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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 平成25年度税制改正に関する提言

2012年10月5日
一般社団法人 日本経済団体連合会

I.はじめに

わが国経済は、東日本大震災からの復興需要を背景に緩やかに持ち直しつつあるものの、海外経済が減速する中で勢いが鈍化している。先行きに関しても、欧州債務問題の解決が遅れる中で、円高・世界的株安、原子力発電所の停止による電力不足など、景気の下押しリスクが多数存在しており、予断は許されない。

また、わが国の財政状況は、平成24年度末に国・地方をあわせた政府の長期債務残高(復興債を含む)が約940兆円、対GDP比で196%に達する見込みであるなど、一段と深刻さを増している。ここ数年、リーマン・ショックや東日本大震災といった非常事態への対応があったとは言え、政権交代後の子ども手当や高校授業料無償化といった政策により財政赤字の拡大傾向に拍車がかかったのも事実である。徹底した歳出改革および歳入改革による財政の健全化は待ったなしの課題である。

一方、経済が停滞する中で、本格的な少子高齢化・人口減少社会が到来しており、生産年齢人口の減少により社会保障制度の持続可能性に対する信頼も大きく揺らいでいる。社会保障制度の安定財源を確保するためにも歳入構造の見直しが不可欠であり、民間消費支出がGDPの約6割を占める経済構造、成熟社会に対応した税体系の再構築が急務となっている。

さらに、グローバル競争が激化する中で、わが国の立地条件は6重苦(想定を上回る円高の継続、法人課税・社会保険料の重い負担、諸外国に遅れをとる経済連携協定の推進、柔軟性に欠ける労働市場、企業活動の足かせとなる環境規制、電力の供給不足・コスト増)により年々悪化しており、持続的な経済成長に懸念が持たれている。

こうした中、民主党・自民党・公明党による3党協議の合意を受け、8月10日に消費税法改正法案をはじめとする社会保障・税一体改革関連法案が可決・成立した。わが国が抱える課題のうち、持続可能な社会保障制度の確立、財政の健全化については、その克服に向け、一歩が踏み出されたものと高く評価している。

しかし、経済活力の維持・強化という課題は、依然として残されており、解決していない。一体改革関連法が成立した今、目下最大の課題は、この問題の克服に他ならない。

まず、必要なことは、民主導の経済成長に向けた政策をスピード感をもって着実に進めることである。経済活動の主体は国民と企業であり、雇用の主体は企業である。企業活動の活性化が果たされなければ、安定した国家運営は実現できない。ペーパー・ワークとしての成長戦略の立案はすでに二巡、三巡しており、あとは実行あるのみである。

その中で、税制の果たす役割が極めて大きいことは言うまでもない。当面、平成25年度税制改正においては、デフレからの脱却も視野に、国内における投資や雇用の維持・拡大に資する税制を確実に整備することが不可欠である。こうした取り組みにより、企業の経済活動の活性化を促すことは、消費税率引き上げの環境整備、すなわち経済情況の好転にも資するものと確信している。

消費税に係る諸制度の整備、個人所得課税、資産課税に係る改正への対応も重要な課題である。その際、個人消費を含め経済活性化の観点が欠かせない。

また、東日本大震災による環境変化を踏まえた税制の整備、経済のグローバル化に対応した国際課税制度の構築も急務である。

そこで、以下では、平成25年度税制改正で措置すべき具体的な事項について、経済界の考え方を示すこととする。

II.消費税法改正法の成立を踏まえ取り組むべき重要課題

1.国内における投資や雇用の維持・拡大に資する税制の整備

(1) 法人実効税率の引き下げへの道筋

日本の競争力は近年、低落傾向の一途を辿っている#1。6重苦の中でも、とりわけ国際的に見て重い法人の税負担が足かせとなっていることは間違いない。

わが国の法人実効税率は、平成24年度より40.69%から38.01%へと約2%引き下げられた(大法人、東京都)。しかしこれは、法人税率の4.5%引き下げと法人税額に対する10%の復興特別法人税を踏まえ計算される表面実効税率に過ぎず、研究開発促進税制の縮減、欠損金の繰越控除に係る所得制限、減価償却制度の縮減等、課税ベースの拡大も同時に実施されていることから、個別の企業ではむしろ増税となっているケースもある。

一方、世界各国では、さらなる法人税率の引き下げ競争が行われている#2。また、日本が競合するアジア諸国の税率は、中国25%、韓国24.2%となっており、依然として日本と10%以上の開きがある。

立地競争力の差がこのように歴然とする中で、現在、わが国では、外資系企業の撤退のみならず、日本企業についても、製造、販売、研究開発拠点に加え、系列企業や本社機能までも海外に移転せざるをえない事態が現実化しつつある。日本経済は今や「根こそぎ空洞化」の危機にあると言って過言ではなく、現状を放置すれば、国内において十分な投資や雇用の水準を維持することは到底、不可能であり、わが国経済が衰退に向かうことは必至である。

資源の乏しい日本が今後も貿易立国、科学技術立国としてグローバル競争の中で生き残っていくためには、国内において一定規模の生産、ならびに関連する研究開発、販売、サービスのネットワークを一体として維持することが不可欠である。海外で獲得した資金を国内に還流し、さらなる競争力強化に向けた国内における再投資、輸出力の強化につなげていくという好循環を生み出すことは極めて重要であり、正しい道であるが、前提となる生産等の国内基盤を喪失すれば、そのシナリオは実現しない。

企業は、税引後純利益の最大化に向けて日々、熾烈な国際競争を行っている。こうした一連の事業活動において、税制は重要なビジネス・インフラである。国際的に魅力のある法人税制を整備していくことは、わが国の立地環境の改善、企業の競争力の向上につながる。その結果、売上・利益が増加し、国内における投資意欲は必然的に高まり、企業の海外移転の抑止にもつながる。これによって、国内雇用の維持・増加を図ることができ、国民の将来不安が軽減され、個人消費も喚起され、国内需要の増大によってデフレからの脱却も可能となる。

かかる観点から、わが国では、早期に、法人実効税率のさらなる引き下げを実現する必要がある。消費税法改正法では、法人課税のあり方については、復興特別法人税の課税期間が終了する平成27年度以降の検討課題とされているが、国際的なイコール・フッティングの観点、さらに、わが国企業を取り巻く厳しい事業環境を踏まえれば、遅きに失すると言わざるを得ない。復興特別法人税の終了を待つことなく、速やかに主要国並みの約30%、最終的にはアジア近隣諸国と均衡する水準、すなわち約25%を目指し、遅滞なく、さらなる減税への道筋をつけることが不可欠である。

今後、法人実効税率を30%ないし25%程度まで引き下げる際には、国税の法人税率の引き下げもさることながら、現行38.01%の実効税率のうち3割以上(11.93%)を占め、かつ国際的に見ても高い水準にある地方法人所得課税について、大幅な縮減を含む見直しを行うことが必要となる。とりわけ、地方法人特別税については、平成20年度税制改正において、地域間の税源偏在の是正に対応するため、消費税を含む税制抜本改革がなされる間の暫定措置として、法人事業税の一部を分離する形で創設されたものであり、消費税の改革と一体的に改革を行わなければならない。事実、消費税法改正法においても、地方法人特別税については「税制の抜本的な改革に併せて抜本的に見直しを行う」とされている。

消費税法改正法等が成立したことで、地域による偏在性の少ない地方消費税が拡充され、また、国税の消費税に係る地方交付税も増加することになる。平成20年度税制改正において想定していた税制の抜本改革は、今回の社会保障・税一体改革において実現しつつあり、地方法人特別税については、消費税率8%への引き上げ時、遅くとも10%への引き上げ時にあわせて確実に廃止すべく、平成25年度税制改正で成案を得る必要がある。

ただし、地方法人特別税の廃止が、単に平成19年度以前の法人事業税の復活であっては本末転倒である。平成20年度税制改正では、地域間の偏在性が高く、税収が景気変動の影響を受けやすい法人所得課税の代替財源が模索されていたのであって、地方消費税の拡充が方向づけられた今日、地方法人所得課税を再び地方の基幹財源に位置付けることがあってはならない。また、地方法人特別税など地方法人所得課税の一部を国税化し、あわせて国税の消費税に係る地方交付税の一部を地方消費税化する、いわゆる国と地方の税源交換論についても、税負担の軽減を伴うものでなく、不十分と言わざるを得ない。重要なのは、単なる税目のつけかえではなく、国際的な法人実効税率のイコール・フッティングに資する地方法人特別税の廃止である。

その際、求められるのは、経済活動を短期ではなく、中長期かつダイナミックな視点でとらえることである。単年度のペイ・アズ・ユー・ゴー原則にこだわるあまり、辻褄合わせの代替財源の確保に固執していては、経済活力の維持・強化に結び付かないばかりか、かえって企業活動に悪影響を及ぼし、結果として雇用の維持・拡大も実現しない。安易な課税ベースの拡大は厳に慎むべきである。

1. 例えば、1992年に1位だったIMD(国際経営開発研究所)の国際競争力ランキングは、2012年に27位にまで転落している。
2. 米国ではオバマ政権が連邦法人税率を35%から28%へと引き下げる税制改革案を打ち出しており、英国でも2012年4月より法人税率が25%から24%へと引き下げられている。英国はさらに、2013年4月からは23%、2014年4月からは22%へと税率を引き下げる予定である。また、豪州においても、法人税率を現行30%から引き下げる動きがある。

(2) 地方法人課税の見直し

法人所得課税以外にも、地方法人課税においては、以下に掲げる通り、国内における投資や雇用を維持・拡大する上で改善すべき課題が残されている。一体改革にあわせ地方法人課税全体について総合的な見直しを行い、早期に是正すべきである。

  1. 償却資産に係る固定資産税の抜本的な見直し
    償却資産に係る固定資産税は国際的に稀な課税である。また、企業の利益獲得の源泉である設備投資に対する課税であり、利益獲得後の法人所得課税との2重課税になっているとの指摘もある。企業の国内における設備投資意欲を低下させ、雇用の増加を阻害する要因となっており、しかも、特定の設備型産業に負担が偏重しているため、課税の公平性の観点からも問題が大きい。
    かかる観点から、償却資産に係る固定資産税は、速やかに廃止・縮減すべきである。少なくとも残存価額の廃止等、法人税の課税所得の計算方法との整合性を図るべきである。

  2. 事業所税の廃止
    事業所税の従業者割は、法人事業税の外形標準課税と同様、給与課税となっており、雇用の促進に逆行している。また、資産割は固定資産税および都市計画税との二重課税となっている。事業所税は速やかに廃止すべきである。

(3) 研究開発促進税制の拡充及び本則化・恒久化

日本が持続的な成長を遂げるためには、不断のイノベーション創出により科学技術の優位性を保つことが不可欠であるが、研究開発投資は不確実性が高く、事業化までに長期間を要することから、基本的には資金を内部留保から充てざるを得ない。また、研究開発拠点と製造拠点は一体となって国内における雇用を支えている。研究開発投資をキャッシュ面で支える税制措置は、投資と雇用確保の両面から極めて重要である。

日本再生戦略では、官民合わせた研究開発投資を2020年までにGDP比4%以上とすることが目標に掲げられているが、わが国の研究開発投資総額における政府負担割合は主要国と比較して最も低い水準にある。また、諸外国では、産業の国際競争力強化のために競い合って研究開発促進税制の拡充が行われている。こうした中、わが国が他国の追随を許さない先端的研究開発を強力に推し進め、研究開発拠点、ならびにそこで生み出された付加価値を製品化し、輸出するための製造拠点を国内に維持し、わが国産業の国際競争力を強化し、中長期的に社会全体の効用を高めていくためには、研究開発促進税制を常に拡充するとともに、活用メリットを十分に享受できるよう制度設計の改善を図ることが必須である。

かかる観点から、以下に掲げる措置を講じた上で、上乗せ措置(増加型・高水準型)を含め、制度全体を本則化・恒久化すべきである。

なお、これらは、消費税率の引き上げに先立つ景気対策としても、不可欠の措置であると考える。

  1. 総額型の控除限度額の拡充
    平成24年度から総額型の税額控除限度額の時限的上乗せ措置(法人税額の20%→30%)が廃止されたが、税額控除限度額を再び30%へと拡充すべきである。多くの企業において20%の税額控除限度額に抵触する中で、平成24年度から法人税率が30%から25.5%へと引き下げが行われたことに伴い、同じ控除限度額でも控除可能な法人税額が縮減していること、総額型の税額控除限度額の縮減ならびに復興特別法人税により、法人税率の引き下げにもかかわらず、研究開発に熱心な企業ほどネットで増税となっている事例が多数あることにも十分、留意すべきである。

  2. 繰越税額控除限度超過額の繰越期間の延長及び繰越控除要件の廃止
    現在、繰越税額控除限度超過額の繰越期間は平成21年度税制改正による経済対策の特例を除き1年に過ぎず、諸外国に比べ大きく劣後している。また、損金に算入される試験研究費の額が前事業年度よりも増加していることが繰越控除の要件となっている。景気変動により控除対象法人税額が減少した場合にはやむを得ず繰越控除を行うほかない中で、制度の活用メリットを高めるためには、繰越期間を3年に延長するとともに、繰越控除要件を廃止すべきである。

  3. パテントボックス・イノベーションボックスの創設
    現行のわが国の研究開発促進税制は研究開発段階の投資活動に着目した制度設計となっているが、研究開発が成功を収めた後の段階において、その成果物である知的財産権等の無形資産を国内に保有し、商業化するインセンティブは乏しい。一方で、欧州諸国においては近年、知的財産権に起因する所得(ロイヤリティ、知的財産権の譲渡益、知的財産権を利用して製造した商品の販売益で一定のもの)について低税率または所得控除を適用する、いわゆるパテント・ボックス、あるいはその概念を知的財産権以外にも拡大したイノベーション・ボックスを相次いで導入している。英国も来年度から適用の予定である。
    こうした中で、わが国が現状を放置するならば、かねてからの6重苦もあいまって、日本企業の研究開発拠点、あるいは企業の超過収益力の源泉である無形資産が当該制度の導入国に移転しかねない。従って、わが国においては、既存の研究開発促進税制の拡充・恒久化を行うこともさることながら、わが国の研究開発拠点としての立地競争力を維持・強化するためにも、欧州諸国ですでに導入されている当該制度の創設を急ぐべきである。

(4) 自動車関係諸税の簡素化・負担軽減

自動車関係諸税は、欧米諸国と比較して極めて過重な負担が課されてきた。特に、道路整備目的で創設された自動車取得税と自動車重量税は、道路特定財源が平成21年度に一般財源化された時点で既に課税根拠を喪失しており、さらに自動車取得税は消費税と、自動車重量税は自動車税との二重課税となっている。

仮に、自動車取得税と自動車重量税を存続させたまま消費税率が10%まで引き上げられれば、自動車購入時の税負担は取得価額の15%にものぼり(消費税率10%+自動車取得税率5%)、保有時の税負担も軽減されないことから、自動車の購入意欲は著しく阻害される。これにより、国内販売に致命的な打撃がもたらされ、裾野の広い自動車関連産業の国内における生産や雇用の維持が一層困難になるなど、我が国経済に深刻な影響が生じる。両税を消費税率の8%への引き上げ時までに確実に廃止し、自動車ユーザーの負担軽減および自動車関係諸税の簡素化を実現すべきである。

(5) 石油関係諸税とのTax on Taxの解消等、個別間接税との関係の整理

消費税と石油関係諸税(揮発油税、地方揮発油税)の関係はTax on Taxとなっており、早期に解消する必要がある。そもそも石油関係諸税は、自動車関係諸税と同様、平成21年度に一般財源化された時点で課税根拠を喪失しており、負担の軽減が不可欠である。少なくとも「当分の間税率」を廃止すべきである。

酒税及びたばこ税についても同様にTax on Taxとなっており、消費税率の引き上げにあわせ、関係を整理する必要がある。

(6) 住宅の取得に係る負担軽減措置の導入

消費税法改正法等が成立し、2014年4月に8%、2015年10月に10%へと消費税率が2段階で引き上げられるが、住宅価格は高額であり、その分、消費税負担が重たくなること、また、住宅投資の経済や他産業への波及効果の高さ、雇用の創出効果等を踏まえれば、消費税率の引き上げにあわせ、新たな負担が発生しない形での対策を講じることが不可欠である。少なくとも今回の改革にあたっては、住宅の取得に係る税負担を増加させないことを基本に、駆け込み需要やその反動減といった経済活動の振幅の抑制や、国民が政策に左右されず安心して購入できる環境の実現といった観点も踏まえ、具体的な制度設計を進める必要がある。

本年末あるいは年度末に期限の到来する省エネ改修及びバリアフリー改修に係る特例、住宅に係る登録免許税の特例等については、適用期限を延長すべきである。

(7) 都市・土地税制
  1. 各種特例措置の延長
    わが国が持続的な成長を遂げるには、民間のノウハウや資金を活用し、土地や建物の有効利用、流動化を図りつつ、大都市・地域を活性化させることが不可欠である。かかる観点から、以下の特例措置の適用期限を延長すべきである。

    1. 都市再生促進税制
      (特定都市再生緊急整備地域に係る特例、都市再生緊急整備地域に係る特例)
    2. 市街地再開発事業に係る特例
    3. 土地の売買等に係る登録免許税の特例
    4. Jリート及びSPCが取得する不動産に係る登録免許税・不動産取得税の特例等
  2. 地価税および法人の土地譲渡益重課制度、特別土地保有税の廃止
    土地バブルの抑制という政策目的が失われていることから、課税が停止されている地価税および法人の土地譲渡益重課制度、特別土地保有税(徴収猶予中の税を含む)を速やかに廃止すべきである。本制度の廃止は、事業者の予見可能性を向上させ、不動産取引の活性化につながる。

(8) 印紙税の廃止

近年、インターネット電子商取引が一般化し、経済取引のペーパーレス化が著しく進展する中、紙を媒体とした文書のみに課税する印紙税は合理性が失われていることから、印紙税は廃止すべきである。

また、消費税法改正法では、一部課税文書について負担の軽減を検討するとされているが、印紙税そのものを廃止すべきであることから、大幅な負担軽減措置が講じられるべきである。

なお、印紙税が直ちに廃止されない場合には、少なくとも、本年度末に適用期限の到来する不動産売買契約書、建設工事請負契約書に係る印紙税額の軽減措置について、延長すべきである。

(9) 原料用途免税の本則非課税化

ナフサに係る石油石炭税の免税・還付措置、鉄鋼・コークス・セメント製造に係る石油石炭税の免税措置については、その適用期限が平成24年度税制改正において「当分の間」とされ、期限が到来するごとに延長措置を講じなければならないという不安定な状態から一歩前進した。しかし、企業が事業計画を立案する際、依然として不確定要因が存在するという点で、現行制度は十分とは言えない。そもそも諸外国ではこれら原料に課税している例はなく、国際的なイコール・フッティングを実現するためにも、一段の対応を行う必要がある。ナフサに係る揮発油税も含め、原料用途免税を本則非課税化すべきである。

(10)年金税制の改善

公的年金の給付水準は、今後、低下が避けられず、自助努力により老後の所得を確保するため、年金税制の改善を通じた企業年金制度の普及・拡充が求められる。確定拠出年金について、拠出限度額のさらなる引き上げ、拠出限度額の複数年度での管理の容認、マッチング拠出の限度額撤廃を軸とする限度額の拡大とともに、公務員など加入対象者の拡大、退職一時金からの資産移管方法の弾力化、資産の中途引き出し要件の緩和等を進めるべきである。加入者教育の充実とあわせて、これらの措置を講じることは、家計からの資金供給の拡大を通じたわが国経済の活性化にも資する。

また、確定給付企業年金については、今年1月に積立水準の引き上げ等の財政運営ルールが改正されたが、各企業年金の取り組みを進めやすくする観点から、一括償却の容認等、過去勤務債務の償却方法の弾力化を行うべきである。

退職年金等の積立金に係る特別法人税は、現在、課税が停止されているが、掛金の拠出時・運用時非課税、給付時課税の原則に反する国際的にも稀な税であり、速やかに廃止すべきである。

(11) その他
  1. 欠損金の繰越期間の無期限化および繰戻還付の復活
    平成24年度から、大法人につき欠損金の繰越控除を当期所得の80%に制限され、あわせて、繰越期間が7年から9年へと延長されたが、依然として諸外国に大きく劣後している欠損金の繰越期間を無期限とすべきである。
    一方、欠損金の繰戻還付については、法人税法に規定されながら、中小企業を除き、財源措置として停止されている。早期に復活させるべきである。

  2. 受取配当の益金不算入割合の引き上げ
    受取配当金への課税は、法人段階で課税済みの所得の分配に対する課税である。二重課税排除の観点から、法人の受取配当金における益金不算入割合を引き上げるとともに、負債利子控除を廃止すべきである。

  3. 完全子法人株式等に係る配当について源泉徴収の廃止
    完全子法人株式等に係る配当については全額益金不算入である一方、配当を支払う子法人には依然として源泉徴収義務が課されており、所得税額を一旦納付しなければならない。この所得税額は、配当を受ける親法人において法人税額から控除されるため、最終的には税負担はなくなるが、親法人・子法人に対し多大な金利負担・事務負担を課すものとなっている。単体納税、連結納税を含め、100%グループ会社間の資金の移動をより円滑化し、また、企業の資金運用の効率化を図るためには、単に配当が益金不算入であるだけでは不十分であり、源泉徴収を廃止する必要がある。

  4. 税と会計
    わが国法人税制は、これまで企業会計と密接に関係してきた。今後の会計制度の動向が課税ベースの拡大等、わが国法人税における課税所得計算に大きな影響を及ぼさないよう、例えば減価償却制度における損金経理要件の撤廃等、税制上の対応を図る必要がある。

  5. トン数標準税制の拡充の着実な具体化・実施と外航船舶の特別償却制度の恒久化
    世界の主要海運国においては、全運航船を対象とするトン数標準税制が相次いで導入されているが、わが国ではその対象は全運航船の4%に過ぎない日本籍船に限られている。競争条件の国際的なイコール・フッティングひいては健全なわが国商船隊の確保を通じたわが国産業の国際競争力の強化とわが国への安定的な国際海上輸送サービス確保のためには、徹底した国際競争条件均衡化の観点からの改善が不可欠である。平成24年度税制改正大綱で定められた通り、トン数標準税制の拡充につき、海上運送法改正法の成立を踏まえ、平成25年度税制改正において着実に具体化を進め、速やかに実施すべきである。
    また、わが国の船舶償却制度は主要海運国の償却制度と比較して見劣りしたものとなっており、わが国外航海運企業が世界単一市場の中で諸外国の船社と互角の国際競争を行っていくためには、少なくとも特別償却制度を維持し、恒久的な税制とすべきである。

  6. 航空機燃料税の廃止・縮減
    本邦航空会社が使用する航空機燃料に課される航空機燃料税については、平成23年度税制改正において3年間の軽減措置が実現されたが、世界的にみて極めて稀な課税であり、オープンスカイにより激化する国際競争に必要なイコール・フッティングの阻害要因となっている。航空機燃料税は空港整備の財源として創設されたが、大規模な空港整備が終了した現在、その役割を終えており、廃止・縮減すべきである。

  7. 特定同族会社の留保金課税の廃止
    企業の経営戦略における自己資本の充実の観点から、特定同族会社の留保金課税は廃止すべきである。

2.消費税に係る諸制度の整備および個人所得課税・資産課税のあり方

(1) 社会保障制度改革の推進およびさらなる歳入改革の必要性

社会保障・税一体改革のうち、社会保障分野については、今後、社会保障制度改革国民会議において、公的年金制度、医療保険制度、介護保険制度、少子化対策に係る議論が行われる予定である。社会保障給付の効率化・重点化、持続可能な社会保障制度の再構築に向けた検討を推進し、早期に成案を得る必要がある。加えて、政府・与野党には、徹底した政治・行政・歳出改革が求められる。

ただ、団塊世代の高齢化に伴う社会保障給付の増加が不可避となる中で、高齢者医療や介護の持続可能性をさらに高めるためには、さらなる歳入改革が不可欠である。その際、社会保障給付費の財源として、消費税が望ましいことは繰り返すまでもない。消費税は、資本形成を阻害せず、企業の国際競争力やわが国の経済成長に関して中立的な税であり、税収の安定性や世代間負担の公平性という面においても、他の税目に比べ優れている。さらに、賃金に対して直接の負担を求める社会保険料に比べても、雇用の創出に中立的である。2020 年代半ばまでに、消費税率を10%台後半まで引き上げることは避けられない。

財政・社会保障制度の持続可能性が担保されることで初めて、国民や企業の将来不安は取り除かれ、個人消費や設備投資も活発化し、持続的な成長につながっていく。

(2) 低所得者対策

消費税法改正法では、消費税率の引き上げに伴う低所得者対策として、給付付き税額控除に加え、複数税率も選択肢として併記された。しかし、少なくとも消費税率が10%の段階までは、単一税率を維持すべきである。複数税率は、消費者にとって税負担が軽減されていることが実感しやすいという面がある。しかしながら、軽減税率の対象品目の線引きが困難であること、課税の中立性が損なわれること、高額所得者にも軽減税率の恩恵が及ぶこと、徴税側、納税側ともに事務負担が増加すること、税収減を招くこと(税収を確保するためには標準税率を高くする必要がある)等の問題を抱えている。

低所得者対策としては、社会保障・税一体改革による給付と負担の全体像を踏まえつつ、消費税率8%の段階では、消費税導入時および引き上げ時の事例も参考に、簡素な給付措置の実施を検討すべきである。また、10%の段階では、給付付き税額控除の導入を検討すべきである。例えば、カナダのGST(Goods and Services Tax)控除制度を参考に、低所得者に対し、生活必需品に係る消費税率引き上げ相当額を定額で交付する制度が考えられる。

なお、給付付き税額控除については、執行にあたり、所得の把握が困難との指摘があるが、番号制度を導入すれば、完全ではないものの、より正確な所得把握が実現する。複数税率に比べれば、より弊害が少なく、きめ細やかな給付が可能となる方法であると考えられる。

(3) 番号制度の早期導入

社会保障・税共通の番号制度は、個人のより正確な所得把握を通じたきめ細やかな制度の実現に資するものであり、一体改革実現の大前提となるものである。また、制度の活用を大規模災害の被災者支援やより幅広い行政分野、民間にも拡大することで、国民のさらなる利便性の向上が期待され、社会全体が効率化する。

かかる観点から、まずはマイナンバー法案及び関連法案を早期に成立させる必要がある。現在、番号制度は、2015年1月から社会保障・税分野での利用開始が予定されているが、法案の成立が遅れれば、それだけ番号制度の本格稼働が遅れ、給付付き税額控除等の導入に支障をきたすことになる。なお、番号制度の実施に係る制度設計については、配当等や給与に係る源泉徴収事務にも影響を及ぼすことから、関連機関や企業のコストおよび法的なリスク等、実務に十分配慮しつつ、具体的な検討を推進すべきである。

関連して、電子帳簿保存法の見直し、e-Tax(国税電子申告・納税システム)の改善・普及促進、年末調整の税額通知の電子化、全地方自治体のeL-Tax(地方税ポータルシステム)への参加等、納税手続きの電子化を推進すべきである。

(4) 消費税の転嫁及び表示

消費税の適正転嫁は当然である。経団連の企業行動憲章でも「2.公正、透明、自由な競争ならびに適正な取引を行う」と明記しているところであり、優越的地位の濫用などがあってはならない。政府としても、積極的な広報活動を行うなど、対策に万全を期すべきである。なお、消費税法改正法では、独禁法及び下請代金支払遅延防止法について必要な法制上の措置を講じるとされているが、制度の具体化に際しては、事業者の取引を過度に委縮させない配慮が必要である。

消費税の表示については、外税の方が転嫁し易いとの議論がある一方、外税の方が転嫁し易いとは限らない、あるいは表示と転嫁の関係は必ずしも明確ではないとの意見もあり、考え方は一様ではない。一方で、現行の法令に基づく実務、すなわち事業者間取引については表示について特段の規制はなく、不特定かつ多数の者に対して予め価格を表示するときは総額表示が義務づけられていることは、消費者、事業者の双方で定着しており、変更すれば消費者の混乱や事業者におけるシステム対応コストの増加などが予想される。

従って、消費税の表示については、事業者間取引、対消費者取引ともに、現行制度の維持が基本と考えられる。ただし、二段階にわたる税率の引き上げとなることから、値札の付け替え作業等に係る事務負担の増大に配慮した弾力的な制度の運用が求められる。

(5) 消費税の仕入税額控除制度の見直し等

消費税の仕入税額控除に係るいわゆる95%ルールが課税売上高5億円超の事業者において平成24年4月から廃止されたことを受け、システム改修や研修等、多大なコンプライアンス・コストが生じている。制度のあり方について、廃止の見直しを含め関係者の意見を十分に踏まえつつ、改めて検討を行う必要がある。少なくとも現行制度における事務負担を軽減する必要があり、例えば、控除対象外消費税額等について損金経理要件を廃止する等、柔軟な対応を認めるべきである。

また、仕入税額控除ができない非課税取引については、消費税率の引き上げに伴い転嫁の難しさによる事業者の負担が拡大することから、所要の措置を検討すべきである。

(6) 個人所得課税
  1. 諸控除及び税率構造
    個人所得課税については、所得再分配機能、税収調達機能の回復が課題とされてきたところ、平成22年度税制改正では年少扶養控除が廃止され、平成24年度税制改正では給与所得控除の上限設定、退職所得課税の見直し(短期勤続役員に係るいわゆる2分の1課税の廃止)が行われるなど、近年、相次いで各種控除等の見直しが行われてきた。諸控除のあり方については、これまでの改正の検証も踏まえつつ、慎重な議論を行うべきである。
    個人所得課税の最高税率の引き上げについては、すでに復興特別所得税が平成25年から25年間、課税される予定であることにも留意すべきであり、また、経済活力に悪影響を及ぼす可能性があることから、慎重に検討すべきである。
    なお、平成24年から適用が開始された生命保険料控除については、まずは確実な定着を図るべきである。また、給与所得者の寄附金控除を年末調整の対象とすることについては、国民の納税意識の涵養との兼ね合いや、源泉徴収義務者の事務負担の増大等の問題に鑑み、反対である。

  2. 金融証券税制
    金融所得課税については、高齢化社会における金融資産の効率的な運用、金融資本市場の活性化、企業の円滑な資金調達等の観点から、実務面の課題に十分に配慮しつつ、損益通算範囲の公社債をはじめとする幅広い分野への拡大や損失繰越期間の延長等、さらなる一元化を推進すべきである。
    平成23年度税制改正による改正法附則、社会保障・税一体改革大綱では、上場株式の配当・譲渡所得等に係る軽減税率の本則税率化ならびに日本版ISA(Individual Savings Accounts: 非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置)の導入については、経済金融情勢が急変しない限り平成26年1月から確実に実施するとされている。経済金融情勢の判断については慎重に行うとともに、日本版ISAについては、投資家の利便性強化、金融機関の事務に配慮しつつ、引き続き具体的な制度設計を推進する必要がある。なお、日本版ISAの導入が平成26年1月となるならば、消費税率の1段階目の引き上げ時期(平成26年4月)と近接することも踏まえ、景気や株式市場の下支えの観点から、非課税枠の拡充等を行うべきである。
    個人投資家が受け取る配当については、法人・個人間における二重課税の調整を図る必要がある。
    教育資金に係る運用益については、課税の減免措置を検討すべきである。

(7) 資産課税

資産課税については、富の再分配機能の強化や社会への還元という観点から適切な負担を求める声があるが、過重な負担は、資産の蓄積・形成に対する個人のインセンティブを損ない、経済の活力を低下させるおそれがある。

相続税については、中堅資産家層の経済基盤を損なわないよう配慮するとともに、中小事業者の円滑な事業承継および死亡保険金の果たす役割にも留意しつつ、国民の合意を得ながら必要な見直しを実施すべきである。

贈与税については、高齢世代から現役世代への住宅資金、教育資金をはじめとする生前贈与を促進し、消費の拡大および資産の形成、人材の育成等を図るため負担軽減を行うなど、経済活性化の観点から総合的な見直しを行うべきである。

なお、国外財産調書制度については、その導入目的に照らし、国内の業者を通じて保有する国外財産を対象外とするなど、見直しを検討すべきである。

III.東日本大震災による環境変化を踏まえた税制の整備

まずは、東日本大震災からの復旧・復興の加速が喫緊の課題である。税制では、復興特区を活用した法人税の5年間免税措置、被災者の雇用に係る人件費税額控除、設備投資に係る特別償却等の特例措置が講じられているところ、事業者が早期に制度の活用メリットを享受できるよう、復興推進計画の認定プロセスにおける自治体の負担軽減を図るとともに、特例措置を受けるための地域や事業の要件に関し、一層、柔軟な運用を行うことが求められる。また、必要に応じ、特例措置の要件緩和、さらなる拡充も検討すべきである。

その上で、東日本大震災による環境変化を踏まえ、以下の税制措置を講じるべきである。

1.災害対策に資する税制の整備

(1) 地震・津波対策等に係る税制上の特例措置

東日本大震災を踏まえ、企業の防災・減災意識が高まっている一方、現在、わが国においては、企業の自主的な取り組みを後押しする税制上のインセンティブに乏しい。かつて存在した耐震改修に係る特別償却制度、防災資産の取得に係る特別償却制度等の措置も相次いで廃止されている。 災害に強い経済・社会を構築するためにも、また、事務所等の改修・建替等に関する新規需要を開拓し、経済を活性化させるためにも、企業が地震・津波・液状化対策を念頭に、防災・減災対策を行った際には、以下の税制上の特例措置を講じるべきである。

  1. 事務所等の耐震改修・建替や防災・減災資産の取得につき特別償却、登録免許税・固定資産税・都市計画税・不動産取得税等の減免を広く認める。
  2. 防災・減災を目的とした事務所の移転や防災対策資産の取得につき買換え特例(圧縮記帳)を適用する。
(2) 異常危険準備金の拡充

東日本大震災、タイの洪水、台風や集中豪雨などを受け、保険会社等の異常危険準備金の残高が大きく減少している。今後の巨大自然災害の保険金支払に備えて残高を早期に回復させることは喫緊の課題であり、そのためにも、異常危険準備金制度の拡充が欠かせない。準備金の積み立てが充実し、損害保険会社による保険金支払いが確実なものとなることは、災害からの経済・社会の早期再建・安定化に寄与する。かかる観点から、積立率、洗替保証率、本則積立率が適用される残高率の引き上げを行うべきである。

2.地球温暖化対策のための税の見直し

環境と経済を両立させつつ地球温暖化問題を真に解決する鍵は技術であるところ、地球温暖化対策のための税は、こうした技術開発に必要な原資を奪うばかりか、エネルギー効率が相対的に低い他国への生産移転を助長し、地球全体では却って温暖化が促進され、また国内産業の空洞化につながる懸念がある。

また、今後わが国では、東日本大震災による原子力発電所の稼働停止を受けた化石燃料輸入の増加、固定価格買取制度の開始などを受け、エネルギー価格の上昇が見込まれる。

地球温暖化対策のための税は本年10月から施行されているが、こうした観点を踏まえれば、課税の廃止を含め、抜本的に見直すべきである。

3.グリーン投資減税の拡充

わが国では、地球温暖化防止の観点から、また、東日本大震災後の電力需給対策の観点から、環境・エネルギー技術の開発・普及を推進することが不可欠となっている。そこで、これらの取り組みに対するインセンティブを高めるべく、グリーン投資減税については、大法人についても税額控除との選択適用を認める他、以下の拡充を行った上で、制度全体の適用期限を延長すべきである。

  1. (1) 即時償却の延長
    太陽光発電設備、風力発電設備
  2. (2) 特別償却等対象設備の即時償却化等
    コージェネレーション・システム、高効率複合工作機械 等
  3. (3) 対象設備の追加
    燃料電池、蓄電池、V2H (Vehicle to Home) システム 等

4.資源・エネルギーの安定確保への対応

(1) 海外減耗控除制度の改善・存続及び減耗控除制度の延長

わが国経済が東日本大震災からの早期復興および持続的な成長を実現するためには資源・エネルギーの安定供給の確保が不可欠であるが、近年は探鉱開発費の高騰、資源獲得競争の激化、国際資源メジャーの寡占化、資源国のナショナリズムの高揚などにより、資源の安定供給確保は以前に比べ格段に困難さを増している。こうした中、わが国企業による探鉱開発を促進する減耗控除制度はその重要性を増しているが、海外鉱山を対象とした海外減耗控除制度は、現在の鉱山の探鉱開発の実態に即しておらず、利用可能な制度への見直しが必要となっている。具体的には、海外で実質的に鉱業を営んでいる者も対象とするとともに海外の対象鉱山への出資比率及び鉱石の引取割合を海外での鉱山経営の実態に即した形への見直しを行うべきである。また、国内鉱山を対象とした減耗控除制度を延長すべきである。

(2) 独立行政法人日本貿易保険の特殊会社化に伴う法人税等の非課税化

貿易保険は、民間の保険では対応できない貿易投資のリスクをカバーし、資源・エネルギーの安定供給の確保や大規模インフラの輸出等に貢献するなど、公共性が高い。独立行政法人日本貿易保険の特殊会社化に伴い、法人税等の非課税化など所要の措置を講じるべきである。

IV.経済のグローバル化に対応した国際課税制度の整備

1.租税条約の推進

わが国経済が直面する6重苦を打破するためには、TPPやASEAN+6等の経済連携協定を推進し、海外需要を積極的に取り込んでいく必要があるが、租税条約ネットワークの拡充も同様に重要な課題である。租税条約により国際的な二重課税の排除を行うことは、わが国企業の海外における安心かつ確実な事業展開に欠かせない。また、投資所得に係る源泉地国課税を軽減することは、海外からの資金還流および国内における再投資という好循環の実現に資する。

中国、インド、タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、韓国、ベトナム、ブラジル、ドイツ、ロシア等との租税条約を改定するとともに、台湾、チリ、ミャンマー、アルゼンチン、ベネズエラ、コロンビア、ナイジェリア等の未締結国・地域との租税条約締結交渉を推進すべきである。その際、国際的な二重課税の早期是正に資する移転価格税制に係る対応的調整規定・仲裁規定、親子間配当および貸付金利息に係る源泉徴収の免除規定、使用料に係る源泉徴収の減免規定等を盛り込むことが重要である。サービスPE規定の導入については、源泉地国における課税範囲の拡大につながることから、慎重に対応すべきである。個別の条約では、使用料の定義規定の改善、PE規定の改善等も課題となる。

なお、租税条約締結国、特に中国およびインドにおいて、近年、不透明な移転価格課税およびPE課税等が多発している。わが国としては、条約の整備もさることながら、これら現に顕在化している紛争事案の解決に向けて、また、公正な執行が行われるよう、相手国政府や税務調査を行う地方政府等への働きかけなど、官民挙げた積極的な取り組みを行う必要がある。

2.移転価格税制の改善

移転価格税制については、企業の予見可能性の確保および国際的な二重課税の早期解決のため、事前確認制度および相互協議の一層の迅速化、効率化を行うとともに、国外関連者要件について、実際には支配権が及ばない株式保有比率50%の場合を除外し、50%超とする等の見直しを行うべきである。

また、無形資産の取り扱いについては、現在、OECDにおいて議論が進められているが、わが国においても企業の実態を踏まえた検討を促進すべきである。

なお、わが国課税庁による国内における移転価格税制の執行については、一層、納税者にとっての透明性、納得性を高めるべきである。

3.外国税額控除制度の見直し

外国税額控除制度における繰越限度超過額及び控除余裕枠の繰越期間は3年と短いため、期間の経過により国際的な二重課税が排除されない可能性が依然として残されている。企業の海外活動の制約とならないよう、繰越期間を延長するなど、適切な措置を講じるべきである。

4.その他

(1) タックス・ヘイブン対策税制の改善

近年、わが国企業の海外におけるM&Aが増加しているが、多国籍企業を買収した場合には、機能統合によるシナジー効果の実現、ガバナンス強化等の観点から、買収後、さらに組織再編を実施し、資本関係を整理することが多い。その際、子会社株式の現物分配が有力な手段となり得るが、現物分配による株式譲渡益が現物分配を行った法人の所在地国で非課税となる場合、わが国タックス・ヘイブン対策税制におけるトリガー税率の計算上、非課税所得として加算されるとともに、適用対象となれば、課税対象金額にも算入され、意図せぬ課税が生じるおそれがある。このため、当初予定した企業再編を断念し、買収の目的を十分に達成できない事態が生じている。

わが国企業の国際競争力の低下に繋がることのないよう、わが国において課税上の弊害が生じないと認められる一定の要件を満たす海外における現物分配については、上記トリガー税率および課税対象金額の計算上、譲渡益相当額を加算しない措置を講じるべきである。

(2) 国境を越えた役務提供等に対する消費税

情報通信技術の普及発展に伴い、インターネット等を経由して国境を越えたデジタルコンテンツの提供が拡大している。国内におけるコンテンツの提供や、税関を経由した輸入取引の場合には消費税の課税が行われるのに対し、インターネット等を経由したコンテンツの提供には消費税が課せられず、中立性や公平性が損なわれている。

そこで、OECDにおける議論やEUにおける制度等を参考にしつつ、事業者の競争条件の均衡化の観点や企業のコンプライアンス・コストにも十分配慮しながら、国境を越えたこれら役務提供等と消費税との関係について検討を行い、所要の措置を講じる必要がある。

(3) 外国子会社配当益金不算入制度の改善

平成21年度税制改正により外国子会社配当益金不算入制度が創設され、わが国企業が海外で獲得した利益を国内に還流させるための環境整備が行われたが、今後、資金還流をさらに促進するためには、制度の改善を検討すべきである。

例えば、現行制度では、費用収益対応の観点から、配当の額のうち配当に係る費用の概算額5%を控除した95%を益金不算入としているが、持株割合100%の海外子会社からの配当については、全額益金不算入とすることが考えられる。また、外国企業、特に資源・エネルギー関連企業の株式取得においては、国によって出資比率規制が存在しており、必ずしも益金不算入制度が適用される25%以上の持株割合を満たせない場合がある。一定の要件を満たす株式については、持株要件を緩和することも考えられる。

(4) 振替社債の利子等の非居住者等に対する非課税措置の恒久化

平成22年度税制改正で創設された振替社債の利子等の非居住者等に対する非課税措置は、海外投資家から資金を安定的に呼び込み、わが国社債市場を活性化させるとともに、企業の資金調達を円滑化させる上で有効な手段であることから、恒久化すべきである。

(5) 国際連帯税の導入反対

国際連帯税の導入に反対である。国際連帯税制の類型のうち、国際線出発便の航空券に対する課税については、受益と負担の関係が明らかではなく、また訪日外国人を2020年初めまでに2,500万人まで伸ばすとした日本再生戦略との整合性が取れていない。仮にわが国に本税が導入されれば、訪日外国人を含む航空利用者の負担が増えることによるわが国の国際競争力の低下や、外国航空会社に比べ日本発の国際線の便数が多い本邦航空会社の国際競争力の低下が懸念される。

また、金融取引に対する課税についても、我が国金融資本市場の競争力を低下させる恐れがあることから、反対である。

(6) 総合主義と帰属主義

平成24年度税制改正大綱において、非居住者及び外国法人に対する課税原則について、総合主義から帰属主義に沿った規定に見直すことが検討課題として掲げられている。国内法を改正する場合、影響は極めて広範になることから、企業の国際的な事業展開の促進、わが国金融資本市場の活性化、適正な課税の実現等、様々な観点を総合的に勘案し、また、関係者の意見を十分に踏まえつつ検討すべきである。

以上

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