1. トップ
  2. Policy(提言・報告書)
  3. 科学技術、情報通信、知財政策
  4. 日米IED民間作業部会共同声明2014

Policy(提言・報告書)  科学技術、情報通信、知財政策 日米IED民間作業部会共同声明2014

2014年3月11日
英語版はこちら

日米産業界は、昨年10月にとりまとめた共同声明#1において、両国経済の成長に向け、ICTの技術進歩への敏速な制度整備やサイバー空間の規律づくりをイノベーション活性化の戦略施策と位置付け、政策面での日米官民協力の重要性を提言した。

その後、日本においては、個人情報保護を前提としてビッグデータの収集・分析を可能とすべく、政府による「パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針」がまとめられ、本年6月に個人情報保護法の改正を含む「制度見直し大綱」の決定、2015年の通常国会に改正法案が提出されるロードマップが示された。

政府による個人情報の収集(データ・サーベイランス)に関する議論があるなか、データ流通や利用の規制については、日米両国のみならず国際間で議論が活発化しており、イノベーション創出の前提として自由なデータ流通の維持を望む旨を明確に発信しなければ、事業展開上の大きな障害となり、今後期待される経済成長が阻まれる恐れがある。

以上の認識のもと、経団連とACCJによる日米インターネット・エコノミー民間作業部会は、以下の通り共同声明をとりまとめ、日米両政府に提言する。

1.開かれたインターネット堅持のための協力推進

本年は、4月にブラジルで「インターネット・ガバナンスに関するグローバルなマルチステークホルダー会合」、5月に国連の「協力強化に関する作業部会」の勧告案審議が予定され、10月~11月に韓国でITU全権委員会議が行われる等、インターネット・ガバナンスとインターネット政策議論が活発化する。

日米産業界は、日米両政府がマルチステークホルダーによるコンセンサスによって、IGF(Internet Governance Forum)を中心としたインターネット・ガバナンスのための既存の枠組みを有効に活用して議論を主導することを望む。また、インターネットの先進的な利用を確保するために、政府は、コンテンツ規制、越境データフロー、データ主権問題等への関与・管理については最小限とし、規制によってイノベーションが阻害されることがないような環境整備に努めるべきである。

インターネット政策議論については、2012年12月のITU世界国際電気通信会議において、インターネットへの政府の関与の度合いをめぐる考え方の相違が顕在化し、国家安全保障の観点も含まれるなかで、国際的な政策協調は複雑で困難なものになりつつある。この状況を打開すべく、本年の議論においても日米両政府が協力して、国際的な場でイニシアティブをとり、アジア太平洋地域をはじめとする新興国に対して、リーダーシップの発揮を望む。

2.個人情報保護に配慮したデータ利活用を図るための協力推進

世界の企業は、ヒト、モノ、カネに並ぶ第4の経営資源として「情報」に着目し、膨大な情報(いわゆるビッグデータ)の収集、蓄積、分析、革新的利活用策の開発競争を繰り広げている。なかでも最近注目されているのがパーソナルデータ#2である。

日米両政府は、近年、個人情報保護とデータ利活用促進のバランスを取る施策を検討中である。そのため、日米両政府と日米産業界が連携・協力して、データの適切な利活用によるイノベーションと成長を促すための施策を展開すべきである。このような取り組みを通じて、アジアの他の国々にも力強いメッセージを発信していけるものと確信する。

日米産業界は、昨年来の日本におけるパーソナルデータの利活用に係る制度整備の動きを注視している。現行の制度は判断基準や適用ルールが不明確なため、消費者の不安を招き、このことが事業活動を委縮させている側面があるため、 日本政府が府省庁横断的に制度整備に取り組んでいることを歓迎する。一方、新たに体制整備が検討されている第三者機関は、どのような権能を持つ機関とするのか、主務大臣が持つ権限との関係をどう整理するのか、マルチステークホルダープロセスの考え方をどう尊重するのか、外国政府や国際的な機関との間の協力にどのような役割を果たすのか等、本年6月に大綱を決定する前に、日本政府は産業界をはじめ、すべての関係するステークホルダーとの幅広い透明な議論の場を設けることを望む。

3.情報セキュリティに関する日米協力体制の整備

サイバー空間へのアクセスが束縛されないことは、インターネットの持続的な成長とイノベーションにとって最も重要なことである。日本政府は、2013年10月に「サイバーセキュリティ国際連携取組方針」を公表し、米国など考えを同じくする国々と連携していくことを明確にしている。一方、米国政府は、アメリカ国立技術標準研究所(NIST)主導の下、自発的な取り組みを前提とする、「サイバーセキュリティ・フレームワーク」を発表し、この中で、基幹産業分野を保護するためのプロセスが示されている。こうした状況において、あらためて具体的な協力体制を構築するため、それぞれの権限と役割を定め、連携先を確認するとともに、省庁を横断した手続きや基準の明確化を進めるべきである。日米両国が緊密な連絡をとれるようになることを通じて、具体的な連携が進むようになることを期待する。

さらに、国際的なデータのフリー・フローを可能とするため、日米両政府がサイバー空間の平和利用への支持を再度表明することを求める。日米両政府は他の国々に対し、自国のサイバーセキュリティを確保するために設定された基準と調達ルールが、外国製品・サービスを差別し知的財産の保護を弱める手段として利用されることがないよう求めていく必要がある。

4.日米が協力して推進すべきテーマ

双方の産業界は、これまでの提言とその成果を礎とし、次のステップとして、連携して「ICTによって社会に新しい価値を産むテーマ」についての検討を進めていくこととしたい。具体的なテーマの例として次のことが考えられる。

(1)ICTを活用したヘルスケアサービス

世界に先駆けて超高齢社会を迎えた日本、また高齢者を多く抱える米国においては、医療・介護需給バランスの急速な変化や地域コミュニティの在り方等、従来の政策手法では対応できない社会的課題に直面している。こうした課題を解決するために、医療機関の広域連携などにおけるICTの活用のほか、近年急速に普及するスマートフォンやウェアラブル機器等によるICTの活用が極めて重要である。

(2)先進国際都市を支えるICTプラットフォーム

日本のオリンピック招致の年(2020年)と、昨年6月に閣議決定された政府新IT戦略のなかで日本を「世界最先端IT国家」とする目標年が一致している。次期オリンピックを契機として、日本を未来のインターネット・エコノミーの実証をするショーケースとすべく、日米両政府と日米産業界が連携し、積極的な役割を果たしていくことができる。例えば、以下のようなテーマが考えられる。

  1. 新しいサービスが容易に立ち上がる環境づくり
  2. 多様なコンテンツが正当かつ活発に利用・発信される環境づくり
  3. ICT能力を自ら高められる環境づくり

5.その他

(1)クラウドコンピューティングの促進における協力

新興国などで起こっているサーバーのローカルルールは、細分化された異なる規制が乱立することによって、世界をつなげるインターネットとしての利点や、クラウドサービス等による自由なデータ流通がもたらす利用者利便の享受を妨げることにつながる。そのため、日米が協力してそれぞれの国や地域の文化や特徴を尊重しつつ、国際的に協調したフレームワーク構築を目指す方向に積極的に進むべきである。

また、日本では、内閣官房情報セキュリティセンターが、政府の情報セキュリティ対策のための統一基準群の策定作業を行ない、それに基づき、各省庁が個々に情報セキュリティポリシーを定めることとなっている。一方、米国での政府の情報セキュリティ対策はFISMA#3法及び関連のNIST規格に基づいている。加えて、統一されたリスク管理アプローチの下に構築されているFedRAMP#4により、クラウドサービスのセキュリティ認証が行われ、政府情報システムのクラウド化が進展し、政府関係者や国民はそのサービスの恩恵を受けている。クラウドサービスの安心感を高め、利用をさらに促進するために、日米両政府が互いの取り組みを共有して連携を進めることを求める。

(2)電子行政推進における協力

日本において、政府CIOが法的に位置付けられたことは、省庁横断的かつ、包括的な政策立案や施策を実施するための重要な一歩であり、敬意を表したい。政府CIOが、ICTにより最小の費用で最大の満足が得られる国民目線の行政サービスに向けて取り組むことを強く支持する。今後の大きな課題は、政府と地方自治体との間にみられるICT格差の解消や円滑な連携である。2012年のインターネット・エコノミーに関する日米政策協力対話にて醸成された日米両国のCIOの協力強化が望まれる。

(3)日本のインターネット政策の世界への情報発信

日本のブロードバンド環境整備は世界的にみても先進的であり、政府は2001年以降総理大臣を長とするIT戦略本部(現IT総合戦略本部)を置き、数次の戦略(e-Japan戦略等)を定め、ICTを活用した社会振興を図ってきたが、戦略そのものの国際展開については注力されてこなかった。政府が主導しICTによる社会振興をはかることと、その具体策は、新興国等で十分に参考になるものであり、日本政府の努力を望む。

6.おわりに

日米両政府は、インターネットを取り巻く諸問題が今後の重要な外交政策であるとの認識を共有し、これらの政策を政府内で統一実施する体制をともにつくり、日米の同じ機能を持っている機関がさらに情報交換を密にし、協力していくことを期待する。

上記、「4.日米が協力して推進すべきテーマ」において述べた「ICTによって社会に新しい価値を産むテーマ」の具体的な協力内容を、次回の政策協議までに検討し公表したいと考えている。日米両政府からも協力項目の構想や実現策の議論の場への参加、適切な支援を求めたい。

なお、産業界がこれまでに提言や要望をしてきた内容について、日米両政府としてどのような整理と対応がなされたのか、包括的に取りまとめ、お示しいただきたい。

以上

  1. 「日米インターネット・エコノミー民間作業部会共同声明2013」(2013年10月22日)
  2. 「個人情報」が、氏名、生年月日その他の記述により特定の生存する個人を識別できる情報を指す(個人情報保護法第2条)のに対し、「パーソナルデータ」は、個人に関する情報で、個人の行動・状況等に関する情報を含む概念として捉えられている。
  3. FISMA(Federal Information Security Management Act of 2002):連邦政府機関が情報セキュリティを強化することを義務付け、NISTに対しては、そのための規格やガイドラインを義務付け
  4. FedRAMP(Federal Risk and Authorization Management Program):米国政府においてクラウドサービスに対する「セキュリティ評価、認証及び継続的モニタリング」の標準的アプローチを策定した政府横断のプログラム

「科学技術、情報通信、知財政策」はこちら