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Policy(提言・報告書)  地域別・国別 中東・アフリカ アラブ諸国との経済協力のあり方について

2013年11月19日
一般社団法人 日本経済団体連合会

アラブ諸国との経済協力のあり方について(概要)

安倍政権は、発足直後よりアラブ諸国を外交上の重点地域のひとつに位置づけ、これら諸国との戦略的関係の構築を目的に、安倍総理自らが経団連代表を伴い、5月のサウジアラビア、アラブ首長国連邦、8月のクウェート、ジブチ、バーレーン、カタールと2度の訪問を実現した。

その際、協働(地域の安定に向けた貢献)、共生と共栄(経済関係の拡大・深化)、寛容と和(文化・人的交流の強化)をキーワードに、エネルギー・資源のみならず多角的分野での関係強化と具体的協力を提案し、関係各国の全面的な賛同と支持を得た。

かねて経済界は、アラブ諸国とのエネルギー・資源分野での関係強化を図るとともに、インフラ整備、自由貿易協定交渉の推進、人材育成と技術協力、環境・リサイクル・再生エネルギー分野での協力、新産業育成を通じた産業の多角化など、多方面での協力を積極的に進めてきた。かかる観点から、最近の一連の戦略的かつ実効的な対アラブ外交の展開を高く評価する。

また、アラブ諸国との経済関係の強化を図るためには、アラブの春に起因する地域の不安定の解消、テロの脅威除去、紛争国の政治的安定が前提となる。これは、当該地域のみならず世界の安定と繁栄にとっても必須であり、安倍総理が一連のアラブ訪問で、同地域の安全保障に貢献する姿勢を内外に示したことは極めて重要である。

アラブ諸国との新たな経済協力の道筋を官民連携でさらに推進していくために、わが国経済界は、成長戦略や民間外交の延長戦上にアラブ諸国との経済関係の重要性を位置づけ、アラブ各国との関係強化を自ら実践するとともに、下記の諸施策の実現を関係方面に求めるものである。

1.エネルギー・資源分野での協力

2011年3月の東日本大震災以降、わが国のエネルギーの需給構造は大きく変わり、石油・天然ガスへの依存が高まっている。そのため、その主要供給地であるアラブ諸国との関係は従前にも増して重要となっている。また、国際エネルギー市場の安定は、わが国はもとより供給側のアラブ諸国ならびに世界経済にとっても重要である。かかる中で、わが国がアラブ諸国からのエネルギー・資源の安定的な輸入を確保するためには、アラブ諸国との二国間協力や生産国と消費国の多国間対話が一層重要になる。日本政府には、先般の総理訪問時の各国との合意に沿って、協力と対話を着実に実施、継続することを要望する。

また、わが国の開発権益の確保や産油国との関係強化のために、官民が連携して、エネルギー資源開発の人材育成での協力やわが国の省エネ・環境を始めとする先端技術の移転、下流産業の育成での協力を推進していくことが重要である。特に、わが国の自主開発原油の太宗を依存するアラブ首長国連邦や、自主開発天然ガス田が集中するカタールに対しては、わが国の権益確保のため官民が連携して働きかけを強化する必要がある。

さらに、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェートほかの産油国が推進している省エネ、原子力発電、再生可能エネルギー関連プロジェクトと関連インフラ整備に対し、これらの分野で知見と最先端技術を有するわが国は、アラブ諸国からのエネルギー資源の大口需要国であることを交渉力として、積極的に参画していくべきである。

2.インフラ整備での協力

アラブ諸国では人口が急増しており、造水、上下水道、電力、情報通信、公共交通機関といった分野でインフラが不足している。クウェート(第二次国家開発計画)やカタール(国家ビジョン2030、ワールドカップ2022)などでは、国家計画に基づきインフラ整備を着々と進めている。わが国企業は、造水技術、水道技術、発電システム、大量輸送交通システム、廃棄物処理技術、情報通信技術などで先端技術を有しており、アラブ諸国のインフラ整備に様々な形で協力できる。

その際、わが国は、JICAの海外投融資や、JBICの輸出金融、投資金融、出資とNEXIの保証機能を積極的に活用していくことを検討すべきである。

3.貿易・投資円滑化のための枠組み構築

アラブ諸国との貿易・投資関係を強化していくためには、過大なパフォーマンス要求や現地人雇用要求の緩和、日本人や第三国人に対する入出国規制の緩和、高率の関税引き下げなどのビジネス環境改善が必要であり、2009年以降停滞している「日GCC(湾岸協力理事会)自由貿易協定(FTA)」に関する交渉の早期再開が求められる。

また、わが国がアラブ諸国の産業の多角化に貢献する上で重要な役割を果たす投資の拡大を図るためには、未締結国との間で投資協定および租税条約を早期に締結することが重要である。わが国および関係国の政府に早期の取り組みを要望する。

【二国間投資協定締結国】
エジプト、クウェート、イラク、サウジアラビア
(交渉中等:GCC、アルジェリア、オマーン、モロッコ、リビア、カタール、UAE)
【二国間租税条約締結国】
エジプト、クウェート、サウジアラビア、(UAE(未発効))

4.多角的分野での協力の推進

アラブ諸国は、資源・エネルギー分野に依存するいわゆるモノカルチャー構造を改革し、若年労働力を吸収するため非資源・エネルギー産業の育成とこれによる雇用機会の拡大を急いでいる。わが国は、この分野で、官民連携により積極的に協力を進めるべきである。特に、環境・リサイクル、金融、防災、観光、医療、農業等の分野における協力が有望である。そこで、これらの協力を円滑に進めるため、アラブ諸国における日本製品に関する指定代理店制度の緩和や女性観光客受け入れの推進などの関連規制の緩和や撤廃につき、わが国および関係国政府は早急に措置を講じるべきである。

なお、アラブ諸国では日本の果物や牛肉が高く評価されていることから、それらの輸出促進のため、ハラル食品の増産も視野に入れた本格的な農産物の輸出戦略の構築が求められる。

5.技術協力と人材育成での協力

国づくりは人造りであり、アラブ諸国は、若年労働の雇用拡大とも関連して、人材育成や技術移転での日本企業の協力に期待を寄せている。わが国がこれに応えていくためには、官民が連携して、迅速かつ戦略的に対応していくことが重要である。具体的には、JICAのコスト・シェア技術協力スキームの拡大、海外産業人材育成協会(HIDA)スキームの活用による研修生受け入れと専門家派遣の拡大、受け入れ留学生の拡大、現地教育機関に対する協力の拡大などが挙げられる。

なお、わが国の最先端技術の移転や物流、環境、発電、造水、防災、衛星、情報通信等の大型インフラ案件や次世代自動車プロジェクト等の受注は、わが国の技術標準の定着にもつながる。

6.安全の確保と治安での協力

2013年1月のアルジェリアにおけるテロ被害は、わが国企業のアラブ諸国への進出戦略に深刻な影響を与える結果となった。

治安は企業にとって投資環境としての最優先事項である。アラブ諸国には、治安維持・改善と危険情報の把握に努めるとともに、わが国官民に適宜情報を伝達することを求めたい。わが国政府には、海外における邦人保護に万全な体制で取り組むことを要望する。そのためには、必要な予算措置を講じて、内閣官房、外務省、警察庁、防衛省等の関係省庁の危機管理体制強化、在外公館と現地進出企業との情報共有・協力体制構築、情報収集・分析等を通じた安全確保の強化に万全を図り、テロ脅威の兆候の事前察知や紛争国の政治情勢の的確な把握に努めることが望まれる。

また、関係国との連携により、物流の要である紅海、ホルムズ海峡、インド洋、マラッカ海峡、南シナ海、東シナ海にいたるシーレーンの安全を確保することが必要である。

さらに、イラクをはじめとする紛争国の復興や非産油国の開発を支援するため、これら各国の貧困削減や格差是正に効果の高い案件を選択して、重点的に国際協力を推進し、紛争の芽を事前に摘み取ることが重要である。

以上

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