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Policy(提言・報告書)  科学技術、情報通信、知財政策 電子行政推進シンポジウム「国民の利便性を高める電子行政」を開催

経団連は2012年12月21日、東京・大手町の経団連会館で「電子行政推進シンポジウム」を開催し、企業トップをはじめとする企業関係者など約200名が参加した。当日の次第、資料、概要は、以下のとおり。

日時2012年12月21日(金) 14時~16時
場所経団連会館 2階 経団連ホール
テーマ国民の利便性を高める電子行政
主催日本経済団体連合会
プログラム
1.開会
間塚道義 経団連電子行政推進委員会共同委員長(富士通会長)
2.特別講演: 今後の電子行政推進の方針
遠藤紘一 政府CIO(政府情報化統括責任者)(当時)
3.基調講演: ICT戦略における電子行政の重要性
平井たくや 自民党政務調査会副会長(当時)・IT戦略特別委員長
4.具体的な取組み紹介
(1)オープンデータの利活用の推進
越塚 登 東京大学大学院情報学環教授
オープンデータ流通推進コンソーシアム理事/会長代理
(2)電子自治体と公共イノベーション
川島宏一 佐賀県特別顧問
(3)高齢先進国モデル構想~超高齢社会に向けた新たな社会システムの創造
武藤真祐 一般社団法人高齢先進国モデル構想会議代表理事
医療法人社団鉄祐会理事長
5.閉会

1.開会: 間塚道義 経団連電子行政推進委員会共同委員長(富士通会長)

わが国は、震災復興、デフレ脱却と経済再生、エネルギー政策の見直し、社会保障と税の一体改革、外交・安全保障問題など課題山積の状況にある。このような中、総選挙の結果、新たに自民党と公明党の連立政権が発足することになった。経済界としては、新政権が、民意の期待に応え、国益や国民の暮らしを取り戻す立場から、着実かつ速やかに重要政策を推進されることを期待している。

とりわけ、本日のテーマである電子行政の推進は、行政の効率性や透明性の向上、国民生活の利便性向上のため、あるいは公正で安心できる社会保障制度の確立、さらにはオープンデータと呼ばれる行政機関のもつ公共データを活用した新産業・新事業の創出のため、重要な基盤となるものである。現在、国連の電子政府ランキングで、わが国は18位と低迷し、お隣の韓国はトップに立っている。新政権の下、電子行政に関わる政策が着実に前進することを強く期待する。特に3つの点での推進が重要である。

一つ目が政府CIOである。本年8月には、電子行政の推進を中長期に支える専任統括責任者として、政府CIOにリコージャパンの遠藤顧問が就任されている。遠藤政府CIOが新総理や関係大臣と密に連携し、府省横断的な統率や調整を行うためにも、政府CIO法案が次期通常国会に提出され、その権限が法的に裏付けられることが重要である。

二つ目は番号制度である。経団連は、社会保障と税の一体改革や、電子行政の重要な基盤として、番号制度の導入を長年求めてきた。番号制度は、複数の機関や制度にまたがる国民や企業の情報を正確につなげ、目的に合わせて、きめの細かい政策を実現するために必要なツールである。先の国会で法案が廃案になったが、番号の付番には、企業や自治体の準備に時間がかかる。新政権の下で、番号制度法案を早期に成立させていただきたいと考えている。

三つ目はオープンデータである。本年7月にIT戦略本部が決定した「電子行政オープンデータ戦略」では、政府自ら積極的に公共データを公開することや、営利目的か非営利目的を問わず活用を促進することなどを基本原則として定め、関係省庁の取組みも始まっている。地方公共団体を含めた行政機関の保有するデータは、国民生活や経済活動の基盤となる信頼できるデータである。経済界としては、公共データの利用者の立場から公開してほしいデータのニーズを示すとともに、積極的にデータを活用し、日本の技術力や現場力に裏打ちされた付加価値の高いサービスや製品を生み出していきたいと考えている。

本日は、地方公共団体、医療や介護の視点も含め、様々な視点から電子行政についてご講演いただく。何のために電子行政を進めるのか、また具体的には何をするべきなのか、本日、ご講演いただく皆様からお話を伺いたいと思っている。

2.特別講演: 今後の電子行政推進の方針
遠藤紘一 政府CIO(政府情報化統括責任者)(当時)

資料「今後の電子行政推進の方針」

政権が変わったばかりで、具体的な政策展開について、まだ政務と話していない。そこで、本日は、2012年8月に政府CIOに就任した際に、こういうことに取り組みたいと考えたことを中心に話したい。

なお、本日のシンポジウムでは、後半で具体的なテーマについて講演が行われる予定だが、それぞれ私も何らかの形で参加している。それらの講演内容は、私の具体論の中にも入っているとご理解いただき、全体で、電子行政推進の理解に役立てていただきたい。

[日本のIT戦略]

2001年にe-Japan戦略が自民党政権下でできた。その次にe-Japan戦略IIも行われた。この時の成果で、社会全体で高速度の情報網ができた。3.11の時に、道路のどこが通行できるか否かの情報が、震災の2日後には、民間のGPSのデータをマッシュアップして、提供された。そのお陰で、救済のための活動がスムーズに行われた。

昨年の10月に、国連に行った。先ほど、日本は、国連の電子政府ランキングで18位という話があったが、国連で最初に出てきたのは、韓国の女性であった。国連には、韓国の方が2名もいて、ランキングを最終決定する人に、韓国の状況を詳しくインプットしている。日本人は一人もいなかった。その時に、GPSの情報を使って、震災の時に通行可能な道路の情報を提供し、救済活動が早くできたということを説明したところ、中国人の部局の長から、「それは、すごい。世界中で大きな災害があるが、その時に使えるのではないか」と言われた。現在、各方面の情報を整理して、国連に提供しようとしているところである。いずれウェブサイトに掲載されると思う。これは、ITが社会にくまなく広がっていることによる、非常に大きな効果である。そういうものが、今後、経済の活性化につながっていく可能性があると考えている。

1次、2次のe-Japan戦略、新IT改革戦略で、インフラ、ハードを中心に整備が進み、民間や地方政府にも広がったと理解している。2009年からi-Japan戦略になり、ここにきて停滞している。一番の原因は、省庁間の連携が弱い、国と地方との連携が弱い、国・地方自治体・民間の連携が弱い、ということであった。それを何とかしなくてはいけないということが、課題として浮き上がってきた。

経団連で、私が電子行政推進部会の部会長を務めていた頃も、つなぎ合わせをする扇の要をつくるべきと言っていた。そう言っていた私が、図らずも政府CIOを拝命した。

[電子行政の課題]

電子行政の課題として、現場の声の不足がある。エンドユーザーである国民、企業の電子行政に対する期待を聞けていないのではないかと考えている。これまでの電子行政では、今まであった紙による手続きを電子化することが中心になっていた。それだけでは、世界に先駆けた社会インフラの低コスト化はできない。電子化をして、今までよりももっとスピード、信頼性のある処理をしようということになっても、一部だが、なじめない人がいる。その人たちをどうするかということもポイントである。

専門家の不足も課題である。アウトソーシングは、小さな政府にするために有効であることは間違いない。しかし、アウトソースしていいところと、してはいけないところがある。ソフトウェアの開発や、日常の運用は当然お願いしていいが、どういうシステムを作りたいかという、BPR(Business Process Re-engineering:業務改革)に関わるところは、自分で案を作って企画しなくてはいけない。そこまでアウトソースするわけにはいかない。行政の中に、ITのことがわかり、業務改革が分かる専門家が少なくなったために、そこまで手薄になっている。専門家の不足をどう解消していくか、これから考えていきたい。

[政府CIO設置に向けた取組]

2001年にIT戦略本部ができ、2012年の8月に政府CIOができた。まだ法律で保障された立場ではないので、何を言っても、本当に真面目に受け取ってくれているのかなと思うことが時々ある。法律の整備は、平井先生に期待したい。

[政府CIOの役割]

政府CIOの電子行政に関する戦略、政府全体のIT投資の管理、地方、民間との連携、IT人材の確保・育成については、強力にさらに進めたいと考えている。

政府情報システムは、いろんな時代の技術が混在して残っており、それがコスト高につながっていたり、連携しにくくしていたりする。この辺を頭に置きながら、政府CIOとして、関係の人たちと上手に連携して進めていきたい。行政改革とITの利活用を進めて行かなくてはいけないと考えている。

[視点]

民間視点での改革が、今の国、地方の行政機関に重要である。利用者の視点、業務改革の視点が重要である。情報技術の視点は、ベンダーの方に新しい技術を紹介していただいているが、最新のものが必ずしも我々の役に立つとは限らない。そこを頭に置きながら取り組んでいきたい。競争力の視点。日本の中だけで電子行政が閉じるのではなく、電子行政にバックアップされた企業や個人が世界の舞台で活躍できるようにしなくてはいけない。その視点を忘れないように取り組みたい。

[2012年度の取組み]

●政府横断での取組み
2012年度に取り組んでいることをお話したい。連携不足と言ったが、中には各省庁が共通のプラットフォームにしようと進めているものもある。オープンデータにも取り組んでいく。2012年度は、各省庁のIT投資についてヒアリングし、中身を理解しながら、この投資をするとどういう効果が出てくるか確認しつつ、予算の配分に意見を出したいと考えて取り組んでいる。

●人材・体制
先ほど、人材不足と申し上げたが、各省庁にはCIO補佐官が約50人いる。現在、CIO補佐官は、それぞれ各省庁に専属ではりついている。ある省庁ではある時期すごく忙しいが、別の省庁はそうでもない。そういう時にお手伝いに回すということが、現状ではできない。また、それぞれの方は優秀な方であったとしても、全方位的に優秀なわけではない。あの人とこの人が一緒に仕事をすれば、もっと力を発揮しそうだということもありうる。そこで、各省のCIO補佐官をいったん全部私の下に集めていただき、各省の主担当としては残っていただき、お互いに助け合いができるようにする。これにより、人数を増やさずに上手にサポートできる。このような形で、人材の不足を補っていきたい。

[取組み内容(1)~政府共通プラットフォーム~]

ハードやネットワーク、あるいは汎用のソフトをプラットフォームにして、その上に、それぞれ必要なアプリケーションを載せていくことにより、低コストでメインテナンスを容易にしようとしている。これもスムーズに進んでいるわけではないが、今後進むように支援したい。

[取組み内容(2)~自治体クラウド~]

自治体クラウドは、総務省が実証実験を行う際に、いくつかの市町村が手を挙げて、全国5カ所で取り組んだ。よい結果が出たが、展開されていない。これが共通になっていると、番号制度を導入する時も、いくつかのパターンでできる。将来、道州制を導入する時も、自治体のシステム統合が大変だが、標準化されていれば、統合の際の費用や時間を削減できるのではないかと考えている。

[最後に]

最後に、システム導入の投資をする前に、もっとやっておかなくてはいけないことがあるのに、それが十分できていないまま走り出して、無駄な月日とお金をかけていることがあった。今後は、事前のレビューをきちんと行い、有効な投資になるようにしたい。番号制度も、25年度の概算要求で項目だけあったものもあったが、十分な準備ができていないため「後回し」という結論にしたものもある。ベンダーの方には、実施段階の前の準備段階でのサポートにお知恵を拝借できるとありがたい。具体的なことについては、新政権が決まった後に、お伝えしたい。

3.基調講演: ICT戦略における電子行政の重要性
平井たくや 自民党政務調査会副会長(当時)・IT戦略特別委員長

資料「ICT戦略における電子行政の重要性」

間塚共同委員長や遠藤CIOのお話を聴き、新しい政府ができる時は、見直すべき点を見直していく、一つのチャンスかなという思いを抱いた。

私は、自由民主党のIT戦略の特別委員長を務めているが、ネット戦略の責任者でもある。今回の選挙では、ソーシャルメディアの利用に成功したと思っている。自民党は、3年3カ月前に大負けしてお金がなくなり、既存のメディアを使えないというハンデを背負ったので、ネットを徹底的に使った。今回は、相当に民主党と違うことができたと思っている。自民党のYou Tubeの動画再生回数は、1000万回を突破し、1183万回だった。民主党は152万回。いくらお金を使ったということより、どのような組み合わせで総合戦略を立てるかが重要だと思う。

今回の選挙で、ネット選挙は事実上解禁になっているに等しいと感じた。公示前に貯めておいた動画などが、どんどん再生されていった。また、フェイスブック等々は、ホームページの更新と異なり、本人の意思にかかわらず、タグ付け機能などで、本人のタイムラインがどんどん更新されていった。私がいろいろなところに行くと、必ずフェイスブックの友達がいて、必ず彼らのうちの誰かが写真をとって、タグ付けした。選挙期間中も、最新の活動が、私のタイムライン上に流れることになってしまった。逆に言うと、それを阻止する方法もあるが、そこまでしていなかった場合をどう解釈するかという問題がある。事実上、ソーシャルメディアが、これだけ普及している状況の中で、ネット選挙解禁の話は、早く対応しなくてはいけないと考えている。参議院選挙までに何とかしておかないと、法律と今の使われ方を考えると、あまりにもおかしなことになる。一方で、私も今回の選挙で、なりすましで誹謗中傷をされることがあった。それをどうするか、サイバーセキュリティ、それぞれのプラットフォームのセキュリティをどうするかが、ホットイシューになると思う。これは本題ではないが、法律を変えないわけにはいけないと考えているため、お話しした。

電子行政政策の流れは、遠藤さんの話と重複するが、私は2000年初当選。それ以降の動きを、第一、第二、第三という波にすると、それぞれの期間の目的、成功点、失敗点、問題点は分かっているつもりだ。間塚共同委員長から、政府CIO制度、番号制度、オープンデータについてお話があったが、それにプラスして、ぜひサイバーセキュリティをもっと大きな項目で扱っていただきたいという思いがある。このセキュリティ対策は、いろいろな意味がある。国家の安全保障の問題もある。先日、パソコンの遠隔操作で無関係の方が誤認逮捕された問題を振り返ると、それ以前に、ITのリテラシー、セキュリティに対する考え方を共有化していないということがある。ここが十分でないと、ITは成長戦略の基盤でもあるため、問題である。サイバーセキュリティ対策を成長戦略の中に入れていきたいと私自身は考えている。サイバー攻撃に対応するだけでなく、そのこと自体を、これからの日本の成長戦略、新しい雇用の創出の中に入れていけるとよいと考えている。

番号制度について、少しだけ話したい。先の国会で廃案になってしまった。廃案に至るまでの過程は、閣法が出て、それに対して、自由民主党、公明党と一緒になりながら、改正案を水面下で煮詰めていた。最終段階で、自民、民主、公明の3党の現場で、CIOの権限と責任を明確化する法律の制定と合わせて基本的に合意できていた改正案はある。閣法プラス改正案ということで、自民党の党内手続きも終わっており、あることはあるが、年を明けた来年の通常国会で成立させるのであれば、中身自体はできているのだから、きれいな法律に書きなおした方がよいのではないかと思っている。次期通常国会でぜひ通したいと考えている。

まだオープンになっていないが、改正案の中に、番号制度に関して政府CIOがどのように関与していくかという部分を入れさせていただいている。CIOが、全体の費用対効果、システムの考え方等に対して、直接物申せるような法律にしてあるので、それがそのままいきることになると思う。そうなると、そのCIOそのものの権限と責任を明確化する法律もセットでないと十分ではないと思う。だから、どちらも一緒に、通常国会に出し、できるだけ早い成立を目指していきたいと考えている。

現在、遠藤CIOの下に38人の職員がおられる。人数としては多いが、政府CIOとしての遠藤さんの立場も週3日の非常勤、38人のメンバーもいろいろなところと兼務している。まだまだ取組みとしては本格的ではないと思っている。そのあたりのところも、新しい政府の中でもっと明確にしていきたい。今までわかってはいたが、できなかったことがたくさんあった。これまで最適化に取り組んできたが、業務の見直し、BPRが十分ではなかった、という反省点があった。そもそも電子政府は、今の政府の電子化ではなく、新しい電子政府という政府をつくる、くらいの意気込みでないと、目に見える効果は見込めない。業務の見直しが不十分だったため、国民目線で考えたらありえないような手続きがたくさん残っている。各省庁内での最適化はできているが、国民の目からみると、どこの省庁かは関係ない。本当の意味でのワンストップになるかどうかが大きな問題である。シチズンセントリックな考え方をもう一歩進めていくことが必要である。

2009年に政権交代した時に、初代IT担当大臣は菅(直人)さんだった。それから翌年の5月まで、ITについて何もしないという空白の時間があった。5月にIT戦略が発表になったが、野党の立場から見ていて、政治家のリーダーシップは全く感じなかった。2010年の7月に工程表が出たが、ぱっとしたものは感じなかった。2011年3月に東日本大震災があったが、それを受けての戦略の見直しも私から見ると十分ではなかった。本来しなくてはならないタイミングで、するべきことがたくさんあったが、ずいぶん遅れてしまった。

マイナンバーも、大綱を発表してからほったらかしの期間が長かった。最後になって慌てたが、本当に時間がもったいなかった。遠藤政府CIOがお話になったとおり、残念ながら1年間後れるということである。どうせ後れるのであれば、民間の利活用の部分をもう少し見通せるような法案にしたほうがよいと個人的には思っている。誰のためのマイナンバーかを考えた時に、過去の反省から、国民が便利だ、国民が持ちたいと思う番号でないと、また同じ間違いを犯してしまう。民間から見ると、民間の需要は、本人確認である。そのあたりがまだまだ十分に議論されていないと思う。

結局、ITは、ITだけを切り出して考えることはできなくなった。全ての産業、全ての社会、全ての行政サービスの中にITが溶け込んでいる。ITを考えた時に、今の省庁の体制で果たしてそういう部門をダイナミックに進めていけるか、要するに省庁再編を考えていかなくてはいけないと私自身は考えている。かねてから私は情報通信省が必要だと主張している。いくらIT担当大臣を作っても、相当の腕力、能力があり、総理との関係が密接でないと、ただIT担当大臣だということになる。予算に関する権限を持ち、そういう人が政府CIOと連携をとりながら、オールジャパンの体制で進めることが望まれる。そこをどうつくっていくかであるが、省庁再編を待っていられない。まずは、時の総理大臣のリーダーシップが一番必要。総理が問題意識をきちんと持って進めようとすれば、政府CIOは機能すると思う。

調達のガイドラインは2007年3月に基本方針を出して以来、リバイズされていない。CIO連絡会議の下に設置した分離調達のワーキンググループで議論したはずである。技術評価、価格、分離調達。特許庁と社会保険庁の調達問題からスタートし、最終的に特許庁のシステムの開発が大きな問題になる過程において、分離調達を見直さなくてはいけないことは間違いない。プロジェクトの管理評価の比重が大事である。そこの評価ポイントを上げていくべきではないかと考えている。

もうひとつ、よく誤解されているので付け加えたいのが、自民党の国土強靭化政策である。国土強靭化政策は、橋や道路やトンネルや防潮堤をつくるという話だけでなく、その中の一番大きな考え方として、そういうものをITでどう管理するか、それとITインフラそのものを強靭化していかなくていけないということがある。光海底ケーブルは、ギリギリのところで東日本大震災の時は踏みとどまった。ケーブルの陸揚げでいいのかということも考えないといけないし、国全体のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を考えた時に、データセンターの分散化の話もある。情報通信網そのものの強靭化も当然考えるべきである。強靭化イコール成長基盤になると考えると、経済効果の高い投資になっていくと考える。国土強靭化は、コンクリートではないと何度も言っているが、なかなか報道されない。強靭化を考えると、セキュリティも含まれる。そこの部分なしでは、ITを使った強靭化はできない。

間もなく発足する次の政権では、まずは景気対策を中心にやろうということになっている。皆さんの提案で、情報通信分野の補正予算、国の方向性として間違いなく成長戦略に資する、国土強靭化に資するアイデアをお寄せいただきたい。自治体クラウドも当然その一つだと思う。クラウドは共通化することになっている。データセンターは、考えなくてはいけないのは、地震や津波だけでなく、電力との関係もある。計画停電では除外されていたが、いまだ首都圏にデータセンターの7割が官民合わせて集中しているという状況も、早く全体最適化する必要がある。この5年の計画できっちり作れるかどうかが、次のIT戦略がうまく機能するかどうかの分かれ道である。今、民間の方々が望んでいるのは、ころころ変わる政策ではなく、少なくとも3年、5年はこの方向性でいくということをきっちりと見据えて、一時の特需のようなものではなく、毎年この方向性で予算を確保していくという政府のコミットメントだと考えている。

4.具体的な取組み紹介

(1)オープンデータの利活用の推進
越塚 登 東京大学大学院情報学環教授
オープンデータ流通推進コンソーシアム理事/会長代理
資料「オープンデータの利活用の推進」

オープンデータについて二つのことを申し上げたい。

まず、政府の中に、いろんな有効なデータがある。それを公開していくと、産業に役立てることができるということ。

もう一つは、国民の利便性を高める電子行政の新しいやり方が、オープンデータだということ。今は、国民が一方的に行政サービスを受けるのではなく、行政サービスに不満があったら国民が自分でやるという時代になっている。しかし、政府のデータがないと自分ではできない。データさえ公開してもらえれば、個人でも十分にできる。一般の市民が作ったソフトウェアが産業界を席巻することもできる。市民の力、国民の力で行政を変えることができる。

それが証明されたのが3.11の時である。国民がいろいろな形でボランティアをしたが、その中にICTボランティアがあった。多くの人が、日本のためにプログラムを書いた。様々なデータがオープンになっていると、余暇をつかって、個人が、行政にいろいろなことをできる。どんどん新しい公共プラットフォームができる。

[オープンデータ流通推進コンソーシアム]

2012年7月にオープンデータ流通推進コンソーシアムができた。三菱総研の小宮山理事長が会長を務められ、坂村健先生(東京大学大学院情報学環教授)、徳田英幸先生(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長)、村井純先生(慶應義塾大学環境情報学部長)、経団連の渡辺捷昭副会長・情報通信委員長など、日本のITの重鎮の方に顧問になっていただいた。技術も重要だが、オープンにしたデータのライセンス、信頼性、安全性も大事である。法律の専門家である井上由里子先生にも参加していただき、理系、文系のいろいろな方の知恵を結集してオープンデータを推進していこうとしている。オブザーバーとして、企業や関係省庁に名前を連ねていただいている。

[オープンデータとは?]

政府のもつデータをオープンにしていこうという基本的な流れがある。オバマ大統領が就任した時に、政府をオープン化し、透明化し、市民が参加できるような形にして、官民が連携していこうという原則を打ち出した。こういうリーダーシップがあり、米国のデータのオープン化が進んでいる。

オープンデータの一般的な定義は、自由に使えて、再利用できて、誰でも使えて、再配布できるデータ。データを出した後は、何をやってもよく、税金を使って作ったデータは、基本はオープンという考え方である。

実際の取組みを紹介したい。まず、横浜市の例として、「Where Does My Money Go?」という取組みがある。予算の統計から、自分の税金がどこで使われたか分かるような取組みが、世界的にも行われている。次に、ユビキタスコンピューティングとかモノのインターネットがある。通常は、人間のインターネットであるが、モノにセンサー、メーターを付けて、インターネットにつないで、モノがインターネットにどんどん情報を出し始める時代になっている。日本中のあらゆるものが大量にデータを吐き出している。例えば、気象庁の気象センサーやスマートメーター、電子タグのようなものである。ユビキタスコンピューティングにより、こういったデータが大量に出ている。公共のセンサー、メーター、タグがたくさんある。そういうデータが大量にたまってきている。

集まってきた膨大なデータを、分かりやすい形で再利用できる形で出していこうという取組みが世界中で起こっている。ヨーロッパの取組みでは、センサーを地球上でばらまき、そのデータを全て集めてきて、グラフの形で見られるようにしており、そのデータでプログラムをつくり、サービスやシステムができるような環境が提供されている。パワーメーターは、世界中、全米中に付けられたスマートメーターのデータをグーグルが集めて、節電のために使っている。マイクロソフトも同様の取り組みを行っている。

[オープンデータ in Japan]

日本の中でうまく行った事例は、3.11である。地震の直後に、民間企業のボランティアが必要な情報を出した。グーグルの例以外にもたくさんある。自動車にGPSがついている。自動車が走っているGPSのデータを集めて地図の上で公開すれば、どの道が通れるか分かる。プローブカ―からの情報を集めて、地図に載せて公開すれば、どの道が通れてどこが通れないか分かる。遠藤CIOが国連で紹介してすごいと言われたのは、国民が皆でオープンデータというプラットフォームを使って、皆で行政をやっていこうという新しい試みの一つだからだと思う。

3.11の時は、これだけではない。東電の計画停電のスケジュール。郵便の区画と配電網は異なる。どこが停電するかは、地図におとすと非常に複雑である。これだけの情報を国民に伝えることは、テレビでは無理である。紙では、明日配ろうとしても間に合わない。自分の家ではいつ停電になるか、確認できるのは、ネットの技術を使うしかない。実際に行われて、非常に効果があった。

オープンデータが公共サービスや自治にいかに役に立つか、日本の中で3.11の時に証明された。こういう分野で日本は最先端に進んだ。

[世界のオープンデータ動向]

こういったことは、世界的にいろいろ行われている。一番有名なのは、data.govである。アメリカの政府機関のデータをオープンにしているワンストップサービスのサイトである。いろいろなデータがあるだけでなく、データを使って、行政サービスができるようなアプリケーションをいろいろな人がどんどん開発している。そのボランティアで開発されたアプリケーションを集めて、再配布している。それがApps.govである。さらに、こういうアプリケーションをつくるためのコンテストを行っている。アメリカだけでなく、ロシアでも行っている。App for Russiaである。イギリスでも、data.gov.ukがある。地方公共団体であるニューヨークシティやワシントンDCでも行われている。

[静的なオープンデータ]

各地域の犯罪データも、データで公開されているため、どの地域で犯罪率が高くてどこが低いかが地図上でわかる。例えば、iPhoneを持って、危ない地域に入るとすぐ警告が出るようなアプリケーションをすぐに作ることができる。実際にたくさん作られている。公共はデータを出しただけで、市民がプログラムを書いて共有しているところが重要である。シカゴでは、管理放棄されているようなビルを地図上にマップし、どういう地域のどういうところに空きビルがあるという情報を出している。シカゴでは、雪かきが終わった道路地図も提供されている。

日本で、われわれ自身も町のデータをオープンにしている。銀座地域のプロジェクトでは、オープンになった銀座の店舗情報が提供されるアプリケーションがある。食品の安全性を確認できるアプリもあるし、ヘルスケア関連でオープンになっている3万点の薬の情報を使って薬と薬の飲み合わせを市民自身が確かめることができるアプリケーションもつくることができる。

[動的リアルタイムなオープンデータ]

リアルタイムデータを使った試みもある。カーリルというアプリケーションでは、日本中の図書館のデータがつながっている。どこの図書館にどういう本が所蔵されているか、借りられているか、日本全国の図書館の情報が分かる。例えば、調布市と文京区の図書館を調べると、この図書館では貸出し中だが、この図書館では在架中で借りることができることが分かる。図書館の分野は、標準化されていて、簡単にプログラムできる。国や自治体がしなくても、企業がどんどんプログラムを作れる。お金をとってもよい。ハッカーが個人でしてもよい。個人でもできる。これが新しい行政のやり方、新しい電子政府である。

日本でも、バスロケは、公共データのバスのロケーションが提供されているが、絵ではなくデータで出してもらえれば、いろいろなアプリケーションができる。例えば、フィンランドの国鉄では、電車がどこを動いているか、リアルタイムでグーグルマップの上で出てくる。ドアの開閉も、何キロ走ったかなどのデータもリアルタイムで提供されている。こういうものが出てくるといろいろなプログラムができる。

飛行機は世界レベルでオープンデータ化されており、リアルタイムで動いている。例えば、羽田空港の上空を見て、どの飛行機が入ってきたか分かる。船も同様に、オープンデータ化されている。これを使って、私の会社で作ったサービスは、望遠鏡にコンピュータを組込み、望遠鏡に映った船がどこの船籍のどんな船かわかるようにして、横須賀地域の観光用に提供した。こうした観光サービスも、オープンデータを使ってできる。

[双方向型オープンデータ]

もっと行政に役立ちそうなものは、双方向型オープンデータである。その例が、SeeClickFix「見て、クリックして、直す」というサイトである。陥没している道路を見たらWebで通知する。それを行政の人が見て、修理計画をWebに出す。もっと進むと、入札と発注もそこでできるかもしれない。

FillThatHoleというイギリスの例もある。地図で市民が穴や壊れているところを通報できるサイトを作っている。それを行政がHazard番号を付けて、道路の補修を進めていく。今後日本はインフラの老朽化が進み、それをどう補修していくかが重要な課題になる。専門の検査ももちろん大事だが、道に穴があいている程度の誰でもわかるようなものは、市民が通報するようにすれば、検査員の人件費を下げることができる。市民が貢献して行政に役立てることがオープンデータの重要なところである。

[重要なものは、オープンデータ“API”]

オープンデータで重要なところは、その情報を使って、APIなど誰でもプログラムできるような環境を整えることである。行政が自分でサービスを作るのではなく、情報をいったんオープンデータにして、データ保有者はここまでしか作りません、あとは皆さんが勝手にやってくださいとすると、行政のほうは相当コストを削減できる。企業も事業ベースでデータを使うことができる。そうすれば、お互いが嬉しい。誰でもプログラムが簡単にできる形でデータを出していくことがポイントである。官報で何でも出ているという人がいるが、官報ではプログラムは書けない。プログラムを書きやすい形でデータを出していくことが重要。

ロンドンオリンピックに合わせて作られたTfL(Transport for London)APIでは、ロンドンの地下鉄(チューブ)がイギリスのどこを走っているか見えて、いつ電車が到着するか分かる。このサービスを開発したのは、ロンドン市ではない。マシューさんという、鉄道オタクでかつハッカーである個人である。ロンドンの市が出した開発者向けのdeveloppers' Areaというサービスを利用して、個人がサービスを作った。そういうやり方で公共サービスを作っていくことが世界的にも行われており、特にアメリカで行われている。ワシントンでも、データをオープンにして、開発者向けサイト(Developer's Area)でAPIを公表している。プログラムの書き方のガイドラインも出している。

国内では、福井県鯖江市で、データシティ鯖江という形で行っている。「バスロケ」ではバスのリアルタイムデータが地図で出てくる。開発できるようなAPIを整えてデータを出している。これで色々な方がプログラムできる環境が整う。

例えば、東電の電力利用のパーセンテージ。東電が出しているのはデータだけだが、データを使ってiPhone用のソフト、アンドロイド用のソフト、MacやWindowsで動くソフトが、どんどん出てくる。プログラムを作れる環境ができた。

ソフトでも、目の見えない方向け、耳の聞こえない方向け、外国人向け、それも英語も、中国語も、韓国語も必要となる。そういう時に、オープンデータが有効である。目の見えない方がよくおっしゃるが、「自分たちのために最後までしてくれなくてもいい。データを出してくれれば、目の見えない方の中にもプログラムを作れる人はいるので、自分たちでします。ただデータを出してください」と言われる。産業界から見ても、このようなアプローチをとると、テーマパークや交通などでの情報提供のコストを減らすことができるかもしれない。

気象庁のとった地震情報が、高度利用者向け緊急地震情報ということで、提供されている。それをもとに、いろいろなアプリケーションができている。

オープンデータ流通推進コンソーシアムでは、気象庁のデータを使って、いろいろなプログラムをつくるハッカソンというイベントを開催した。また、総務省の情報流通連携基盤構築事業では、技術を確立するために、地盤データ、公共交通データ、災害データ、食品データの方法論の有効性を確認している。今年度が終われば実証実験の結果が出てくるため、関心のある方は注目していただきたい。

[オープンデータの意義]

オープンデータの意義は、新しい公共、市民参加による問題解決である。ハッカーなど、プログラムの書ける人には、日本のためにプログラムを書こうと言いたい。そのためにも、データが出ていないと何もできない。産業界にとっても、利用者参加型ビジネスの構築や、情報提供コスト削減、情報共有によるコスト削減、新しいビジネスモデルの創出、イノベーションの創出など、いろいろな意義がある。今誰も考えていないような使い方を、誰かが考えるかもしれない。

経済界にも、政府にもお願いしたいのは、オープンデータを一時的な取り組みでなく、日本の基盤にしていくということである。そういう方向でオープンデータ流通コンソーシアムの活動を行いたい。

オープンデータは始まったばかりである。経団連にも引き続き協力をお願いしたい。

(2)電子自治体と公共イノベーション
川島宏一 佐賀県特別顧問
資料「電子自治体と公共イノベーション」

昨年3月まで佐賀県庁でCIOをしていた。元々は国土交通省で建築行政に携わっており、世界銀行や北九州市役所では都市経営の仕事をしてきた。今関心のあることは、公共データでいかにしてイノベーションを起こせるかである。

今、基本的に、政府、地方自治体も組織が機敏にニーズの変化に対応できていない。意思決定のメカニズム、ノウハウの管理、組織の管理、人材育成など、世界銀行など他の組織で働いていた成果管理型のシステムに比べるとかなり硬直的なところがあり、機敏に反応する組織とのギャップが開いている。ニーズの変化に機敏に反応できないと、国民のニーズに対応できない。そういう意味で、経営資源の中で埋もれている情報をいかに活用して、課題解決に寄与できるかという視点、つまり、オープンデータに関心を持っている。対象となる事象をシステムとして捉え、事象のスコープを明確にし、直接操作できる変数とそうでない変数と、そのシステムに影響を与えるインプット情報とアウトカムの便益の変数の流れの中で、どうやってインプットとプロセスを変えて、期待されるアウトプットにつなげられるかに関心をもっている。

私の場合、佐賀県CIOという地位は、公募であり、ミッションが知事から明確に示されていた。また、トップマネジメントに、困った時には相談できるシステムになっており、虎の威を借りられる狐の立場にあったため、やりやすかった。ポジショニングとしては、本部長級ということで、副知事の下にいた。日本政府でたとえれば、内閣府のIT担当大臣で、専任のポジションで、なおかつ、行政改革も一緒にできて、人事と予算も掌握できているような立場だった。

ただし、現実的に組織に横串を刺そうとすると、各本部のトップと常に意思疎通し合える関係づくりが大切であった。そこで、各本部のオペレーションの実質的な決定権を担っている方を集めて、CIOミッション実現のためのエンジンルームを作った。これを知事にもオーソライズしてもらった。その後、ミッションの顧客が誰で、タスクがどうなのかを明確にするために、それぞれのタスクのあるべき姿がどこかを示した。行政の場合は、政策価値の議論をないがしろにしがちである。「全国最先端ポータルを作ってください」という政治的なミッションがある場合に、最先端の意味を、分かりやすく整理して、既存の業務ラインが解決可能な単位まで落としていき、それをタイムラインに乗せて回していく必要があった。4半期ごとに進捗状況を知事と話し合って、どう対応するか相談した。

行政CIOの実務には、(1)県庁業務の改革、(2)地域の情報化、(3)ICTを活用した産業振興、身障者ケア、(4)IT産業の育成、(5)行政経営の合理化という5つの領域があった。一方で、予算も人材も限られているので、資源配分にメリハリを効かせないと効果にたどりつけない。途中でミッションの練り直しをし、目指すべきことは何か、各分野でどういうことを目指すか。何度も地域の皆さんと話し合い、「佐賀から始める 佐賀から始まる つながり(もやい)は佐賀から)という標語を掲げ、個別のタスクに取り組んでいった。

知事をトップとするICT推進本部を作って、幹部の総意として政策を決定し、進捗過程をモニタリングシステムに載せる。そのトップダウンのガバナンスメカニズムを県庁組織と県庁外の民間組織との連携プレーにもつなげた。

行政は基本的に縦割りであり庁内の部門間のギャップ、中央・地方政府間のギャップ、役所と民間のギャップ、国外の様々な事例とのギャップがあり、こうした四つの情報の壁に風穴を開けることにより、新たな価値のジャンプを起こすことも行った。

定量的な指標をつくり、全体をマッピングし、全体的な移行計画を立て、予算をつけ、人材を配置し、人事システムを連動させるといった当たり前のことを愚直に実行して行くことが大切である。口で言うのは簡単だが、データレベルまで洗い直すことは大変であった。霞が関とは、財務省への予算要求の段階から一緒になって連携することができ、自治体クラウドの開発実証では、約4億円の予算で、いろんな実証実験を行った。

地方自治体はそれぞれ固有の事務を独立した権限で行っているため、自治体クラウドでそれぞれの業務プロセスを合わせようとすると、参加自治体の間で相当の議論が必要になった。身近な例は、市民がマンションや土地を購入した時である。購入して、登記をすると、国の法務局に何丁目何番地の何m2を誰が保有したというデータが入る。一方で、そのデータは、地方自治体にとっては、固定資産台帳にも登録されるべきデータである。多くの自治体では、今でも、法務局から土地台帳のデータを紙で受け取って、手で固定資産台帳に入力している。データ連携すればいいと言われるが、現実には町丁目の表記の仕方がずれていたりしていてデータ連携だけではうまくいかず、人間の手で処理しなくてはいけない部分がある。そうしたことも、それぞれのフローを考えて、どこをどうするとどれだけの時間が浮き、トータルでいくら削減できるので、やる価値があるということを、一つ一つ確認していく必要がある。

民間と行政の壁を崩すという意味では、行政データを全開示して、民間からいろいろな提案を受ける、協働化テストを行った。行政の人はデータを出したがらないと、よく言われるが、そこは、インセンティブ設計の問題である。私は、各担当課に「不採択理由がない限り、民間提案を採択してください。採択できない場合は、知事に説明して、了解を得てください」とお願いした。行政の間では、知事に説明して、了解を得るというコストは膨大であり、それよりはデータを開示したほうがコストがはるかに低いため、提案の採択が進んだ。NPOの支援で県庁の余った部屋を使ったフリースクールを行い、発達障害児のケアをして喜ばれたりした。港湾の清掃の委託では、これまで仕様書に則った岸壁付近の清掃しかなされなかったが、レジャーボード協議会が同じ額で受託し、沖合のごみまで含めて地域の市民活動を巻き込んだ清掃活動を展開したこともあった。

佐賀県内で、企業との共同研究も推進した。たとえば、(株)パスコと一緒に実施したのは、新型インフルエンザへの対応である。感染症が流行した際に、行政の対応として一番困るのは、学校閉鎖、学級閉鎖の判断である。学校閉鎖・学級閉鎖の時期の判断は、学習の進捗状況と児童の健康のトレードオフになるため、学校長は判断に苦慮してきた。そこで、毎朝、保健室の先生に今日は、何人、どういう症状で休んでいるかオンラインで報告してもらい、新型インフルエンザで休んでいる人数の割合をGIS上の色の違いで分かるようにした。博多やショッピングセンターから感染が広がってくるなど、分析すると、興味深いデータが出てきた。その他、外国人を登用したり、国連やOECDの国際会議で発表したり、IT企業と共同研究を起こしたり、国連の公共サービス賞を日本初受賞するなどした。

IT行政で求められている能力は、T型の能力である。縦の軸の専門性と、横軸のプロジェクト組織を動かす能力の両方が必要である。ITの専門家として必要なのは、相互に背反する「ユーザビリティ」、「コスト」と「セキュリティ」の三つをどういうバランスで進めて行くかについて、関係者の合意形成に資する説明能力である。難しいが、そこを民間の専門家の方々に期待したい。横の能力は、俯瞰する力、リーダーシップ、特に反対するステークホルダーの動機づけデザインなどいろいろあるが、特にルールを突破することの必要性を強調したい。その一例を紹介したい。佐賀県内の県立病院で受けたエコーや心電図のデータは、県内のクリニックでも本人が承諾すれば見られる。それを全県下でできるようにした。一部の地域で実現できている例は少なくないが、全県下でできるようにした例は珍しいと思う。なぜできたかというと、医師会、県の大学病院と合意したこともあるが、行政も、新しいことをしたからである。新しいことをしようとすると通常のやり方ではまず動かない。佐賀県では、IT部門が予算立てをして、予算案としての成立が確実となった段階で健康福祉部門に渡した。国の例でたとえると、ITの戦略を立てているところが、財務省要求を行い、財務省のクリアを得た上で、厚労省に予算を渡すようなことである。行政では、他の部局の編成した予算を他の部局が執行することは基本的にはありえない。このように、既存の行政の仕事の進め方の慣行を、時には突破しなくてはいけない。

今の社会システムには、医療、教育、地域農業など様々な問題があるが、情報と情報システムの力で変えられる部分がかなりある。産業界には、ぜひとも新しい価値を創出するという視点で、ITの知見をベースにして、その変革をデザインして、リードし、変革を持続できる方法とデータを収集・分析・提供していただきたい。

(3)高齢先進国モデル構想~超高齢社会に向けた新たな社会システムの創造
武藤真祐 一般社団法人高齢先進国モデル構想会議代表理事
医療法人社団鉄祐会理事長
資料「高齢先進国モデル構想」

今、日本はいろいろな問題に直面しているが、私は、高齢化の問題が一番大きな課題で、かつ社会を不安定にするのではないかと思っている。今、2011年の厚生労働省の統計では年間125万人の方が日本では亡くなっている。これが2030年には160万人になろうとしているといことを、国立社会保障・人口問題研究所が予測している。それに合わせて今後病院が増えていくということは想定できず、死ぬ場所としての病院が不足してしまうことが予測される。そうすると、我々の親の世代、もしくは我々の世代も含めて、死ぬ場所がないという事態になりかねない。

私は、循環器を専門として、東京大学医学部附属病院などの現場で診療を行っていたが、臨床医としての経験だけでは、社会課題に本質的な解決策を導き出すことができないのではないかと思い、マッキンゼーという会社で経営戦略のコンサルタントとして働いた。そして、高齢社会に必要となるであろう「在宅医療」を専門としたクリニックを東京都文京区に2010年に開設した。また、震災のあった2011年には、被災地の石巻でもクリニックを開設し、週の半分を東京、半分を石巻という生活を続けている。高齢化の問題に、在宅医療というアプローチに加えて、ICTを最大限利用しようと考えている。内閣官房や総務省の委員も務めさせていただいている。

[高齢先進国モデル構想]

高齢先進国モデル構想のそもそもの問題意識は、「高齢者の社会的孤立」である。10年後には高齢者の半数は三大都市圏に居住する。世帯の4割が高齢者世帯になり、そのうち7割が親子では住まない世帯、すなわち独居か老老世帯になる。地域コミュニティにおける地縁が希薄化する中、高齢者は社会から孤立しがちになる。そういう高齢者を誰が見守っていくのか。今までのように、税金だけを財源とし、行政のみでその問題の解決を図ることが、日本の財政状況でできるのだろうか。また、高齢者は、耳が聞こえにくい、目が見えにくい、身体が動きにくいといった身体機能、認知機能の多様性を持つ。そういう多様性に沿うような社会のサービス提供体制の構築が急務であるが、それらは、旧来のような縦割りの仕組みでは実現できない。官、行政の役割は大きいが、民間が持つイノベーション、叡智を一つのプラットフォームの中で結集していく必要があるのではないか。また、今までは税金だけが投入されていた仕組みに対して、ある一定の経済循環性をもたせることが必要ではないだろうか。つまり、コスト部分は少なくとも利益でカバーでき、ある一定の株主責任が果たせるようなモデルを構築する必要があるのではないかと考えている。このような理念の下、約2年前に構想会議を立ち上げて、現在は50社程度の関係企業と勉強会を重ね、様々な省庁の教えも賜っている。

基本は、高齢者を含めた住民の必要なものをワンストップで提供できるような地域コミュニティをどうやって作ったらよいかである。まずは、医療が必要であろう。ただ、医療介護だけでなく、心のケア、いろいろな相談、買い物サービス、移動のサポート、住まいの問題、寄り添い、社会参加、いきがいなど、必要なものを、一つのプラットフォームで情報共有しながら作っていける社会はないだろうかと考えている。

[構想実現に向けての3ステップ]

この構想を実現するステップが3つある。その1つめのステップが、「在宅医療提供体制の確立」である。今、国が在宅医療の普及を非常な勢いで進めようとしている。それは、社会の風潮として、終末期の時間を「病院ではなく、家に帰って過ごしたい」と思う方が多くいらっしゃるようになってきたことがある。また、入院よりも在宅医療のほうが、社会保障にかかる負担を軽減できる。このような背景もあり、在宅医療の普及と発展を推進するのが、今の厚労省の方針である。しかし、在宅医療を担う人がいない。この原因のひとつは、在宅医療は、24時間対応するサービスをつくっていくことが現在の要件であるからである。通常、クリニックは一人の医師でやっているが、一人の医師が24時間対応することは現実的ではない。そこで、私達祐ホームクリニックでは、在宅医療のベストプラクティスを確立していこうとしている。

現実的には、一人の医師で24時間対応の在宅医療をやっていくことは困難である。患者宅を移動しながら診療をする在宅医療の煩雑なロジをより正確にし、医師が患者様に向きあう時間をなるべく長くするため、在宅医療現場をICT技術でサポートすることを考えた。具体的には、在宅医療サポートクラウドや事務的サポートや夜間オンコールの一次受けを行うコンタクトセンターなどを開発した。

2としては、在宅医療体制が確立された上で、「医療」と「介護」の情報連携を進めている。広義の在宅医療とは、医師のみならず、訪問看護師や訪問薬剤師、ケアマネジャーやヘルパーなど、在宅医療・訪問介護事業所のチーム体制で実現する。そのための情報連携は必須である。そこで、在宅医療・介護の情報連携のシステムを構築した。連携する医療機関・介護事業者の訪問の記録や連絡事項を、事業者の同士が携帯端末を使って、電子的にかつ、リアルタイムに交換できる仕組み、経時的に蓄積されていく仕組みを作っていきたい。

また、今後の展開としては、医療情報が病院のものではなく、個人のものであるという、PHR(Personal Health Record) という概念が進んでいるため、それを普及させていくことはできないか検討している。介護を担う人材は、通常、ICTが得意ではない高齢の方が多いが、そういう方が使えるICTのインターフェース、プラットフォームはどういうものか検討も行っている。

最後のステップ3は、医療、介護だけではない、様々な生活サポートを高齢者は必要としており、それを提供できるプラットフォームの構築に取り組んでいる。これには、高齢者との接点の構築やサービスメニューの開拓など、色々なチャレンジがあるが、その中でも特に難易度が高いチャレンジは、高齢者とサービスを繋ぐコーディネーター機能の構築、またサービスモデル全体の経済循環性の担保であると考えている。

このような3つのステップに関して、それぞれの詳細をお伝えする。

[STEP 1 在宅医療システムの確立からPHRへ]

システムの基本方針は「現場の医師が患者と向き合う時間と質を高める」であった。

東京の在宅医療の現場では、医師と診療アシスタント(ドライバー兼診療助手)が1つの訪問単位(ユニット)として動いている。一日5~6ユニットが一日10件あまりの患者様宅を訪問している。どのユニットがどの順番でどの家を訪問すべきであり、現在順調に進んでいるか、在宅医療クラウドのマップ上で、ルートや現在の位置をわかるようにした。それにより、たとえば緊急往診が発生した場合には、どの医師が行けばよいかを事務所から指示を出すことができ、現場の医師は慌てることなく患者様のお宅に行くことができる。患者さんにとっても大変有益である。また、スケジュール管理、タスク管理は、診療現場を煩わせるのではなく、全てスタッフのいる事務所にて行い、診療をバックアップできるようにしてある。合わせて、カルテの代行入力を行うコンタクトセンターの運用構築、電子カルテの医療情報も、クラウドで共有できるような、電子カルテの導入も進めている。

[STEP 2 在宅医療・介護情報連携推進事業]

ステップ2は、在宅医療・介護に関わる多職種間連携のためのクラウドシステムの開発である。現在、祐ホームクリニックが拠点を置く、東京都文京区と石巻市で地元の訪問薬局、訪問看護ステーション、ケアマネジャー、訪問介護事業者を巻き込んだ実証実験を進めている。この在宅医療・介護情報連進事業は、総務省の実証事業として実施しており、来年の3月いっぱいで実証の報告をもとに、医療・介護の情報連携の在り方を提言していく予定である。

現在、あちこちで医療と介護の連携基盤ができつつあるが、情報項目やシステム構成などが統一されていない。これでは、医療圏を超えて、あるいはある一つのクリニックを超えての情報共有ができない、あるいは各事業所が使っているシステムが異なるために情報連携ができないという、情報連携の主旨とは全く反する状況となる。そういったことに強い危惧を感じており、この情報連携協議会の評議員として、東大高齢社会総合研究機構の辻哲夫先生、国立長寿医療研究センターの大島伸一先生、慶応義塾大学大学院の田中滋先生、鈴木内科医院の鈴木央先生などにご意見を賜り、総務省・厚労省の担当課にもオブザーバーとして参加いただきながら、どうやって医療・介護の情報連携基盤の仕組みを作っていくか検討を進めている。

[STEP 3-1 被災市民健康・生活復興支援]

ステップ3として、宮城県石巻市における被災者に対する包括的な支援の活動である。被災地には、津波で被害を受けた家屋にそのまま住む「在宅被災者」という方々が多数おられた。この方々は、実は仮設住宅に住んでいる方々より、はるかに多かったにも関わらず、震災から半年以上たっても、まだまだ行政による全体数の把握や支援の状況が不明であるということが分かってきた。なぜなら、仮設住宅は集合団地のようなものであり、効率よく物を配布したり、情報を提供したり、情報を吸い上げたりすることができる。しかし、浸水被害のあった地域にぽつぽつと建っている家の中に住んでいる人たちは、一軒一軒廻っていかなくては、全体数や状況は把握できない。そこで、当時石巻で活動していたNPO団体や企業、行政に声をかけ、2011年10月から2013年3月にかけて、宮城県石巻市・女川町の対象世帯となる約1万5000世帯以上の全ての家を訪問し、医療や介護、生活の状況とニーズを聞きとり、本当に必要な支援を提供するという仕組みを構築した。まず全戸訪問アセスメントをし、全ての情報をICTデータベースに入力する。これを、機密保持契約を結んだ専門職の団体に連携して、必要なサポートを提供する。例えば、身体的問題に対応する看護師、高齢者特有の問題に対応するケアマネジャー、自立した生活のための支援をするソーシャルワーカーや、住環境の改善を支援する住宅会社の一級建築士などがデータベ―スで情報を共有して、複数の担当者による経時的な支援が可能となる。

[住民の情報をデータベース化した]

在宅被災世帯の一軒一軒を廻ってアセスメントをして、データベース化していくにあたっての個人情報の問題は、被災地ならではと思われるが多くの方にご承諾いただけた。

データベース化されたことにより、検索や分析が可能になった。各種分析や、地図情報と重ねて「独居高齢者マップ」や「各専門職のサポートが必要な人が、どの地区にどれだけいたのか」ということを、包括や行政保健師単位で分析し情報提供するなどした。こういった情報は行政の担当課や行政保健師、包括とも共有した。

また、日を負うにつれ、少しずつ地域のもともとの力が回復してきた。行政機能や地域活動など地域による地域復興の意欲を感じていた。そこで今後は、「地域の力を引き出す支援」にシフトしていく予定としている。難しい挑戦であるが、引き続き取り組んでいきたい。

[STEP 3-2 高齢先進国モデルへの発展]

今の形を今後どういう形で発展させていきたいかということをお話したい。在宅医療の現場や、被災地での支援からわかったことは、「高齢者は、高齢者のほうから動くことはしない。こちらからのアウトリーチ型で物事をすすめなければならない」ということである。ICTには距離や時間を超えて、情報のやり取りができるという大きなメリットがあるが、高齢者は必ずしもICTリテラシーが高くはない。現在または今後発展していくICTサービスの恩恵を高齢者が享受するための接点構築をいかにして構築するかが重要である。高齢者の場合には、リアルな接点が必要だ。そのためのコストをいかに下げ、また対面接点というリスクを併せて下げていくことが重要になる。

今、石巻で行っていることを体系化すると、まずアセスメントを担うスタッフが、一軒一軒訪問し、医療・介護に限らずの生活などのいろいろなニーズを聴きとってくる。そして、そのニーズを中央の組織で集約、情報解析の上でその人に必要な医療・介護・生活サービスを提供する、というものだ。官民、または医療と生活分野の包括的なプラットフォームができている。

このモデルが有用であった点は、データベース情報を医師や看護師、ソーシャルワーカーを中心として、専門職が精査したことによって、真に手を差し伸べるべき人を見落とさなかったことである。また、データベースは、行政・専門職団体・NPOといった支援者間の情報共有を可能にして、適切にフォローできた。

[STEP 3 高齢先進国モデルの進化イメージ]

今後、我々が目指したいものは、2点ある。一つは、情報と包括的なサービスとを繋ぐ「コーディネーター機能」の開発である。聞き取った情報をいかにして高齢者目線でサービスに繋ぐことができるか。私はここに、医療機関が果たす新しい役割があると思っている。地域の医療を守ってきたのは、医師会を中心とする先生方であるが、もっとコミュニティの中で、医療・介護・福祉・生活を守る信頼のプラットフォームをつくることが地域の医療機関にはできるのではないだろうか。そこに行政も積極的に入っていただければ非常にありがたいと思う。

もう1点は、本人・家族との情報共有である。寝たきりの高齢者が自分の情報をいくら持っても、うまく活用できない。しかし、子どもが親を心配する気持ちが、親の健康情報を適切に管理するPHRのようなものになるであろうし、そこに何らかの経済循環性がある事業が生まれるのではないかと思っている。たとえば、親元を離れて都会に暮らしている子どもが親をいくら心配していても、2時間以上離れたところにいる親には、年に数回程度しか会いに行けない。代わりに親を定期的に見守って、何かがあった時に子どもに知らせる。そういったこともプラットフォームに組み込んで、新しいソーシャルサービスをつくることができるのではないかと考えている。

今後も、ICTを活用した、これからの超高齢社会に適した社会システムの構築に力を尽くしていきたい。

以上

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