経団連 環境本部
政府は、さる6月29日、「エネルギー・環境に関する選択肢」を公表し、2030年におけるエネルギー・環境政策の3つのシナリオを提示した。政府はこれについて国民的議論を実施し、その一環として、「団体等が開催する公共性・公益性の高い各種説明会において、説明員を派遣するとともに、参加者の意向を把握する」としている。そこで、経団連では、政府説明員による説明会を開催した。以下は、「選択肢」について、説明会の場で出席者から政府に対して出された主な意見である。
全てのシナリオで経済成長率が、内閣府の「経済財政の中長期試算」における慎重シナリオ(2010年代実質1.1%、2020年代実質0.8%成長)となっている。政府が昨年12月に閣議決定した「日本再生の基本戦略」で目標とする経済成長率(2010年代実質2%成長)を前提としておらず問題である。慎重シナリオは、財政収支の改善を目指すにあたって「経済が成長しなくて税収が伸びなくても財政が枯渇しないように慎重に見通す」ためのシナリオである。エネルギーについても同様に慎重に考えるのであれば「順調に経済が成長して多くのエネルギーが必要になっても足りるように」すべきだ。今回のシナリオでは、2030年の日本の経済が成長することを放棄しているように見える。
最終エネルギー消費やCO2排出量の制約の方が、エネルギーの構成よりも雇用や経済へ与える影響は大きい。しかし、どのシナリオでも、2030年の最終エネルギー消費は2010年比約19~22%の削減、2030年のCO2排出量は1990年比23~25%削減となっている。国民の生活に直結する雇用や経済への影響が大きいにもかかわらず、最終エネルギー消費やCO2排出量について選択の余地がない。
温室効果ガス排出削減の国際目標として、鳩山元総理は「2020年に1990年比25%削減」を国際公約とした。鳩山元総理の行動で唯一評価できるのは、「全ての主要排出国が参加する実効性ある国際的な枠組みが前提である」と表明したことである。今回のエネルギー基本計画の見直しに伴い、元々破綻していた25%削減の目標を撤回するのは当然であるにもかかわらず、今回のシナリオにおける温室効果ガス排出削減は、過去の経緯に引きずられて辻褄合わせを行っているように見受けられる。地球環境産業技術研究機構(RITE)の分析によれば、シナリオによっては、日本のCO2限界削減費用は5万円程にもなり、欧米の数千円に比べると非常に高い。今回のシナリオでは、国際公平性に関する記述がどこにも書かれていない。
どのシナリオを選択しても「どのように経済成長するのか」が全く想像できない。本当に選択肢になり得るのか疑問である。各シナリオが可処分所得や失業に与える影響に関する情報がない中で、冷静な議論ができるのか不安だ。
今回、将来の温室効果ガス排出削減量を決めたとしても、それを国際公約にすべきではない。
会員から「8月は工場を動かさない」「電力多消費の事業からは撤退する」という動きが出ており、既に国内産業の空洞化は起きている。国内産業の空洞化を防止するためにも、当面、原発は必要だ。
今後も世界中で原発が増設される中で、日本は原子力の平和利用国としての責任を果たす必要がある。日本が原子力を利用しないと、日本の国力は落ちるし、原発の平和利用等についての世界の対応がどうなるかわからない。
エネルギー戦略は不断の検証が必要である。
経済産業省は「エネルギー制約等プロジェクト・チーム」を設置したが、エネルギー制約を前提として活動するのはいかがなものか。国の責務は、エネルギーに制約が生じないように取組むことであるはずだ。
省エネや再エネは大事であり、理想を掲げるのはいいが、過度に期待してはいけない。
日本には高い原発技術がある。ここに福島第一原発事故の知見を加えれば、原発技術を世界最高峰の水準に高めることができる。今後、原発を新設する国に対して最高水準の技術を導入することを支援するのが、真の国際貢献になるのではないか。
経済が成長すればエネルギー消費量が増えるのが常であるにも関わらず、どのシナリオでも、2030年にはGDPが2010年比で1.2倍になる中で最終エネルギー消費量は約33%、電力需要は約25%削減することが求められており、現実的でない。日本においては、過去40年間、GDPの伸びと、最終エネルギー消費、電力需要の伸びは正の相関関係にあり、中国やインドも同様である。エネルギーの供給が制約されたら、それが日本の経済成長の制約要因になってしまう。今回の選択肢にはこういった問題があることが示されていない。経済が成長してもエネルギー消費量が増えなかったのは、サッチャー政権で金融立国を目指して製造業が国外に行ってしまったイギリスだけである。
日本には現実味のある戦略が欠けている。ドイツは脱原発を掲げた後に、新しい石炭火力発電所を10基以上建設する計画を策定するとともに、当面はフランスから輸入する電力量を増やすこととした。アメリカは、国連には2020年の温室効果ガス排出量を2005年比で17%削減すると提出しているが、国内では違うことを言っている。
日本の最大の問題はデフレで経済が成長していないことだ。失われた20年の間に名目3%の成長をしていれば、日本のGDPは900兆円以上に、名目2%の成長をしていれば700兆円以上になっていたはずだ。こうした成長を遂げていれば、税収も増えたので赤字国債の発行も必要なかった。成長には安価で安定したエネルギーが不可欠である。日本の経済が厳しくて沈みかけている時に、GDPに悪影響を与えるような政策を考えるべきではない。
発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は、2010年は10%であり、そのうちの9%を水力が占めている。太陽光・風力・地熱の割合は合わせて1%だが、今回のシナリオでは2030年にこれを20倍にしようとしている、という点も政府はきちんと説明すべきである。