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Policy(提言・報告書)  環境、エネルギー 地球温暖化政策に関する意見

2012年12月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

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1.はじめに

  1. (1) 地球温暖化問題への対応はますます重要性を増している。日本の産業界は問題解決の鍵を握る優れた技術を有しており、主体的取組みを強化しながら世界の低炭素化に積極的に貢献していく決意である。
    政府の温暖化政策は、企業が活力を発揮できる環境整備を重視することで、経済成長との両立を図ることが重要である。方向性を誤れば国内の空洞化が加速し、雇用や国民生活に多大な影響を及ぼすこととなる。

  2. (2) しかし、今から3年前、国民に開かれた透明な議論もないまま、わが国の中期目標(2020年温室効果ガス90年比25%削減)が突如決定され、国連に登録された。その際、実現可能性のみならず、交渉上重要な国際的公平性や基準年のあり方などは全く考慮されなかった。また、再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度や地球温暖化対策税が導入されたばかりか、政府の一部では、国内排出量取引制度の導入に向けた検討まで進められている#1
    さらに、本年9月、エネルギー・環境会議は、実現可能性や国民負担など極めて問題の多い「革新的エネルギー・環境戦略」#2を決定した。

  3. (3) 政府の一連の政策は、産業界の間で、わが国企業を取り巻く「6重苦」#3の一つと見なされている。経済無視の行き過ぎた温暖化政策は、企業の活力を奪うことでイノベーションを阻害し、空洞化を加速する。同時に、炭素リーケージを生じ、温暖化防止にも逆行する。
    政府は、「S+3E」#4のバランスのとれた、より現実的なエネルギー戦略をまず再構築した上で、表裏一体の関係にある温暖化政策を抜本的に見直すべきである。

2.産業界の主体的取組みの重要性

  1. (1) 経団連はこれまで自主行動計画を通じ、省エネ・CO2排出削減に具体的成果を上げてきた#5。この結果、わが国は、国全体でみても業種別にみても世界最高水準の低炭素化を実現している。こうした主体的取組みが評価され、自主行動計画は、政府の京都議定書目標達成計画の中で産業界の対策の柱と位置付けられている。

  2. (2) わが国は京都議定書の第二約束期間には参加しないこととなったが、産業界は2013年度以降、「2050年における世界の温室効果ガスの排出量の半減目標の達成に日本の産業界が技術力で中核的役割を果たすこと」をビジョンとして掲げる低炭素社会実行計画を通じて、世界最高水準の低炭素・省エネ技術の開発・実用化をさらに加速していく決意である。
    同計画は、(1)企業活動における最先端の低炭素技術の最大限導入、(2)消費者に対する世界最高水準の省エネ・低炭素型製品・サービスの開発・実用化、(3)海外への技術・ノウハウの移転、(4)革新的技術の開発、の4本柱で構成される。
    この中で、自らの事業活動から生じるCO2の削減目標に加え、製品の使用段階に至るまでのライフサイクルや技術の海外移転による排出削減ポテンシャルについても可能な限り明示し、その実現に取り組むことで、地球規模での温室効果ガス削減に貢献していくこととしている。

  3. (3) わが国においては、これまで産業界の主体的取組みが有効に機能し、温室効果ガスの排出抑制に大きく貢献してきた。今後、政府は、京都議定書目標達成計画(2012年度まで)に代わるポスト京都の新たな温暖化政策を策定すると考えられるが、低炭素社会実行計画を同政策の柱に位置付けるべきである。
    経団連は、国民の期待に応え、透明性・信頼性の高いPDCAサイクルを推進しながら、実行計画の確実な実施に努めていく所存である。

3.政府の施策の在り方

  1. (1) 政府は、産業界による低炭素社会実行計画を支援するため、必要な環境整備を進めるべきである。
    特に、企業活力が十分発揮されるよう、大胆な規制改革、技術に立脚した省エネ基準の策定、グリーン調達、研究開発促進税制の拡充、国民運動の推進等に力を入れるべきである。また、わが国の技術による海外貢献を進める上で、新興国・途上国等との二国間オフセットメカニズムの実現に向けた交渉を加速する必要がある。

  2. (2) 他方、企業の活力を削ぐ施策は取るべきではない。例えば、キャップ・アンド・トレード型の国内排出量取引制度は、企業活動に深刻な影響を及ぼすので決して導入すべきではない#6。国がトップダウンで企業の排出枠を割り当てることは、官の権限の肥大化や行政コストの増大等の問題にもつながる。
    また、電力価格の上昇が見込まれる中、再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度や地球温暖化対策税は、国民生活や企業活動に深刻な影響を与え、イノベーションの阻害要因ともなるため、早急に見直すべきである。

4.中期目標の再検討

  1. (1) 現在国連に登録されているわが国の中期目標は、ゼロベースで見直すべきである。検討にあたっては、実現可能性、国民負担の妥当性をしっかり検証しながら、セクター別に削減ポテンシャルを真水で積み上げる必要がある。国際貢献分は、国富の流出に繋がることから、予め目標に含めるべきではない#7
    同時に、国際的公平性の確保も重要である。適切な指標の在り方を含め、科学的かつ客観的な比較検証が必要である#8

  2. (2) 京都議定書第一約束期間は1990年を基準年としているが、既に20年以上を経過し、各国の産業構造やエネルギー供給構造は大きく変化している。こうした構造変化や、過去の削減努力を十分に反映した国際比較の観点から、基準年はより新しい時点のものへと見直すべきである。

5.国際交渉の在り方

現行の京都議定書のように、一部の国のみが削減義務を負う枠組では、削減義務を負わない国に生産拠点が移転する炭素リーケージ等の問題が避けられず、地球全体の温室効果ガスの抑制にはつながらない。

真に実効ある温暖化対策を進めるためには、全ての主要排出国が責任ある形で参加する国際枠組の構築が不可欠である。2020年以降に全ての国に適用される法的効力を有する新たな枠組においては、これまでのように「共通だが差異ある責任」原則に基づいて先進国と途上国を二分するのではなく、各国が「能力に応じた削減」に取り組むことが求められる。

この点、現実的かつ有効なアプローチは、コペンハーゲン合意で示されたボトムアップ型のプレッジ・アンド・レビュー方式#9である。また、各国の削減努力を相互に確認し、透明性および実効性を確保するため、適切なMRV(測定・報告・検証)の仕組みを確立し、実施していくことが肝要となる。

以上

  1. 環境省は2011年、非公開の「国内排出量取引制度についての課題整理に関する検討会」を設置し、「制度の設計次第では、一定のCO2排出量の削減効果は確保しつつも、我が国産業への負担及び雇用への影響を一定以下に抑え、業種間の公平感を相当程度確保することが可能」と結論。現在、新たに「排出削減ポテンシャルを最大限引き出すための方策検討会」にて排出量取引制度の導入を企図する検討を実施中。
  2. 同戦略が現実的な内容でないため、戦略に盛り込まれた、2020年、2030年の温室効果ガス排出量も現実的なものとなっていない。
  3. 行き過ぎた温暖化政策に加え、過度な円高、高い法人税負担、経済連携の遅れ、硬直的な労働規制、エネルギー制約を指す。
  4. 安全性の確保を大前提に、エネルギーの安全保障(安定供給)、経済性、環境適合性を確保する。
  5. 2011年度の産業・エネルギー転換部門(参加34業種)のCO2排出量は、2011年度実績で4億5,426万t-CO2と、1990年度比で10.1%減少(2010年度比で2.5%増加)。
  6. (1)企業によるライフサイクル全体での取組み(製品・サービスのLCAでの貢献)に支障を来す、(2)企業間の公平な競争を阻害する、(3)排出枠の購入で目標が達成できるため、革新的技術のための研究開発投資等が停滞する、などの弊害がある。先行して実施したEUでは、排出権価格が暴落し、企業のクリーン技術等への投資意欲が削がれるなど、排出削減に実効性がなかったと評価できる。
  7. わが国は世界最高のエネルギー効率を維持し続けているにもかかわらず、京都議定書第一約束期間において、海外クレジットの購入のために巨額の国富が流出し、国民がその負担を強いられた。
  8. 麻生政権時代、わが国の中期目標を検討する際に、過去の削減努力を反映するとともに、炭素リーケージを防止する観点から、先進国間の限界削減費用を比較したことは大きな参考となる。また、GDP当たりのCO2排出量、エネルギー消費量の比較も有効と考えられる。
  9. 参加各国が自発的に削減目標・行動計画を提出、誓約(pledge)し、目標達成に向けた取組みの状況を国際的に検証(review)する仕組み。COP15(2009年 於コペンハーゲン)で提案され、COP16(2010年 於カンクン)でCOP決定に至った「コペンハーゲン合意」には、米中を含め、世界の排出量の8割以上をカバーする国々が参加し、各々の削減目標・行動が国連に提出されている。

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