2011年4月5日 (社)日本経済団体連合会 雇用委員会・労働法規委員会 |
日本経団連では、3月11日に発生した東日本大震災以降、全国民が力を合わせ、人命救助、被災地支援、生活・経済の復旧に総力を挙げるべく、3月16日に「未曾有の震災からの早期復旧に向けた緊急アピール」を、また、31日には早期の復興に向け、「震災復興に向けた緊急提言 ~一日も早い被災地復興と新たな日本の創造に向けて~」を公表した。
被災地域等における雇用の維持・確保は最優先課題の1つであり、国を挙げて取り組む必要がある。事業主の雇用維持に対する支援や、弾力的な労務管理の容認のほか、被災者の生活の早期安定の実現と多くの雇用機会の提供等のため、上記緊急提言に基づき、下記のとおり早期の雇用対策を要望する。
また、計画停電等の影響により、直接的に被災を受けた地域以外においても操業等に支障を来す状況が続く中では、必要に応じてさらに重層的な雇用対策を実施していくことも必要となることから、今後ともスピード感を持って事態に対処していくことを求めたい。
1.被災地を中心とする雇用の維持・確保
(1)企業の雇用維持努力に対する支援
被災事業主を対象に雇用調整助成金の要件緩和等の拡充策を実施するとともに、今後の状況を見極め、被災地以外の事業主に対しても、震災による間接的な影響を考慮し、対象を拡大していくなど弾力的な対応を図る。
- 被災地域における支給限度日数(3年間300日)の震災後の再起算
- 被災地域における対象者の特例措置(被保険者期間6カ月未満への適用)の継続
(2)失業者の生活安定の確保と早期の再就職支援
被災者の失業中の生活の安定と早期の再就職に向けた円滑な求職活動を支援すべく、雇用保険給付等の拡充や求職活動期間中の住居の確保を図る。また、被災地における労働相談窓口の利便性を向上させる。
[被災者に対する雇用保険給付の拡充]
- 個別延長給付の給付期間(現行最長60日間)の拡充
- 広域求職活動費の距離要件(現行往復300㎞)の緩和
- 移転費の通勤時間要件(現行往復4時間)の緩和、移転料の拡充
[被災者に対する住居の確保支援]
- 求職活動中の被災者への雇用促進住宅の無償提供
- 住宅手当の支給期間(現行原則6カ月間、最大9カ月間)の延長
[労働相談窓口の利便性の向上]
- 労働者向け、事業主向けの労働相談ワンストップ窓口の設置
(3)雇用機会の提供
被災者の早期の再就職に資するよう、雇入れ(含 新卒者)企業に対する支援、復興のための公共事業の実施と被災者の優先的雇用を促す取組みなどを行うことでより多くの雇用機会の提供を図る。
- 特定求職者雇用開発助成金の拡充(対象者に被災者を追加、被災者雇入時の助成額の上積みや助成期間の延長)
- 重点分野雇用創造事業等の活用(震災復興事業の新設、被災地域における基金の上積み)
- 3年以内既卒者採用拡大奨励金等の活用(被災地域の既卒者採用に際しての奨励金の増額)
(4)円滑な労働保険給付等の対応
被災事業主の状況を勘案し、申請手続きの簡素化・給付の迅速化、被災地域の事業主に対する労働保険料の減免措置などを講じる。
(5)その他
雇用対策の財源を確保するため、補正予算の編成を急ぐとともに、雇用保険二事業の徹底的な見直しによって不要不急の事業の一時的凍結などを行う。
2.人事労務管理上の柔軟性の確保
労働時間法制の弾力的な運用
被災地域および計画停電地域における早期の復旧、事業維持のためには、弾力的な労働時間管理、勤務体制の確保が不可欠であり、緊急対応として関係法制の適用緩和を図る。
- 36協定の時間外限度基準について、復旧・復興にかかる業務や計画停電等への対応などを理由とする場合には、労使協議の上、時限的(当面、1~2カ月程度)に一定の限度超過を認める。
- トラック運転手など自動車運転手の労働時間規制について、復旧・復興にかかる業務や計画停電等への対応などを理由とする場合には、労使協議の上、時限的(当面、1~2カ月程度)に規制を緩和する。
- 有給休暇の時季変更権の行使について、復旧・復興にかかる業務や計画停電等への対応を理由とする場合には、労使協議の上、時限的(当面、1~2カ月程度)に一定の制約緩和を認める。
3.事業場の安全衛生の確保
(1)労働安全衛生法第88条(計画の届出等)の緩和
震災からの復旧・復興をいち早く進めるため、安衛法第88条を緩和し、事前の届出が必要な建設物、機械等は事後のものを認め、検査については国家資格である安全衛生コンサルタントや作業環境測定士等による簡易検査を容認する。
(2)就業制限のある業務における技能講習修了証(免許)等を紛失した者への迅速な再発行
今回の震災では、クレーンの運転等の証書や免許などを紛失した者が多数存在する。早期の復旧・復興のため、該当する協会等において迅速な再発行が可能となるような措置を実施する。
(3)安全養生のための資材・器具の確保、供与
いち早く被災地の復旧・復興を図るためには、仮設住居等の工事が必要不可欠となる。その場合、その工事に必要な足場の資材、安全ネット、保護具(マスク、安全帯、ヘルメット等)を確保し、現場へ優先的に供与する。
4.節電・需要平準化対策
フレックスタイム制度、時差出勤、在宅勤務制度、テレワークなど柔軟な働き方の制度の普及を進めるため、周知や制度導入に対する支援を進める。
また、事務所等の室温等に関する規制の緩和を行う。
5.その他
有期労働契約等の見直し議論の在り方
未曾有の震災の発生以降、企業は被災者の生活や被災地を含めた国全体の産業や経済の復旧に懸命に取り組んでおり、事業を継続していくために日々知恵を絞り、雇用機会の確保に最大限努めているのが現実である。また、中長期的にも今般の震災の影響によって経済や企業活動の先行きは極めて不透明な状況である。
これらを踏まえれば、現在、労働政策審議会等において進められている有期労働契約や、高年齢者雇用の在り方などに関する検討については、震災の影響を十分見極める必要があり、審議の延期などを含め、慎重かつ柔軟な取扱いを図ることを求める。