利用が拡大し、これによって商流や消費者行動が大きく変化した。同時に、様々な価値観に基づく消費者行動の多様化に対応して、事業者による多種・多様な商品・サービスの展開の必要性が増している。

これらを含む消費社会の成熟が顕著に見られる一方で、人口の減少、少子高齢化の進展などにより市場は縮小傾向にある。また、流通市場構造の変化により、かつてメーカー主導により構築された系列店制度の解消・崩壊などが起こり、小売とメーカーとの間など当事者間の相対的な力関係は現行ガイドライン制定当時と比べて大きく変化している。

また、ガイドラインは事業者が安心して適法に事業活動を行うためのものであり、法に抵触する行為について具体的・類型的に予見可能性を確保するものでなければならない。にもかかわらず、現行ガイドラインは、企業にとって予見可能性を高めることにつながっていないばかりか、その抽象的でわかりにくい記述のためにビジネスに大きな萎縮効果をもたらしている。

公正取引委員会は、こういった流通取引の状況の変化を踏まえるとともに、将来における流通取引の状況の変化も見据えた上で、現行ガイドラインに代わり本来の機能を果たす新しいガイドラインの策定に早急に取り組むべきである。

2.新しいガイドラインにおいて重視すべき点

現行ガイドラインは、時代の変遷によって策定時の前提事実と現状とが大きく乖離してしまっている点を十分に反映していない上、その基準の抽象性ゆえに違法・適法の境界がわかりにくい。そのため、コンプライアンスを重視する企業ほど必要以上に慎重に判断せざるを得なくなり、結果としてビジネスに多大な萎縮効果をもたらしている。

現行ガイドラインについては、たとえば以下のような問題点が指摘されている。

(1) そもそも違法性判断の枠組みについての考え方が示されていない

現行ガイドラインには、垂直的制限の違法性は、競争促進効果と競争阻害効果とを比較衡量して判断されるべきであるという垂直的制限分析の枠組みについての記載がなく、いきなり各論について記載されている。企業にとっての予測可能性の確保というガイドラインの本来の目的を確保するためにも、新たなガイドラインにおいては総論部分において違法性判断の枠組みについて明確に記載すべきであり、そのうえで、競争促進効果と競争阻害効果とを比較衡量して判断するという運用を確実なものとすべきである。

(2) 「価格維持のおそれ」

現行ガイドラインでは、第2部第二の違法となる非価格制限行為の判断要素として、「価格が維持されるおそれ」という言葉が繰り返し使われている。しかし、どのような場合に「おそれ」が生じるのか、具体的なメルクマールが不明確であるため、ガイドラインとして機能していない。

(3) 流通調査

流通チャネルや流通経路の多様化・複雑化が進む一方で、消費者の安全志向が高まる中、商品が適切に管理されていないことや商品に関する説明等が不十分であることが原因で商品の安全性や品質に問題が生じたり、また、商品販売後の適切なアフターサービスがなされなかったりすれば、消費者の利益や信頼を損なうことになる。このような事態を防ぐ前提として、メーカーによる流通調査の必要性は高い。

現行法上、流通調査はそれ自体が違法とはされておらず、自社の示した価格で販売させようとして流通調査をしたうえで価格拘束につながる行為を行った場合に、再販売価格維持行為として問題となりうるとされている。しかし、価格維持を目的としない流通調査を行った場合でも、客観的に、もしくは結果的には価格維持を目的としたものとみなされ、「メーカーの示した価格で販売するようにさせている」と判断されるおそれがある。そのため、コンプライアンスを徹底しようとすれば、現行ガイドラインのもとでは流通調査を行うことは避けるべきと考えている事業者も多い。

どのような場合に再販売価格維持行為として問題となるのかを、できるだけ具体的にガイドラインで明記し、流通調査を行いやすい環境を整えるべきである。

(4) 選択的流通

商品の安全性や品質について充分な情報提供を行うなどの適切な販売方法を指定することやアフターサービスの実施を確保したうえで消費者へ商品を提供することは消費者利益に資するものであり、こういった目的でメーカーが自社商品を取り扱うことのできる流通業者を一定の範囲で限定することは、必ずしも違法とすべきではなく、合理的かつ必要な場合がある。

欧米の競争政策の運用においては、競争促進的な効果や行為の合理性を考慮して、メーカーが自社商品を取り扱うことのできる流通業者の範囲を限定する販売方法である選択的流通が認められる場合がある。このような選択的流通を実効的に行うためには、意図していない流通経路で商品が取り扱われることを防ぐことが必要な場合が考えられるところ、現行ガイドラインにおいては、「価格維持のおそれ」がある場合に違法とされる仲間取引の禁止に該当するかが不明確なため、選択的流通を行うことはコンプライアンスの観点からおよそ困難な状況である。

選択的流通が認められる場合や要件を明確にし、メーカーと流通とが協働して適正な商品価値を消費者に届けられるようにすべきである。

(5) 広めに定められた形式的基準の撤廃

現行ガイドラインは、有力な事業者の基準を市場シェアの10%以上とするなど、規制の範囲をあらかじめ広く捉えすぎている。

市場シェアの10%以上が現実に有力な事業者となりうるかについては市場の捉え方によって異なり、形式的な基準によって規制の範囲があまりにも広くとられると、企業が事業活動を遂行するにあたって、適法性に関する予測可能性が害され、企業活動が萎縮する。たとえば、EUのガイドラインでは市場シェアの30%が目安とされており、また、市場シェアが30%を超える場合であっても、競争阻害効果の有無が個別に審査され、一律に規制されることはない。

新しいガイドラインにおいては、有力な事業者の閾値として合理的かつ明確な基準を設定したうえで、閾値を上回る場合であっても、個別に審査された結果、競争阻害効果が発生しない場合には違法でないことを、明確に記載すべきである。

(6) わかりやすい(参照しやすい)構成とすべき

現行ガイドラインの構成は、第2部に考え方が示されていない事項であっても、第1部で示されている事項については第1部が適用されるなど、わかりづらい構成となっている。

また、ガイドラインの各規定と、独占禁止法、不公正な取引方法の各条項とのつながりもわかりづらい。たとえば、現行ガイドラインには、末尾に(付)として親子会社間の取引に対する不公正な取引方法の適用について記載されているが、経済実態を踏まえて見直したうえで、別途、考え方を明らかに示すべきである。

ある行為に関し、どのルールを確認すればよいのかが一目でわかるガイドラインとすべきである。

3.結語

公正取引委員会は、以上のような問題点を解消すべく、早急に現行ガイドラインの見直しに取り組むべきである。

以上

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