OECD租税委員会御中
税制委員会企画部会
BEPS行動6(条約の濫用防止)に係わる公開討議草案に対する意見
OECDが本年3月14日に公表した「公開討議草案 BEPS行動6:不適切な状況で条約の特典を与えることを防ぐ」に対し、以下の通り経団連の意見を提出する。
1.総論
租税条約において源泉地国課税の減免をはじめ各種の特典が付与されているのは、課税権を配分し、二重課税の排除を行い、もって締約国間の経済交流を促進するためである。特典は、こうした課税権の配分の結果であり、優遇措置を意味するものではなく、真正な経済活動に対しては、当然認められるべきである。
一方、条約漁り、すなわち条約の特典を享受することのみを目的とした、事業実態のない法人を通じた取引等に対し、条約の特典を付与しないのは当然である。
BEPS行動6では「不適切な状況で条約の特典を与えることを防ぐためのモデル条約の規定及び国内ルールの設計に関する勧告を策定する」、「二重非課税を生み出すために租税条約が利用されることは意図されないことを明確にする」とされているが、経団連としてはこれらの取り組みを支持する。
具体化に際しては、他の行動計画と同様、新たな租税回避防止策が通常の事業活動を阻害しないよう、また、事務負担が過大とならないよう、十分な配慮が必要である。
2.各論
(1) 特典資格条項
公開討議草案では、条約漁りへの対抗として、OECDモデル租税条約(以下、モデル条約)において特典制限条項(Limitation on Benefits:以下LOB条項)および主要目的テスト(Main Purpose Test、以下MPT条項)からなる特典資格(Entitlements to Benefits)条項を新設することが提案されている。
各国の租税条約においては、すでにLOB条項及びMPT条項の双方を備えている場合もあれば、いずれか一方を備えている場合もあり、特典資格条項を導入すること自体に異を唱えるものではない。
ただし、一部のTreaty Shopperを取り締まるために、LOB条項とMPT条項の双方を標準装備すべきことをモデル条約で規定するのは、やや過剰ではないかと思われる。各国が個別の租税条約においてLOB条項とMPT条項の双方を導入したい場合にそれを妨げるものではないにせよ、いずれか一方のみの導入を選択する余地も残しておくべきである。
LOB条項(パラ11~17)
LOB条項については、一般的に簡素かつ明瞭な規定とすることが望ましい。 モデル条約X条3項(能動的事業活動基準)については適用業種を絞ることなく、経済実態があれば認められるべきである。また、その判定は、単体ベースではなくグループ全体で行うべきである。また、モデル条約X条4項(権限のある当局による認定)についても、その居住者の設立、取得又は維持及びその業務の遂行が事業上の目的を伴うものであれば、条約の特典を付与すべきである。
LOB条項の導入に際しては、納税者の事務負担軽減や各国における執行の標準化の観点から、居住者証明など各種手続きについて、OECDが統一フォーマットを作成することが望ましい。
派生的受益者条項をLOB条項の一環としてモデル租税条約に盛り込むことに賛同する。パラ15の事例については、事業上の目的を伴うものであれば、必ずしもBEPSとは断定できないのではないか。
MPT条項(パラ18~33)
MPT条項を導入する場合には、通常の事業を営む多数の企業に影響が及ばないよう、適用の場面を限定的なものとする必要がある。また、納税者の予見可能性を高めるため、運用方針を明確化し、各国で共有することが不可欠である。特に、本来の目的を究明することは一般的に非常に困難であることを十分に理解した上で、恣意性の入る余地のない、明確な事実によって適用条件が定義されるべきである。
MPT条項における「主たる目的の一つ」との定義は広すぎる。企業が国際的に事業展開を行う際、租税条約の有無・内容を含め、各国の税制度を考慮に入れることは自然なことであり、それ自体が租税条約の濫用を構成するとは考えられない。少なくとも「の1つ」との文言は不要と考える。
その意味では、パラ31において、目的が「唯一の又は支配的な目的である必要はない」「特典の獲得が少なくとも主たる目的の1つだったことで十分」とされていることについては、再考・見直しを要する。
パラ33では、MPT条項の適用・不適用に係わる具体的な事例が求められている。この点については、事業上の目的を伴う取引、取決めについては、仮に租税条約を考慮に入れていたとしてもMPT条項を適用しないとの原則をまずは確立すべきである。
また、パラ33ではこの他、OECDが提示した事例A、B、C、Dについて、それぞれコメントが求められているところ、当方の見解は以下の通りである。
【事例A、B】
これらの事例では、他の事実及び状況がなければMPT条項が適用されると結論付けられているが、表現を変えれば、法人Tから法人Rに対する権利の移転、貸付が事業実態を伴う場合は、MPT条項は適用されないと考えられる。【事例C、D】
MPT条項不適用との結論に同意する。特に事例Cについては、新工場設立という事業目的があることが明らかである。OECDはこのようなケースが条約濫用に該当しないことをモデル条約のコメンタリーに明記すべきである。なお、LOB条項とMPT条項の関係について、パラ23では、モデル条約1項~5項(LOB条項)により特典が与えられたとしても、6項(MPT条項)で否認されないわけではない、とされているが、4項の適用を受け、条約濫用的でないと認定された居住者が行う取引が6項によって濫用的と判定されるケースについて、明確化が必要である。
(2) 配当源泉課税の軽減に係わる最低持株期間(パラ43)
配当に係わる源泉地国課税の軽減を受けるための最低持株期間については、6ヶ月とすることが望ましい。
(3) 中間事業体を通じた配当源泉課税(パラ44~46)
中間事業体を通じた配当源泉課税の軽減に対処するための濫用防止規定の導入が提案されているが、単に中間事業体に対する投資を行っていることをもって濫用的あるとは断言できないと考えられる。事業上の目的を伴うものであれば救済される余地を残すべきである。
(4) 二重居住者の居住地国の決定(パラ53)
二重居住者に係わるタイ・ブレーカールールについては、モデル条約4条3項の改正案において、締約国の権限のある当局が居住地国の決定に向けて努力するとされているが、居住地国が必ず決まる仕組みが必要なのではないか。
また、当局が合意に至った場合は、速やかにその旨、納税者に通知する必要がある。