はじめに
日印のビジネス・リーダーは、昨年12月の天皇皇后両陛下のご訪印を、両国関係の深化と固い絆の象徴として、心より歓迎する。また、この歴史的出来事の実現に至るまでの間、インフラ開発や貿易・投資で両国間の経済協力が活発に進められてきたことを歓迎する。2011年8月に発効した日本・インド包括的経済連携協定(CEPA)が極めて重要な役割を果たしており、日本で発給された原産地証明が2013年11月末現在で約4万4千件に達する等、積極的に活用されていることは、その証左である。
日印のビジネス・リーダーは、CEPAを土台に自由貿易を促進し、引き続き世界の期待に応えて世界経済の成長エンジンとしての役割を果たすよう努めていくべきであると考える。
日印のビジネス・リーダーは、2013年5月の東京での前回フォーラムに続き、両国が共有する民主主義と自由貿易という普遍的価値観に立脚して、日印間の貿易・投資を強化し深化させる方策について意見交換を行った。その成果を基に、両国首脳に以下のとおり共同報告書を提出する。
1.最近の成果
日印のビジネス・リーダーは、過去数年における両国間の経済関係の強化に資する以下の成果を歓迎するとともに、さらなる進展を期待する。
- (1) 社会保障協定の両国での承認(国内法整備を経て発効予定)
- (2) インドにおける直接投資拡大のためのアクションプランの策定に合意
- (3) インドへの救難飛行艇供与や3年連続しての日印合同演習実施など、防衛分野における協力拡大
- (4) 日本のメガバンクのインド都心部での支店開設許可
- (5) インドにおける複数ブランド小売業の規制緩和(10の州・連邦直轄地)
- (6) 45億米ドルのDMICファシリティの立ち上げと、DMIC開発公社への国際協力銀行(JBIC)の資本参加と役員派遣
2.ビジネス環境の改善のための日印CEPAの活用
CEPAは重要な制度的インフラとして、日印間のビジネスを一層活性化し磐石にする上で必須のものであり、双方は、両国の通関当局と民間に対し、CEPAの規定の周知徹底を重ねて求めた。また双方は、CEPAの枠組みにおいて設置されているビジネス環境の整備に関する小委員会を定期的に開催し、さらなるビジネス環境の改善に活用していくことで一致した。
CEPAに基づき、ビジネス・リーダーは、両国政府の規制当局に対し、サービス分野での二国間貿易の促進という観点から、資格承認に関する国内規制について議論を開始することを求めた。
インド側は、海産物・農産物の日本市場へのアクセスと、非関税障壁の除去とともに、インドから日本への食品輸出、特に海産物の輸出における、試験、検査、記録管理義務の合理化を求めた。
また、双方は、ビジネス環境の整備によって、インドにおいて国際競争力のある産業を育成することならびに日本の中小企業のインド進出を促進することが重要であり、日本の中小企業は、インドの若年労働者の雇用機会を増大し、裾野産業の育成に貢献する点で認識が一致した。日本側は、円滑な土地収用、物品サービス税(GST:消費税相当の連邦間接税)の早期導入、中央政府と州の間における徴税方針・制度の不整合の解消、みなし課税における実際の利益とみなし利益とのかい離の是正、通関・州際貿易手続のワンストップサービス化、都心部での外国金融機関の開設規制の撤廃、日印間の金融ノウハウの共有に向けた地場銀行への外資出資規制(新銀行認可ガイドライン4.99%、改正銀行法26%)の緩和、対外商業借入(ECB)の規制緩和を始めとする金融・保険分野での規制緩和、知財権法制の運用と国際的整合性の確保などのビジネス環境に関する当面の課題の早期解決の重要性を指摘した。
双方は、インド政府が決断した複数ブランド小売業への外国企業による直接投資受入れの実行状況について引き続き注視していくことを確認した。また、双方は、日印ビジネスパートナーシップ、中央政府・州政府との投資促進協力、ビジネス環境改善からなる日印間の直接投資拡大のためのアクションプランの策定に、両国政府が合意したことを高く評価した。
インドのIT、ITES(IT Enabled Services)、専門職分野等のサービス部門および世界的に高い評価とビジネス実績を誇るインドの製薬会社は、日本の市場に高い関心を有している。かかる観点からインド側は、インド企業が、日本国内においてこれら分野で日本企業と対等に活動できるような市場アクセスの実現を改めて求めた。
両国間の人的交流の拡大には、査証の円滑な取得が不可欠である。今後、日印間の人的交流が一層拡大していくことが期待される中、両国のビジネス・リーダーは、インド側で一部滞りのみられる商用・就労査証発給手続きの一層の簡素化・迅速化を求めた。
3.インフラ整備の重要性と日印協力
日印のビジネス・リーダーは、インド政府の第12次5カ年計画のインフラ整備の方針を歓迎し、インド全土を網羅する電力、道路、鉄道、港湾等の産業・社会インフラ整備や、ロジスティクス、工業団地等の整備を進めることがインドの産業発展にとって引き続き喫緊の課題であるとの認識で一致した。
インド側は、デリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)が日印経済協力の象徴として進展していることを歓迎した。また、インド政府の国家製造業政策による包括的な枠組みの中でDMIC関連プロジェクトを推進することが、両国に大きな利益をもたらすだけでなく、インドの製造業発展と都市化の触媒としての役割を果たしつつ、インドに次世代技術をもたらすことにつながると述べた。
日印双方は、デリー・ムンバイ間の貨物専用鉄道(DFC)の完成に向け、確実かつ迅速な推進を図るべきであるとの認識で一致した。また、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)及びチェンナイ・バンガロール間産業大動脈(CBIC)については、日本企業の関連プロジェクトを速やかに推進し、インフラ全般に亘って日本企業の技術と専門知識、日本の長期的な資金を活用する観点から、閣僚級の官民政策対話、DMIC次官級タスクフォース、セクター別の協議等の場を活用し、課題を確実に解決するよう、日印政府に継続して要請していくことで一致した。さらに、45億ドルのDMIC Facilityの立ち上げと、国際協力銀行(JBIC)からの資本参加とDMIC開発公社への役員派遣を歓迎し、インド政府による受け入れ措置が、スマート・コミュニティ開発を含むインフラ分野において革新的な最先端の技術をもたらすなどの成果につながることに期待を表明した。双方は、ムンバイ・バンガロールやデリー・コルカタその他の開発構想についても早期に着手することへ改めて期待を示した。
日本側は、インドでの省エネ・環境配慮型社会の早期実現のためには、各プロジェクトに関連する法制度・規制の実効性を高めることや、公害のない開発への財政的インセンティブが必要であると指摘した。
日印のビジネス・リーダーは、インフラ整備に関連する法規制の緩和、プロジェクトのリスク削減での支援、PPP参加条件の改善等について、引き続き日印両政府に要請していくことで合意した。あわせて、定期的な官民対話の場を設置し、話し合うことを求めた。
なお、双方はインド国内の電力不足解消に日本企業が協力していくうえで、土地収用や環境関連のスムーズな許可、主要な燃料である天然ガス、石炭の適正価格での供給の安定的確保と燃料価格高騰時の売電価格への転嫁、発電・送電・配電・売電事業に関連する規制緩和と中長期的な契約の締結が必要であることで一致した。
4.戦略的分野における協力
日印のビジネス・リーダーは、日印間のエネルギー分野での商業ベースの協力の必要性を認識し、日本のエネルギーセクターの技術力をインドで普及する方策をさらに検討していくことを求めた。インド側は、エネルギー分野での協力を強化するため、インドにおいて日本の環境技術を紹介する見本市を開催するよう重ねて求めた。日印のビジネス・リーダーは、日印のエネルギー対話の着実な進捗に期待を表明した。
双方は、ムンバイ・アーメダバード間などの高速鉄道の導入については、両国政府が早期実現に向けて協力していくことの重要性や、自動車、機械、材料科学、化学等の分野に加え、電子機器、通信機器、重工業、鉄道管理システムなどの分野における先端技術の導入、農業や環境管理における技術交流を重視することが必要であるとの認識で一致した。
インドにおける電力部門のインフラ改善の一環として、原子力発電プラント建設における日印協力は戦略的に重要であり、こうした観点から、日印のビジネス・リーダーは、両国政府が原子力発電所の安全性を最大限確保しつつ、原子力協定の締結を含む一層の協力に取り組むことを求めた。
双方は、両国政府に対し、将来の経済開発の方策を表すために、日印間の科学技術や、研究開発、イノベーションにおける協力を拡大深化するよう求めた。
また、レアアースのような戦略的に重要な資源をインドで開発する新たな日印共同イニシアティブの実現に期待を表明した。
このような戦略分野での共同事業を推進する上で、ソフトインフラとしての良質な人材の育成が不可欠であることから、日印のビジネス・リーダーは、技能の訓練と認定、日印の学生の相互交流や企業でのインターンシップ等を通じたスキル向上のための協力を進めることの重要性を改めて指摘した。
5.アジア・太平洋地域における協力
日印のビジネス・リーダーは、2015年のASEAN経済統合が両国の貿易・投資協力にとって面的広がりの可能性を高めていることを認識し、日印戦略的グローバル・パートナーシップがアジア・太平洋地域の経済発展に好ましい影響を及ぼすと考える。
双方は、交渉中の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)について幅広く有益なものとなるよう、引き続き共同でイニシアティブを発揮することで合意した。RCEPは物品貿易、サービス貿易、投資の自由化のほか、原産地規則の統一を通じて同地域における生産ネットワークの拡大やサプライチェーンの強化に貢献するとの認識で一致した。
総括
日本とインドは、相互の尊敬と協力の精神に基づき、歴史的に強い結びつきを構築してきた。加えて、両国には、相互補完的な関係及び地政学的重要性に基づいて戦略的経済連携を発展させうる大きな潜在性がある。例えば、インド洋における海賊問題への対応では、日印の連携が有効であり、シーレーンの確保の観点からも重要である。そこで、両国のビジネス・リーダーは、これらに加えてサイバー・セキュリティ、テロ対策の分野での協力強化を求めた。
双方は、日印官民が、CEPAを土台に両国企業に利益をもたらす強靭な経済アライアンスが育つように、協力する必要があることで一致した。
日印のビジネス・リーダーは、アジアでも主要な二つの民主主義国家の共同の取り組みが、アジア太平洋地域の安定と繁栄に寄与することを確信する。
最後に、本フォーラムのメンバーは、日本の安倍首相とインドのマンモハン・シン首相が我々に寄せていただいた信頼に対し、深い謝意を表するものである。
- 印日ビジネス・リーダーズ・フォーラム共同議長
- ビクロム・キルロスカ
- 日印ビジネス・リーダーズ・フォーラム共同議長
- 米倉 弘昌